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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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大聖都 夢への学び舎

「魔王城の島に、留学生を受け入れて欲しい」


 フリュッスカイトのメルクーリオ大公が発したその言葉と眼差しには、鋭く、挑むような意志が宿っている。


「それは、どういう意図なのかお伺いしてもいいですか?

 メルクーリオ大公様」

「言葉通りの意味だ。我々は、現在『神の国』の知識を欲している。

 切実に、できれば早急に」

「我々、というのはフリュッスカイト限定のことですか?

 それとも他の国々も?」

「私の発言は自国のものだが、おそらく他国も同じように思っているだろう。

 コスモプランダー殲滅戦を経験して解った。かつて『精霊神』や『神』がおわした『神の国』チキュウと呼ばれる星の文明の力がな」


 メルクーリオ様の言葉に私はくるりと議場に頭を巡らせて見せた。

 否定の言葉は無い。むしろ、さっきまでの私の産休に関する話をしていた時と違って、目がギラギラしている感じ。


「私はあの日、城から天を仰いで視たのだ。

 空を悠々と渡る。白鯨のような美しい『神の翼』を。

 姫君にとって『神の国の知識』は当たり前のようにあって驚くべきことではなかったのかもしれないが、私には衝撃的だった。

 今まで自分が積み重ねてきた知識、技術が全て、児戯であったと思い知らされたのだ」

「兄上……」


 私も、リオンも。

 大公閣下の横で随員として控えるソレイル公子も、言葉にならない。

 メルクーリオ様は間違いなく、現在のアースガイアの中でも有数の頭脳だ。

 知識や技術に自信があるから、技術力の差。次元の違いが分かってしまうのだろうか。


「我々が海を渡る船を造り、大地に車やドライジーネを走らせるのが精一杯であるというのに神々の国では空を。いや、星の海さえ船で渡るのだ。

 悔しくない筈はない」


 ぎりりと、歯を噛みしめ、私を見るメルクーリオ様。

 そうか。悔しかったんだ。

 メルクーリオ様。

 七国でも屈指の知恵の国で、工業に関しては七国一。

 元アメリカであるヒンメルヴェルエクトにも勝ると自負していたのに。

 最新鋭の機帆船を作り上げたことを誇りに思っていたのが。

 いきなり変形ロボットに星の海を渡る船、だもんね。

 それは衝撃を受けるよ。勝てないと思うよ。


「かつて科学会議で、姫君に星の海に旅立つなどあり得ぬと告げた。

 己の暗愚が今は、腹立たしくて仕方ない。

 空も、その彼方も、人は望み行こうと願えば届く。かつて、それを為した者がいた。

 なのに我らは今も、大地の上で立ち尽くすのみ。宙に手を伸ばす事さえしていないのだ」


 まあ、星の翼とかは地球文明においても言わば火事場の馬鹿力。

 最後にコスモプランダーの異星科学を取り込んで作ったものらしいから、あれが地球のデフォルト能力だと思われると困るけれど。

 でも。

 確かに地球人は頑張ってた。

 自力でロケット飛ばして宇宙まで行ったし、宇宙望遠鏡を使ってブラックホールだって観測してた。

 未知のものに対する探究心、そして解らないことに対して諦めようとせず、手を伸ばし続ける向上心に関しては間違いなく一級品だと思う。


「戻ってきたソレイルを締め上げて、船の構造や内容について知ろうとしたが、既に記憶が薄れており、欠片となった情報を繋ぎ合わせても我々の理解が及ばない作りであることが知れただけであった。

 今すぐにあの技術を再現することは精霊神様のお力を借りても、王の魔術を使っても不可能。それは解っている。

 だが、私は諦めたくない。至高の存在が、現に目の前にあるのだ。

 そう。手に入れることを諦めたくはない。いつか、この手で理解し再現したい。

 故に、王の我儘と言われようが私は、今後十年のフリュッスカイトの目標を、飛行技術の再現と決めた。無論、海洋探索の為の船舶技術研究も進めていくが」


 かつて、空を行く鳥に憧れ人工の翼を作り、空に羽ばたいた者達がいた。

 彼らの永い試行錯誤と夢の継承を経て。かつての地球は星を行き交う翼、宇宙にも届く船を作り上げた。

 地球は滅んでしまったけれど、その魂は、遠い時を越えて血を重ねた未来――アースガイアに、こうして引き継がれている。


「その為に知恵の国、フリュッスカイトが誇る頭脳を、さらに育てていくつもりだ。精霊古語の学習も、今までは王族、貴族のみに限定していたが、今後は有能な者には教え、広く学ばせていく」


 そして受け継がれて行くのだ。これから先も変わることなく。


「魔王城の島の地球移民達の知識や経験。

 そしてコッカイトショカンの知識は我々の未来の為にも絶対必要。

 故に、魔王城の島に学府を築いて頂きたい。と願っている」

「元々、大聖都、もしくは魔王城の島に王族、貴族の為の学び舎や、技術向上の為の学府を建設する計画はございました。

 それを早め、進めて欲しい、というのがメルクーリオ様のご要望なのですね?」


 私が確認すると、揺るぎないメルクーリオ様の決意の眼差しが返る。


「ああ。その為の資金援助などは惜しまない。

 本来であれば私自身が行きたいところだが、王としての責任は弁えている」

「まだ魔王城の島の地球移民達は目覚め始めたばかりです。子どもも多く、教鞭をとることができる人物は少ないかと思います」

「最初はコッカイトショカンでの研究助手、技術者の育成から始めていく。

 フリュッスカイト最高の識者を送り、精霊古語を教えて頂く代わりに翻訳を手伝わせる。

 彼らが学び、修めた知識で次の世代を育てていく筈だ。それは我々だけではなく地球移民の子らにも役立つだろう」

「現在、魔王城の島への入島が制限されているのは、、まだアースガイアに慣れない地球移民の子ども達を守る為です。

 地球移民の子ども達の育成保護の為に集められた人たちと違う立場になる留学生たちは知識を求めることを優先して、彼らを見下したりすることはありませんか?」

「そのような事は決してしない、させないと誓約させる。

 万が一にもそのようなことがあったら、即座に処断して構わない」


 これは、相当に本気っぽい。

 私一人で即断できることではないけれど、検討の余地はありそうだ。


「もし、識者を受け入れ、国会図書館の学府化を進める場合、フリュッスカイトだけではなく、七国全てに権利が与えられないと不公平になると思います。

 皆様は、どう思われますか?」

「無論。我が国も有望な者達を派遣し学ばせたい。

 現状、フリュッスカイトは前公主様がいることで知識面ではかなり有利な立場に在る筈だ。鉱石を算出しながらも、その活用知識を持たぬアーヴェントルクこそ一刻も早い知識の共有を求めている」


 アーヴェントルク皇帝陛下がそう述べたことをきっかけに、各国から、我も我もとの声が上がってきた。


「解りました。

 住環境や仕事、給料関係など色々な問題がありますので、直ぐには返事をすることはできませんが、検討し七国平等に機会を作っていくようにしたいと思います」


 とりあえず図書館のラールさんに相談だね。


「マリカ! いや、マリカ皇女」

「なんでしょうか? ケントニス皇王陛下」

「良い機会だ。私も頼みたいことがある」


 私に、皇王陛下、と呼ばれたことに驚いたのだろうか。

 アルケディウス代表の席に座るケントニス様は、どこか照れた苦笑を浮かべながら、私を見た。


「優先順位は、勿論学術研究の為の学府が先で構わぬ。

 だが、それと並行して各国の王族、貴族子弟の為の学び舎の建設も、検討してくれぬか?」

「子どもの為の学校、ですか? もしかしてラウル君の為に?」

「ああ。我が子が育っていく姿を見る度に、思うのだ。

 この子には自分と同じ、過ちはさせたくない。叶うなら、同じ年頃の子ども達と学び、人とどう関わっていくべきかを学んで欲しい、とな」


 今、アルケディウスの王宮にはラウル君以外の子どもがいない。

 少し前まで双子ちゃんがいたけれど、今は魔王城に移ってしまったから。

 フェイの息子のレオン君は、まだ4ケ月だし。

 双子ちゃんは毎日アルケディウスの王宮に作った保育室に通っているし、これから出産ラッシュになると思うけれど、我が子に友を作ってあげたいという気持ちはよく解る。


「知識を学ぶ手段は色々ある。

 だが、人と良き関係を築く方法は、人と関わらなければ知ることはできぬのだ」


 うん。その通り。

 私も帝王学を否定しないけれど、一人では「学べない事」は確かに存在するのだ。

 っていうか、本当に変わったなあ。ケントニス様。

 親になるって言う事は、人をこんなに変えるんだ。と嬉しくなった。


 この提案にも賛同がたくさんあって、不老不死前後に生まれた子ども達が集い、学ぶ学び舎の建設も魔王城の島に進めることになった。

 学府は三年後。学校は五年後を目安に稼働を目指す。

 

 どんな風に、何を学んでいくか?

 その叩き台作りが産休前の私の、最後の仕事になりそうだった。

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