大聖都 大祭と結婚式 そしてこれからの話
夏の大祭は例年だとそろそろ始まる。
社交シーズンの開幕を告げるので、大事な行事だ。
本当ならもう始まっていてもおかしくは無いのだけれど、各国、私の目覚めをギリギリまで待っていて下さった感じだ。
私が奉納舞をすることが決まったので、急遽日程を調整し、来週の木の曜日から、プラーミァを皮切りにに私はまた七国を巡ることになった。
巡ると言っても、今回は基本日帰りの予定だけれどね。
「次こそはプラーミァの活気に満ちた祭りを見て貰うつもりだったのだがな」
兄王様は心底残念そうだ。
「今回は胎の子が心配なのでまたの機会に、ぜひ。」
「ああ。その時を楽しみにしている」
大神殿から転移陣で各国に移動。舞を行い、精霊神様にご挨拶。
各国の始まりの舞踏会で力の供給に対する感謝と、大神殿のこれからについて話をして戻ってくる形だ。
フェイは留守番だけれど、リオンが付いてきてくれるので大丈夫。
「そういえば、マリカ様。結婚式の方はどうなさるのですか?」
おおよその大祭のスケジュールが決まったタイミングを見計らって、シュトルムスルフトのアマリィヤ様が私を心配そうに見やった。
そういえば、忘れてた。結婚式。
いや、忘れるのか。ってツッコまれそうだけれど、正直それどころじゃなかったし。
実は成人式もやってない。
成人式は襲撃でぶち壊され、結婚式はそれどころで無くなったから。
コスモプランダーは、本当に最悪のタイミングでやってきてくれた。
「やりたい気持ちは勿論あるんですけれど、実際問題としてこれから直ぐに、という訳にはいかないんですよね」
小さな家族でのサプライズパーティというのであればともかく、私の立場は大きくなり過ぎた。大神殿の威信をかけた式典を一から準備し直すとなると相当な日数がかかる。
その間に私のお腹の子どもは成長し、相当に目立ってしまうだろう。
目立つならまだしも出産時期に入ってしまう可能性だってある。
何よりドレスが入らない。
「準備したドレスはアルケディウス風のデザインで、身体にピッタリと添わせてあるんで、今の体型だと着れなくて。
大事な父が用意してくれた布で丁寧に作られたドレスなので、作り直すのもちょっと……」
目覚めてから一度だけ見る機会があった私の花嫁衣装は、本当に夢見るような出来栄えで。これを着てリオンの花嫁になれなかった事を心底悔しく思ったものだ。
「まだ式を挙げた訳ではないから、仕切り直しの機会はありますよ。
というか、必ず作ります。私もこのドレスを着た貴女を見たいもの」
とお母様は言って下さったけれど。今は物理的に無理だから、最低でも出産を終えてからだと思う。
「予定通りに秋に出産を終えても、多分しばらくは使い物にならないと思うので、最速で来年の新年、になるでしょうか?」
出産は多分、秋の大祭頃になる。それから生まれてきた赤ちゃんの首が座り、ある程傍から離れても平気になるのはやはり三か月を過ぎてからだろう。
私も結婚式を挙げたくないわけではない。
むしろ、挙げたい。絶対。
何があろうとも。
できれば成人式もしたいけれど、それはまあ、諦めてもいい。
ただ、花嫁衣裳くらいは着たい。
そして大切な人たちに祝福されて、リオンと結婚したい。
事実上はもう結婚して、子どももできたけれど。
それとこれとは別。
お母さんに見て貰えなかった分、お父さんやステラ様にも。
何より、エルフィリーネにも。
純白のドレスを着た私を見て欲しい。
だから、忘れていたけれど、諦めた訳じゃない。
「その辺が妥当か。ならば、その頃に改めて打ち合わせるとしよう。
大陸の総力を挙げた祝福に満ちた式典ができるように、我々も準備を整えておく」
「ありがとうございます」
「式の準備が整った暁にはまた、爪紅の花を贈ろう。
なんだかんだで、私は見ることができなかったからな」
「楽しみにしております」
心臓が、ちくん、と。
針を刺したように痛んだ。
来年の事を語ると鬼が笑うと言うけれど。
出産を終えた来年の新年。
私は、私でいることができるだろうか?
「それから、マリカ皇女」
ぼんやりとそんなことを考えていた私は、かけられた声にハッと顔を上げる。
「はい。何でしょうか? メルクーリオ様」
水国のメルクーリオ大公閣下の眼差しはかなり真剣なものに見える。
「精霊国の移民地の方は如何? 母上はよっぽど楽しいと見えて、殆ど連絡も寄越さないのだ」
「父上もだ。随分と若返っておいでで『機会があるのなら、こちらに来なさい。
毎日がとても新鮮で楽しいですよ』と笑うばかりだが」
「今の所、順調のようです。地球移民の子ども達も、少しずつ目覚めてアースガイアに馴染んでいるようです。将来的には七国に移り住み、アースガイアの子として受け入れて頂ければと思うのですが」
私は現在の魔王城の島、今は、星の聖地にして、大神殿の直轄領。
植民地エルトゥリアの状況を知る限りお伝えする。
タートザッヘ様が国会図書館に入り浸っているという下りではみんな楽しそうに笑っているように見えて、目が厳しく光っている。
何かを探し、狙う獣のような瞳だ。
「マリカ皇女」
「はい。メルクーリオ様」
「以前、話しておられた件、真剣に、早急に考えて頂くことはできないか?」
「以前、話していた事ですか?」
色々な提案とか、相談とかし過ぎてよく解らない。
小首をかしげる私にメルクーリオ様は静かに頷き、告げた。
「ああ。
精霊国の島への、留学生の受け入れを頼みたい」




