大神殿 七国王との会見と『精霊女神』
『神』と『星』との会談後、私は予定通り大聖都に戻ることになった。
つわりもひと段落ついた感じだし、色々と仕事も溜まっているから。
特に間近に控えた大祭が問題だ。
「各国、貴女の力を当てにしているから。
でも、無理はいけませんよ。できないものはできない、ときっぱり断りなさい」
夜は魔王城に戻るように言われている。
まだ体調が万全ではないし、魔王城だったら、何かあった時に対処が早いから。
頭の中を、どこか冷たい何かが通り過ぎていく。
リオンの腕の中で眠ることに慣れてしまうと一人寝は少し寂しいのだけれどしかたないか。
お母様、セリーナ、カマラを伴い大聖都へ向かう。
今日戻ることは、昨日フェイに伝えてある。
力を通し、虹色に輝く魔方陣に足を踏み入れた。
エレベーターに乗るような浮遊感覚と共に、あっという間。
私達は大聖都に辿り着く。
これだけは、ホントに便利だよね。
転移陣万歳。
「お帰りなさいませ。マリカ様。
ご無事のお戻りを心からお喜び申し上げます」
転移陣から出てすぐの所で、リオンが私を出迎えてくれた。
神官長の略式礼装で、私が見たかったものとは少し違うけれど、動きやすそうで生粋の戦士であるリオンにはこの方が似合っている。多分。
膝が隠れるくらいの黒のカソック風ロングシャツに、白のカズラマント。トラウザーズ。
小さめのミトラにも刺繍や装飾が施され、シンプルな割に華やかだ。
顔の刺青のような模様は隠せないけれど、手袋をしてハイカットブーツを身に付ければ、そこまで人外には見えない。短剣を帯びていて、精悍でカッコいい。
戦う神官だとはっきりと解る感じだ。
「どうなさいましたか? マリカ様」
旦那様のカッコよさに見惚れ、我を忘れてぼんやりしていた私を、フェイのくすくす笑いが正気に戻してくれる。
「なんでもありません。ちょっと、城にいた時や今までとはイメージが違ったので驚いただけです。
良く似合っていますね」
「ありがとうございます。本来はやはり身軽な戦士の衣装の方が好みなのですが、役割を背負う以上相応しい服装は、必要なのかもしれません」
アルケディウスの民族衣装、チェルケスカとデザインは似ている。
現代から見れば、中部丈のスカートのような形だけれど、甘い印象はない。
より神秘的で精悍な感じがする。きっとフェイやアルがリオンの為に一生懸命に整えたのだろう。
とはいえ、いつまでも見惚れてはいられない。
お仕事、お仕事。
「早速ですが、リオン。フェイ。
通信鏡の用意はできていますか?
昨日連絡した通り、各国に連絡を取りたいのですが」
「その前に、大神官におかれましてはお召替えを願えればと」
「着替え? どうしてですか? 一応、神殿に戻るにあたり、式服は着て来ましたよ」
リオンの言葉に首を捻る。
神殿滞在用の普段着だけれど、一応正装。
一般の謁見くらいはこれで行っていた。
通信鏡で話をするのなら、これで十分かと思うのだけれど。
「いえ、実は各国にマリカ様の復調と、今日の御来臨を伝えましたところ、直接御礼を申し上げたいと、各国王と王子達が参っているのです」
「え! 各国王? どこですか?」
「七国全てです。アルケディウスもケントニス皇王陛下が腹心と共に」
「参っている、ってことはもう来ていらっしゃる?」
「はい。ですが、貿易や技術交換について話し合いをするから、焦らせる必要は無い。
マリカ様の準備が整い次第、声をかけてくれとのことです」
「ぐあああ~。それを早く言って下さい!」
「細かいことが決まったのは今朝でしたので」
しれっとした顔でリオンは言うけれど、コスモプランダー討伐後、初めて直接会うのだ。
大神官としてお礼を述べなければならない以上、通信鏡ならともかく、この格好ではちょっと問題有りだと思う。
「通信鏡もあるから、連絡してくれればもっと早く……って言ってる場合でもありませんね。セリーナ。大至急準備を。リオンの言う通り、もう一段上の儀礼服に着替えます」
「衣装などはマイア女神官長が整えておられると思いますので」
「マリカ。会議の方は私が繋いでおきます。焦らず、無理せず、しっかりと準備を整えて来なさい」
「ありがとうございます」
私は控えの間に向かい、大神官の儀礼用衣装に着替えた。
装飾過多で重いんだけれど、ゆったりとしたデザインなので、膨らんできたお腹が目立たないのはいい。
「マリカ様。コスモプランダーを討伐して下さいましてありがとうございます」
マイアさんは地球移民。
色々と思う所もあったようで、個人的に深い、思いの籠った眼差しでそう告げられたけれど、ゆっくり話をしている暇が今はない。
「後で、今後の事についても話をしましょう」
そう告げると、マイアさんに背を向け、会議室に向かう。
「大神官。マリカ様。お見えになりました」
先ぶれの声と共に扉が開かれた。
中に入ると会議用の円卓に、言葉通り七国の国王陛下達が全員集合。
会話を止めて、全員が起立して私を出迎える。
『神の翼』で宇宙へ行った王子様達も、全員揃っているし、お父様までケントニス様の側で控えているよ。
覚悟していたつもりだけれど、緊張が止まらない。
大神殿での会議なので、まず挨拶をするのは私から。
小さく息を整えて、カーテシー。
国王陛下達に礼を向ける。
「この度の宇宙からの略奪者撃退にあたり、七国の皆様には甚大な協力を賜りましてありがとうございました。
星の全力を結集したおかげで、なんとか撃滅することができました。
以降、アースガイアを脅かす外敵が現れる確率は低いだろうと『神』と『星』のお言葉でございます」
宇宙からの侵略者による、星存亡の危機なんて、そう何度もあって貰っちゃ困る。
生涯に一度で十分。いや一度だっていらないけれど。
私がそんなことを想いつつ口上を述べると、立ち上がった国王陛下、王子様達が、ざざっと音を立てて片膝をつき、頭を下げた。
兄王様達は勿論、ケントニス様達まで。
これは対等の国王同士の礼ではなく、圧倒的上位者に捧げる臣下の礼に等しい。
「大神殿を統べる『神々』の代行者にして精霊女神。
マリカ様に七国を預かる国王として、御礼を申し上げる。
その身を捧げ、戦って下さったおかげで、アースガイアは伝説に聞く神の国のような、絶望的な被害を受けることなく、危機を乗り越えることができたのですから」
「お顔を上げて下さいませ。皆様」
七国を代表して告げたのはアーヴェントルクのザビドトゥーリス皇帝陛下だ。
一番年長者だからかな?
でも、こうして公式の場で国王陛下達に膝を折られると、色々と困る。
「私だけの功績ではございません。リオンやお父様、七国がお貸し下さった王子様達のお力なくば星の海に立つことは叶いませんでしたし、コスモプランダーとの戦いにおいて、星の住民全てが心を一つにして、力を捧げて下さったからこそ。
一度は星を滅ぼした強大な敵に際し、常に有利に戦う事ができたのです。
言わば、アースガイアの住人全ての意思と力で勝ち取った勝利ですわ」
「例え、そうであったとしても」
けれど、国王陛下達が立つ様子はない。
逆に笑みを深め、立ち上がることなく私を見る。
「王子達から聞いている。
常に戦いの要となり、支えたのは紛れもなく皇女、いや、大神官の存在とお力であったと。その魂と声に、民も奮い立ち力を捧げたのだ」
コスモプランダーは他に助けてくれる存在が無かった。
私達には助けてくれる沢山の人達がいた。
それが、この戦いの勝敗を分けた大きな要因だ。
間違いなく。
「星の皆で勝ち取った勝利である、と大神官はおっしゃって下さった。
だが、戦いに向かう船の舳先で、我々を導いて下さったのは、間違いなく大神官だ。
『神々』が遣わした精霊女神に、心からの感謝を。
我ら七国は、今後も大聖都と大神官を中心に、心を一つとしていくと誓おう」
フリュッスカイトの大公、メルクーリオ様のお言葉に他の国王様達も静かに頷く。
「過分のお褒めの言葉、こちらこそ感謝申し上げます。
今後も七国が、互いに認め合い力を合わせていけるように、大神殿を代表する者として努力していきたいと思います」
「ああ、これからもよろしくお願いする。我らが幸運を運ぶ精霊女神よ」
兄王様の笑顔は嬉しくて、今までなんとなく感じることができなかった勝利への実感を、ようやく噛みしめることができた。
けれど同時に――
もうどうしようもなく『精霊女神』から逃れられなくなった自分を、私は内と外から感じていた。




