魔王城 『オリジン』という存在
お母様から許可を得て、明日は大聖都に戻るという、その日の夜。
私は夢を見た。
夢、と言っても、いつものごとく白い疑似クラウドの中。
精神というか、電脳世界? の中のことだけれど。
「マリカ。色々と迷惑をかけたわね」
一組の男女が立ち、私を待っていた。
言わずと知れたステラ様とレルギディオス様。
『星』と『神』だ。
「お前は、いや、お前達は本当によくやってくれた。心から、礼を言おう。
感謝する。マリカ」
いつもはちょっと拗ねた感じのティーンエイジャー。
神矢君も今日ばかりは素直に、真っすぐ私の方を見て褒めてくれる。
「お前とリオンのおかげで、俺達は宿敵とも言えるコスモプランダーを殲滅させることができた。しかも、ほとんど誰も欠けることなく」
「個人レベルでは怪我人などもいるわ。どうしようもなく隕石の落下に巻き込まれて亡くなった者も。でも、全体から見ればほんの僅か。
各国の王族や民達の努力もあって被害は最小限で済んだと思うの。ありがとう」
「地球で命を失った七十億の人間達も、これできっと浮かばれるだろう」
「コスモプランダーを倒したのはリオンと、アースガイアの人々の力です。
精霊神様達や、ステラ様、レルギディオス様のお力が無かったら、そもそも同じ戦いの場に立つことさえできませんでしたし。
私は特に何も――というのは謙遜が過ぎるかもですが、私の功績では無い気がしますし」
ここでの勝利の陰には地球滅亡、七十億人の命と200万年の人類史の消滅という大すぎる犠牲があった。
初見殺しの彼らから命がけで逃れ、この星に未来を繋いでくれた皆様がいて、新しいナノマシンウイルスで守って下さっていたから、なんとか勝てたようなものなのだ。
それに、戦いの主導権を握っていたのはもう一人の『私』であったのだろうし。
「いや。
そうであったとしても、お前がいなかったら、そもそもアースガイアの者たちは、ここまで戦えるようにはならなかっただろう。
自分でやったことではあるが与えられた不老不死に溺れ、歩みを止め、死なぬだけの生を、今もだらだらと続けていただろう。
世界を動かし、変えてくれたことに、心から敬意と謝意を贈る。
マリカ。お前は間違いなく頑張った。
お前が俺達の嫁であり、義娘となり、息子――リオンに寄り添ってくれたことを心から嬉しく、誇りに思う」
「できるなら、マリカ。これからもずっと、
『貴女』がリオンと共に歩んでくれることを願っているわ。
『貴女』が。
その言葉の意味にハッとする。
もしかしたら、ここでなら、お二人になら。
あのことを相談できるだろうか?
「ステラ様。レルギディオス様。
あの……。私……」
「解っている。オリジンのこと、だろう?」
「オリジン?」
どこかで聞いたことがあるような、無いような。
重い意味と力を持つ言葉に、私は息を呑み込む。
「オリジン、って起源、とか始まりのもの、っていう意味ですよね?」
「ああ。だが、俺達、ナノマシンウイルスの力を取り込んだ能力者達には違う意味合いがある」
地球人の記憶と教育の中にある言葉、としての意味とは違う意味がある。とレルギディオス様はいう。それは、私達『精霊』にはきっと重要なこと、なのだろう。
「マリカ。
ここでの話は良く聞いて、覚えていて。今回はオリジンの隙をつき、貴女の子や他の精霊神様にも助けて貰って、なんとか貴女だけをここに呼べたけれど。
おそらく次は無いから」
そう告げるとステラ様は真剣な眼差しで私を見やる。
「お前の中のオリジンが、どう動くか解らない。だから次からお前の意識が身体に戻っている時はこの話はしない。夢の中でも同じだ。一度きりの情報交換と覚えておいてくれ」
「っていうことは、皆様、私の中にもう一つ、精神というか、魂があるのは御存じなんですね?」
「ええ。兆候は随分前からあったのだけれどね。コスモプランダー襲撃から一気に目覚めてしまったようなので、伝えておこうと思ったの」
「私の中にいる存在というのは何なんでしょう? 皆さんはオリジンと呼んでおられますが」
時々、そんな言葉を耳にした気がする。
コスモプランダーを代表する意志と対等に渡り合い、会話をする。
『彼女』がただ者であろう筈がない。
「オリジン、というのはね、私達能力者の中にある、言葉にならない知識。概念のようなものなの。それを地球の言葉に当てはめただけ。
ナノマシンウイルスの最高位種にして、その頂点に立つ絶対意思ってところかしら?」
ナノマシンウイルスには意思があり、本能があり、位階があって。
自分達を変化させた上位者には、基本的に逆らうことができず、傷つけることもできない。
その頂点に立つ意志が『オリジン』。
子どもにとっては抗えない、定められたルールなのだと、ステラ様は苦笑する。
「コスモプランダー戦で私達に流暢に語り掛けてきた存在がいたでしょう? 私達はあれがコスモプランダー側の『オリジン』ではないかと思っているの」
「コスモプランダー側の?」
「肉体を捨て、新種のナノマシンウイルスを操るようになった私達だから対応できたけれど、直接彼らのウイルスに支配された生命体は、おそらく『オリジン』の意思には逆らえない。地球でウイルスの位階に縛られていた、かつての私達のように」
「じゃあ、私の中にいる『オリジン』はアレですか? 私達が倒した『オリジン』の分裂体とか何か?」
「マリカ? お前、真理香先生の記憶があるだろう? SFとかアニメとかのこと覚えてたりしないか?」
「は? SFですか?」
超真剣な話から、いきなりSF、アニメ。なんて話になって、私は首を傾げずにはいられない。
「嫌いじゃなかったみたいですけど、そんなに詳しいって訳でもなかったと思いますよ。
定番作品を少しかじっていたくらいで。
宇宙とか星とかは好きだったから、その手の本やマンガはよく見てた気が……」
名作古典などを中心に、色々と節操なく見ていた。映画もアニメもぼちぼち。宇宙戦争の話とか、モビルスーツに乗って戦う話とかも好きだったっぽいけれど。
「前にナハトが言ってたんだがな。人類の進化にはウイルスが関わっていた、という説があったそうなんだ。
恐竜が絶滅した昔、原因とされる隕石に、類人猿を人類へと進化させるウイルスが付着していた。
それに感染したことで、類人猿は進化、分岐し今の人間になったという。
原初の地球はウイルスによって作り替えられた、という説もあったとか。
根拠や証拠など、当然見つけられるはずもないから与太話的な扱いだったらしいが」
言われてみれば、そんな小説やマンガに触れたような記憶はある。
人を作り替える宇宙から飛来したウイルスは実在したのだから、絶対にそんなことはないとは言い切れない。
「だから。
奴とお前の中にいた『彼女』の言葉を元に、考察してみる」
レルギディオス様が指をくるりと回すと艦内で『意志』と会話する『私』が映し出される。
録画してたのか。
『預かり託された星を奪われ、子ども達を危機に追いやった責任、困難と地獄への道に導いてしまった罪の代価は払い、償う。いずれ必ず』
「この言葉からしてお前の中にいる『彼女』は何者かによって、地球を預かり、託されたモノであるらしい。コスモプランダーの言葉にも、それを匂わせるものがあった。
コスモプランダーの『意志』も同様に、コスモプランダーの星を預かっていた存在。つまりコスモプランダーの『意志』と『彼女』は旧知、もしくは同種のナニカであった」
この仮説は多分、正しい。
そうでも考えないと、二人の会話が成り立たない。
同種であり、自分の託された子どもを虐げる存在であるから、互いに相手のことを許せなかったのだろう。
「あくまで仮定だが、この宇宙を作り上げた、あるいは宇宙に生命の種をまいた存在がいたとする。
実際にいたとしたら『創世神』としか言いようのない存在だろうが、生命を育んだ星を我が子のように思い、それを守り、育てる存在を各星に遣わした。
彼らは、それぞれの星で、生命種に進化を促し、育て上げる。
そんなシステムがあったのだろう。
表立つことなく、陰から彼らはそれぞれの星に根を張り、忙しい『創世神』に代わり、子ども達を助ける。そんな保育士は、おそらく目には見えない。
人間から見れば、ウイルスのような存在だったのかもしれない」
「あ……」
ようやく話が繋がってきた。
コスモプランダーは自分のウイルスを使って地球人を書き換えようとした。
それに、何故人間は抗い、打ち破ることができたのか?
「導くべき進化が一段落し、人間が独り立ちするようになってからは、人間それぞれの体内に潜み、人に世界の表舞台を譲った優しい保育士は、コスモプランダーという外敵の存在によって目覚め、我々に力を与えた」
地球にも味方がいたからだ。
私達を助けようとする『意思』が。
「それって、まさか……」
「コスモプランダーを指揮するナノマシンウイルスに意思があったのなら、地球のウイルスにも意思があってもおかしくはない。
コスモプランダーのウイルス散布によって、長い眠りから目覚めた地球のウイルス。
第一世代達に力を与え、ひいては地球人類全てを救った意思。
『オリジン』
それがおそらく、お前の中にいる『彼女』の正体だろう」
子ども達を守り切れなかった、優しくも哀しい保育士が。




