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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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魔王城 『今』の現状

「マリカ姉さま。本当に、この中に赤ちゃんが入ってるの?」


 絵本を読み終わって一区切り。

 私の横に座っていたフォル君が、そうっと、躊躇いがちに私のお腹に手を触れる。


「そうよ。前よりも、少しはっきりしてきたでしょう?」


 妊娠四ケ月。

 まだ、そんなにはっきりと解る程大きくはなっていないけれど下腹部に確かなふくらみが感じられるようになってきた。

 あと一月もすれば、外から見てももっとはっきりと解るだろう。

 私自身は、微かだけど胎動を感じるようになってきた。

 ここにいるよ。と私に伝えてくれている。

 その度に、私は一人では無いのだと安心するのだ。


「うっ!」

「マリカねえさま。だいじょうぶ?」

「フォル。これを!」

「うん。かあさま。はい、ねえさま。これ、桶とタオル」

「ありがとう。フォル君。

 二人共、汚いからちょっと下がってて」

「へーき。せなかさすってるね」

「わたし、お水もらってくる!」

「体調が良くない時に遠慮など不要です。無理せず、身体を休めなさい」

「はい。ありがとうございます」


 甲斐甲斐しく気遣ってくれる二人とお母様には感謝しかない。

 コスモプランダーとの決戦から約四ケ月。

 これは、私が力を使い切って意識を失っていた時間とほぼ等しい。

 やっと目が覚めたかと思ったら、途端につわりが始まって。

 毎日、頭痛と吐き気のフルコース。

 頭では解っていたつもりだけど、まさかここまでとは。

 ベッドから起きられない毎日。

 私は正直、まだ、変わっていく自分の身体と現状について行けずにいた。


 コスモプランダーとの戦いで力を使い切った私は三か月近く眠りについたままだったという。


『気力と違って、マリカの精霊の力と体力は特殊だから、他の者たちが補充できないのよ。回復を早める処置はしてあるけれど、今はただ、待つしかないわ』


 ステラ様がおっしゃったので、各国で祝賀や復興に向けての動きが続く中、私はカマラやお母様、双子ちゃんに面倒を見て貰いながら、ただひたすらに眠り続けていたらしい。


 で、私が惰眠を貪っている間に、災害復興は確実に進んでいた。

 というか、進めてくれていた。各国の王族の皆様と皇王陛下達。

 そして、リオン達が。


 コスモプランダー討伐を機に七国は友好条約を結び直し、同じ『精霊神』の血を引く『七精霊の子』として不可侵と協力を約束した。

 その仲介役となり、調印の儀式を取り仕切ったのがリオン。

 彼は、正式に大神殿の神官長。

『神』の代理権者として人々の前に、その改造体となった姿を現した。

 翼などは鎧に付与していたことと、フェイとアルが変化が目立たない衣装を整えていてくれたことから、思ったほど怯えられたりすることは無かったんだって。

 角を頭巾で目立たなくして、手袋、その他も白基調とのこと。

 青のストラが流れる神官服を身に纏ったリオンは、さぞかしカッコ良かったことだろう。


「まさしく、神の代理権者。

 精霊の化身、って感じでして、各国王も進んで膝を折っていました」

「精霊の力が強いものほど、リオン兄の力が解るみたいだよな。神殿の神官達がリオン兄の気に呑まれてたのも笑ったぜ」

「大神殿の力は抑止力と、人々の心の拠り所、ですからね。力が強すぎるくらいでいいんですよ」


 大神殿は今後、リオンと目覚めた私の元『神』と『精霊』の力の供給を売りにしていく。

 というのは私が目覚めた後、現状報告にきてくれたフェイとアルの談だ。

 リオンは、私との約束を守って、昏睡状態の間、夜はずっと側にいてくれたし、仕事で大聖都に出ていても目が覚めてからは必ず戻って来てくれている。

 目覚めた時も、直ぐ近くにいてくれて。


「良かった。意識が戻ったんだな。

 戻って来てくれて、良かった」


 大好きで優しい、露に濡れたような眼差しで、私を抱きしめてくれたのが嬉しかった。


 体力消耗とつわりが酷くて、私の方は、その……約束を守れていないのが、申し訳ないのだけれど。


 私が倒れている間にも、復興作業は続いているので、神官長様は大忙しなのだそうだ。

 ちなみに、私はその衣装も見せて貰っていない。


「仕事とマリカの為でなけりゃ、あんな恰好できるもんか」


 というのはリオンの言だけど。見たいなあ。

 体調が戻って大神官の仕事をするようになったら、見れるだろうか?



「各国の国王陛下達にはまだ、貴女が目覚めたことを伝えていません」


 一通りの話を聞いた後、お母様は私にそう言った。


「皆、心配していますよ。

 ほら、見舞いの品も、花も絶えることがありませんでした」


 お母様が指示した先には、鉢植えや花束がいくつも。

 贈り物の箱もいっぱいだ。


「皇王陛下にも?」

「皇王陛下、いえ、上皇王陛下は今、新開拓地指揮の為この城に滞在なさっていますのでご存じですが、まだ各国に伝えないようにお願いしています。

 フリュッスカイトのナターティア様と、エルディランドのホワンディオ様も了承済みです」

「あ、戴冠式が終わって、新移民地開拓も始まっているんですね」

「七国会議同様、戴冠式を『神』と『精霊神』の代理人として仕切ったのはリオンですよ。

 とても神々しい式でした」


 ということは皇王陛下は既に皇王陛下ではなく、新しい皇王陛下はケントニス様になったということか。

 後で何かお祝いでも考えないとね。


「既にこの島の城下町の一つが町として動き始め『神の子』達も少しずつ、覚醒してきています。今までとは違う生活に戸惑う者も多いようですが、頑張っているようですね」


 本当に浦島太郎の気分。

 私が眠っている間に世界は大きく変化しているみたいだ。


「とりあえず、焦らず一週間は安静にしていること。

 貴女が目覚めてしまうと、どうしても各国、貴女に頼りきりになりますからね。

 私達が見て、体調が戻ったと思ったら、各国に連絡を取ります」

「解りました。直ぐに体調を戻します」



 という話をしたのが二週間前。

 でも、今も私は三か月の昏睡状態で身体が錆び付いている上に、つわりのせいでまだベッドから起き上がれないでいた。

 あと少しで夏になる。夏になれば大祭もあるし、礼大祭もある。

 私の仕事は山ほどあるし、孤児院やアルケディウス、各国の様子も心配だし。

 王子様達ともあの後、ろくに挨拶もできなかった。

 早く体調を戻さないと、と気は急くのだけれど、つわりだけは、どうしようもない。

 無理して仕事に行った先でゲーゲーなんてしてたら、周囲にも迷惑がかかる。

 今は、お腹の子の為にも、焦らずに体調を整えた方がいいのだろうな。

 私はそんなことを考えながら寝台に身を横たえ、目を閉じた。


 私の中に二つの人格を自覚してからというもの、時折『彼女』の存在を感じる。

 コスモプランダーの討伐が終わってからは特に。

 今までは私に任せてくれていたのに、早く何かをしない。といけないという焦りみたいなものが伝わってくる。

 正直な話、眠っている間に身体の主導権を盗られてしまわないかな、とちょっぴり心配で、どうしようと覚悟もしていた。

 この身体の本当の持ち主は『彼女』なのだから。


 でも、不思議な話、宙で感じていた侵食感は今の所、止まっている感じがする。

 というか、止めてくれている、というか?

 無意識に下腹部に手が触れる。内側から熱と、正反対の清涼な水のような気配を感じる。

 何かが私を守ってくれているような不思議な感覚。

 自分で防御壁を作っている時とは違う、水のような澄んだ感じは多分、お腹の赤ちゃんじゃないかな、となんとなく思う。根拠は何もないけれど。多分、私は赤ちゃんを守りつつ、赤ちゃんに守られているのだ。


 一つの身体に二つの魂。不自然で問題ありまくりなのは解っている。

 こうして落ち着いてはいても、何も問題は解決していない。

 解決する方法も解らない。

 誰にも相談できる類の事ではないし、そもそも話をすることもできないし。

『精霊の出産』が齎す騒動についてもこれから考えないといけないしコスモプランダーを倒しても問題は山積み。頭が痛くなる。


 でも


「心配しないで。お母さん、がんばるよ」


 私は一人ではないから。リオンもフェイもアルも。お父様やお母様も双子ちゃんも。多くの人に支えられている。

 何より赤ちゃんがいる。


 とりあえず、今は体力回復最優先。

 ジョイとザーフトラク様にお願いして、食べられそうな料理がないか、探して作って貰おう。今の所は炊き立てご飯の、あのもわっとした暖かい香りがダメなのと、生臭いモノは気持ち悪くなるのでそれ以外で。

 なるべく小分けにして、胃に負担をかけないようにして。

 前世、というか真理香先生の記憶を辿りながら


「絶対に守って見せるからね。私の大事な家族」


 お腹に手を当てながら、そう約束した。

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