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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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宇宙 勝利の後の別れ

「やった……のか?」

「敵の、全消失を……確認。

 少なくとも、この星域に敵性反応……なし」


 怨霊と化したコスモプランダーの旗艦。

 その中央に在った、ナニカが消失したことで、宇宙空間を照らす光は無くなった。

 漆黒の中に二つの蒼いカレドナイトの輝きだけが、星のように輝いている。


「勝った?」「勝ったのか?」

 

 まだ微かな疑問符を浮かべる王子様達の頭上に、静かな声が降りる。


『ああ。コスモプランダー。その族と、核たるオリジンはこの世から残滓も残さず消失した。

 我々の、アースガイアの勝利だ。良くやったな』


『神』の勝利宣言と同時、歓喜の声がブリッジに響く、いや、轟く。


「やったああ!」

「勝ったんだ! ライオットとリオンがやってくれた!」

「コスモプランダーは消失した! 我々の勝利だ!」


 隣同士の席で手を取り合い、肩を叩き合い、涙を流して喜ぶ王子様達。

 陳腐な言葉選びしかできないけれど、本当に良かった、と私も思う。


「リオン。お父様」


 最後の敵、レルギディオス様や、お父さんがオリジンと呼んでいたコスモプランダーの指導者を消失させた立役者の二人に私は声を向ける。

 二人はあれから、ずっと立ち尽くしたまんま。

 向かい合って、ほぼ動いていなかった。

 カメラが『星の翼』やリオンに付いているわけではないから、見えるのはノアの外部カメラと全天モニターが映し出す遠景のみ。

 詳しい現状は解らない。


「身体に異常とかはありませんか? 最後の敵が呪いを残して行ったとか、周辺に悪いものが残っているとかの気配はないですよね?」


 一応、心配だったのだけれど二人からは少し間を置いて


「ああ、大丈夫だ。心配するな」

「今のところ、かもしれないがコスモプランダーの怨念や魂のようなものの存在は確認していない。ほぼ殲滅したと思って問題ないだろう」


 そんな明るい返答が届けられた。

 ブリッジには再び、歓声が弾ける。

 これで、私達の完全勝利が確定した。


「お疲れさまでした。戻ってきて下さい。

 できる範囲で構いませんので、周囲の確認をして。

 地上と交信して、人工太陽の修理をしたら、地上に帰還します」

「解った」「今、戻る」


 二人がそれぞれに肩の力を抜き、翼を広げたのが解った。

 やはり戦士には私達には解らない余韻とか、何かがあるのかもしれない。


「……二人のおかげで、アースガイアは救われたんです。

 ありがとうございます」


 目を閉じ、深くモニターの向こうの二人に頭を下げる。

 アースガイアを代表して、なんていうつもりはないけれど、どうしても言わずにはいられなかったから。ここからじゃ、見えないのは解っているけど。


「礼なんぞいい。俺は俺の家族と星を守る為に戦っただけだからな」


 お父様は人型モードだった『星の翼』を飛行形態に戻したようだ。

 温かみのある優しい声が身体と心を暖めてくれるようだ。


「そもそも、称えられるべきは、お前とリオンだろう?」

「リオンは勿論そうだと思いますけれど、私はそんなに特別な事はなにも……」

「……その辺の話は後にしよう。地上に落ちた隕石などについても心配だし。

 コスモプランダーは滅んだんだ。後で、ゆっくりと話せばいい」

「そうだな。とりあえず帰投する。入り口を開けておいてくれ」

「解りました。あ! 真理香先生!」


 万が一の為、ではないけれど救出した真理香先生の水晶が、今、格納庫にある。

 無事に事が済んだのなら、あの冷たい部屋にいつまでも置いておけない。

 安全な所で、治療を試してみないと。


 そう思った、正にその時だった。


『マリカ。こっちにちょっと来れるか?』


 脳にピキーンとテレパシー?通信が入ったのは。


「おと……アーレリオス様? 急ぎですか?」

『ああ、できればすぐに来て欲しい』

「真理香先生に、何かあったんですか?」

『……詳しい事は、こちらで』

「解りました。直ぐに行きます」


 静かな、声だった。

 容体が急変したとかで焦るような感じじゃない。

 だから、私も特に慌てずに、


接続(リンク)、解除』


 操縦席の石から出て、深呼吸する。


「すみません。さっき、救出してきた真理香先生の所に行ってきます。

 皆さんは休憩しながら、地上との通信をしていて下さい。

 帰還は……レルギディオス様。どのくらいになります?」

『…………』

「レルギディオス様?」

『ああ、帰還の為のエネルギーを蓄えたり、リオンや『星の翼』の調整。

 それから……色々な後処理をしてからだから、一日後くらいとしておけ』

「だそうです。そう伝えて頂けますか?」

「解った。僕達が行くと邪魔になるだろうから、真理香先生? によろしくと伝えておいて」

「火の精霊神様にも、心からの感謝を」

「解りました」


 地上との連絡などはお任せして、私一人で格納庫に向かう。

 フェイとアルも遠慮してくれたようだ。


 真理香先生は、私にとって実のお母さんであるけれど、私自身でもある。

 保育士としての考え方や知識、人としての在り方や思いも全て、彼女の人格データから受け継いでいるから。

 これからどんな風に接していけばいいだろう?

 いっぱいお話して、お母様にも紹介して、リオンをちゃんと恋人、ううん。夫だって伝えて。仲良くしていけたらいいな。

 そんなことを、能天気に考えていた私は、格納庫に辿り着いた瞬間、場の雰囲気に凍り付いた。


 そこには七人の精霊神様達。

 レルギディオス様とステラ様。

 そして、エルフィリーネまでが、勢ぞろいしていたからだ。


「皆さん……どうして?」


 皆、立体映像だけれど人型を作って。

 部屋の中央に浮かぶ、精霊石を見つめている。


『悪いわね。マリカ』


 私の存在に一番に気付いて下さったのはステラ様だ。

 っていうか、皆様、ノアに来れたの?


『無論、本体ではない。疑似クラウドを通じて一部を分割してここに投影しているだけに過ぎない。アーレリオスに言われて、俺が、呼んだんだ。

 コスモプランダーを消滅させて、脅威がなくなったことで通信も回復したからな。精霊神が少し反応できなくてもなんとかなる。

 リソースも余剰ができたから可能になったが、戦いの最中には無理だったことだ』


 疑問符を読み取ったようにレルギディオス様が答える。

 さっき、お父さんが来た時と同じような感じ、なのかな?

 と、どうでもいい事を考えるのは逃避だと解っている。


『リソースをだいぶ使わせて貰っているわ。

 帰還まで一日かかるのは、そのせい。

 でも、皆、どうしても、先生との最期の別れをしたくって……』

「最期の……別れっ……て」


 喉の奥が乾いて、声が、出てこない。

 見れば水晶の奥に宿っている光が、今にも消えそうな程に小さくなっているのが解る。

 マッチの灯よりもなお小さい。息を吹きかけただけで消えてしまいそうだ。


『コスモプランダーを消失させたことで、真理香先生の壊れた精霊石の核と精神を繋ぎ止めていた力も、なくなってしまったの』

「そんな!」

『元々、真理香先生は地球で壊れて(殺されて)。それを意識もないままコスモプランダーの道具にさせられていた。

 記憶が戻ったのは奇跡だったけれど、もう、身体も精神も、持たないことは、解っていたのよ』

「私が! 私が直しますから!」


 寂しげに呟くステラ様の横を駆け抜けて、私は真理香先生の水晶に触れる。

 そして、身体の中の力を全部、使うつもりで念じ、祈った。


「治って! 元に戻って下さい!!」


 ……でも、感じるのは宇宙空間での時と同じ。いくら注いでも穴の開いた笊で水を汲むかのような、注いだ端から流れ落ちていく感覚。

 弱まっていく真理香先生の意思。

 今まで、不思議な事に、やろうと思えば何でもできて、大抵の事は無茶を通せてきたけれどこれは、本当に無理だ、と解ってしまう。

 既に失われた命。肉体も精神も粉々に砕かれ、無理やり繋ぎ合わされて酷使されて、その繋ぎ合わせていた接着剤が消えたのだ。

 持つ筈がない。いくら『私』でも死んだものを蘇らせることはできない。

 魂の転生はあり得ても、失われたものは戻らない。

 それでも。

 ああ、コスモプランダーの気持ちが少しわかる。

 頭では解っていても、往生際悪く、

 力を注がずにはいられない私を、見かねたのだろうか。


『……ありがとう。でも、もう……いいのよ。

 私はもう、終わっているから』 

「えっ!」


 パチン、と静電気のような拒絶が流れると同時、紫の精霊石が砕け散った。


「いやーー! お母さん!」


 砂時計の砂のような粉になり、掌から滑り落ちていく彼女の『身体』

 その上には


『泣かないで。マリカ。

 だって、私は今、とっても幸せなの』


 淡く、儚く。

 でも、とても明るく幸せそうに微笑みながら。


『十分な、ボーナスステージを貰ったわ。皆に再会できて。

 こうして……看取って貰えるなんて。海斗先生に、申し訳ないくらい』


 明るく幸せそうに微笑むエプロン姿の保育士が佇んでいた。


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