宇宙 一つの『星』の終わり
『私』が敵の口上と変身を口出さず見守っていたのは別に恐怖だったから、という訳ではない。
責任を感じていたから、でも多分、無い気がする。
ただ、故郷を滅ぼした極悪非道の筈の敵の末路があまりにも、無様で、あまりにも哀れであったから。かな。多分。
みるみるうちに肥大化し膨れ上がっていく呪いの火の玉。
「アーレリオス様。あれには介入できません?
一応、火ですけど?」
『すまないが無理だ。あそこまでオリジンの意思によって凝り固まった悔恨と憎しみの炎には、ナハトですら手出しできまい』
「……そうですか。じゃあ、焼き尽くして浄化してあげるのが一番の情け、ですよね。
お父様、リオン。ここで待っててくれる?」
「え?」「何をするつもりだ?」
「真理香先生を連れて、艦に帰ります。詳しい指示はそれから改めて。あ、その前に。
リオン。エルーシュウィン出して。お父様、人型形態になって剣出して下さい。
オルドクスもこっち」
「え?」「は?」「Bou?」
私はエルーシュウィンとお父様の剣に手を触れると軽く、キスをした。
オルドクスの毛並みにも。
「何を、したんだ?」
「マリカ?」
「詳しくは後で。お母さん。一緒に行きましょう?」
『え? ちょっと、ダメよ。私は……』
「大丈夫です。もうアレ、お母さんのことをかまっている余裕なんてないですから」
私は真理香先生の防御壁に手を触れて瞬間移動。
『神の翼』の格納庫に戻った。
「暗い所ですけど、少しだけ待っていて下さい。
お父さん、外に出て来れます? お母さんについていてあげて欲しいんです」
『大丈夫か?』
「はい。後は、みんなで片付けます」
『解った。任せよう。万が一の時には責任を持って艦を守る』
「お願いします」
私の中から出て来て下さったアーレリオス様は、凛々しい精霊神の形をとって頷いた。
精霊獣よりも実体がない分、薄ぼんやりとした感じだけど、奥さんを前にしてあの可愛い姿ではいたくないよね。
解る気がするから、許されたリソースの範囲内で為されることについてはお任せする。
「じゃあ、すぐ終わらせてきます」
真理香先生のことはお父さんに任せて私はもう一度、瞬間移動。
ブリッジの、私の席に転移した。
『マリカ?』
「わっ!」「ホントだ。マリカ?」
「いつ戻ったのですか?」
他の人とぶつからないように、操縦席の石の中に転移したから、びっくりさせちゃったかも。
『マリカ……お前?』
「ご心配をおかけしました。なんとか真理香先生は助けて、コスモプランダーも本体はリオンがやっつけてくれました。残ったのは、呪いに凝り固まった彼らの残滓だけです」
『そのようだな。で? どうするつもりだ?』
「レルギディオス様。もう一度、主砲撃てますよね? アレを依り代ごと、全力で焼き払っちゃってください」
『……いいのか?』
「はい。多分。あの旗艦の内部に『いる』んです。その本体を失ってしまえば、後に残るのは残滓と怨念のみ。
リオンとお父様がカレドナイトで浄化してしまえば問題は無くなると思います。多分、無いでしょうけれどコスモプランダーの子ども達の魂みたいなのがあったら、疑似クラウドに入れて、落ち着いたら星の民として受け入れるのも可能ですし」
『解った。アースガイアからの補充が思ったよりも多い。もう一発撃っても星に戻るくらいのエネルギーは残せるだろう』
「お願いします。私は、地上の人達に、もう一度、語りかけて力を募りますから」
『任せた』
「皆さんも席に付いて、主砲発射に備えて。今度は、さっき程では無いと思いますけど、反動はくると思いますので」
「解りました」
頷いて席に戻る皆さん。その中で、フェイと、アルだけが私を見つめている。
「どうしたの? フェイ? アル?」
「…………いや、なんでもない」
「ええ。話は後で。最終局面、ですからね」
「ありがと」
二人は、多分、気付いたのだと思う。後で、相談できればしたいけど、多分難しい。
とりあえず、今は目の前の事に全力集中。
モニターに映し出される怨念の火の玉。
アレさえ倒してしまえば、少なくともアースガイアは長く抱え続けてきた呪いから解放される。
「主砲の発射準備、カウントダウン開始しました」
「アースガイアからのエネルギー、装填されて行きます。10%……20パーセント」
「リオン、お父様は主砲の範囲外から退避して下さい。
主砲があの火球の言わば殻を壊しますので、その後出てきた怨念を二人の剣で斬って浄化して貰えると」
「浄化?」
「はい。詳しい話は後でしますが、お二人の剣は怨念ごと、そいつを滅ぼせますから。
遠慮しないで全力で滅して下さい」
「解った」「とりあえず主砲の後、だな。それまで、力を貯めておく」
「お願いします」
二人が頷いてくれたのを確認して、私は目を閉じて祈る。
アースガイアの全ての民に向けて。
大丈夫。声は届く。彼らはみんな『私』の子どもだから。
『アースガイアを生きる全ての民に伝えます。
コスモプランダーとの戦いは、最終局面を迎えました。最後の決戦。
どうか、その為の力を貸してくれませんか?』
私の声が届いたから、かどうかは解らないけれど
「! 地上からのエネルギー補充、凄い勢いです。100%を超えてどんどん増加中」
「余剰分は主砲への上乗せと、リオンとお父様に回しますから、心配しないで大丈夫です」
目を閉じ、手を祈りに組んで。呼びかける。
『空を見上げて下さい。
私達が勝利した、その暁には太陽に光が戻り、空から星が降るでしょう。それは、今までのように星を傷つけるものではなく、皆さんに苦難の終わりを知らせる、希望の星。
それを、どうか、共に見届けましょう』
さっき以上に、ギュイーンと力が強く、濃く集まってくる。
期待と願いと信頼と、そんな尊い人々の思いが、気力が、力に変わっていくのを私は感じた。
凄いな。人間。
凄いな。アースガイアの皆。
これだけの強い意志と思いがあれば、いつか本当に宙だって飛べそう。
「見るがいい。私達を支え、守り。そしてお前を滅ぼすのは私達の子どもの力だ。
貴様が箱に抱え、守るという名のもとに未来を奪った者達にはできない。
夢と心を持った子ども達の、力を思い知れ!」
『私』の残った力も全て、集まって来たエネルギーに混ぜる。混ぜられる。
さっきの怒りに任せたものではない、レルギディオス様の意思と、他の精霊神様達の力と、多分、ステラ様の思いも混ざって、渦を巻く力は虹を宿した金色に輝く。
「エネルギー装填完了。出力200%。いつでも行けます」
「『主砲、発射!』」
煌めく金色の光が、漆黒を再び切り裂き、今まさにアースガイアに襲い掛からんとした怨念の塊を吹き飛ばす。
比較にならない物量差を前に、これまで強者として君臨し、数多の星を喰らい潰してきた略奪者。
それを導いてきた『意志』は今、自分達を凌駕する力によって踏み潰される。
『な、何故……こんな、こんな……力が……ぐああああああっ!』
「他者を、認め、受け入れ、取り込んでさらなる進化を続ける。
それが『私』の子ども達の力だ」
まるで、子ども用の物語の悪役のような断末魔と共に、今まさに消えて行こうとしている敵。
主人公達の前に立ちはだかり、成長を促し、より高みに昇るための通過点として
消費され踏み潰される贄に思えて哀れささえも感じる。
不倶戴天の仇。決して奴らを許さぬと息巻いていた『神』レルギディオスでさえ、苦悶の声を上げながら白い光に燃やし尽くされていくコスモプランダーを、どこか哀れむような眼差しで見下ろしていた。
コスモプランダーとは地球人が付けた仮の名だ。
彼らは最期まで己が出自を口にすることも無かったし、名乗ることも無かった。
だから、私達は知らないし。知るつもりもない。
彼らが抱えてきた思いも、過去も、何一つ。
主砲の光によって剥がされた、コスモプランダーの殻が地上に落ちていく。
隕石よりも遥かに小さい粒子だから、大気圏に突入する間にきっと燃え尽きて地上に害を及ぼすことは無いだろう。
だから『私』は最後に残った残滓。
「さようなら。我が同胞。
過ちを犯しながらも最後まで子どもを守ろうとした保育士」
淡い光の球。その中心を見つめた。
「私達は、貴方達の事を忘れます。
その過去を憂うることも、思いを寄せることもしません。
それが私達の復讐ですから」
誰にも聞こえない声で呟き
「リオン! お父様! お願いします」
「アレを、斬ればいいんだな?」
「解った。オルドクス!」
戦士達に最後の号令をかける。
もはや、何もなくなった『彼』に逃亡の目は元から無いが、彼の周囲を縛る光の精霊獣によってもはや動く事さえできない。
「……右から行くぞ。リオン!」
「左は任せろ。ライオ!」
暗黒の中に煌めく、蒼い光。
それは遠く滅んだ地球の色にも似た星の息吹。
『私』の願いと思いの結晶を握りしめ、星の戦士が『悪』を切り裂く。
「これで、本当に、終わりだ!!」
バシュン、と。
まるで風船が割れて消えるような、微かな音がして、光は弾けると塵となって……消えた。
断末魔も、遺言さえない。
それは一つの種族にして、ある『星』の終わり。
永いコスモプランダーの呪いを打ち破った、元地球人。
アースガイア勝利の瞬間だった。




