宇宙 コスモプランダーの言い分
旗艦炎上。
コスモプランダー達のシステムや、艦隊運用がどうなっているかは解らないけど、明らかに中心となっていた巨大隕石は、今、大きな火の球となって燃え上がっている。
花火のようなそれを、私はリオンの腕の中で見やる。
お父様が『星の翼』で相手をしていた隕石達も、動きを止めてしまった。
これは、あれかな?
司令塔である旗艦が破壊されたことで他の艦はエネルギー供給や指揮を断たれてしまった、とか?
『マリカ! リオン!』
「うわっ! あれ? おとうさん?」
指輪の金剛石が煌めくと同時、頭の中に、ピキーン、と稲妻が奔るような声が届く。
聞きなれた声は迷いようも無くお父さん。
火の精霊神アーレリオス様だ。
『よくやった。仕上げは、私に任せろ。と言いたいが、力と身体を貸してくれ』
「解りました。リオン、オルドクス。お父さん。アーレリオス様が来るから、少しお願い」
「解った」
「BOUUU!」
リオンは、私の背中に回り込み、後ろから肩に手を置いて支えてくれる。
オルドクスは、私の前に立ち飛び散る火花や破片を払ってくれていた。
私はその腕に身を任せつつ、目を閉じる。
アースガイアから、ステラ様とレルギディオス様の経路を通って、強い意思が、私の中に。
いつものように、完全に指揮権を奪われるかと思ったら、違うみたい。
『真理香。また、会えて嬉しい……』
『シュリア、さん?』
『待っていろ。今、お前を自由にしてやる』
その一言を告げた後、お父さんは後ろに下がってくれた。
髪の毛は金色になっているけれど、私は、私のまま、身体にいる。
やってきた火の精霊神の力と、心は、アースガイアに防御壁を張った時のように、私のサポートに徹してくれているようだ。
後ろ、いや横から身体ごと支えるように。
そっか。と素直に納得できた。お父さんが、アースガイアの守護を他の皆さんに頼み、ここに無理を押してかけつけたのはお母さんに会いたかったからだ。
『運命という言葉は嫌いだが、存在は信じている。
そして、今、感謝しよう。貴様らに、この手で。
お前達が我らに与えた力で、最期の引導を渡してやれることを!』
勿論、コスモプランダーへの骨髄の恨みもあるのだろうし。
お父さんの『意思』を感じながら、私が手を伸ばすと、旗艦の火柱がさらに大きく、強くなった。そして、真理香先生を取り戻さんとしてか近寄ってくる隕石も、まるでポップコーンが弾けるように、内側から爆発、炎上していく。
「ず、随分と簡単に壊せるんですね。凄く、苦労したのに」
『敵の艦であろうとも、内部に我々の力の影響を受けた要素、言わば火種さえ生まれれば、それを増幅させることは容易い。ここは、アースガイアの圏内。我々の領域だし、さっきの主砲で奴らに精霊の力も付与させることができたしな。
お前たちのおかげだぞ』
ふふん、と。
顔が見えていたらきっとドヤ顔だったろうな。
と解る自慢げな声で、お父様は私に送られてくる力を、遠慮なく揮って敵を粉砕していく。
つまりは、アレだ。旗艦の内部をリオンが破壊して、私達の精霊の力が敵の内部に飛散した。それによって、宇宙の、敵の船にもお父さんの力が働くようになった。と。
それだけじゃない何かもありそうだけれど、まだ精霊の力の仕組みはよく解らない。
『レルギディオスも今は素直に私と同期している。
自分でやりたかったろうに、少しは大人になったようだな』
主砲失敗の時点で100は残っていた筈の宇宙船もどきの隕石は、お父様がかなり落としては下さっていた上に、お父さんの力で気が付けば、ほぼ全て粉々。
容を保っているのは燃え上がる旗艦だけになっていた。
旗艦が完全に破壊できたことを確認できれば、防御壁を解いて真理香先生を連れて帰ることができるけれど、
「しぶといな。流石に艦隊を指揮する旗艦は頑丈か。」
炎上しているのに、なかなか壊れない。
腐っても旗艦。ちょっと困ってしまう。
さらに、強い力を、とお父様が手を翻そうとした、正に、その時
『燃える……。子ども達が、全てが……燃えてしまう』
そんな声が聞こえた。
声というか、テレパシー?
流暢なアースガイア語に聞こえるけれど実際は言葉を超越した思いの伝達。
これ、覚えがある。
最初に私達に宣戦布告したコスモプランダーの『意思』だ。
『私達が、守り、導いて来た子ども達。その存在と、未来が燃えてしまう……。
何故だ? 何故、止めることができない?』
必死に消そうとしているのとは、ちょっと違うような。
自分の力が及ばない事を訝しみ、悲しんでいるような感じ。
男性か女性か、って考えると男性っぽいから仮称『彼』はもしかしたら。コスモプランダーを守り、力を与えてきたけれど、精霊神様のように、現実世界には介入できないのかもしれない。
私のように、って言ったらなんだけど力を使う為の器が無いと。
『貴様らに、慈悲は無いのか?
貴様らは今、数万の我が子らを殺戮し、灰燼としたのだぞ』
うっわ。悲しんでいたかと思ったら、今度は逆ギレた??
私達に怨念じみた恨み言をぶつけて来る。
「無い。
先に、攻撃してきたのは貴様らの方だ」
今まで、常に上から目線で私達を見下してきたコスモプランダーに対し、お父さん。
アーレリオス様は、逆に見下ろして冷たく言い放つ。
私の身体で言っているから、私が言ってるみたいで恥ずかしいけれど。
「逆に問おう。
貴様らは、我らが故郷、地球滅亡の際に慈悲をかけたか?
数億数十億の命が、一瞬で。彼らとその先祖が紡いできた過去と願いと未来と、努力と共に砕け散った。あの時、我らに、彼らに。お前達は慈悲を与えたというのか?」
『宇宙に立ち、大海を進む我らの贄となる役目を与えるのは、地を這い星に甘える子どもには十分な慈悲であろう』
「なれば、貴様らも、より強き者。優れたる我らの礎となるのは本望だろう。
……一応、感謝してやる。
お前達から受け取った力は、我が子らの進化を促し、こうして星海に自力でたどり着く偉業を成し遂げたのだから」
あれ?
今、しゃべっているの、お父さんかな?
なんだか、違う気がする。
でも、口から思いが、驚く程、滑らかに滑り出る。
「我が子らは、一人一人は弱くても、他者と力を合わせ思いを繋ぎ。
星の上を這うばかりではなく、自らの手と力で大いなる方の懐、星の海へと歩を進めていた。
いずれ、自力でも辿り着いただろうが、貴様らの力さえも取り込み、進化した子は間もなくあの方の前に立つだろう」
『馬鹿な! できる筈もない!
最高種である我らとて幾歳、幾万年を彷徨おうとたどり着けていないというのに』
「まだ、解らないのか? 貴様らは既にあの方の前に立つ資格を失っているということが?」
『!』
「あの方が授けた命の種、生命としての身体を捨てた時点で、貴様らはもはや生命ではなく亡霊。他者から奪わねば何もできない略奪者に、あの方の前に辿り着く、栄光の道など開く筈はあるまいに」
「黙れ!」
うーん。何を言っているのか自分でもよく解らない。
だけど、なんとなく気付いたのはコスモプランダーと私達人類は共通のナニカを持つ者同士で、私の中にはどうやら、偉そうに上から目線で贄だと言った『意思』と同種の存在がいるらしい。
今、しゃべっているのはその存在。
コスモプランダーを守護する『意志』が男性っぽいとすれば、私の中にいる『意思』は女性のような印象だ。
私は、今、身体を追い出されたわけではないけれど、彼女の中に半分溶けて同化している気がする。
今の主導権は彼女。
分離して身体を奪い返すことは、お父さんも、リオンもいるしできなくもない気がするけれど、今は仮称『彼女』にしゃべらせておいた方がいい気がする。
『それでは、我らが間違っているようでは無いか!
子ども達の苦難の旅が、無意味だと……』
「当然、間違っている。無意味どころか害悪だ。
そもそも、己が託された星と命を失った時点で、貴様は……我らの使命は勝負では無いが、敗北していた。素直に過ちを認め、子らと共に眠りについていれば、同胞を喰らい、滅ぼして、そこまで共に醜く歪み、傲慢に肥え太ることもなかったものを」
『黙れと言っている!
そも、我らは命を失ってなどいなかった。貴様らが破壊するまで、子らは皆、我が懐で幸せに生きていたのだ』
「生命も、精神も、一度失われたら終わり。
やり直しなどあり得ぬしきかぬ。
精神が連続していようとも、違う命、違う身体での別の人生があるだけだ。
成長も、進化も命と肉体あってこそ。
それを忘れて、偽りの生命にしがみついてきた貴様らは、ただの亡霊だ」
『違う! 我らは星海に辿り着いた、最高種。
命と器が必要だというのなら、貴様らの命を我が物として、生命として返り咲いてくれようぞ……』
炎が昏く蠢いた。
既に艦の全ては容を失い消えているのに、宇宙に揺らめく炎は消えることなくむしろ大きくなっている。
燃焼の物理理論、ガン無視だ。
「愚かな。子ども達の記憶データさえも炎上している今、仮に我らの身体を奪った所で何もならないというのに」
『それでも。貴様らに星の海を渡る栄光を与えるものか!』
燃え上がる火は、怨念を宿し、気が付けば周囲の何か。多分、壊れた隕石宇宙船の残滓を集めて、私達の眼前で、さらにさらに大きく膨れ上がっていく。
『彼女』は。
私達はその不気味で、無様で、そして哀れなその姿を、黙って見つめていた。




