宇宙 奪還作戦
完全な伏兵として息を潜めていたリオンは、最高のタイミングでコスモプランダーの艦首から、紫水晶を奪い去った。
付け根をピンポイントで切断。奪取のタイミングに合わせて剣からエネルギー波を放出させて。
艦内を爆破させる所まで完璧だ。
「リオン!」
『オノレ!』『カエセ、マモリノチカラヲ』
爆破に慌てる旗艦が動けない分、 完全な伏兵として息を潜めていたリオンは、最高のタイミングでコスモプランダーの艦首から、紫水晶を奪い去った。
付け根をピンポイント。奪取のタイミングに合わせて剣からエネルギー波を放出。
爆破させる所まで完璧だ。
「リオン!」
『オノレ!』『カエセ、マモリノチカラヲ』
爆破に慌てる旗艦が動けない分、周囲にいた隕石達が、突撃の矛先を一斉にリオンへ向ける。
リオンは片手に水晶を抱えているからか、動きが少し鈍い。
反応速度もさっきまでのソレじゃない。
「させるか!」
「お父様!!」
両者の間に割り込むようにお父様の『星の翼』が入って、リオン達を背に庇う。
離脱もせず、逃亡もせず。水晶を抱きしめたまま、その場から動かないリオンにレルギディオス様が声を向ける。
『真理香先生を、救い出したのか? 早くこちらへ』
「……ダメです。艦にこの方を、連れて行けません」
「え? リオン?」
『何故だ? それは真理香先生の、精霊石だろう?』
「俺は、真理香先生という方を知りませんが、精霊神の精霊石とほぼ同じ構成なので、おそらくは」
『だったら、ノアに連れてこい! 破損は解っているが、俺とマリカなら回復が可能かもしれない!』
「だから無理です。
この方の内部には分離不可能なレベルで、原種に近いナノマシンウイルスが混入されています」
「え?」
リオンの表情は厚い面覆いで隠されている。
でも、言葉からは確かに噛みしめるような苦い思いが感じられた。
「一種の自縛、および自爆装置だと思われます。
今は、この方を取り戻そうとコスモプランダーが動いていますが、もし奪取不可能と判明すれば、今、この瞬間に爆破されても不思議はありません」
『何だと!』「そんな!!」
いつ爆発するか解らない、爆弾水晶。
でも、それを捨てることも壊すこともせず、大事な女性を抱きしめるように胸元に抱いて、リオンはその場に浮かび続けている。
危険を承知で、危ない橋を渡り続けてくれているのだ。
リオンは。
私のお母さん。
真理香先生の精霊石をこれ以上、孤独にしない為に。
『俺達は、また真理香先生を救う事ができず、置いていくことしかできないのか?
やっと、やっと再会できたのに』
レルギディオス様の慟哭は血涙を絞り出すかのように深く、苦し気だ。
艦の接続からもぎ取った為か、それとも他の理由かは解らないけれど、精霊石に反応らしきものは見えない。
ただ、水晶の奥底に封印されていた時代の七精霊神様の精霊石のように、微かな虹色の光が見えるから、多分、完全に死んでいる訳ではないのだと思う。
リオンがあれだけ、はっきりと拒絶するのだからノアの中に連れてくることは難しいのだろう。でも、助ける方法はない? 本当に?
何かない? 何か方法はない?
私は必死で検索をかける。
ホントは、私が彼女の側に行って治癒の術を使うのが、一番成功の目があると思う。でも、なんだかんだの騒動と妊娠で、結局強化処置も受けていないから、宇宙空間に単身飛び込むのは難しいだろうか。
私の回復、修復の能力は手で触れていないと使えないし。
多少のダメージを覚悟して、ノアに連れて来る?
でも中に入れた時点で、自爆装置が作動する可能性は高い。
コスモプランダーの自爆装置がどの程度の威力を持っているのか?
ちょっと爆発くらいならともかく、真理香先生を絶対に他人に渡さない、と思うならかなり高めに威力設定されている可能性は高い。
完全生身の王子様達を危険にさらせない。
せめて、真理香先生が目覚めてくれれば……。
そうだ!
「リオン!」
「マリカ?」
「今から、送れる限りのアースガイアの精霊の力と気力を送るから、真理香先生の精霊石に送り込んで!」
「……解った」
「いいですよね? レルギディオス様」
『かまわん。いや、むしろ頼む』
「はい!」
私はリオンに繋がっている経路を経由して、言葉通り、ありったけの力を送ることにした。リオンは、送られた力を手に集め、真理香先生の水晶に触れて、中に注ぎ込んでくれている。
力を送っているだけだから、敵に傷つけられた身体が治っている訳ではない。むしろ敵に再度囚われ、強い洗脳によって完全に心を奪われていたら、リオンに攻撃を仕掛けてくるようなことになれば。相当にヤバいことになるだろうけれど。
けれど、とにかくこのままにはしておけなかった。
彼女が、意識を取り戻して下されば。
自分の意志で、力を使って、我が身を守ってくれるなら。
救い出す手がかりが見出せるかもしれない……。
真理香先生の精霊石を奪取しようとするコスモプランダーの攻撃はさらに激化。今は、お父様が背中に庇うように食い止めて下さっているけれど、長く頼りきりにはできない。
ここが勝負どころだ。
いつ爆発するか分からない。そんな綱渡りのようなドキドキの中で――力を送り続けると水晶の内側から、紫色の光が輝き始める。まるで炎が灯ったかのように、瞳を開いたかのように。
『貴方は……神矢くん?』
か細い、でもどこか、温かみのある声が、光の明滅と共に私達に届く。
「いえ、俺は……リオン。
彼とステラ。星子の……息子、です。貴女は、真理香先生?」
『そう? そっくり、ね。……あの子達は未来までたどり着き、子を育てる事ができたの……ね?
とても、嬉しい、わ』
『先生!!!』
渾身の力で叫ぶレルギディオス様。いや、神矢君。
リオンへの通信は、あくまでリオン個人に繋がるものだから、真理香先生の精霊石には多分届いてないんじゃないかと思ったけれど、リオンから注がれる力と一緒に、『神矢君』の呼びかけは伝わったようだ。
『ああ、こっちは本当の神矢君、ね。無事で、いてくれてよかった。
そして、ごめんなさい。貴方達の邪魔をしてしまったの、ね』
『先生! 俺、先生に攻撃して! いや、それ以前に、先生を一人置いて行って!』
さっき、怒りに任せて主砲を放った『神矢君』。彼の声は威厳のある『神』ではなく、先生を慕う子どもそのもの。
今にも泣きだしそうだ。
『ううん。謝るのは……私の方、なの。結局、地球を守り切れ……ず。
自殺もできないまま……コスモプランダーに囚われて、利用されていた、から』
意識は、しっかりとしているみたいだけれど、反応は途切れ途切れ。
今にも消えてしまいそうなのに、レルギディオス様に懸命に謝る様子は、痛々しい。
実際の姿は固い、水晶の鉱物とその点滅でしかないのに、その奥に教え子を気遣う優しい保育士の眼差しがはっきりと見える。
『旗艦から、切り離して力を、分けて貰えた……おかげで、意識は、戻ったけれど、私の事は……気にしないで』
「イヤです! せっかく、真理香先生が戻って来たのに!
星子や、……シュリア達も待ってますよ!」
『そう……。
だったら、余計に。迷惑は、かけられない。
今のうちに、破壊……して。
私が、消えれば……、コスモプランダー……は、防御壁を、使えなくなる、から』
「そんなこと! できません!」
『でも……私が、連れ戻されたら、また……コスモプランダーに使われて、しまう。
だから、おねがい……』
気持ちはよく解る。
だってお母さん、である以前に『私』だし。
『精霊』は基本的に自殺を禁じられているという。
もし、許されていたら、きっと、私達に迷惑をかけない為。自ら死を選んでいたであろう『真理香先生』の気持ちは手に取るように。
でも。
だからこそ。
「ダメです! そんなの、絶対にダメ!」
「マリカ!」
気が付けば、私は全力で叫んでいた。
「自己犠牲とか、自殺とか、絶対にダメです。真理香先生!
ううん。お母さん!」
『マ…リ……カ? おかあ……さん?』
「お願いだから、もう少し、もう少し頑張って!」
『………………』
パチン、と
「わっ!」
「リオン、どうしたの?」
『はな……れて』
「接触が、拒絶された。水晶の周りにご自分で壁を張ったんだ。多分、自爆命令が来ても、被害が最小になるように」
『先生!!』
あれだけ、力を注いだのに真理香先生の反応は、また薄くなっていく。
真理香先生の器、精霊石は見かけだけは傷なしに見えるけれど、実際はボロボロで穴だらけなのだと解る。
まるで笊に水を注ぎ入れているように、いくら力を送っても殆ど彼女の中に力は、残っていかないようだ。
しかも、切り離したとはいえ、コスモプランダーの干渉もある。
いつ、真理香先生に介入して、操ったり、最悪自爆させようとするか解らない。
実際、コスモプランダーは真理香先生を取り戻そうとしてか、次々吶喊してくる。
お父様が止めてくれているけれど、いつまで持つか。
でもやっと取り戻した真理香先生を、コスモプランダーの元に返したり、自爆させたりなんてダメだ。
リオンに殺させるのも絶対にダメ。
せめて、コスモプランダーからの命令から、真理香先生を完全に遮断出来たら……。
そう、思った瞬間。
「きゃああ!」
『マリカ?』
心臓から、何かが奔るように、私の中を流れて行った。
スイッチが切り替わるように、全てがクリアになる。
「マリカ? どうした?」
「リオン! 待ってて。これから、私、そこに行く!
エネルギー80パーセントまでの回復を確認。接続解除」
『おい! 何をするつもりだ? マリカ!』
レルギディオス様の命令が、私を縛るより早く、私はノアとの接続を解除。
精霊石のケースの中から飛び出した。
「勿論、真理香先生を、コスモプランダーから、分捕りに」




