宇宙 コスモプランダーからの交渉
アースガイア最大戦力。元移民船。
現戦闘駆逐艦ノアの主砲攻撃をコスモプランダーの防御壁はほぼ完全に防ぎ切った。
「残存勢力、主砲発射前とほぼ変わらず。
かなりの広範囲にわたってエネルギーが照射されたようだが、ダメージを受けたり破壊された艦はごく僅かだ。
おそらく、あの水晶から発せられた力を、他の艦の水晶が増幅。それぞれの艦に防御壁を展開したと思われる。
他の艦にも防御をかけたと思われる」
スーダイ様がモニターに目を走らせながら告げた。
残存勢力、一〇〇機前後かな。
全て紫銀の薄いヴェールに包まれている。
皆が敵の状態に目を見張っていたその時、ソレイル公子の手元でモニターが不思議な音を立てて光り出した。
「どうかしましたか?」
「マリカ皇女。敵集団から、通信のようなものが発せられています」
「通信?」
「はい。発信源は多分、敵旗艦ですね」
言いたいことがあるのなら、さっきのようにテレパシー通信してくればいいのに、今更ローカルな電波通信。お父様やリオンとの通信を傍受されたのだろうか?
「解析、できますか?」
「なんとか」
『ケイコク……スル』
戦端が開いてからずっと、沈黙を守り続けていたコスモプランダーから、声が届いた。
最初に話しかけてきたコスモプランダーの流暢な『意思』ではなく、以前真理香先生の夢で見た地球の言葉を学習し、合わせてしゃべっているような。合成音に似た感じがする。
「ケイコク……まさか警告? この期に及んでまだ上から目線なんでしょうか?」
通信はオープンにしてあるのでブリッジにいる全員の耳に届く。お父様にも、一応リオンにも繋いでおく。聞いているかどうかは解らないけれど。
フェイの言葉は当然相手には聞こえない。ただ、向こうは一方的に語り掛けてくるのみだ。
『ワレワレノチカラハ、モウリカイデキタハズダ。
コレイジョウノ、セントウハ、ショウモウガハゲシク、ヒガイガ、ゾウダイスル』
「もしかして、停戦の要求なのでしょうか?」
「向こうから一方的に仕掛けてきておいて、偉そうに。消耗が激しく被害が大きいのは向こうだけだろうに?」
王子様達が明らかに眉を顰めた。
今の所、こちらに大きな被害は出ていない。
主砲発射によるエネルギー消耗が一番のダメージで、後は軽微な損傷さえこちらにはないからね。
前線に立っていたお父様も、リオンもまだまだ戦闘続行可能。
エネルギーも補充されつつある。
一方で、向こうはアースガイアへの隕石降下と、リオンとお父様の各個撃破で数を半数以下に減らしている。さらに私達へのエネルギー砲攻撃と、今の防御壁展開で、何とか本隊は守り切ったものの、かなりのエネルギーを使用した筈だから、もうこれ以上、戦線を維持するのは難しいのかもしれない。
『チジョウニコウカシタ、フネハ、スデニチジョウニネヲハリ、ホシノシハイヲススメテイル。ワレワレヲセンメツシテモ、カレラガホシヲ、ノミツクスダロウ。
ソレヲ、トメラレルノハ、ワレワレ、ダケダ』
これは、多分、あっちのハッタリ。
私達がアースガイアの地上と連絡を取れないと思ってるのかな?
でも、魔王城のステラ様と、お母様からの連絡で、おおよその事は解っているのだ。
実際に、第二陣の隕石がアースガイア支配の尖兵の意味合いで落とされたことも、地球人類対応特化で海斗先生のコピー怪異を派遣したこと。
隕石はおそらくバックアップだ。万が一、宇宙戦闘に敗れたとしても、データが残っていれば再生可能だと彼らは考えている。
地上を武力で支配できればそれで良し。ダメなら無害な隕石を装い、辺境で待機。油断したところを攻撃する。って感じかな?
でも地上には頼りになる国王様達や精霊神様達がいてくれる。奴らの策に嵌ることはないだろう。
危険ではあるけれど、ここで人質脅迫めいた『ケイコク』に乗ってまで止めてもらう程のピンチではない。
『私』は地上の子ども達を信じている。
『オマエタチガ、ワレワレニ、ホシノハンブンヲイチジテキニ、ジョウトスルノデアレバ。
コウゲキニヨルヒガイヲユルシ、タイトウノソンザイトシテミトメ、カナタヘノ、ジョウホウヲアタエヨウ』
一方的な降伏勧告に呆れて言葉も出ない。
自分達の方が、圧倒的に不利だというのに、あくまで上から目線で許してやる。っていう思考、まったくあり得ないよ。
それはブリッジの皆も同じ様子。
「はあ? 星の半分を譲渡? 何寝ぼけたこと言ってんだ?」
「まるでこっちが悪いみたいに聞こえますね。
お前達は我々の贄だ。支配してやる、なんて言って、一方的に攻撃しておきながら自分達が負けそうになったから、慌てて認めてやるから武器を引け、ですか?
あり得ない」
誰一人として、コスモプランダーの交渉を好意的に受け止める者はいない。
ま、当然だよね。
『ホシノウミニ、ホヲススメルニイタッタシュハ、ワレラノホカニハナイ。
サマヨイツカレタル、ドウホウニタイシ、コレイジョウノコウゲキハ、エキニナラナイトケイコクシヨウ』
また『ケイコク』
どこまでも、自分勝手というか上から目線というか。この絶対の自信はどこから来るのだろう?
こっちが黙って聞いているのは時間稼ぎ、というかエネルギー補給の為。さっきの主砲で消費した気力や精霊の力はアースガイアのみんなから、また補充させて貰っているから。もう全回復まであと少し、だ。
「彷徨い疲れたる同胞って、コスモプランダーは自分達と我々が同種だとでも言いたいのでしょうか?」
「……同種、ではあるのかもしれないよ」
「え?」「マリカ?」
「そう言えば、宣戦布告の時も、なんだかそんな感じのことを言っていましたか?
何か知っているのですか?」
「知っているというか、感じているというか。でも、その話は後で。
私も何で解るか、今よく解らないから」
解らないけど、納得している。
今の私はそんな感じだ。
さっき、開戦の時。敵の『ダレカ』に向けて啖呵を切った『私』と今の私は少し違う気がする。
本当に、説明のしようがないのだけれど、コスモプランダーからアースガイアを守る。そのことについては揺るぎない『統一意志』なので今は、問題ない。
『キョヒスルナラ、コンドコソ、ワレワレノゼンセイリョクヲモッテ、キサマラヲウチクダク。
モウ、オマエタチノコウゲキハ、ツウヨウシナイ。
ワレワレニハ、ムテキノマモリガアル』
まるで見せつけるように高く掲げられた紫水晶が鈍く光る。
無敵の護り、か。
確かに、怒りに任せたとはいえアースガイア最強レベルの攻撃を防ぎ切ったのはあの精霊石の力なのだろう。
『ふざけやがって……』
頭の中に唸るような声が響いてきて私は顔を上げる。
気が付けばさっきまで切れていたレルギディオス様との経路が戻っていた。
「あ、気がついたんですか? レルギディオス様。反応が無くて、ちょっと心配してました」
『ああ。すまなかった。完全に冷静さを失って迷惑をかけてしまったな』
「さっきの件は、いいです。気持ちは解りますから。でもエネルギーの補充が大変なので、もうやらないで下さいね」
『解っている。エネルギーも無駄遣いどころか、一部奴らに盗られた感じだな。先生の力はやっぱりスゴイ』
「先生? じゃあ、あれ、やっぱり真理香先生の精霊石なんですか?」
『神矢君』の特性や性格からして、あの状況で冷静でいろっていうのは難しいと思う。
というか、誰だってそうだ。
大切な人の身体を敵に奪われ、道具として使われていたら、激怒して当然だ。
『間違いない。ただ、先生の意識は多分、残ってないだろう。
言ってみれば物理的に破損、データ消去したコンピューターを無理やりに繋ぎ合わせて、リカバリをかけて力を使えるようにしたようなものか。
能力的には正当な手段で力を継承したお前の方が強い。
だが、それでも彼女は第一世代だ。十分な力はある。どんな相手からも大切なものを守りぬくくらいには』
「小型艦の精霊石は?」
『多分、真理香先生の力をコピーして増幅する為に、地球人の身体を使って作った模造石だろう。ざっと見た限りでは真理香先生の石はともかく、他の石には完全に精神が存在しない。命令通りに動くだけの道具にされている』
本気でバカにしてる。
コスモプランダーはそこまで地球に残った人々を弄んだのか。
停戦協定なんか言ってきたのは、私達には彼らがしてきたことや、正体が解らないと侮ってるんだろうな。
私達が、自分達が滅ぼした敵の生き残りで、子孫であることも、自分達に恨みを持っていることも、もしかしたら理解していないのだろうか?
先出し自分ルールで鬼ごっこを始め、相手に何もさせずに叩き潰す。
負けそうになったら「タイム」、そして「やーめた」。
まるで我慢を知らない子どものようだ。
今までは、それで通用したのかもしれないけれど、世の中そんなに甘くない。
『ワレワレハ、カナタヘノタビノトチュウ。
フシフメツノワレラトテ、キュウソクハヒツヨウダ。
コノホシニモ、ナガクタイザイスルツモリハナイ。ヒトトキツバサヲヤスメルバヲエテ、チカラヲユズリウケレバ、オマエタチニ、カンショウハシナイト、ヤクソクシヨウ』
どこまで言っても上から目線。でも最初の『意思』が、顔を出して来ないのは、きっと圧倒的不利を悟っている為だ。あれだけ偉そうに喧嘩を売ってきたから今更、頭を下げる事なんてできない。
だから『子ども達』に交渉させて、譲歩を引き出そうとしているのかも。
でも
「……断ると、言ったら?」
『サッキモツゲタ。ゼンリョクヲモッテ、キサマラヲハイジョスル』
小型隕石がいくつも、ノアと『星の翼』に向かって、艦首……なのかな? その先端を向ける。
「貴方達の攻撃なんか、私達には通用しませんよ?」
『ホシサエモクダク、ムラサキノチカラノマエニハ、ドンナボウギョモムイミトシレ!』
紫銀の光を纏ったまま。
真理香先生の力は防御壁の筈なのに『ホシサエモクダク』って何だろう?
もしかして、艦に守りをかけて体当たりか特攻をしかけてくるつもりだろうか?
だとしたら、最悪。
目を閉じる。レルギディオス様の顔は見えないけれど、意思は伝わる。
返事は、どうやら私が決めていいようだ。
同じモノを見ていると解る。
「お断りします! 地球を滅ぼした怨敵の約束なんて信じられませんから。
偉そうな事を言っておいて、負けそうになったらすり寄って来るなんて尚更!
交渉の余地はありません!」
『ナラバ、メッセヨ!』
水晶が紫銀の光を宿す。
コスモプランダーの全面攻撃が始まるか。そう思った正にその瞬間。
「『リオン!!』」
私とレルギディオス様、二人の声が同時に同じ名を呼ぶ。
モニターの端に映っていた私達の切り札が動く。
と、同時。旗艦の前方で、爆発音がした。
『ナニ!』
錯覚だと解っている。
でも、
『……先生』
私も意識を失った女性の身体を片腕に抱いて助け出す、勇者に見えた。
外見は、どこからどう見ても魔王だけれど。
旗艦の艦首から紫水晶を奪い取り、抱えるリオンの姿が。




