アースガイア 地上での戦い 7 精霊神達の悲願とコスモプランダーの正体
『座標A248 B596.15 隕石よりの怪異が活性化 出現の危険性大』
『座標A153.29 B375.96 魔性の大量出現を確認 数は多いがサイズの増大はなし。狂暴化の傾向はあり。要警戒』
純白の疑似クラウド空間にて。
「思ったよりは、苛烈でエグイ攻撃が続いているな」
緑の精霊神 ラスサデーニアは空中に浮かび上がる地表モデルを指でなぞりながら呟いた。
「ウイルスが封じられている以上大したことはできないだろうと甘く見すぎてた。まさかこっちが本命だったなんて」
「隕石、第三陣、来たぞ! 今度の落下地点は辺境部中心だ。
海洋、氷山地域にも落ちてきている」
「今は大陸部の隕石の対処が優先だ。でも全落下地点の把握はしておいてくれ」
「任せておけ」
「キュリオとナハトは隕石のデータ解析頼む。
予想通りであるのなら一つたりとも見逃すわけにはいかない」
情報通信がかなり発展してきたとはいえ、まだ僅かな通信鏡頼りのアースガイア。
大陸は元より、まだ星の地表全てをカバーできているわけではない。
故に、情報感知に優れるラスや、大地と風の精霊神が調査を担当。
危険レベルの高い異変の発生を感知したら、各国の精霊神に情報を共有。地上にいる子ども達の端末にデータを転送して対処に当たらせていた。
残りの精霊神達は大陸全体に防御壁を張ったり、壊された人工太陽の代わりに精霊力で灯りを灯したりと見えない所で大陸を守護し、コスモプランダーからの『攻撃』に対処する子ども達を守る。
『星』は、地上の民から集められた気力を宙で戦うマリカ達に送るなど、それぞれが役割を担っていた。
アースガイアの地上決戦は、ある意味、宇宙でのそれ以上に、大陸に生きる全ての存在のまさしく総力を挙げた戦争の様相を経ていた。
「特に隕石から出現した怪異の存在がやっかいだな」
「時間経過と共にどんどん増えているからね。
でも、クラージュの報告が正しければ、こっちはダミーだ」
特に地表での戦いに挑む人間達に課せられた重責もまた、精霊神達の想像を遥かに超えている。
「危うく勘違いするところだったな。真理香先生が送ってくれた最終戦闘の映像からして俺達はあの軟体生物がコスモプランダーの本体だと思ってた」
「奴らに取り込まれることのないように、子ども達に注意を徹底しておかないとね」
「その星の人材を取り込み、手足とし、有効なものはコピーして活用する。
必要ないと判断したものは、溶かして喰らってエネルギー。
機構としては確かに優秀だ。
そこに他の文化へのリスペクトや敬意もありはしないが」
「んな敬意を持つような殊勝な性格であれば、最初っから星を侵略なんかしてこねえつーの」
「まあ、その通りだね。と、データが揃ったよ。王の杖が戻って来て助かった。AIは抜かれてたけど容量が増えてやりやすくなったから」
「キュリオ。どうだった?」
「やっぱり、思った通り。
最初に墜とされた隕石と第二弾として送り込まれた隕石は、質が違う」
七柱の『精霊神』達は現在、意識と知識を完全に同期している。
こうして軽い独り言も共有されてしまうが、計算処理能力も乗算的に増大し、単独の時よりも数十倍のスピードと力で対処が可能だった。
「隕石そのものに精密で、地上では再現不可能な機械反応がある。
そして生体反応も。おそらくは、こっちが本体だ」
故に、その一言で全てを共有、理解する。
「やはり、か。
環境が整わないうちに落下させるとは奴らも相当に追い詰められてきたか、それともなりふり構っていられなくなった、か……」
「有効な対処方法は?」
「燃焼と破壊、凍結。機械だからね。
凍結によって、機能は著しく低下する模様。
と、まだ環境が整い切ってないから、手足を失うと自分では多分、何もできなくなる。彼ら的には空気とかも作り替えないと、思う通りには動けないんだね。きっと」
「宇宙空間で生存できないのではなく、地上では生存できないという事か」
「空気に彼らのナノマシンウイルスを混ぜられて、奴らの生存域を造られるとやっかいだったけれど、それは大丈夫。
でもエネルギーを補給されたり、溶けたりすると再生の可能性がある。
本気で殺るなら、破壊後焼却。一択かな」
「防御機構は?」
「軟体生物による現地生物の取り込み及び攻撃。
現在はデフォルトで対人間兵器として海斗先生のコピーが展開されているようだね」
「地球の銃とか、核とかが取り込まれている可能性は?」
「多分ない。そういうのはほぼ、あいつらには効果が無いから。
自分達がやっかいだと感じた二人の能力を、取り込んだんだ」
「二人?」
「真理香先生の防御壁の劣化版が、それぞれの本体に搭載されている可能性がある。でも、今までのデータからして、精霊術を使えば大丈夫。無効化できると思う。
先生が、きっとそうしてくれているから」
刹那、空間が不思議な温かみを帯びた。
疑似クラウド空間に温度はなく、今の彼らにはそれを感じる感覚も無い。
でも、確かにそう感じた。
彼女の意思は生きている。
それで、十分だった。
「解った。子ども達に連絡は?」
「既にしてある。
一切近づくことなく、取り込まれないように注意しろ。
そして必ず、破壊消去、焼却処分。一片も残さないようにってね」
「それでいい。魔術師や神官達には、術の行使の際、火の精霊神の名において命じろ、と伝えてくれ。
火力を上乗せしてやる」
「俺のもな。空気と風総出で後押ししてやる」
「解った」
「ああ……。
誰に告げるべきか解らぬが、感謝しよう。
この手で、奴らに復讐できる機会を与えてくれたことを。
この星にはもう、奴らの力は必要ない。
一切の交渉余地を残さず、ここで完全に滅ぼしてくれる」
楽しげな火の精霊神の思考もまた彼らは共有する。
無論、恨み重なるコスモプランダー、叶うのであれば、この手で全てを欠片も無く粉砕し燃やし尽くしてやりたいという思いは共有するまでもないこと。
精霊神達全員の悲願でもある。
彼ら自身には、それを為す腕は無いので、今となっては子ども達に託すしかないが。
「……一応確認するけれど、完全破壊で構わないんだね?」
「何を今更言ってるんだ? ナハト。今更許してやれ、とでも?」
「ううん。ただ、彼らにも魂とか精神ってあるのかな? って。
今の所は滅ぼした存在から、そういうものは出てきてないけれど、今後彼らの怨念とかが出てきたらどうしようかな? って思っただけだよ」
「その時は疑似クラウドの閉鎖空間に閉じ込めるか、お前がカサルティオルで焼き去ってやればいい。できるだろう?」
「うん、多分できる」
死と夜。人の魂と精神を司る精霊神は、言葉とは裏腹にはっきりと頷いて見せる。
例え人と違う生命理論で生まれた存在であろうとも。意志や思考があるのなら、それは彼の支配下だ。
「マリカは、もしかしたらコスモプランダーにも慈悲を、とか思うのかな?」
「マリカは思うかもしれんが『彼女』は割り切っているだろう」
彼らは『神』レルギディオスが送信してきたさっきの『彼女』の言葉、啖呵めいた怒りを思い出す。
「理解し、共存すること。
他者を認め、力を合わせて生きる道を選べる可能性も無くはなかった。
だが、その方法を選ばなかったのは、他ならぬ奴らなのだから」
「先にこちらをめった刺しにしておいて、反撃を受けたら『そんなつもりではなかった。酷すぎる』なんて言い訳は通じないよ。
罪には報いがあってしかるべき。許す権利をもつのはやられたほうだけって、マリカも先生も言ってたよな」
例え、どんなに事情があろうとも罪は罪。
自分達が為したことが罪だと知ることも無く、育てられたというのだとしたら、それ自体が罪で在ると言える。
親の、保育士の、そして子ども自身の無知の罪。
哀れではあるけれど、ここで許せば再び悲劇が繰り返さないとも限らない。
「滅んだ地球の七十億人と、その数千倍の命はもう許すことさえできないのだ。
負の連鎖はここで完全に断ち切り、子ども達が幸せに生きられる世界を作る。
その為に、彼らが戻るまで、アースガイアを守るのが我らの使命だ」
「ねえ……もしかして……」
「言うな。
だが、もし、そうなっていたら、その時は、コスモプランダー、ただでは滅せぬ。
我が全てを賭けて、引導を下してくれるわ」
止める声も、諾の返答もない。
必要ない。
怨敵を前に、彼らの思いは既に、完全に一つとなっていたから。




