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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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アースガイア 地上での戦い 2 片桐海斗の悔恨 前編

「我々を。どこまで馬鹿にすれば、気が済むんでしょうね……」


 大聖都ルペア・カディナ城下。

 隕石落下の報を受け、護衛騎士団がその場所に駆け付けたのは、落下後、本当にすぐのことだった。

 ルペア・カディナは大陸全体の中でもそこまで大きな国ではない。言ってみれば半径二レグランテ(≒km)ほどの大神殿を取り巻くように、神殿を支える商業エリアや栽培エリアが追加されたような形だからだ。ヒナギクの花びらのような形をした七国の中央たる花芯、と表現したのは確か、マリカ皇女だった。

 何が言いたいのかと言えば、狭いエリアなので異変があった時直行が可能であり、その事態に一番早く気付いたということ。


「クラージュ様、あれは……」


 大神殿と、市民の住む大聖都の境目に隕石が落下したと聞き、クラージュをはじめとする騎士達が、現場に急行した。

 いくつかの家を押しつぶし、今なおまだ、薄い煙を上げていた隕石。

 前回、この隕石から出た怪物が人を襲い、腕を喰らった前例がある。

 その為、騎士や見張りの兵士達も、積極的に近づいてはいなかったのだが、クラージュとカマラが接近すると同時、


「え?」「な、なんだ?」


 隕石が、さらなる煙を放つと同時、石の隙間から、まるで染み出るように何かが。

 いや、魔性とも怪物ともつかない、あえて言うなら怪しい異物。

 怪異が姿を現したのだ。怪異は当然、コスモプランダーの先兵で。

 人間、特に精霊力の強い存在、もしくは地球の人間が近くにいると活性化し、その命を狙うと言われている。

 場合によっては人間を取り込み喰らおうとする可能性があるので、対処の準備ができるまでは極力近寄らないようにすること。

 活性化した場合には、魔術師による、氷結、燃焼などが効果的だと各国は既に共有していた。

 けれど、


「まさか、こんなものが出て来るとは」


 銀白色に禍々しく艶めくそれを見た瞬間、クラージュは、ぎりりと、無意識に奥歯を噛みしめていた。砕ける程に。

 第一次の襲撃の時、地球移民の青年を取り込み喰らおうとした怪異は、アメーバのような不定形をしていたという。

 彼らの前に出現したそれもまた、最初は不定形。

 石の中から溶けるように形を持たぬ液体として出てきた。

 けれど、人の気配を察すると同時、複数個体に分裂。

 何にも触れておらず、何も取り込んでいないのに、明確に形を変え始めたのだ。

 やがて特定の形態へと姿を変え、そのまま固定した。

 つるんとした外見の割に筋肉質の、戦士のような姿。

 手も指も、しっかりと人間と同じ形で、顔立ちも完全に人間そのもの。

 人間の男を裸にしてあそこを取り水銀をかけたような不気味な外見をしている。


「危ない! 皆さん! 下がって!」


 クラージュが、自分と同じように驚愕に立ち尽くす騎士達に声を放ち、彼らが反応するより早く、ソレは踏み込んだ。


 ザシュッ、と。

 剣が肉を切る鈍い音がした。


「ぐあああっ!」

「くっ!」


 気が付けば、驚くべきスピードで呆然とする騎士の懐に飛び込む怪異。

 鉄錆の匂いのする真紅の液体が飛び散り、二人の騎士が腕を落とされ、腹を切り裂かれていた。

 被害が二人で止まったのは、三人目を狙う固体の前に、クラージュが飛び出しその身を庇ったから。

 ガキン! と鋼と鋼のぶつかり合う音がする。

 クラージュは刀を引き抜き、迎え撃った。

 相手は、元『流体』の怪異。

 鋼など持ち合わせていよう筈も無い。

 けれど、クラージュと怪異は剣戟を交わしている。

 何故、どうやって? と問えば簡単な話だ。

 怪異は、人で言うなら、剣を持つ右腕を硬質化。刃のような形に変えて、人間の身体を切断したのだ。

 数合の打ち合いの中、みるみるクラージュの顔が歪んでいくのが見ている者達にも解った。


「随分と、バカにしてくれる!」

「クラージュ様!」

「カマラ!」


 まるで、水が流れ器に入るような滑らかな動きでクラージュの横についたカマラは、クラージュの背後を守るように背中合わせで立つ。

 二人の騎士を屠った二体の怪異は、仲間――と呼べるのかは分からないが――苦戦している個体を援護するように次の標的をクラージュに定めて襲い掛かろうとしていたので、そのカバーに入ったような形になる。


「こちらで敵を引き付けていますので、怪我をした二人を下がらせて下さい。

 後は隕石から注意を逸らさないで。三体目、四体目が出て来ないとも限りません」

「は、はい!」


 指示を出しながらもカマラはクラージュの背から付かず離れず、二体の怪異の攻撃を踊るように受け流している。

 二対一なのに、まるで相手の動きが解っているかのようにカマラは的確に敵の攻撃を捌く。

 流石に攻めにはいけないが、今はクラージュの方に怪異を向かわせないことが第一だから、それが正解だろう。

 カマラと背中合わせのダンスを踊りながら、クラージュは慎重に敵と刃を打ち合わせている。そして数合の競り合いの後。


「そこ、ですね!」


 人体を模した身体の正中。

 心臓に近い所に真っすぐ、その刃を突き入れた。

 文字通り、そこが怪異を形作る心臓部であったのだろう。

 砂時計の砂が落ちるような音とともに、怪異は崩れ落ち動けなくなる。


「カマラ!」

「はい!」


 一体を落とした後、すぐさまクラージュは二体の怪異と打ちあっていたカマラから、一体を引き継いだ。

 再び軽く打ち合い、あしらい、何かを確かめるように動きを確認して後、二体目も砂へと変えるクラージュ。カマラは、三体目を預け、彼の動きがスムーズになるように、背後から後押しする。

 助けに入りたいと思いながらも、あまりにも息の合った二人の戦いに踏み込むことができず、狼狽える騎士達の前で、また、隕石から怪異が染み出て来る。

 今度はさっきよりもやや小ぶり。でもその分、数が多い。


「クラージュ様!」

「また出たぞ! さっきと同じ形態だ!」

「落ち着いて! 剣の腕は大したことはありません」


 最初の三体を二人で捌ききったクラージュは、騎士達に対処法を伝えつつ、カマラと共にまた数体を相手取る。


「貴方達なら二対一で冷静に向き合えば倒せる筈です。

 弱点は心臓に近い位置にある微かに固い場所。

 そこにおそらく形態を維持するための中枢があるのです。焦らず、的確に仕留めなさい!」

「はい!」


 人の大きさと大して変わらない隕石から、その後二十数体の怪異が出現し、騎士達を苦しめたが、対策さえ解ってしまえば命を失うような相手ではない。

 こちらにはそれなりの人数もいる。最初の二人以外は重傷者も出ることなく、なんとか殲滅することに成功した。

 灰のような残滓の銀粉は、セリーナを始めとする魔術師と神官が、火で完全焼却した。隕石はクラージュが剣で粉砕してから、同じように焼却処分。

 細身の剣を痛めることなく一グランテはある巨大な石を粉々に砕いたクラージュの技に周囲の騎士達から感嘆の声が上がる。


「なんとか、片付きましたね。クラージュ様」


 安堵の声で微笑んだカマラの横をすり抜け、クラージュは動かぬ顔のまま騎士達に指示を放つ。


「私は、これから通信鏡で各国に隕石からの怪異の報告をしてきます。

 各国に落下した隕石から、同様の怪異が出現したとしたら、大きな被害が出る可能性がありますから」


 騎士達からの反論は勿論無い。

 例え本格的な魔性との戦闘に疲労していようとも、今は災害対策の真っ最中なのだ。


「さっきの隕石雨で大聖都にも複数の隕石が落下している筈です。

 手分けして所在と状況の確認にあたり、女神官長に報告。

 一般市民を速やかに避難させて下さい。

 隕石を発見したら決して近寄らず、手出しもしないこと。万が一、さっきと同等の怪異が出現したら二人一組で対処し、正中を狙う事。神官や魔術師は隕石に接近禁止。

 いいですね?」

「はい!」


 現在、大聖都は長である大神官、神官長、騎士団長、全てが不在であり、クラージュに全権が委ねられている。神殿全体の指揮調整は女神官長マイアが受け持っているが。

 大神官の信頼厚い、腕利きの騎士の戦闘指示に当然逆らう者はいない。


「では、頼みます。カマラ、一緒に来て手伝いを」

「解りました」


 神殿に戻ったクラージュは付き添いの者達を断り、カマラと二人通信鏡の間に入ると鍵をかけた。


「どうしたのですか? クラージュ様」

「ふざけるな……」

「え?」

「呪われろ。コスモプランダー!

 どこまで俺達を愚弄すれば気が済む!」


 カマラは初めて見る夫の姿に呆然とする。


 怒りを叩きつけるように怒声を上げ、感情を露わにする彼。

 人型精霊『クラージュ』の知られざる、もう一つの姿だったのだから。


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