アースガイア 戦闘開始宣言
太陽系第三惑星、地球、最後の遺産である戦闘駆逐艦ノア。
私が思うような発射打ち上げ台や、設備なども必要とせず、まるで滑るように空高く舞い上がった艦は黄金色の光と共に、容易に星の海へと到達した。
周囲の全面モニターに映し出される光景は、まるでプラネタリウムのようで実感はない。ただ、足元に暗蒼色の星、私達のアースガイアが見える。
今は人工太陽が無いので、真っ暗だけれども、大陸と思しき場所に星のような輝きが無数に見える。アレはきっと人が灯す命の灯り。
私達の足元、背後には地球とアースガイアがある。
全人類の命と希望がかかっている。
負けることなど許されないのだ。と決意を新たにした。
ゆっくりと、あえてスピードを出さず、敵が待つ星域に進んでいく。
こちらはたった一隻。侮っているのか、それとも何か別の意図があるのか。
今の所は、まだ攻撃してくる様子はない。
目の前に現れた、敵集団を私は改めて視認した。
「敵影捕捉。観測よりもかなりの数が連なる集団ですね」
「「総数は……二百。大小の差がかなりあり、小集団が集まって、大集団を形成しているようです。
所々に在る大型のものが小型のものを指揮していると思われます。」
見かけはほぼ岩に見える褐色の塊。
いかにも星の大海を行く船という感じの優美なノアとはまるで違う、私達の感覚からすると無骨な隕石群。それが私達が出会った宇宙からの侵略、いや、略奪者。
コスモプランダーとの本当の意味でのファーストインプレッションだった。
「ということは、中央の少し後ろに在る、あの一番大きな岩が一団を統べる旗艦、指揮者ということでしょうか?」
「その可能性は高いと思います」
『……やっと、やっとここまでたどり着いたぞ』
「レルギディオス……様?」
波立つような、感情が伝わってくる。
純粋な喜び、歓喜と言っていい。
『ああ、この数百年、幾度となくこの日、この時が来るのを夢見ていた。
一度は諦めたが、まさか、お前達の方から来てくれるとはな』
サブコンピューターとしてレルギディオス様と、直接繋がっている私でないと解らないかもしれないけれど、どこか狂気を孕んだその『声』は怨敵に出会った高揚に満ちている。
もし、今、彼に人間だった頃の力と身体があれば、間違いなく後先考えず突撃していっただろう。そう確信できる気配、だった。
「皆さん、敵の反応を見逃さないで下さい。いつ、どんな風に仕掛けてくるか、解りません」
「了解!」
緊張の奔るブリッジに、その『声』が響いたのは正にその時だった。
『何故、貴様らはここにいる?』
「え?」
『愚かな逃亡者にして、我らが贄よ。
伏して、我らに拝せよ。それが、貴様らの似合いの姿だ』
思った以上に流暢な言葉、違う。意志が、脳の中に入り込んで来る。
アースガイアの言葉をしゃべっているのでは勿論無い。
ただ、同じ共通項を持つ者同士として意思の疎通は可能なようだ。
考えてみれば、最初の時も、地球での記録を見た時も同じだったかも。
地表に降りて来たコスモプランダー本体は、取り込んだ地球人宇宙飛行士から得たらしい片言でつたなくしゃべっていたけれど、最初に伝わって来た『意志』は綺麗で淀みなく私達に要求を突き付けてきていたっけ。
フッ、と意識の片隅で何かが腑に落ちる。
解ってないけど解ったというか、私ではない私が知っているというか……。
『ここは、星の海。
選ばれ、進化した種だけが立つことを許される領域。
本来、自分達の星の上を這いずり回り、ようやく庭を歩き始めたような赤子が立ち、我々と並び立てる場ではない。なのに、なぜ貴様らのような存在がここにいる?』
「進化し、宙に飛び立てる程に成長した種は、自分達だけと思ったのか?
自らではもはや何も生み出そうとしない。生み出せない『略奪者』風情が偉そうに」
「マリカ?」「マリカ様?」
口が、勝手に言葉を紡ぐ。私の意識は完全に私のものとしてあるのだけれど、知らない筈の知識を元にしゃべっているというか。
明らかな喧嘩腰。
でも、今は止められないし、止めない。
『やはり、そこにいたのか? 自らの星を捨て去り逃げ出した負け犬が』
「ああ。『私』は負け犬だとも。だが、私の子ども達は負け犬ではない」
胸を張って敵を睨みつける。
勿論、目視で見える筈もない相手だけれども、負けてたまるかという思いを込めて。
「自らの故郷を最後まで守り通した者達も、長い苦難の航海に耐え、この地に希望を繋いだ子ども達も『私』が愛し、育てて来た誇れる存在だ。だからこそ、今『私』の手助けなど殆どなしに『宇宙』に辿り着き、立っている」
『手助けなし、だと?』
「私は、子ども達の自主性を重んじた。彼らは皆、好奇心旺盛で優秀で、場と環境さえ整えてやれば、自ら学び、ありとあらゆることに興味を示し、ぐんぐんと育っていった。
ならば後は余計な導きなど必要ないだろうと、私は眠りについた。
まあ、そうであっても目を離すべきではなかったのだと、今はこの上もなく悔いているが。預かり託された星を奪われ、子ども達を危機に追いやった責任、困難と地獄への道に導いてしまった罪の代価は払い、償う。いずれ必ず」
胸に溢れんばかりに広がる悔恨の思い。けれど、それに今、囚われている場合ではないと『解って』いる。
だから、滑る口は、意思は、止まらない。止められない。
「だが、それは貴様らを滅ぼしてからだ。
悪いが、前にも言った通り、一切の躊躇はしない。貴様も、貴様の子ども達も、今度こそ我が子らと共に全力をもって叩き潰す」
『叩き潰されるのはどっちだ? 自らの与えられた星を捨て去り、逃げ出した臆病者が。
素直に我らの元に下るなら、今、最高種に限りなく近い我らの贄として、道具として……』
「だから、言っただろう? 貴様らは最高種などではない。自らの力で運命を切り開こうともしない、できない、哀れな寄生虫。『略奪者』に過ぎないと」
『黙れ! 逆らうな! 貴様らの星がどうなってもいいというのか?』
「近辺を漂っていた隕石群が、動き出して……アースガイアに向けて、墜ちていきます!」
きっと、私達が来る前にあの巨大隕石のように用意してあったのだろう。
私達の周囲と背後に漂っていた隕石達が意思を持つようにスタートアップする。
ノアを無視して、地上に向かっていく。その数は数百。
『貴様らの返答いかんではお前達が地上に残してきた子ども達が滅びるぞ』
アースガイアの大地を穴だらけにして余りある数だ。
でも
「やれるものなら、やってみればいい」
『何!』
『私』は言ってのける。
「星の子ども達は私に、私達に言った。星を盾にとったどんな脅しにも屈するな。
必ずや地上は守って見せる。と。
貴様らのウイルスは『私』と子ども達がいる以上、無意味だ。
他に『武器』はあるのか? 私達を滅ぼせるお前達の武器が?」
『何!』
「無いのであれば、星にそれを墜とした瞬間が、お前達の滅びの始まり。
全身全霊をもって『私』と子ども達がお前達を殲滅する」
『黙れ!』
『私』の言葉を無視したのか、それとも振り上げた拳を下げられなかったのか。
無人隕石群は一気に動き出し、大気圏への突入を始める。
と、同時に、目の前の隕石、いや艦隊が私達に迫ってくる。
200の敵の集中攻撃。
こちらの戦力は一隻と、一機と一人。
でも。アースガイアの一千万の民と、精霊神様、ステラ様も付いている。
『貴様を消せば、民を守っている守護も消え失せる。
その後、またじっくりと貴様らの子ども達を、一人残さず全ての文化ごと喰らってやろう。貴様らの絶望と悲鳴は、さぞかし美味だろう。数百年ぶりの馳走を子ども達も喜ぶはずだ』
まるで、水をかけたようにスッと意識が冷えて『私』は私に戻る。
大丈夫。怖くない。
予想していたような絶対的強者の印象は目の前のコスモプランダーにはもう感じない。
負けない。いや、勝てる。
っていうか、勝つ。全力で潰す。私達は餌なんかじゃない。
「お父様……リオン。用意はいいですか?」
「ああ」「心配いらない。いつでも行ける」
内部通信に切り替え、それでもそっと声をかける。
リオンの存在に気付かれない事。それがこの作戦の要だ。
「お父様。星の翼でできる限り、地上に向かう隕石の粉砕を。できるかぎりでいいです。後は地上の皆さんに任せましょう」
「解った」
「後は、作戦通り。大丈夫です。勝てます。レルギディオス様」
私は、はっきりと言い切って顔を上げた。
『ああ、解っている。
戦闘駆逐艦ノア! 作戦開始! コスモプランダーを殲滅させる!』
「了解!」
長き恩讐を抱えた『神』の言葉が星の海に、重く強く響いた。
◇◇◇
戦闘駆逐艦ノア。
格納庫。戦いに赴く二人の戦士がそこに在る。
「いよいよ、だな」
「ああ。お前とこうして、肩を並べ、何かを守る為に全力で戦えるのもきっとこれが最後だ」
「コスモプランダーを倒せば、もうアースガイアを脅かす敵はいなくなるからな」
「……そう、だな」
「しかし、お前も随分と重そうな鎧を身に着けるんだな? 地上での訓練よりもさらに重装備になってないか?」
「マリカにも言われたが、宇宙での戦闘の為の装備だから仕方ない。
黒いのは宇宙空間で少しでも目立たなくする為。光学迷彩的なものも入っている。
醜く、機能優先。物々しく冷たい鋼の身体。
こんな姿で、光の下、地上を歩いたら魔王と呼ばれるのも、無理は無いだろう」
「ああ、だが似合っている」
「ライオ?」
「自分を卑下するな。俺は、お前のその姿を美しいと思うし、憧れもする」
「俺が、この姿が美しい、と?」
「いつか、自分が目指すべき戦士の完成形。
その姿を哂ったり、恐れたりする者がいるなら言わせておけ。
誰が貶そうと、俺は誇る。これが俺の親友にして息子。星を守る獣。アルフィリーガだとな」
「……ありがとう」
格納庫に声が響く。
「お父様……リオン。用意はいいですか?」
「ああ」「心配いらない。いつでも行ける」
「お父様。星の翼でできる限り、地上に向かう隕石の粉砕を。できるかぎりでいいです。後は地上の皆さんに任せましょう」
「解った」
武装を整えた親友同士は一度だけ、
「ライオ」
「アルフィリーガ、いや。リオン!」
互いの名を呼び、上げた手を高く重ね合わせた。
それで充分。それで伝わる。
二人は、互いに合図も音も無く。宙に飛び立っていった。




