アースガイア 晴天のち星空、所により隕石雨
コスモプランダーの先制攻撃。
巨大隕石からの攻撃をしのぎ切った私は
「レルギディオス様。もう繋がっていませんよね?
大丈夫ですよね?」
小声で水晶の中から『神の翼』ノアの『操縦者』に向けて囁く。
『ああ。事が済めば余計なリソースを回す余裕はない。全て切ってある。
ここから先は地上からは『星』が中継して贈ってくる『気力』を徴収するだけだ』
その返事を確認してホッと息を吐き落とす。
「見事な口上でしたよ。予想以上です」
「流石『精霊女神』。
あんなに柔らかく敬愛する上位者に呼びかけられれば、民はひとたまりもありませんね」
「流石大神官の説法。人心掌握術の極意を見せて頂きました」
「止めて下さい。本当に緊張したんですから」
ブリッジに座る王子様達が笑ってる。くすくすだったり、含み笑いだったり、色々だけれども皆さん、実に楽しそうだ。
人の気も知らないで。
元々、私はお飾りの大神官なのだ。人前で説法なんかしたこと殆どないし、滅多な事でもない限り今世では大勢の人前で話もしてない。
そんなド素人が、まったく見知らぬ人たちに星の命運をかけた募金要請なんて無茶ぶりが過ぎる。
どんな風に地上の人達に繋がったかは解らないけれど、自分の言葉や姿が中継されているとか羞恥プレイだ。今でも、あれで良かったのかと思い返すだけで冷汗が零れる。
出発当日の朝。
「我らが敬愛する宵闇の星。誉れ高き大神官にして『精霊女神』マリカ様に七国王家を代表してお願いを申し上げます」
私は、各国の王子様達に膝を付かれた。
出陣の挨拶くらいはするつもりだったけれど、お願い?
お父様も、リオンも怪訝そうに首を傾げるところを見ると聞いていなかったらしい。
何をさせるつもりなのだろうと思っていたところ、ヴェートリッヒ様がにやりと軽く口角を上げた。
「『神の翼』で、各国の上空を飛翔して『救世主の雄姿』を見せて頂きたい、と。そして叶うなら、マリカ様のお声で民衆にお言葉を賜れれば幸いです?」
「は? なんで、ですか?」
我ながら変な声が出たと思うけれど、話を聞いてみれば
「マリカ様のお言葉が、一番民にとって効果が高いと思われるからです。
情けない話ですがコスモプランダーの襲撃から二週間あまり。民衆達はコスモプランダーの恐怖を忘れつつあります。マリカ様が貼られた防御壁と王都への避難命令と保護もそれに輪をかけ『何も起こらないじゃないか?』『もう脅威は去ったのではないか?』と。
王都の外側では魔性の変異、狂暴化によって騎士達が駆けずり回って対処に当たっているのですが、王都に保護されたことでそのような姿を目撃することも無くなった。
良し悪しですね」
「あー、そういうことですか」
解る気はする。
喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉は向こうにもこちらにもあるけれど、人が自分には関係ないと思う事に対しての意識を長く持ち続けていることは困難だ。
当たり前にあること、インフラなどに対して感謝できない人も多いし、そういう人に限って失われた時に怒ってクレームを付けたりする。
まして、これから皆さんからは力を分けて貰わなければならないわけだし。
『神』は勝手に力を徴収するつもりだったらしいけれど、本人達がその意思を持って捧げてくれれば多分、効率も上がるのではないだろうか?
「ちなみに『神』には内々お伝えし、承諾を得ております」
「え? いつの間に? それによく許可を出しましたしね」
『私とステラが中継せねば、星の全民には声が届かぬだろう? マイクや拡声器、テレビなどがあるわけで無し』
「それもそうですね」
『それによって収集効率が上がるなら、まあ必要経費だ』
私達の強みはアースガイアという無限に近いエネルギータンクがあること。
この星の全ての人間は体内にステラ様の『ナノマシンウイルス』が入っている。
だから、ステラ様が本気になれば全ての人間の動向把握も、もっと言えば生殺与奪も可能。圧力をかければ命令を聞かせることも容易く、本当に本当に最後の手段としては生命力を限界まで奪い取ることも可能なのだとか。
「そんなことをすれば、コスモプランダーと同じになってしまうからしないけどね」
とは『星』の談。
「解りました。私の言葉で、どこまで効果があるか解りませんが」
「大丈夫ですよ。マリカ様の影響力であれば」
「よろしくお願いします」
既に『神』も含めた各国への根回しを済ませた上での当日の朝の要請。
ここで、ごねたり嫌だと我が儘を言って逆らえるはずがない。
全て計算の上であったろうヴェートリッヒ皇子に私は完全敗北の気分で頷いた。
負けるなら今の内がいい。
ちなみに各国王家とは出撃当日も特に見送りなどはしないで欲しいと申し合わせてある。
そういう事情もあっては、国を纏めるのも大変だろうし。
『無事に戻ったら、全世界上げて祝いの宴を行うからな。
ついでに其方らの成人式と、結婚式もだ。覚悟しておけよ』
アルケディウスからは皇王陛下がそう激励の通信鏡をかけてくれたし
『無事に帰って来てね。信じているし、待ってるから』
『帰ってきたら噂の人型ロボットを見せて。楽しみにしてる』
『お帰りをお待ちしております。大聖都、アルケディウス王都を始めとする人々の『食』はお任せあれ』
エリセやラールさん、ガルフ達も励ましてくれた。
お母様も双子ちゃんを連れて、見送りに来て下さったのはちょっと驚いたけれど。
私とお父様、あとリオンの為に『神』も『星』も特別に許可して下さったらしい。
「いってらっしゃい。マリカ。あの人を、お願いね」
「はい。絶対に、皆で戻って参ります」
「約束だからね。約束だよ!」
「赤ちゃんと一緒に、無事に帰って来てね。絶対ね!」
お父様はお母様と、フォル君、レヴィーナちゃんを一人ずつ、ぎゅっと抱きしめていた。
何も言葉で伝えることは無くお母様も何かを求めることはしなかった。
騎士、いや戦士の妻というのはそういうものなのかもしれないけれど。
「お帰りを、心からお待ちしております」
「おとうさま! マリカねえさまをちゃんとまもってね!」
「リオンにいさまも、だからな!」
「ああ、任せておけ」
双子ちゃんの励ましと確認に、並ぶお父様とリオンは兄弟のように同じ笑みと頷きで返していた。
後は見送りに来て下さったのは、クラージュさんだけ。
「精霊国の騎士隊長として、ご同行できないのは慙愧の念に堪えませんが、その代わり大聖都の守護はお任せ下さい。万が一汚いコスモプランダーの残滓が降りてこようとも、決して近づかせはしませんから」
「頼みます。この城はエルフィリーネが防御壁を張っているし、私もかけていきますから大丈夫だと思いますから。人々を守って下さい」
「私達も、皆様がお戻りになるまで、クラージュ様と共にお待ちしております」
最後まで城に残って私の面倒を見てくれたカマラとセリーナも、クラージュさんと一緒に大聖都の警護についてくれるという。
心強い。
「では、行きましょうか?」
私は王子様達と、フェイとアル。そしてお父様とリオンに告げる。
なるべく明るく。いつもと変わらぬ笑顔で。
「緊張することはありません。目の前の事象にただ、全力を尽くす。
私達にできるのはそれだけですから」
「はい」
そうして、ノアを発進させてから、要望通り大陸を巡った。
大聖都の上空で待機した。
発進し、大気圏外へ脱出するためエネルギーを蓄える、その僅かな時間に――私は呼びかけたのだ。
問題に対する当事者意識が足りない人々に、
私達は皆、同胞なのだ。共に問題を解決していこう、と。
上手く言葉を選べば、やる気になってくれるだろうし、今後目覚める10万の地球人達も同胞として受け入れられると思う。
防御壁解除の瞬間に巨大隕石が落ちてきたのは、勿論偶然。でも予測はされていたし、対応もできていた。壊せる範囲なら、リオンが破壊。あまり大きなものだった場合はノアの主砲で応対する。って。
「問題ない。あれくらいなら壊せる。想定内だ」
「まあ、待て。ここれは俺に任せてくれないか」
「ライオ」
「お前の存在は、ギリギリまで隠しておいた方がいい。敵の矢面には俺が立つ。
その方が奇襲の効果が高いからな。それに……」
リオンが出て行こうとした時、止めたのはお父様だった。
少し照れくさそうに、でも自信と決意に満ちた眼差しで私達に告げる。
「宙での戦いは誰も見ることは無く、語る者も無い。
今まで作られた名声を着せられた情けない男の、父の。少しはいいところを妻と子に見せることを許してくれないか?」
父親であり皇子らしくはっきりと表には出さなかったけれど、お父様は勿論、お母様と双子ちゃんを愛している。カッコいい所を見せたいのも解る。
「解りました。お願いします」
「任せておけ。地上への被害は最小限にできるようにする」
そうしてお父様は見事に。完膚なきまでに隕石を粉砕して下さった。
地上から集めた力をかなり回しはした。でもそれだけの力を十二分に発揮できたはずだ。
所により少し石の雨は降ったかもしれないけれど。
もしかしたら、敵性ウイルスがばら撒かれたことで、魔性が活性化するかもしれないけれど。
結果的に見れば、最高のデモンストレーションになったことだろう。
私達と『星』の力を、人々と、コスモプランダーに見せつけるのに十分なくらいには。
「試し切りには丁度良かったな。それに力もなんだか上がってる気がする」
戻ってきたお父様が嬉しそうに手ごたえを報告する。
『人々から届けられる『気力』が想定を上回っているな。お前の演説の成果かもしれん』
「ならいいんですけど」
防御壁を外した時、どうやら人工太陽の機能の一部も奪ってしまったらしく空の蒼光は消え失せた。
代わりに何処までも続く星空が前よりもくっきり、はっきりと目に映る。
『人工太陽は壊れたわけではないな。私が以前やったように一時的に消灯しただけだ。
落ち着けば直せる』
「良かったです。今はそちらに時間も力も割いている暇はないですからね」
『ああ』
浮遊惑星で、元より星座などはないアースガイアだけれども今は、その中央に赤黒い、まるで滴り落ちた血液のように輝く一団がある。
あれが、コスモプランダー達の船なのだろう。
喉と心臓の鼓動が頭にまで響いて痛い。
でも、私はどちらも振り払って前を向く。
今は、とにかくミッションに集中。
「なんとか、ここまでたどり着くことができました。
行きましょう。星の未来を救いに!」
「はい!」
移民船、いや戦闘駆逐艦ノアは飛ぶ。
紫紺に染まった空を、再び希望の蒼に戻す為に。
人々と私達の願いを乗せて。




