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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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皇国 精霊の出産

「ソレルティアが、ソレルティアがどうかしたんですか?」

「あ、フェイ様!」


 息を切らせるカマラに掴みかからんばかりのフェイ。

 なんとか引きはがして、私はカマラに事情を聴いてみる。


「ちょっと待って。落ち着いて。フェイ!

 カマラ。何があったの?」

「ソレルティア様が、産気づいたそうなのです。

 王宮で皇王妃様を始めとする女性達が万全の用意をしていたのですが、どうやらいつもと様子が違うようだと。マリカ様のお知恵と力をお借りしたい。ということでした」

「通信鏡、まだ繋がってる? 相手は皇王妃様?」

「いえ、ティラトリーツェ様です。まだ向こうが切られていなければ繋がっていると思います」

「貸して!」


 通信鏡を受け取ると、私は


「お母様? 何があったのですか?」

『ああ。マリカ! 繋がって良かったわ。知恵を貸してちょうだい!

 出産が始まったと同時、ソレルティアの体力というか、気力が目に見えて落ちていくのよ。まるでため池から水が流れ出て行くように!』

「お産の痛みで意識を失っている、とかではなく?」

『違うと思うわ。本人は目を開けようとしているのよ。でも、お腹の赤ちゃんに吸い取られて行くような感じなのですって』

「赤ちゃんに?」

『私達では精霊の力がどうこうというのは解りません。

 このままだと、赤子は無事に生まれてもソレルティアが危険になる可能性があるわ。

 難しいのは解っているけれど、なんとかこちらに来て貰えないかしら?』


 私は通信鏡から顔を上げて考える。私は産婆でも看護婦でもないから、出産にはそんなに詳しくはない。でも、話を聞くに妊娠中毒症とか病気とかではなさそう。

 異世界ならではの事例なのだろうか?


「マリカ!」

「わっ! ステラ様?」


 突然、私の肩にぴょぴょん、と飛び乗ってくる白子猫。『星』ステラ様の精霊獣だ。


「どうかなさったのですか? もしかして今の話、聞いてました?」

『ごめんなさい。聞いていたわ。そして注意するのを忘れていたことに気付いたの。

 マリカ! 今すぐ行って、フェイの妻の出産を助けなさい。でないと母体が本当に危険よ!』

「え?」

『生まれついて精霊の力が強い子や精霊は、母親のお腹から外に出てくる時。

 人としてこの世に生まれてくる時に大量の精霊の力を必要とするの』

「どういうことです?」

『理屈や仕組みはよく解らないわ。ただ『精霊神』様が人間の女に子どもを産ませた時に似た事例が何度かあったのですって。

 疑似変生のようなことが起きているのかもしれない、と言っておられたけれど、素のままの人間では耐えられなくて、死なせてしまったり、母体を作り替えたりしたという話を伺ったわ』


 そういえば、ずーっと昔、お父さんがそんなことを話していた気がする。妻の身体を、変生に近い形で作り替えたって。


『フェイはシュルーストラムによって、疑似精霊とも呼べる魔術師に作り替えられている。

『精霊神』様ほどではないとしても、かなり高い力をもっているわ。結婚式で見たけれど妻も魔術師で力が高いのでしょう? 可能性はあるわよ』

「僕の……せいで?」

「フェイのせいじゃないよ!

 じゃあ、私達はどうなんですか? 精霊国時代で魔術師同士の結婚とか無かったんですか?」

『貴方達は人工子宮で生まれてきたもの。魔術師同士の結婚は母親も変生していることも多かったし、私や『精霊の貴人』が祝福を与えて、母体を守ったわ』


 子どもが母親から精霊力を吸い取り過ぎないように、防御壁のようなもので守ったり、母親の身体を出産に耐えられるように強化したりしていたそうだ。それができない時には吸い取られて行く分の精霊の力を外から補充するとか。


『できるだけ早く行って、母親に力を貸しなさい。

 今、それができるのは貴女だけよ。マリカ!』

「解りました! フェイ!」


 どこか、ふらふらと視線を泳がせるフェイの両頬を背伸びしてパチンと叩く。


「あ……」

「しっかりしてお父さん! 貴方が揺らいでいたら、お母さんも子どもも迷っちゃうでしょ!」


 フェイの視線が焦点を取り戻したのを確認して、私は通信鏡を耳に当てた。


「聞こえていましたか? そういう訳なので、今すぐ行きます!

 場所はどこですか? フェイに転移術を使わせるので一刻かけずに行きますから!」

『解りました。待っています』

「そう言う訳だから。カマラ。セリーナと一緒に外出の準備をお願い。着替えはいい。このまま行く」

「かしこまりました」


 駆け出して行くカマラは優秀だから任せて安心。

 後は


「お父様は、館に戻って双子ちゃんをお願いします。アルもフェイと一緒に来て側にいてあげてくれる?」

「解った」「任せとけ。ほら! しっかりしろよ。フェイ兄!」

「ありがとう、ございます。本当に、ぼんやりしている暇は、無いですね」


 自分に気合を入れるように、もう一度頬をパチンと叩くフェイ。

 目にも力が戻っている。もう大丈夫だろう。


「エルフィリーネ。ステラ様。リオンに事情伝えておいて下さい」

『解ったわ』「どうかお気をつけて。行ってらっしゃいませ」


 カマラとセリーナの用意が整うのを待って、まずは四人でアルケディウスへ。

 それから城にダイレクトジャンプする。

 産室には男性は入れられないので、フェイは外で待っていてもらいアルを付ける。


 言った通り最速で、一刻もかからずに到着できたと思うけれど、王宮の一室に整えられた産室に入った途端感じる。

 中は切迫した空気で満ちていた。


「しっかりしなさい! ソレルティア!

 出産時に意識を跳ばしてはいけません!」

「皇王妃様!」

「マリカ! よく来てくれました!」

「状況は?」

「子宮口はかなり開いてきています。でも、赤子が動きません。

 産道に出てくる力が足りないようでございます。さっきまでは、出てこようとしていたのですが……」


 ミュールズさんの話と、さっきのステラ様の話を総合して思考を巡らせる。

 精霊の力が強い子どもの出産には、大量の気力や精霊の力が必要。

 子どもは母体からそれを吸い取って使っている。

 防御壁で吸収を阻止してもいいのだけれど、そうすると多分、子どもが外に出て来る為の力が足りなくなる可能性が。


「少し場所を交換して貰えますか?」

「解りました。お願い」


 ソレルティア様の頭上にあたる位置について、私は肩にそっと手を置いた。

 全身の精霊の力を意識して。アルやリオンだったらもっと正確に解るのかもしれないけれど私は感じるだけしかできない。


 ソレルティア様の体力、気力共に殆ど感じられないくらい少なくなっている。その分胎児にはかなり余裕があるように思えるのだけれど、確かに動きが止まっていた。

 出産前の胎児には感情があり、外の様子も解っているという研究も向こうの世界ではあった。

 それでいうと胎児から感じられる思いは『迷い』『心配』

 このまま自分が生まれていいのだろうか? 母体の様子を察して考えているのかもしれない。優しい子だ。


「大丈夫だよ」

「マリカ?」


 私が突然声を出したのでびっくりしたのだろうか?

 産室にいた女性達が一気に顔をこちらに向ける。

 でも気にせず、優しく呼びかける。ソレルティア様に力を送る。母子を助ける。

 それだけを、考えながら。


「お母さんは、大丈夫。私やたくさんの人が助けてくれるから。

 だから、心配しないで出て来て。みんな、貴方を待っているから」


 私の力を全譲渡。それくらいの思いで力を注ぎ込み続けていたせいか、


「あ……マリカ様?」

「気が付きましたか? ソレルティア様」

「はい、私は……一体?」


 ソレルティア様が目を開けてくれた。

 よかった。

 どこか、ぼんやりとした

 焦点の合わない眼差しをしていたけれど、直ぐに苦痛に顔を歪める。


「出産も大詰めです。

 あと少し、意識を持って赤ちゃんを外に出してあげて下さい」

「は、はい」


 頭のいい人だ。すぐに自分の置かれた状況を理解したのだろう。

 分娩台の握り棒がぎゅっと音を立てた。

 母親の復調を感じたのか。お腹に手を当てていたミュールズさんが弾んだ声を上げる。


「胎児、再び動き出しました」

「良かった。あと少しです。

 皆様。よろしくお願いします!」


 産室は再び活気を帯びる。

 新しい命の誕生まで、あともう少しだ。


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