魔王城 戦う者、支えるもの
私達が魔王城の大広間に戻った時、まず、目に入ったのは木箱の山、だった。
かなり大きな。私一人くらいすっぽり入れそうな大きな箱がいくつも積み重ねられている。
その前に立つのはどこかドヤ顔のヴェートリッヒ皇子。
側には疲れたような顔のフェイ。ソレイル公子やアリアン公子まで。
「これ、なんですか? ヴェートリッヒ皇子。というか、御国に戻られたのでは?」
私が首を傾けると、してやったりって顔で笑う皇子。
「? 国に戻る、とは言ったけれど、任務から抜ける、なんて僕は言った覚えは無いよ?
どうかな?」
「あ、はい。そうですね。おっしゃっていないです」
思い返してみれば確かに皇子は国に帰る、と言っただけだ。
やることがある。っておっしゃって。
「じゃあ、これは?」
「アーヴェントルクとヒンメルヴェルエクトが共同開発していた新素材だよ。ちょっと言っただろう? ライオットの剣用に準備してみるって。
ステンレス……だっけ?」
「ステンレス!」
すっかり忘れていた。最初にヒンメルヴェルエクトに行った時、合金素材について色々と研究したのだ。その中で比較的素材があれば簡単にできるものがステンレス。
錆びにくく、軽くて丈夫な素材として地球でも一般的だった。
「アーヴェントルクの『精霊神』様が授けて下さった精密時計作りにも使用できる、っていうんで随分前から協力して研究して、いくつか実用化もしていたんだ。
それを現在、採掘してある材料でできるだけ全て。
時間がないから鉱山と精製所を総動員して作って来たんだよ。
色々とごり押しして、さらには王族魔術師と王宮魔術師の力もお借りしたけどね。これだけあれば、巨大な『星の翼』用とはいえ、剣の一本くらいは作れるだろう」
「急な話で驚きましたが、ヴェートリッヒ様のお考えには同意できましたし、弱みも握られていましたので致し方なく」
「弱み?」
「こちらの話です。お気遣いなく」
苦笑するように肩を上げたのはヒンメルヴェルエクトのアリアン公子。
「精製炉と人を一切の無駄なく、活用して僅か半日で、これだけのものを用意するとは。
兄大公も一目置くアーヴェントルク皇子の本気を見せて頂きました」
ソレイル公子も素材の冷却や、融解などの手伝いに駆り出されていたんだって。
勿論、フェイやアルも魔術と素材調達、運搬など両面から丸一日こき使われてきたそう。
「で、このままでもいいんだがマリカ。今日採ってきたカレドナイトがあるだろう?」
「はい。お父様。って、なんで知ってるんですか?」
「俺が『神』と『星』に依頼したからだ。
カレドナイトとこのステンレスを混ぜ込んで剣を作る。力を貸してくれ」
「え? どうやって?」
「サークレットを被って、中にある設計図のように作る、と念じればいいそうだ」
「解らないけど、解りました」
「マリカ様。これを」
今一よく解らないまま、私はお父様に言われるまま、エルフィリーネが差し出した私のサークレットを被った。
流石エルフィリーネ。準備万端ってこと?
「あ!」
本当に『神』がサークレットの中に設計図をいれておいたようだ。
頭の中に形が浮かんでくる。科学的にどうすれば、というのは解らないけれど。確かにできそうな気がする。
「ちょっと、離れていて下さいね。フェイ。万が一、飛び散ったり、失敗したら危ないので周囲に風の結界壁を張って貰える?」
「解りました」
私が目を閉じ、念じるとステンレスが入っていた木箱がパタパタっと壊れて空中に浮かぶ。フェイが助けてくれるなら、空中で作業した方が安定しそうだ。
私は採掘して来たばかりのカレドナイトを液状化した。お久しぶりのリカチャンの力を借りて。
同じようにステンレスの方も液化して二つの素材を混ぜ合わせる。
「おお!」「これは美しい」
私は目を閉じて念じていたからよく見ていなかったけれど銀色のステンレスに蒼のカレドナイトが混ざって、青銀に輝いてそれはそれは美しかったそうだ。
見たかった。
彫金やっていた頃、金属の融解を何度か見たけれど、つるんとした金属に虹色の被膜が浮かんで。とっても美しかったから似た感じかもしれない。
で、設計図通りに形を造る。イメージはお父様の長剣。
分厚くて、丈夫に。宇宙で振るっても壊れないように……。
やがて、ステンレスとカレドナイトの合金は形を変えていった。とっても素直になんの抵抗もなく。流体はまるで型を取ったかのように強大な剣に変化する。
加熱したわけではないから冷却の必要は無し。
傷つけないように、ゆっくりと床に降ろせば、超巨大。
全長10mはありそうな大剣が完成する。とりあえず、形だけ、だけど。
「で、できた?」
「ああ。上出来だ。良くやったな」
息を吐きだした私をポンポンと、お父様が背中を叩いて褒めて下さったけれど。
良かったのかな? 形を変える私の能力、王子様達の前で見せちゃって。
まあ、今更だし、いざとなれば『神』が私の力を使って作ったってことにすればいいか。でも、私、こんなことできたんだ。自分でもビックリ。
「……俺達は、この剣のような存在かな、って思う」
完成した剣に近づき、そっと手を触れるヴェートリッヒ皇子。
「選ばれた、真の戦士は、武器など無くても戦える力をもっている。
でも、武器の助けがあるかないかは、時として勝敗を分けることもある。
この間の魔王と『星の翼』の戦いのように」
「ヴェートリッヒ皇子……」
そっか。このお父様用。『星の翼』の剣がヴェートリッヒ様の答え。
自分自身は戦う事はできなくても、戦う者をサポートする。
武器作り、戦う場を整え、守る事ならできるのだ。と。
「俺には
二人のように、前線で戦い、大切な者を守り切るだけの力は無い。でも、こうして武器となり、道具となってその背中を守ることはできる。
できれば、隣に並び立ち戦いたかったけれど。そこは諦めて援護に徹するよ。
頼りないかもしれないけれどそれが、昔からの俺の役割だ」
「ああ。頼りにしている。ヴェートリッヒ」
自分の意思と決意を言葉ではなく、行動で雄弁に指示したヴェートリッヒ皇子。
彼はお父様の感謝と信頼に満ちた眼差しで、思いに蹴りを付けたようだけれど
「いや、皇子。
それは謙遜にも程がある。前から思っていましたが、放蕩息子の仮面の下に隠した王の器。
貴方という存在もまた『七精霊』の産んだ傑物だ」
大きく息をつくアリアン公子。
「お褒めに与り光栄。まあ、それに関してはそうなれるように努力してきたからね。卑下はしないよ」
「? 何かあったんですか?」
「別に? 大したことはしてない。アーヴェントルクとヒンメルヴェルエクトの加工前のステンレスと、原材料を譲って貰う為にちょっと色々、手回しをね」
「あれが、ちょっと、ですか? 恐ろしいまでの手腕でしたよ。
昨日の夜、アーヴェントルクに戻られてから、僅か一夜で素材の選定と根回し、準備を整え、朝、我々を迎えに来て協力を願い出て、的確な指示と精霊魔術で精製作業を効率化してステンレスを大量生産させる。
ゲシュマック商会を始めとするあらゆる商会に手を回しほぼ半日で必要量の素材を整えたのですから。しかも昨日までは城にいたのに国に戻って僅か一日でですからね」
心から感心したような様子のソレイル公子とアリアン公子はちょっと様子が違う。
なんか、気に食わないというか、不満げな顔つき……。
「大金と忠誠、脅しと慰労。飴と鞭を使い分けて事を為す。流石夜国の皇子でいらっしゃいますね。少し、催眠とか暗示も入っていたのではないですか?」
「その辺は国家機密ということで。安心していいよ。当面、プラーミァには言うつもりはないから」
「プラーミァ?」
「皇子!」
アリアン公子の顔から血の気が引き、グランダルフィ王子が小首を傾げた。
そこで、ああ、と気付く。
もしかしたら、ヴェートリッヒ皇子はヒンメルヴェルエクトがプラーミァの『火の王の杖』を所有していることを調べ上げたのかも。
昔『精霊神』様に取り上げられ、プラーミァが喉から手が出る程欲している『火の王の杖』は現在ヒンメルヴェルエクト王宮魔術師オルクスさんが持っている。
火と熱を自在に操る火の王の杖は工業的に見てかなり有効だ。
何せ高温で金属を熱するとか、その為の炉を作るとか魔術でできるとさっき私がやったみたいにかなりの手順をショートカットできるから。
プラーミァが王の杖の所在を知ったらまず間違いなく返却を求めて来るだろう。
事情があるとか、杖がオルクスさんを主として認めているとか理由はあっても解っていてがめているのだからヒンメルヴェルエクトは不利になる。
で、それをネタにしてヒンメルヴェルエクトと交渉して、オルクスさんをステンレス作りに借り出したのだろう。
だとしたら、ヴェートリッヒ様かなりエグい。
今後、ヒンメルヴェルエクトはアーヴェントルクに逆らえなくなった形だ。プラーミァと正式に交渉して杖を返却するまでは。
同じことはアルケディウスにも言えるから、事が済んだらエクトール様にも相談しておかないと。
前から感じてはいたけれど清濁を併せ呑み、情報を集めて。
人の心を把握し時には操作して、思う環境を整える王の器、手腕においてきっとお父様より上なのはヴェートリッヒ皇子だ。これは、私と出会う前からずっとだし。
昨日の夜の二人の言葉の意味が今になってよく解る。
もしかしたら旅の時にも、どちらかというと脳筋なリオンやお父様を裏からフォローしてくれていたのかも。
「『神』に対しては、妹アンヌティーレの件も含めて言いたいことは沢山あるけど、後にする。僕は今、星を守り、アルフィリーガとライオットの信頼に応えることに専念するから。
今後ともよろしく頼むよ」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
とにかく、頼もしい仲間が帰ってきた。
本気を出して、大きな力と共に。




