魔王城 王子達の本気
翌日の魔王城、朝食の席。
待っていたのだけれど、ヴェートリッヒ皇子は出てこなかった。
というか、アーヴェントルクに行ってそのまま戻って来ていないようだ。
部屋の身の回り品は残されている。人だけいない。
帰るにしても着替えや荷物くらいは持っていくと思ったのだけれど。
それどころか、実はアリアン公子もいなかった。ソレイル公子も。
お父様は『星の翼』の修理があるから、朝食は後でいいと言って外に出て行き、リオンは完全に調整が終わっていないからと昨夜の話し合いの後、艦に戻っていってしまった。
だから、王子様の中で城に残っていたのはスーダイ様とグランダルフィ様だけ。
「三人とも逃げたのか?」
呆れたようにスーダイ様は大きなお腹の上で腕を組む。
「逃げたというわけでは……ないと思うんですけれど……」
「荷物やその他は?」
「残っているようです。どうしたんでしょう?」
もし、昨日の話の後、『神』への不信感があって、城を出て国に戻る選択をしたとしても、一言くらいは挨拶をしていくのが普通だと思う。
でも荷物も全部残したまま、本人だけが消えているのは何か事情がある気がする。
しかもフェイも戻ってきていないし、アルまでいない。
「確かに何も言わないで帰るのは礼儀に外れる。
それにあの程度のことで本当に戦いから離脱し、国に帰ると決めたなら随分情けない話だと軽蔑するぞ。私は」
「スーダイ様」
スーダイ様は、肩を上げると私の方に向かい合う。
ふっくらとした顎と口元が優しい笑みを作った。
「私はここに残る。最後まで付き合うつもりだ。
リオン殿の事情や『神』の思惑がどうであれ、関係ない。
私はエルディランドの王として、そしてアースガイアに住まう一人の人間として、宇宙からの侵略者を放っておけないからな」
「僕も、残りますと伝えに参りました。こんな半端な思いのまま国に戻ったら、父上にも『精霊神様』にも怒られます」
「ありがとうございます。心から頼りにしております」
私は感謝の気持ちを込めてドレスの裾を持ち上げるようにお辞儀をした。
ヴェートリッヒ皇子が離脱して、リオンも『神』の元に戻ってしまって。
他に誰も相談する人がいなくって少し落ち込んだ気分になっていたから大きく、暖かなスーダイ様の気持ち、真摯で真っすぐなグランダルフィ様の優しさが、嘘偽りなくとても嬉しい。
「マリカ様」
「なあに? エルフィリーネ」
柔らかい声に振り返ると、そこには魔王城の守護精霊エルフィリーネが立っている。
王子様達には紹介してあったけれど、城の守護精霊。しかも絶世の美女にまだあまり慣れていない様子。お二人とも腰が引けている。
「お話の邪魔をして申し訳ございません。
『神』と『星』からの御命にございます。今日は艦の方はいいので、城にいる者を連れて鉱山で採掘をしてくるように、と」
「採掘って……カレドナイト?」
「はい。『星の翼』とアルフィリーガの改良に必要なのだとかで。
マリカ様達のお力で採掘できるだけ、とのことでした」
「城にいるみんなで、ってことはカマラや王子様達も連れていっていいの?」
「はい。『星』の許可は得ております」
今、この城には王子様達以外は、私の最低限の従者しかいない。
魔王城、正確には精霊の城に入れるのは特別な者だけ。
王子様達の身の安全は『神』と『星』が保証する、ということで王子様達にも護衛や従者の随行許可は出なかったのだ。
それでも残って下さったのは、各国の信頼の表れ。
王子様達も、着替えくらいは自分でできるし、掃除洗濯その他はエルフィリーネがやってくれる。初日に酒盛りなんかしてたみたいに、生れて初めて王子としての立場や、常に向けられる周囲の視線から逃れた自由を満喫されているようだし。
ただ、男性の中に女性は私一人になるので、カマラとセリーナは同行している。日中はお母様も時々。
今回は、カマラ、セリーナ、私、それにスーダイ様とグランダルフィ様で行くことになるかな?
できる限りってことになると、広い範囲を探さないといけないから人手はあったほうがいい。
「解りました。スーダイ様。グランダルフィ様。そういうことなのでお力をお借りできませんか? その代わり滅多に見られないステキなモノをお見せしますので」
「解った」「マリカ皇女一押しの光景を見られるとは、残った役得ですね」
優しく微笑んで下さったお二人の為に私はお弁当を腕に寄りをかけて作り。
それからカレドナイト鉱山に向かった。
精霊国の島きっての絶景。
暗闇の中に薄青く光るカレドナイトに、お二人は息を呑んでいた。
「これは……確かに凄いな」
「青く光る全てがカレドナイトなのですか?」
「はい。採掘の為の人手を入れることができないので軽々には持ち出せないのですが、時々、私用の通信鏡用や転移陣に使う為にちょこっと採掘したりはしています」
「ああ、だから、アルケディウスは通信鏡をあれほどまでに所有することができるのですね」
「確かにこれは羨ましい。事が済んだら人手も資金も出すから本格的に採掘、流通させては貰えまいか?」
「この鉱山は私の所有物ではないので、なんとも。ステラ様や精霊神様達に相談して許可を得てからですね」
希少鉱物を考え無しに流通させるわけにはいかない。
特にカレドナイトは、通信鏡や転移陣に使われる。採掘量は各国の流通や情報通信の発展、ひいては国力に直結するから。
「ただ、今日はとにかく採掘あるのみです。私は目に見える範囲の壁から、カレドナイトを取り出しますからカマラやスーダイ様、グランダルフィ様は奥からカレドナイトの含有量が大きそうな石を探してきて下さい。暗いので足元に気を付けて」
「解った」
そうして、私達は一日がかりりで、カレドナイトの採掘作業を行った。
単なる個人的な主観だけれども、今まで何度か採掘していた時に比べるとすんなり、素直にカレドナイト達が出て来てくれた気がする。
王子様達。特に大地の精霊神の寵愛深いスーダイ様がいてくれたからかな、とちょっと思った。
「シュンシーがいればよかったのだがな。アレの大地の杖と魔術師の力があれば、私も採掘を手伝えただろうに。国王でありながら術が使えないのがつくづく残念だ」
「時々シュトルムスルフトやアルケディウスが羨ましくなりますよね。王族魔術師の力があればいいのに、と」
お二人はちょっと悔しそうだけれど、この件に関して私はお口チャック。ノーコメント。
エルディランドとプラーミァの王の杖の在り処は知っているけど、どちらも主を選んで仕えている。
各国王家は、王の杖を返して欲しいだろう。
でもそうすると杖の助けで魔術師をしているそれぞれの杖の主が困ることになる。
当面、王の杖達が自分の意思で戻ることを決めない限りはノータッチにしておくつもりだ。
まあ、そんなこんなで私達は一日かけて、カレドナイト鉱山で採掘作業に勤しんだ。
一日みんなで頑張っても手に入れられたサイズは両手の平に収まるくらい。
1~2ルーク(およそ1~2kg)だろうか。
多くはないけれど、めったに市場には出回らない量だ。
「凄い! これだけの量が一日で!」
「これだけあれば、通信鏡がいくつもできますし、転移陣の新設も可能なのではありませんか?」
「そうですね。でも『神』には何かお考えというか、用途がおありのようですし、各国に回すのはもう少し後になることをご了承下さい」
「解っております」「夢が膨らみますね」
お二人は興奮気味だったけれどホントに『神』はこれを具体的にどう使うつもりなのかな?
足りるといいんだけれど。
そうして、城に戻った私達は驚きに目を見開くことになる。
「ただいま。どこに行ってたんだい?」
「え? ヴェートリッヒ皇子?」
待っていたのは国に戻ったと思っていたアーヴェントルクの皇子の笑顔とお父様。
「一日サボってしまってすまなかったね。これはお土産」
そして彼と、鉱山国アーヴェントルクの本気、だった。




