魔王城 信頼と決断
「友として、仲間として。俺はお前達を信頼している」
魔王体。人外の姿となったリオンが口にした、偽りのない本心。
素直な思い。
硬直した皇子に向けて、お父様が同調するように言い放った。
「諦めろ。ヴェートリッヒ」
「ライオット」
「アルフィリーガの言う通り黙っていた事は謝る。
だが、決断に関しては諦めるしかない。
こいつの妙な真面目さと水臭さ。
そして自分の事をそっちのけで、他人の為に命をくべる。
どうしようもない勇者体質は、何百年経とうと、何度転生を繰り返そうと、魔王になろうと変わらない。いっそ変わってくれるなら。止めて、止まってくれるような奴なら楽だったんだがな」
明らかにリオンに当てつける口調。
反論の権利は無いので、リオンは顔を背け、居心地の悪そうな笑みを浮かべている。
「……君は、最初から全てを知っていたのか? ライオット」
「まさか」
ちょっと大げさに肩を竦めて見せるお父様。
「こいつらがアルケディウスに生まれたという予言を聞いて、必死で探したから出会いこそ早かったし、気付いてからは引き立ててやった。
でもこいつが魔王の転生だ、神の息子だなどと知ったのは不老不死解除後の事だ。お前らとそんなに差はないさ。
魔王体になるという場にも俺は立ち会わせて貰えなかった。変わる自分を見せたくなかったんだとさ。薄情なもんだ」
「……苦痛に悲鳴を上げる姿をお前らに見せられるもんか」
うーん、流石アドリブの天才。お父様。
嘘はついてないけど、ホントでもない。
魔王のシステムを『知った』のは不老不死後の星の夢だったろうけれど、お父様は、きっと私より早く、色々なことを知っていたと感じている。
でも、言っていい事と悪いことを理解できるのも大人。
ヴェートリッヒ皇子の一番のもやもやは、自分が蚊帳の外に置かれたことだと思うし。
会話を続けていくうちに、リオンも『魔王』の威厳が少しずつ剥がれていく感じがする。
「知っていて娘との結婚を認めたのか?
こいつが一人、人間の外側に行ってしまうことも解っていて?」
「もちろんこいつの変化について、完全に納得したわけでも喜んで認めた訳でもない。
というか、今だって頭にはきている。お前と同じでな。ヴェートリッヒ」
同調と共感。
ヴェートリッヒ皇子の顔から少しずつ怒りや憤り、蟠りが解けて、消えていくのが見える。
「だが、器や外見がどれだけ変わろうと、時間がどれほど過ぎようと、その本質は変わらない、と、知っているからな。
ああ、こいつは本当に変わらない。変えて縛り付けようとしても、鎖から抜け出し、勝手に空を飛んでいく。
だから、俺は止めるのではなく、こいつを支え歩む道を選んだ。
友を二度と失わせない為に」
変わらない。変わっていないとお父様は断言する。
真実を見るアルと同じ眼差しで。
どんなに見かけが変わろうと、リオンはリオンだと。
自分達は友であり、支え合う存在。
幾度、どんな形で出会おうと、自分達は友になるという。
「ああ。
俺は、友と家族と大切な者がいるこの星を守る。
繰り返しになるが、それは誰に強制されたわけでもない、一人の人間、大人として決断した選択だ。
謝罪もしないし、覆さない。例え星の人間全てに知られ、非難されようともやり遂げてみせる」
だからリオンはその信頼に応えるのだ。
リオン・アルフィリーガという存在の全てを賭けて。
「……リオンの言った通り、後は、皆様の御判断に委ねます。
このまま協力体制を続けるか、国に戻られるか」
言の葉の区切りを待って私は王子様達に向かい頭を垂れた。
「国に戻られる時には、そう言ってくだされば、アルケディウス経由で転移陣を開くか、フェイに送ってもらいます。御国にはご自分で説明して頂くことになるでしょうけれど」
「僕達が決めて良いと?」
「はい。出発まであと三日足らず。
厳しいことを言うようですが、不満を抱えたまま強制しても、ほんの少しのミスや失敗が死に直結する宇宙での戦闘では、役に立たないどころか足手まといになることさえあります。
ですから、ご納得した上で決断なさってください。」
「解った」
カタン、と。椅子を引く、決断の音がした。
「フェイ殿、アーヴェントルクへの転移術を頼めるか?」
「……かしこまりました」
「すまないが、一刻も早く戻りたい。時間が惜しい。付き合ってくれ」
「ヴェートリッヒ皇子」
「僕は、アーヴェントルクの皇子としてやるべきことを行う。邪魔はしないでほしい」
立ち上がり、私達に背を向けるヴェートリッヒ皇子は軽く手を動かすとそのまま部屋を出て行ってしまう。
フェイは私達に小さく頷き、その後を追っていった。
そうか。これがヴェートリッヒ様の決断か。
蟠りや怒りは溶けたように見えたけれど、それでも許せなかったのかも。
少し心が痛い。
でも、仕方ない……かな。
各国では最終決戦における地上襲撃に備えての準備に余念がない筈。宙へ向かうはずだった王子の帰国に、国側も戸惑いはするだろう。
けれど、貴重な戦力であることに変わりはないし、受け入れられるはずだ。
「他の皆様は、どうなさいますか?」
「一晩、考えさせて下さい。国に報告するかも含めて」
「解りました。明日の朝食は用意しておきますので、その後にでも御判断をお知らせ頂ければ幸いです」
「ありがとうございます」
話し合いはここでお開きとなり、アリアン公子、ソレイル公子、スーダイ様は自室に戻っていった。
グランダルフィ王子も何か言いたげだったけれど、会釈して戻っていく。
「少し残念ですね。お父様、リオン」
「何がだ?」
ヴェートリッヒ皇子の離脱に仲間であった二人が落ち込んでいないかな? と思ったのだけれども。
「そうだ。ライオ。
父上からの伝言だ。剣が欲しいか? って」
「設置できるのか? 理想的なバランスと重さのあの機体に増設は無理だと思っていたが」
「取り付けるとしたら双エンジンの真ん中しかないだろうって言っていた。
本体に剣そのものを付けるのは、お前が言ったように無理だから、コア設置型になる。
独自の空間を持つ俺のコアとは違うが、小さな疑似空間を作って保管しておいた剣を必要に応じて引き抜く形だ。接続して、引き抜くのに多少手間と時間差が生じる。
飛行形態や、人型形態になるのに僅かな硬直時間が発生するそうだ。それでも?」
「欲しいな。お前との戦いだと一瞬の隙が命取りになるが、宇宙戦闘ではそこまで考えなくてもいいと思う。
とりあえず、増設して貰えるなら後は操作を身体に覚え込ませて、短縮する」
「解った。伝えておくし俺もフォローする。
後は資材の調達だな。アル。今、カレドナイトって流通している分はあるのか?」
「へ? あ? カレドナイト? カレドナイトは無理だよ。今、一番必要とされている金属だ。ゲシュマック商会科学部が伝手を使いまくっても、小さな欠片を手に入れるくらいが関の山」
「そうか。じゃあ、やっぱり裏技でいくしかないな」
「だな。あと、お前の身体のスペックは今、どの程度なんだ? どのくらいの時間、全力戦闘できる?」
二人はあまりにもいつも通り。親友、というか戦友、仲間同士に戻って午前中の戦闘の反省会始めちゃったよ。アルまで巻き込んで。
仲間が去っていったことに対して感慨とか、寂しさとかないのかな?
「マリカ。明日から忙しくなるぞ」
お父様が顔を上げる。
リオンとの戦闘を思いっきり楽しんだお父様の笑顔からするに離脱はない。
ありえない。
だから、最悪の場合でも、私とフェイ、アル、お父様はコスモプランダー討伐に向かうことはできるだろう。
「え? あ、はい。そうですね。ヴェートリッヒ皇子の抜けた分、穴埋めを考えないと……」
「そうじゃない」
「へ?」
頭の中で戦力の確認とシミュレーションをしていた私と視線があった二人は互いに、何もかも分かっています、というように笑みを交わす。
「楽しみだな」
「ああ、五百年ぶりに見られるだろう?」
「見られるって、何をです?」
「俺達の友」
「そして人の本気の力を、だ」
太陽のように眩しい。
信じあう親友同士の顔をして。




