魔王城 王子は七度驚嘆する
その日、王子様達は何度驚いたのだろうか?
宇宙船『ノア』の離陸の時。『魔王』の登場。
『星の翼』対『魔王』のバトル。『魔王』がリオンであると知った時。
さらにリオンの変異した姿を直視して。リオンが『神』の息子だと知った時。
そして最後に『神』と『魔王』の真実を知らされて……。
全ての話を聞き終わった彼らは実際、驚嘆のあまり、声も出せないようだった。
「『魔王』は『神』の息子。
人間同士の争いを収めるための悪役であり、勇者にではなく、精霊国の女王によって滅ぼされた。勇者は魔王の転生で、実際、皆は魔王を滅ぼしてはいなかった」
その中で、豪気にも言葉を続けたのはやはりヴェートリッヒ皇子。
皇子は、リオンが魔王の転生である事は知っていた筈だけど、更に明かされた真実に憤懣を隠せないようだ。
「それで? ライオット。それにアルフィリーガ。いや、リオン。
話は終わりかい? 謝罪は無し?」
皆に事情を説明しているのは、私服姿の魔王体となったリオンと、お父様だ。
「ああ。告げるべきことは全て告げた。嘘偽りのない真実だ」
「言わなかった事、隠していたことに関しては反省している。
だが行われた行為に関しては一切の謝罪をするつもりはない、と『神』からの伝言だ」
「君を巻き込み、人外にしたことも?」
「ああ」
ここら辺、頑固だよね。神矢君。
苦肉の策であり、本人も心を痛めていることは知っている。
でも『神々』が揺らいだら人も揺らぐ。だから、絶対に人間に謝罪はしない。
「では……、何故『神』は人の世に不老不死を敷いたのですか?
我が子や仲間を捧げてまで……」
「『七精霊神』様を封じ、人々から捧げられる力の源『気力』を独占することで、預かっていた最後の地球移民を守る為です。当時は、この星も発展途上で、両者を健やかに共存させる方法は無かったと、聞き及んでいます。
『精霊神』様達と『神』の間で行き違いもあったようですが。
搾取された力の多くは今、コスモプランダーを迎え撃つ為の準備に使用されています」
私は、サポートに徹しているけれど誤魔化した方がいいかな、ってところは私がしゃべっている。地球移民を連れて地球に帰るつもりだった、ということは隠しておいた方がいいと思うから。
「その準備の一つがリオンの作り替えかい? 聞いてはいたし、覚悟はできていると言っていたけれど、我が子にここまでの苦悩を背負わせるなんて酷すぎる。
親の所業じゃない」
「『神』も『星』も俺の親である以上に、この『星』と生きる人々の為の保育士。護り手でもある。
何より、俺自身が納得して受け入れたことだ」
「この非道を自ら受け入れた、と?」
ヴェートリッヒ皇子が、ヴェートリッヒ皇子が繰り返し怒りを見せている理由は、変わり過ぎたリオンの姿にあるようだ。
戦闘訓練を遠めに見ていた時は、ここまでとは思っていなかったのだろう。
普通の服を着て身体の変化を隠していても、目の色や顔の刺青、変化した耳や角。さらに、明らかに増大した力。
間近で見れば、はっきりと解るリオンの魔王体に苛立ちを隠せないのが見て取れる。
「会議でも言っただろう? 俺にしかできないこと。
やるかやらないか。やらなければ星が滅ぶ。大切な者達が死ぬ。
だから、そうした。それだけだ」
「まったく! お前はいつもそうだ! アルフィリーガ!」
バン! と強い勢いでテーブルが叩かれる。
強い視線で睨みつけるヴェートリッヒ皇子の視線を受け止めるリオン。
「使命と親の命令に殉じて、自分を殺し、身体まで作り変えられて……。
君は自分の運命に抗おうとか、親に反抗しようとか、そういう気持ちにならないのか!」
「反抗してもより良い結果を生み出せる力が自分にあるのならともかく、ただ、イヤだ、気に食わないというだけで抗うのは子どもの癇癪と変わりがない」
「だからって!」
「元々俺の『星の獣』の一番の弱点は、数百年転生を繰り返してきて築いた戦闘理論と、精霊の力、そして運動能力を支えきれない生身の肉体だったんだ。
人間以上の動きをする為には、骨格や筋肉。その全てにおいて人間以上のものが求められる。それが無ければ強力な力の前に自壊するしかない。今世はマリカや魔王城のサポートがあったから何とか身体を強化しつつここまで命を繋ぐことができたが、それでも限界がある。
地上で人や魔性と戦うのならそれでよくても、宇宙空間で人知を超えた外敵を殲滅するなら肉体を作り替えることは必須と言われれば、納得するしかない」
「……」
「自らの決断の結果に対して後悔していないのなら、お前も謝罪はするなと父上から言われている。後は、結果で全てを示す。
この星を必ず守って見せる」
話が進むごとに険しさを増すヴェートリッヒ皇子とは正反対に、リオンは冷静に事実だけを述べ続ける。その表情は、能面のように変わらない。
変えないようにしているのかもしれないけれど。
「せめて、一言相談くらい……しろよ……」
「ああ、それに関しては謝れるな」
「アルフィリーガ……」
「こうなることが解っていたから。少しでも引き伸ばしたかった。
改造処置後も、まだ調整や整備が多すぎて人としての生活をまともに送れるように取り繕うにはもう少し時間がかかる。
それに最優先はコスモプランダー討伐。
今、俺は、宇宙での戦いの為に調整されている『精霊』だ。
見せたくなかった。知らせたくなかった。
友の、人のままでいたかった。
結果、皆に心配をかけた。
そのことに関しては心から謝罪する。すまなかった」
王子達に謝罪し、私達を見て苦笑する。
揺るぎない『神の子』『魔王』を演じていたリオンだけれどその時だけは素の彼が浮かんで見えた。
皆に、私達にも心配をかけたこと。悲しませたことに関しては本当に悪いと思ってくれているのだろう。
「父上。『神』はできるならこの秘密は、皆の胸に留めておいて欲しい、とは言っている。
だが、それも強制ではない。国に戻り情報を王家や国王に開示するならそれでも仕方ないと覚悟をしておいでのようだ」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
「それに情報を開示していい、なんて簡単に言わないで下さい!
こんな事を国民が知ったら今までの『神』や『精霊神』信仰、下手したら七国の関係がずたずたになるかもしれませんよ」
そう告げたのはプラーミァのグランダルフィ王太子。
父上が、もしくは国王がと言わないのは、国王陛下なら気付いている。もしくは知っている。そして受け入れるかもしれない。という意味込みかもしれない。
「『魔王』と『神』が結託して人々を永遠に繋ぎ、不老不死と引き換えに力を搾取していた。か。
今まで、信じていたものが全て粉々になった気分だ……」
「フリュッスカイトは『精霊神』を封印したのは『魔王』ではなく『神』というところまでは『精霊神』様から聞き及んでおります。ですが、まさかここまでとは」
「アルケディウスは……。皆様はそれをご存じだったのですね?」
アリアン公子の問いに私が頷く。これは嘘じゃない。
「はい。最初から全てを知っていた訳ではないですが。
故に各国の『精霊神』を解放し『神』との諍いの間に立つように動いておりました。今はアースガイアを支える大母神『星』との和解も成り、神々はコスモプランダー殲滅の為に心を一つにしております」
「連れて来た10万人の子ども達を守る為に仕方無かった、と言われればその通りなのかもしれませんが……、それにしたってやり方が……」
皆さん、やっぱり『神』に対して不信感が芽生えているようだ。
実際、それだけのことをしてきたのだから仕方ないと言えば仕方ないのだけれど、これからその『神』に命と艦の操縦を預けて宇宙に行かなければならないのだ。
本当に、どうしたものだろう。
「父上を、いや、『神』を信頼できないというのであれば、艦を降りる選択肢も皆にはある。
国に戻り、地上でのコスモプランダー迎撃の任を受け持つのも王族の務めと言えるかもしれない」
「それでいいのか? 君は?」
暗に含んだ提案を受け、ヴェートリッヒ皇子はリオンをねめつける。
「一人抜ければ、その分、残った人員への負担は大きくなるがそこは、残った者でフォローする」
「残った者、ね」
氷のように温度なく告げるリオンにわざとらしく肩を竦めて見せるヴェートリッヒ皇子。
「その存在が作戦を左右する君らと違って、俺達なんてそんな程度の存在なんだろう? いてもいなくても大差ない程度の脇役だ」
「違う。どんな状況下においても、俺達の背を任せられる。信頼できる者だからだ」
「!」
自嘲と嫌味のつもりだったのだろう。
でも驚く程に真っすぐ返った信頼にヴェートリッヒ皇子は目を見開き、硬直した。
「前線で剣を振るうだけが戦いではない。背を預け、後方で助けてくれる者がいるからこそ俺は迷いなく、後ろを見ることなく、ただ前を見て敵を倒すことができる。
一人で挑めば圧倒的物量に押しつぶされて終わりだ。
それは勇者と呼ばれた時代から変わらない。だから、一人転生を繰り返した時、俺は一度たりとも、まともに進むことができなかった」
「!」
「ヴェートリッヒ。
ライオット。フェイ、アル。グランダルフィ。
それに、各国の皆も、友として、仲間として。俺はお前達を信頼している」
「アルフィリーガ……」
そこには『神の息子』。
勇者にして魔王。
人外となった友の、けれど、昔と変わらない、揺るぎない信頼が輝いていたから。




