魔王城 『星の翼』vs『魔王』
お父様の乗る『星の翼』の人型形態ロボットは背中にロケットエンジンを背負うような形で空を飛び、空中でも、理論的には宇宙でも人が戦うのと似た身体の動かし方で、戦えるのだそうだ。
事実、お父様は幾度かの練習で、人型ロボットをほぼ自在に変形させ、思う通りに動かすことができるのだという。
けれど今。
アルケディウス北方。氷山地帯での飛行および戦闘訓練にて。
目の前に現れた『彼』を前に、お父様も、人型ロボットも今、完全硬直している。
現れた人物の映像をアリアン公子が解析、拡大する。
全身を覆う漆黒の鎧に鋼の翼。たなびく闇色の長髪。
蒼い刀身の剣はビームサーベルに見えたけどきっとカレドナイトだ。
空中をホバリングなしで静止、剣を構えたままほぼ直立して、お父様のロボットと向き合っている。
背中の翼は、エリクスの魔王体やモンスター、あるいは動物のそれとは違い金属質だ。
いくつかのパーツが見えない力で一つに集まって、飛行ユニットを展開している感じ。
随所で赤く光っているのはブースターとか、バーニアエンジンとかなのかもしれない。
全身に纏う鎧はフルアーマーと言うには、少し軽そう。腹部や足の付け根には装甲が少ない。腰回りには急所を守るように守りがあるけれど動きやすさを優先しているのが解る。
手足、肩、胸の装甲はごついけれど、細かいパーツに分かれてるように見えるのはこれも多分、動きやすくする為だろうと思う。
顔は頭部を守るというよりも、顔隠しの意味が大きいのだろうか?
お面か、ホッケーや野球のフェイスマスクを黒鋼のプレートで作ったような感じだ。前、見えてるのかな?
お父様が『星の翼』という鎧を身に纏って空を飛んでいるのであれば、向き合う彼もまた飛行用の鎧や装備を纏うことで飛んでいるのだと思う。だって、軽戦士として素早さを武器として戦っていた彼が、自分から好き好んであんな鎧を身に着けるとは思えないし。
彼自身には転移能力はあっても空中飛行の能力は無かった。
確か『神』は宇宙飛行用の人工翼を非接触型で増設するとかなんとか言ってた気がするし。
「マリカ……アレ……いえ、彼は」
どこか震えるような声で問うフェイに私は頷く。
解ってる。
一目で判るもん。胸の鎧の隙間から緑色に輝くコアを見るまでもなく。
「……ええ。そうですね。
お父様との戦闘訓練と、調整の為に『神』が外に出したのだと思います。
フェイ。宇宙での戦闘を想定した訓練なので、彼の周囲に空気を纏わせて下さい。
その後、私が彼の周囲に防御壁を張ります」
「解りました」
「術式完成後、ノアは後方待機。二人の訓練に巻き込まれないようにしてください」
「は、はい」
淡い光が『彼』を取り巻くと同時、お父様に通信を入れる。
「お父様、大丈夫ですか?」
「ああ。こちらのことは気にするな。暫く通信も不要。邪魔をするなよ!」
でも、あっという間にプッツリ。切れちゃった。というより切られちゃった。
邪魔するな、……か。
熱に浮かされたような、楽しげで嬉しげなあの口調。
私は、見えはしないのにコクピットのお父様のご機嫌な表情が見えた気がする。
向かい合った二人、体格差はとんでもなく大きい。
言ってみれば、巨大ビルと、その前に立つ人間くらいに。
けれど、じっと見つめていると、お互いに有利不利を感じていない、対等な二人の戦士に見えるから不思議だ。
先制は黒鋼の戦士。
ブン、と手を横に振ると、蒼く光る刃――ビームサーベルのようなものが、短剣から長刀へと伸びた。細身だけれど、彼の身長と同じくらいある。
そして二人、いや二体は一気に動き出す。
黒鋼の戦士は、巨大ロボットの頭部、真正面に向けてビームサーベルを勢いよく振り下ろす。 巨大ロボットは素早く反応し、両手で頭部を守るように、その攻撃を受け止めた。
その巨躯からすれば、黒鋼の戦士の攻撃などは巨大ロボットにとっては、蚊に刺されたようなものなんじゃないかな? って思うんだけれど、意外な事に結構押されている様子。
でも、やっぱり体格差は大きい。ギリギリまで力を貯めて、両腕を強く回転。黒鋼の戦士を振り払った巨大ロボットは、そのまま、ボクシングのジャブのように激しい連続攻撃を繰り出していく。
巨大ロボットは握りこぶし一つで比べても、黒鋼の戦士よりも大きい。
一撃でも喰らったら、きっとぺしゃんこ?
でも、空中とは思えないような軽いフットワーク、じゃなくってウインドワーク? で戦士は連続攻撃を躱していく。
「凄いな」
「鉄の巨体を自分の身体のように扱っておられる叔父上もそうですが、あの黒鋼の戦士は何者なのでしょう? 軽やかな動きはまるで獣のようにしなやかで……」
「獣? ああ、そうか? あの黒鋼の戦士はアルフィリーガか」
「ヴェートリッヒ皇子!?」「え?」
モニターの戦闘風景に見入っていた王子達は、ヴェートリッヒ皇子の呟きに目を見開いた。鷹揚に頷く皇子は私達の方を見て、ちょっと意地悪な笑いを見せる。
「あれが……リオン殿であると?」
「マリカ皇女や、フェイ殿達は最初から気付いて、いや、知っておられたようだ。ライオットは、言うまでもなく最初から知っていたのだろう。
彼の出現に驚く様子も見られなかったし。やけに嬉しそうだし。
僕でさえ、戦う動きを見れば解る。他の誰にも真似できない。星の獣の戦い方。
あれはアルフィリーガだ。違うかな? マリカ皇女。
多分『神の戦士』として生まれ変わった姿なのだろう」
「……よくお気付きですね」
「本当に、そうなのですか?」
いずれは知れる事だけど、一応本人や『神』の許可が出るまでは黙っておこうと思った気遣いがパー。
「だと思った。ここ数日アルフィリーガの姿を見ていなかったことから考えて『神』の手で作り替えられて調整を受けていた、というところかな?
……酷い奴だ。俺に最後まで、一言も言わずに勝手に……」
でも、仕方ない。
お父様の操る『星の翼』と人型で対等に渡り合える存在がそうそういるわけないし。
という訳で私が肯定したから、他の王子様達も空中戦闘に視線を戻す。
「あれが『神の戦士』になったリオン殿」
「人知を超えた戦士の戦いとはここまでのものなのか……」
驚愕と納得をその瞳に浮かべながら。
巨大ロボットVS魔王の空中戦闘は私達が思う以上に白熱したものとなった。
パワーでは圧倒的にお父様の方が上。
いくら鎧を身に着けていて、私の防御が効いていたとしても、一撃当たればリオンは叩き落とされてしまうくらいの質量差がある。
けれど、今のリオンは正しく空を飛ぶ黒燕。
ロボットの徒手空拳で捕らえることはほぼ不可能だ。巨体故に動きが大振りになる、ということもあるし剣の達人で、逆に言えば素手での戦いに慣れていないお父様は間合いが取り切れない、というのもあるのかも。空中戦で足場とかもないしね。
逆にリオンの場合、剣を振れば確実に当たる。
ビームサーベルで本気を出せば防御壁を張ってあるお父様のロボット体にもそこそこダメージが入るみたいだ。ただ、一撃が弱い。
防御壁が張ってあることも含めてロボット体を壊して戦闘不能にするのはかなり難しそうだ。下手にやって壊すわけにもいかないし。
ヒット&アウェイ、攻撃を入れてはまた間を空けて機会を伺う、そんな感じの動きを繰り返している。
このままだと勝負がつかず、いつまでも戦っていそうと思ったのだけれど。
「ん?」
アルが目を瞬かせると同時、叫んだ。
「マリカ。戦闘を止めろ。リオン兄の方、精霊の力がそろそろ切れるんじゃないか?」
「え?」
私達にはそんなにはっきりと見えないけれど、確かに最初に比べたらリオンの動きは鈍く、というか緩やかになったのかもしれない。
で、私達が気付く、リオンの隙にお父様が気付かない筈もなく。
「ああっ!」
リオンの何度目かの攻撃を受け流したお父様は機体を後ろへ跳ばすように後退させると同時に、一気に飛行形態へと変形させ、蒼い光線を乱射した。
あれ、レーザー光線なのかな? 宇宙だと普通の弾丸掃射は効果が弱まるのかもしれないし。
なんて思っている間に、リオンは追い詰められて、海上、氷山の上に着地。
剣を収めた。
と、同時に頭に響く声。
『マリカ!』
「は、はい、なんですか!」
『リオンに、力を送れ!』
「え? あの? どうやって?」
『いいから、やれ!』
「は、はい!!」
『神』の命令の下、私は意味も解らぬまま、目を閉じた。
そして、念じる。リオンに、力が届きますように。
一方お父様は地上に降りたリオンに、容赦のない掃射を続ける。リオンなら死なないって信頼があるからかもしれないけれど、周囲に雪が舞い散って、足元の氷もかなり抉れている。ちょっとやりすぎじゃ……。
追い詰めたリオンの前でロボットは人型形態に変形、追撃、ここで仕留める!
と、多分お父様は思ったのかもしれないけれど。
霧氷の奥からリオンらしき小さな影が再び現れた時。
「なに!」
聞こえる筈も無いのだけれど、そんな声が聞こえた気がした。
氷上に立つリオンの周囲に金色の光が煌めいている。
集まっていく。
そして胸元に寄せたリオンの手元で、形を与えられ……放たれた!
指先から放たれる白銀の光を纏った金色の獣が。お父様に向けて!
GOOOOON!
爆発にも似た閃光が弾けて、私達のモニターも一瞬、真っ白にスパークする。
直ぐに映像は戻ったけれど。
見れば変形途中だったこともあってか、光の直撃を受けたロボットはコントロールを失い、中途半端な変形状態のまま氷上に落下し、墜落してしまったようだ。
映像は遠景のまま。これ以上の拡大はできない。
「大丈夫ですか! お父様!」
お父様が通信を切っているなら聞こえないかな、と思ったのだけれども。
落下の衝撃で通信が戻ったのか、マイクが音を拾った。
シュッと、高い所から飛び降りるような着地音。続いて、リオンの声。
「悪いな。少しズルした」
差し伸べられた手の気配と、自動ドアが開くような音。
「いや。いい。……俺の負けだ」
悔しそうな、でもどこか嬉しそうな
「だが、そうか……。
少し残念だな。
お前があの時。一番俺が若く、気力が充実していた旅の頃。
真実、魔王であったのなら、本気で戦うのもきっと楽しかっただろうに」
「俺ではなく、マリクであっても?
その出会いの先で、もしかしたら友になれた、と思うのか?」
「ああ。お前が生まれないのは困るか。
でも、もしかしたら、ではない。
間違いなく……だ。
どんな形であれ、出会えば俺達は友となっていただろう。
今と同じように」
そんな、会話を交わす親友同士の声を。




