魔王城 魔王降臨
そういうわけで、色々あったけれど翌日から、コスモプランダー討伐への出発準備は着々と進んでいった。
「マリカ皇女。黒いドレスもお似合いでしたが、やはり貴女には白い服の方が似合っているように思います」
宇宙船の操縦訓練二日目。ブリッジにて。
私の装束を見てそう褒めて下さったのはフリュッスカイトのソレイル公子だった。
「あ、ありがとうございます」
「ずっと見ていたいような、それでいで気恥ずかしいような不思議な感じがします。それは『神の国』の服ですか?」
「はい、そうです。ステラ様が用意して下さって」
『神』に接続スーツを着てこいと言われたので、今日はいつも着ている成人式の時のドレスではなく、前にステラ様が、私と同期した時に下さったレオタードドレスを着てきた。
ナノマシンウイルスを加工した素材でできているので、丈夫だし、地球の機械との馴染みもいいんだって。ほぼお揃いのドレスを培養槽の中にいるステラ様も着ている。
肌にぴったり吸い付くような伸縮素材。白い、バレリーナの着るチュチュのようなパニエスカートがついていてお腹周りを隠してくれるけれど、中世異世界基準だと足とかかなり露出高め。少し恥ずかしい。
「まったく。精霊石の中に立つ様子と相まって、精霊の女神そのもの。父上や国民にも見せてやりたいくらいです」
「ちょっと、それはダメです。本気で恥ずかしいですから」
「解っております。リオンも本当は他人に見せたくはないでしょうから。これは同じ船に乗る我々の特権ですね」
グランダルフィ王子がくすくす笑っている。他の王子達も。
スーダイ様だけは顔を真っ赤にして顔を背けているけれど。
『おしゃべりはそこまでだ。今日は実践テストを行う。
飛行しながらライオットの『星の翼』を射出。
ライオットは人型形態に変形させ、戦闘を行うところまで。
戦い方や変形のタイムラグを理解しろ。
とっとと持ち場につけ。行くぞ』
「はい!」
私達は持ち場について、船の起動準備に入る。
「俺は格納庫に行っている。……無茶はするなよ」
「はい。お父様もお気をつけて」
お父様がブリッジから出たのを確認して、私はサークレットを被り、水晶に手を触れた。
固い感触は確かに鉱物なのに、スーッとすり抜けるように中に入れるのは不思議。
私が中に入ると、いつものように金の糸がうねって来て、私の手足に絡みついてくる。
『接続』
前回は『神』がやって下さった起動コマンドを今度は自分の音声で、発動させた。
ブリッジがパーっと、灯りを灯したように明るくなって、艦全体が唸りを上げる。
『メインシステム、サポートシステム、正常接続を確認。
移民船ノア。起動、発進します』
私の口から勝手にそんな言葉が紡がれた。
一瞬、意識が持っていかれた感じ。そして艦は緩やかにその身をもたげるようにその首を上げた。転移術のときのような、エレベーターの中にいるような。こう空中に浮きあがるような浮遊感覚と共に、ゆっくりとゆっくりと高度を上げていく。向こうの世界の飛行機が離陸していくのと似た感じはするけれど、衝撃や圧力は殆ど感じない。
瞬く間に魔王城の森の木々、城も眼下に流れて行った。けっこうなスピードだ。
『進路は北方向へ。アースガイアの大陸の上で飛行すると騒ぎになるし、万が一の時に民に危険が及ぶ。
氷山エリアか、海洋エリアに移動せよ』
「解りました」
轟音と共に宇宙船は大陸から離れていく。
魔王城からはっきりと確認できる街はビエイリークくらいだけれど。
この艦、どのくらいの距離まで見えているのかな?
「凄い……」「本当にこの鉄の塊が空に浮かんでいるのか?」
『感動している暇はないぞ。お前達には周囲の状況確認や、敵影の捕捉、地上との通信などやって貰わなければならないことが山ほどあるのだからな』
「は、はい……」
生まれて初めて、飛行機に乗って窓の外を見た子どものように目を輝かせていた王子様達だけど、その言葉に慌ててモニターやコンソールに視線を戻す。
『今はそれほどの情報量では無いだろうが、宇宙に出てコスモプランダーと実際に戦うとなれば数倍のスピードと量のデータを処理しなければいけなくなる。
焦らず、正確に。それを意識しろ』
皆さんが操作しているのは、主に情報分析関係らしい。
やがて私の周囲の水晶板にも色々と、データが流れてくのが見える。
基本英語。何が書いてあるかはなんとなく解るけれど、私が何をすればいいかは解らない。
『ぼんやりしているな! 戦闘訓練始めるぞ!』
頭の中へテレパシーのような声が響く。
『神』レルギディオス様の声だ。
私に活を入れるような感じで力がこもっているから、ちょっと痛い。
キーンと来る。
「えっと、私は何をすればいいんです?
機体を動かせとか、主砲発射とか?」
『別に、指揮をしろとは言っていない。機体の操作も俺がやる。
お前と繋がっていることで、失われたサブコンピューターが行うべき演算機能は、言わば意識の裏側、バックグラウンドで行われている。
だから『お前』がやるべき主な役割は地上から集まってくるエネルギーを、適切に変換してこの艦やライオット、リオンに付与する事だ』
「それは、どうやって?」
『下手に方法を考えなくていい。今までのように、目視した相手を守りたい、と願えばそれで術式は働く。
俺が増幅した精霊の力が自動的に付与される筈だ。
……試してみろ』
「試す?」
「格納庫より連絡、発進準備ができたのでゲートを開放して欲しいとのことです」
「あ、お父様」
『ライオットが『星の翼』で出る。あいつらに防御壁を展開し、衝撃から守れ』
「はい。『星の翼』に発信許可を。ゲートオープン」
「了解、射出口開きます」
「エンジン点火。『星の翼』 射出!」
『星の翼』の格納庫から、ブリッジまではかなりある。だから、エンジン音や衝撃が伝わって来た訳ではないけれど、目の前のコンソールに発進、射出完了のデータが流れるとほぼ同時。
私達の真上、艦の頭上をお父様の『星の翼』飛行形態が旋回する。
その存在を目視、確認したところで私は目を閉じて、コスモプランダー襲撃の時を思い出す。お父様を守る防御壁を、機体全体に付与して……。
「あの、これって、防御壁付与したら、外に向かって攻撃できないとか、無いですよね」
『お前がそう望まなければない!』
ちょっとイラっとしたようなレルギディオス様の声が聞こえたけれど、知らない事、解らないことは確認しておかないと。
とりあえず大丈夫のようなので、もう一度しっかりと祈りを捧げシールドを完成させた。筈。
「ちゃんと付与できてますか?」
「機体全体に精霊力の膜がかかってるみたいになってるから、大丈夫だろ」
アルがそう答えてくれたのでホッとする。
あ、でも……。
「戦闘訓練って言っても、お父様の飛行機単独じゃ、操作の訓練にしかならないんじゃないですか? 相手に攻撃されないと防御壁の効果も確認できないし」
『あいつらに防御壁を付与しろ、と言ったのが聞こえなかったのか?』
「え?」
『行け!』
瞬間、黒い閃光が、モニターの中央を上空から横切って……。
『うわああっ!』
「お父様?」
お父様の操作する『星の翼』に一直線、青い光を煌めかせた。
何か――いや、人のようにも見える。誰かの攻撃?
訳も分からないまま、でもお父様は飛行機をロボット形態に変えてなんとか切り抜けた様子。
「大丈夫ですか? お父様? 何があったんです?」
「心配ない……。だが、こいつは……」
お父様の機体の通信回路をブリッジ全体にオープンにする。
と、同時、お父様の『星の翼』とその周辺を拡大。
「あれは……人間?」
「いや、まさか……むしろ……」
艦橋のみんなも、私も、そして多分お父様も息を呑む。
お父様のロボットの前に、それは浮いていた。
「魔王?」
黒鋼の鎧、鉄の翼。人の容にとても酷似した。
でも、人では絶対にありえないモノが。




