魔王城 子ども達の決断
『子どもを連れて戦場に赴き、共に戦う。
それが、お前の選択か?』
「はい。子の生存、安全を想うのであれば、正しい選択ではないのかもしれません。
でも、私は――そして私の子は、そうしたいと願っているのです」
確認するように問いかけた『神』の言葉に私はこくりと首を縦に動かした。
『それは、貴女が一番厭うていた『我が子を精霊の宿命に巻き込むこと』ではないの?』
眉根を寄せて見せる『星』。
一方で、お父様やお母様は、そんなに意外そうな表情は見せていない。
私の気持ちを読んでいたかのように。
「そうかもしれないです。でも、この子に聞いてみたんです。
貴方は、どうしたい? って。そしたら意思というか思いを感じて……」
『まだ、胎児以前の受精卵に意思が?』
「私の思い込みかもしれません。そういう願望かも。
でも、確かにこの子は返してくれました。
私達を助けたい。共に在りたいという思いを」
冷静に考えてみると思い当たることがある。
この子は多分、もう既に二度、私を助けてくれた。
一度目はリオンと肌を合わせた夜、私の中のナニカに呑み込まれそうになった時。
二度目はリオンを守る為に術を行使した時。
私と、大切なモノを守ろうとしてくれる優しい意思。
清らかな水流のような、澄んだ思いを、私は確かに感じたのだ。
「この子は、こんなに小さいのに、私を、リオンを助けてくれたんです。
だから今度は私が、この子を守ります。
絶対に守って、生きて帰ってきます。
フェイも、アルも、お父様も。王子様達も。そして勿論リオンや『神』。
私自身も含め、誰一人欠けることなく帰ってきますから!!」
『マリカ……』
「恐れながらステラ様。これが一番、マリカと、リオンを確実に連れ戻す方法ではないでしょうか?」
『ティラトリーツェ。貴方も、そう思うの?』
貴方も?
小首を傾げた私に「はい」と頷きながらお母様は明らかなため息と苦笑を浮かべる。
私をどこか諦めたような、困ったような顔で見つめながら。
「この娘は、いえ、この子達は己の命に全くと言っていい程、頓着しないのです。
いくら言っても、いくら言っても、いくら言っても、いくら言っても!
我が身を大切にしろ、とか、自分を犠牲にしてはいけないという忠告は、坂道を転がる石のように、少しも耳に留まらず流れ落ちていくばかり。
そして、何の躊躇もなく、使命のため、大切な者のため、星の子ども達のため。
あるいは、見知らぬ誰かのためにすら、その身を簡単に投げ出し、火にくべるのです。
残された者の思いを気にも留めずに……」
「あ……すみません」
顔を上げれば、リオンもどこかバツの悪そうな顔をしている。
実際問題として、お母様の言う事はその通りだから仕方ない。
私もリオンも。
自己優先という意識が、すっぽりと欠けているから。
我欲が無いわけでもないし、自分が傷つけば、自分を大切に思ってくれる誰かを心配させ、傷つけることも理解している。
愛する人もできて、失いたくないと心から思ってもいる。
でも。
どうしても自分と他人を天秤にかければ、あっさりと自分以外の方へ傾く。
改造手術を受け入れたリオンのように。
この子がいることを指摘されなければ、後を追いかけて処置を受けるつもりだった私のように。
「……ですが、他者を守る為であれば、この子達は自らの身も護るでしょう。
私の甥、グランダルフィは申しておりました。二人を連れ戻す為にこそ、自分は同行するのだと」
「俺がアルフィリーガに同行するのも同じ理由です」
「ライオット」
お母様の横に、進み出るお父様。
今まで沈黙を守っていただけに、その言葉には、重く揺るぎない意思が込められている。
「こいつらが、例え人の理を外れた存在であろうとも、同じ容を持ち、言葉を解し、思いを交わすことができる以上、同じこの星に生きる命。友であり、仲間です。
幸せになってはいけない理由があろう筈はない」
『貴方が、いえ、貴方達がリオンとマリカ。
精霊達をそう思ってくれることを、嬉しく感じます』
そう静かに頷くステラ様の返答は『母』としてのもの。
でも強い眼差しは『神』としてのものだ。
『でもね。力や役割を持つ者には責任があるの。たとえそれが望んだものでなくても』
「だからと言って、それは親を、友を、娘を助けない理由にはならないのではありませんか!」
そして、お父様は真っ向から『神』という名の『親』に立ち向かう。
一人の人間として。
「確かに親から見れば、子は無力な存在に見えるでしょう。親の保護を受けねば容易に散ってしまう儚い命。それもまた事実です」
お父様は私を、リオンを一度だけ見やった。
けれど、その後は二度と顔を背けることなく、怯むことなく、『親』に向かいあう。意見する。
それは子どもからの逆襲だ。
「ですが、愛を受けて育った子には意思があり、願いが生まれる。
大切な者を守りたい、力になりたいという。
我らは不出来で、心配ばかりかける子どもでありましょう。
でも、どうか。
我らの、子ども達の思いを、力を信じては頂けませんか?」
お父様の発言の後、決して短くない沈黙が、その場を支配した。
呼吸の音さえ耳につく静寂の中
『……私は、そうはなるまいって、思っていた筈だったんだけどなあ~』
吐息のようにそう紡いだのはステラ様だった。
「え?」
『自分がされて嫌だったことはしない。
だから、親になったら、子どもの気持ちをちゃんと聞いて理解してあげられる親に、大人になろうと思っていたのに。
どうして同じことをしでかしちゃうのかなあ?』
「ステラ……様?」
『気にしないでいいわ。単なる愚痴。独り言。自己嫌悪のようなものだけれど』
『ステラ……』
『マリカ!』
「は、はい!」
気遣うような『神』レルギディオス様の心配を手で制して、ステラ様は私を見やった。
『勝算はあるのですね? 必ず子と共に生きて戻れるという自信が……』
ステラ様の質問に私は目を閉じ思考を巡らせた。
不思議な事に、リオンが改造体になることや、お腹の中の子どもが無事に生まれて来るかの不安はあっても、まったく、一欠片も。
コスモプランダーとの戦いに負ける、という不安を感じていないことにちょっと驚く。
「……負ける、という未来は無いと私は信じています。
リオンに、お父様。各国の王子様達に、フェイとアル。それに『神』。
星の最高戦力で向かうのです。絶対に勝って、戻って来れます。信じて下さい!」
『リオン』
「はい。母上」
『貴方はどうなのです? 勝てますか? 生きて戻ることはできますか?』
「できますし、勝てます」
今度はリオン。リオンもまた表情には一切の怯えや恐怖は見えない。
淡々と、でもはっきりと勝利を宣言する。
「俺一人では、難しかったかもしれません。でも、マリカがいて、ライオがいて、フェイとアルがいて。皆がいて、そして父上が共に有るのです。
敵がどんな攻撃を仕掛けてこようと、負けはありません。必ずや、コスモプランダーを殲滅してご覧に入れます。妻にも子にも、指一本触れさせません」
我が子の強い意志はステラ様の最後の決断を後押ししたようだ。
『……解りました。行きなさい。マリカ』
「ステラ様!」
『コスモプランダーを倒せれば、本当に、今度こそ、アースガイアに脅威はなくなります。
そうなれば、後は緩やかに穏やかな日常を取り戻せる筈。
貴方達の子も、貴方達がそうであったように、人間として友と親しみ、家族と共に穏やかに暮らすことができるかもしれません』
想像する。
『神』が不老不死を解除し、人に未来と意志が戻り。
そして宇宙からの侵略者の脅威を退ければ、後は私達の時代がやってくる。
皆で、試行錯誤しながら地球の文明を取り戻し、新しいアースガイアを作り出す事ができる。
精霊も、地球人も、アースガイア人も関係なく協力し、笑い合える日々がもうすぐそこにあるのだ。
『子どもも、大人も、神も精霊も関係なく、今は星の全てで、未来を守る時。
マリカ。
私達の希望、未来を頼みます』
「はい!」
絶対につかみ取ってみせる。
この子の為にも。
まだ、身体もできていない受精卵の筈だけれど。
トクン、と。
子宮の中で、誰かが返事をするように動くのを私は感じていた。




