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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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魔王城 祝福と約束と、別れの時

 長い。

 微妙で不思議な沈黙を、最初に破ったのはお母様だった。


「まずはマリカ」


 歩を進め、ぎゅっと私を抱きしめて下さる。

 流石のリオンもお母様からの祝福の抱擁を止めたりはしない。


「結婚おめでとう。と言わせて貰うわ。

 リオンと無事に結ばれたようね」


 やっぱり、解るのか。

 噛みしめるように頷いて、私もお母様に抱き着いた。


「はい。お母様のアドバイスのおかげです。ありがとうございました」

「私は、何もできていないけれど。

 でも、そうね。リオンはあの人と本当に双子のような似た者同士だから、アドバイスは少しくらい役に立てたかしらね」


 くすっと、意味ありげな微笑のお母様の眼差しにお父様もリオンも顔を反らす。

 自分が抱く事で、お前に傷をつける。

 お母様が教えて下さったお父様の言葉と、殆ど同じことをリオンも言っていた。

 確かに似た者同士なのかもしれないと私も思う。


「愛する人に嫁いだ今はもう、貴女は大人で一人の女です。

 自分の信じる事、やるべきことをなさい。

 夫を信じ、自分の家族を、大切なモノを守るのです。

 実家と新しい家を天秤にかけられたら、迷わず今の家族を選んでいいわ。大切なモノを見誤らないようにね」

「はい」

「大丈夫。貴女は一人では無いのだから」


 私に回した手をそっと離すとお母様の視線はリオンの方を向いた。


「娘をお願いね。リオン」

「はい。必ず」


 お母様の腕からそっと離れ、隣に戻った私の肩を、リオンは抱き寄せる。

 ここから先は、自分が守る。

 そうお母様に誓うように。


「アルフィリーガ……」


 私とお母様の会話の終わりを待っていたようにお父様が、リオンと向かい合う。


「ライオ」

「俺も連れていけ、お前を見届けたい。っていうのは無理なんだな?」

「……ああ。ダメだ」


 どうやら、お父様は気付いていたらしい。

 これから、何が起きるか。

 違う。リオンが何をするかを。

 だからこそ、はっきりとリオンは拒否の意思を表した。


「『星』の中枢に精霊以外の者は入れないし、何より俺が見せたくない」


 見せたくない。

 自分が人外になる瞬間を、その姿を親友には見られたくない、とリオンは告げたのだ。

 いずれ、見せなくてはならない時は来るけれど。それでも


「解った」


 リオンの複雑な思いをお父様は察して下さったのだろう。


「どんな姿になろうとも、胸を張って戻ってこい。待ってる」

「ありがとう」


 ぽん、と励ますようにリオンの背を叩き、お父様も私達に背を向けた。

 

「そうだ、アルフィリーガ」

「なんだ?」

「ずっと昔、エクトール領から貰った酒を覚えているか?」

「え? あ、ああ。あのウイスキーとかいう酒か?」


 思い出した、というように肩越しで告げるお父様に私達も思い出す。

 四年前になるだろうか。私達がこの世界で造り継がれていた麦酒を発見、世に出した時、蔵のエクトール様は私達に数百年ものだという蒸留酒、ウイスキーを分けて下さったのは。

 私が貰ったものはゲシュマック商会に預けてあるけれど、リオンはそれをお父様に渡したらしい。


「無事に生きて帰ったら、あの酒で乾杯しよう」

「え?」

「前にも言ったろう? 夢だったんだ。

 今日、皆で身分も何もなしに酒を酌み交わしたように、お前と一緒に対等の大人同士として呑むことが」

「でも……俺は……」

「親友に加えて新しい息子、娘婿という立場も加わった。

 全てが終わった後、お前と呑む酒はきっと、どんな美酒よりも美味いだろう。その時を想えばどんな困難だって、きっと乗り越えられる」

「ライオ……」

「俺は、まだまだ、お前とやりたいことがたくさんあるんだ。

 その為にはアースガイアが滅びる訳にはいかないから頑張るが、お前も絶対に失わせない。

 だから、帰ってこい。どんな形でもいい。絶対に、だ」


 軽く言っているようで、お父様の真紅の瞳に込められた思いと願いの深さは、私にさえ解る。


「じゃあ、また明日、な」


 俯くリオンの返事を聞かず、待たず、お父様はお母様と一緒に、歩み去ってしまった。

 また、明日。

 リオンが明日も変わらない存在でいることを欠片も疑っていないと、そう告げて。



「リオン……」

「解ってる。覚悟はできてる」


 二人を見送った後、リオンを、私は肩越しに見上げた。

 俯き、肩を微かに震わせていたリオンの目に、けれど涙は無い。


「ただ、少し怖くはあった。変わった後、あいつらが、あいつが同じでいてくれるか……」

「大丈夫だよ。きっと」

「ああ。お前もいるし、あいつもいる。

 あいつが宙の海でも戦う力を手に入れた、というのなら、俺もまた、あいつの隣に立つに相応しい存在にならなくてはならない」


 更なる意思と決意に塗り染められた揺るぎない眼差しがあるだけだ。


「行こうか。リオン」

「ああ。側にいてくれるか? マリカ?」

「うん。見られたくないかもしれないけど、側にいていい?」

「お前だったら構わない。俺の、たった一人の妻だからな」


 触れるだけのキスを交わして、私達は手を繋ぎ一緒に足を向けた。

 城の入り口の壁。

 私がずっと昔、一番最初にエルフィリーネと出会った場所。

 城の中にいくつも中枢部分に入る所はあるらしいけれど、二人で一緒に進むなら、きっとここからが一番だろう。

 私達が壁の前に進むと、待っていた、というように一か所が光り始める。

 そこに二人一緒に手を当てた。


 ぎゅいん、と。

 まるでエレベーターが動くように空間が揺れて、瞬きの間、私達は別の場所に立っていた。

 星の中枢。ファンタジー世界から完全に切り離された地下研究所のようなSFメカ空間。

 その中空に浮かんで


「お帰りなさい。待っていたわ。二人とも」

『覚悟は、できたのか?』


 言葉通り、待っていたのは二人の『神』と『星』。

 二人の立体映像だった。

 エルフィリーネの姿は見えない。どこかで裏方作業中だろうか?


「はい」「覚悟はできています」


 繋いだ手は離さず、むしろ強く握り直して、私達は頷き合う。


「そう。良かった。

 今の貴方達は心身ともに充実していて、身体を持つ精霊としては最高の状態にある。

 その状態で固定されればコスモプランダーを倒す時もその後も、アースガイアは、最高の守護精霊。いえ『守り神』を手にすることになるわ」


『星』の言葉は、完全に私達が人の理から離れることになる、と告げている。今までも、どちらかというと精霊寄り。精霊神様達に近い存在ではあったけれど人の理の中に在る人間、だった。

 でも、この先は、きっと違うのだ。


「ただ、その前にちゃんと説明して頂けますか?

 何をどうして、私達がどうなるか?」

『解っている。説明義務。インフォームドコンセントは大事だと解っている。

 ただ、マリクの時はそんなことさえもしてやれる余裕が無かった』


 進み出た『神』レルギディオスは寄り添う私達に小さな、本当に小さな苦笑いと共に向かい合う。


「まず、マリカ。お前に関しては前にも言った通り簡単だ。

 体内に強化プログラムを組み込んだナノマシンを投入し、身体はそのままに細胞機能を強化する。それによって心身の成長や代謝は固定される。宇宙空間でも空気を必要としなくなるし、身体は老化しなくなる。人の武器では傷もつかない。ナノマシンウイルスに干渉する武器であれば別だが」

「星の人達がもっていた不老不死と同じですか?」

「一緒にするな。あれは、比較にならないくらいのダウングレード版だ。

 駒が簡単に壊れないように、肉体が傷つき衰えるのを防止するだけのもの。まともな精神では永劫の人生に耐えられないが、余計なことを考える力と意志を奪った事でなんとか持たせていた」

「私の場合は、心身はそのまま?」

「ああ。いずれ周囲から『置いて行かれる』ことにはなるが、リオンも一緒だ。精霊神も、俺達もいる。

 いくらかマシだろう?」


 はい、と素直に頷くことはできなかった。

 自分があれだけ嫌って、人々から奪い取った不老不死に、自分がなるのだというのは、少しやりきれない。


「そしてリオン」


 私の返事を待たず『神』は次にリオンに向かい合った。


「今のお前には選ばせてやることができる。

 だから、選択を許そう。

 選べ。

 肉体の置換手術と、ナノマシンウイルスによる身体強化手術。

 外宇宙戦闘用改造人間となるにあたり、行う術式を」


 残酷過ぎる宣告と共に。

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