魔王城 星の夢と精霊達
「うわああ……これ……。飛行機? 戦闘機ですか?」
そう、それは黒鋼の小型飛行機だった。
金色のコードのような線で壁や天井に繋がれてメンテナンス中、っていう雰囲気。けれど完全に止まってるわけじゃなくって、微かに音を立てているような気がする。
地球人の記憶に在る一般的なスリムでストレートな飛行機とはかなり違う。
ごつごつした無骨な印象。でもはっきりと翼があり、エンジンがあり、飛行機だと解る。
燕が翼を広げたような両翼。
細長い尾翼。
中間地点に在る丸い、爪のようなでっぱりは武器か何かだろうか?
ジェットエンジン風の丸い大きな筒が後方に二つ。
こっちは完全に止まっている。
長く伸びた両翼を鳥の翼、丸いエンジンを尾翼とするのなら。
首とその先の頭のようなところにあるのは多分コクピットだと思う。丸い卵を半分に割ったガラス玉のような、バイクの風防のようなものがついていた。
『そう、とも言えるし違うとも言える。
実はね、可変型人型ロボットだよ』
「ロボット!? 人型になるんです?」
『うん。レルギディオスの趣味全開の補助増幅炉。小回りが利いてどこにでも運べるようにっていう意図はあるらしいけど。
なんかのアニメからイメージして既存の飛行機を改造したらしい。
当時のメカニック達もビックリしながらも喜んでた。
僕達もちょっと欲しかったけどね。時間が無くて複数は作れなかったんだ』
確かにこれは、趣味、というかロマンの世界だ。
ラールさんが見たら泣いて喜びそう。
『元々、宇宙での探査用で、超巨大な宇宙服として設計されている。
だから短時間だけれど宇宙での飛行も、単独行動も可能。後ろの丸いのは宇宙船用のジェットエンジン。それを『神』のナノマシンウイルスで作った精霊石が増幅補助している。精霊石の場所は操縦席。
空気を取り込む普通のエンジンは宇宙では使い物にならないからね。
起動エネルギーは本体真下にある増幅炉から出てる。本人のナノマシンウイルス増幅機能をコピーしたものだ。
隕石破壊や万が一の敵性勢力牽制の為のレーザーによる機銃も両側に在る。
今のアースガイアにとっては、完全なオーバーテクノロジー。封印してたのは正解だと思う』
『まあ、あいつもこれを使って制圧なんて手荒な真似をしない理性はあったってことだ』
精霊神様達の苦笑が聞こえる。
……もし。
地球に降りた当時の『神』がこれや宇宙船を使ってアースガイアを支配しようとすれば多分できたのだろう。
ただ、彼は神々が言う通り、できるなら、仲間も。彼らの愛した子どもで、地球人の子孫であるアースガイア人も傷つけたくは無かった。
だから宇宙に戻る為のエネルギーを集める為に、不老不死なんて回りくどい手段をとったわけだ。
本当に不器用な人……。
神矢君は。
「これ、リオンが使うんですか?」
『そうしてもいいのはいいんだけれど、リオンの改造形態。魔王体は単体での宇宙飛行が可能な戦闘兵器としてデザインされているからね。
むしろ、別の人間が使用し、リオンを援護した方がいい』
「別の人間って……まさか?」
『一人しかいないだろ? フェイは船に残って風の魔術でリオンを含む皆の生命維持補助。
アルもどちらかというと頭脳派で情報分析を頼みたい。となれば……』
「!」
私達の視線が一気にお父様に集まる。
アルケディウス皇子。宇宙船操縦の為の圧縮学習を免除され、今、ここにいる人。
「『精霊神』
これを、動かせれば俺は、生身のままアルフィリーガと共に星の海で戦える、のですか?」
どこか震える声で問いかけるお父様にラス様は小さく頷く。
『うん。操縦できればいいよ。
君がこの船と直接接続して、手足のように動かすことができたのなら、星の海での戦闘を許可すると『神』からの言質を得ている。
ただ、地球型の機械はナノマシンウイルスの補助があってもアースガイアの武器とは情報量が違いすぎるからね。城に残った子ども達も圧縮学習に身悶えしているだろう?
パイロットに必要とされる基準と能力を満たしていない時には廃人になる可能性も……』
「ライオ!」「お父様!」
どうする、とラス様の精霊獣が問う前に。もうお父様はマントを放り投げ歩き出していた。
先端のコクピットは高い所に固定されているけれど、台座などを使って器用に飛び乗り、座席に座る。止める間もなく迷いもない。
パイロット用のヘルメットがあったのだろうか? 何かを被っているのが見えた。あとは、何をどうしているのかはここからは解らない。けれど周囲を固定していた金の触手が溶けるように消えていく……。
微かな唸り声のような起動音? がして風防が伸びていく。
お父様の頭上を覆うようにガラス壁が包んで……
『危ないから、皆、下がって!
マリカ、天井部分を開いて。壊していいから』
「あ、はい!!」
私が、壁に手を当て、天井部分を開いて、というか粉にしたと同時。
部屋中に熱風が吹き荒れた。
飛行機のエンジンに点火したのだと思う。
慌てて機体の側から離れて、壁沿いに寄り添う私達は、見ることになる。
長い黒鳥の翼が立ち上がるように真ん中で、二つに折れ曲がって足と胴体に。首のコクピットが胸に収納され尾翼とエンジンは背中と腕になって。
もう、本当に地球のアニメかゲームとしか思えないような変形を経て、直立するロボットの姿を。
「うわ~、本当にロボットだ~」
「ロボット?」
「今回のは人の容を模した鉄の鎧、ってところ?」
大神殿の地下にあった融合炉を兼ねたという変形ロボットは、全長約20m弱。
外に出してしまえば、太陽光の下、否が応にも目を引いた。
ホントにカッコいい。
某宇宙戦記系のスタイリッシュなフォルムではない、全体的にどこか無骨、というかアンティークな印象ではある。
でも、そこがロマンを感じさせた。
形状としては乗り込みタイプの〇イバー風。
作業用でもあるというせいか、腕が長く指もしっかりと関節っぽいものまで作られていた。
足も元翼で細いわりに、関節の力でしなやかに動く。足首もかなりの可動範囲がありそうだ。
『ライオット! ここでこれ以上動くと神殿を壊してしまう。
稼働訓練は後でするから飛行形態に変形。魔王城の島まで持っていって』
外から叫んだラス様の言葉が聞こえたのかどうかは解らない。
けれど、ロボットはパタッと、前傾するように前傾するように形態を崩すと、足を開脚して翼に戻し、あっという間に飛行機形態に移行。エンジンをふかして空に飛んで行ってしまった。
滑走路も無しに、上空に真っすぐに飛んでいく様子は飛行機というよりロケットのような感じ?
でもお父様、よくあんなに簡単に変形とか飛行とかさせられてるなあ。
「す、凄いですね。……神の国、というのはあんなものが普通にあったのですか?」
「ないない。あんなのはアニメ……っていうか、物語の中だけの存在だよ」
呆然とするフェイに私は必死に手を振る。
確かにアニメや漫画ではいくらでもあったけれど、実用化できるようなものは無かった。
絶対に。
アルもお目目まん丸で硬直してる。
リオンはマリクの記憶にあるのか、ちょっと感動薄めだったけれど。
『コスモプランダーのナノマシンを利用するようになってから地球を離れるまでの数か月、特に機械関連は僕達でも信じられないくらいの技術進歩だったからね』
『もし、あの後、地球を守り生存することができていたら、きっと地球人は本当の意味で、進化して、星の海に歩を進めることができていたのだろう』
二十一世紀の宇宙開発は、二度目の月面着陸を目指しつつ宇宙にコロニーを作り、その先を見据えて観測などを行っていた。
太陽圏を抜けて浮遊惑星に移民を成功させる、というのは紛れもない偉業だと思うけれど、それも敵の力を利用しての事。
『精霊神』様には感慨というか複雑な思いがおありなのだろうな、と思う。
「あ、あの飛行機の操縦ってお父様が自分でやってるんです?」
『ヘルメット? からの脳波を読み取って操縦席の『精霊石』が本体に指令している。あの『精霊石』は元宇宙飛行士の超エリートだったから、地球から持ってきた中でもかなりの高性能だよ。
基本はパイロットの思いを受け取って手足のように動く感じ。武器の掃射だけは手動だったと思うけど』
宇宙で何かあった時用だから、人型形態になって指先で作業ができるようにしてあるんだって。ただ、サイズが大きすぎるから精密作業には向かない。
『神』は単独の宇宙での航海をあのロボットと、対宇宙用改造人間であるマリクを使い分けて乗り越えてきたということ。
『いいよなあ。ロボット。俺も欲しかった』
『あれは、ロマンだからね』
他の精霊獣様達も、なんだか目を細めて見てる。子どもというか男の子に戻った感じ。特にやる事の無い方達も来てるのは、ロボットを見たかったからなのだろう。
解る。とってもよく解る。
で、無事に魔王城まで、ロボットを持ち帰ることに成功したお父様は、正式にあの変形ロボット『星の翼』のパイロットに任じられた。
他の王子様達も目を輝かせて興味津々だったんだけどね、パイロットとしてのスペックが違いすぎるってことで諦めてた。
「圧縮学習で音を上げる我々には、変形や操作切り分けを行い、さらに人型形態で戦う事は難しいでしょうね。叔父上並みの膂力と胆力が無いと」
「できれば、戦闘用に剣が欲しい所ではあるがな。まあ、贅沢はいうまい。これでやっとアルフィリーガと共にまた背を合わせて戦える」
お父様は本当に嬉しそう。
リオンは逆にちょっと複雑な顔をしていたけれどね。
多分、お父様を宇宙での戦闘に出すのは反対なのだ。いくらロボットに乗っていようと危険な事に変わりはないし。
でも、お父様の選択と実力で得た力に文句なんて付けられる筈がない。
だから、ロボットの話が出てからは、酒盛りの最中もずっと黙りこくって炭酸水飲んでた。
「形だけでも剣、欲しいですか?」
「あると戦いやすい。せっかくの人型なのに、攻撃手段が殴打になるからな。だが宇宙で使えるあのロボットサイズの武器は難しいだろう?」
「材料さえあれば、できなくもないですが……」
「なんならアーヴェントルクに相談してみようか?」
「お願いします。私も考えてみますから」
そんなこんなで、初日を終え、王子様達も夜の刻前には宴会をお開きにする。
明日からは本格的に訓練や準備が始まるし。
片付けは私の側近達が動いてくれた。
「今日は君に良い所全部、持っていかれたけれど、明日からは僕達の本気を見せてやる」
って。ヴェートリッヒ様達はそう言って寝室に戻って行かれた。
他の皆さんも三々五々、用意された部屋に戻っていく。お風呂に行った人もいるみたいだ。
「では、リオン、僕は先に戻ります。どうしますか?」
「俺は、まだちょっと用事がある」
「解りました。マリカ。またよろしくお願いしますね」
フェイはリオンの返事を確認すると立ち上がって手を振る。魔王城での合宿期間中はずっと使ってたリオンとの共同部屋で寝るつもりらしい。
「じゃあ、オレも行くわ。じゃあな」
「ああ……良い夜を」
アルも寝室に戻っていった。
残るのはお父様、お母様。
そして、私達。
さっきまでの和気藹々とした空気は一変。
言葉にできない緊張感が、私達の間に広がっていた。




