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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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大聖都 アースガイアの一番長い夜 9 光の導く先

 上位精霊石には人格がある、というのは実は間違いで。


 精霊石というのは、人間の肉体をナノマシンウイルスの力で結晶化したものということになる。

 どのような仕組みで作り替えられているのかは、解らない。

 知っているのは『神々』だけで多分、彼ら自身でさえ、どのような理屈と働きでそれが行われているのか、科学的に説明せよと言われても、解らない、できないのではないだろうか?

 ただ、このようにすればこうできる、という知識や感覚が先にあり、その通りに実行することで思う通りにできている。


「精霊の力、ナノマシンウイルスを使っているように見えて、実は使われているのではないか、と思う事がありますよ」


 というのは魔術師であるフェイの実感だろうが、とにかく人間にナノマシンウイルスの使い方を教える為の存在として、上位精霊石が人格を持っていることは多い。

 最高位の王の精霊石は地球の人間が変化したもので、『精霊神』達には腹心に近いらしい。一方で今現在、魔術師が使っている杖の石、その多くはこの星に移民した初期の人間達が変化したもの。

 今のアースガイア人の祖である移民が大陸に降りた黎明期。

『精霊神』も力を貸しはしたが何もない土地を開墾し、家を建て、国を作るのは簡単な事では無かった。

 故に才能のある人間が死後(?)その身を捧げ精霊石となって人々の暮らしを助けた。

 七国が軌道に乗ってからは、王族を精霊との経路として一本化する為にそれらの石は回収されたけれど『神』と『魔王』の降臨による『精霊神』の封印によって、人々が困窮した為『星』が『精霊国』を通じて魔術師と精霊石を派遣、人々を助けさせたのだという。


 精霊石が精霊に働きかける為には、人間の気力、生きる力が必要だという。

 それは精霊石と人の契約がしっかりと出来ている場合には、普通に、何も意識することなく精霊石に注ぎ込まれるが、契約者である人間に不具合、不老不死などがあったりすると上手く経路が繋がらない事がある。

 その場合、精霊石は自然の力と自分自身の力をもってできる限り魔術師を助け、力を使い果たすと休眠に入るそうだ。

 休眠に入るとほぼ術が使えない為、魔術師はそれを能力限界として引退、次世代に杖を継いだりする。


「この杖も休眠状態、という訳では無いのですか?」

『違う。ライエルストラム、光の王の杖には人格がない。

 記憶、意識を失っているということでさえない。

 本来あるべき石を動かす知能部分が抜かれている、と言っていい。故にこの杖は抜け殻、なのだ』


 フェイの問いに否定で応えるのは最上位の精霊石。風の王の杖、シュルーストラムだ。

 話の流れからすると彼自身も地球生まれで、その身を捧げた元人間という事になるのだろうけれどその記憶も自覚も無いという。

 精霊石に『成る』時、大抵の人間はその変化に耐えられず、意識や記憶を失う。その為『精霊神』や『星』は人格や記憶を保存して、空白になった意識に刷り込むことが多いらしい。

 どうやっているのかは人の身では知る由もないが。


「抜け殻……。それって、エルディランドのダーダン様が持ってたのと同じような奴?」

『ああ、そうだな。アレとほぼ同じだ。

『神』は夜の力にアクセスする能力を持つ知能部分を必要として抜き去ったと言っていた。おそらくライエルストラムも同じ過程で『神』の元に在り、何かに使われているのだろう。そしてその抜け殻を『神』は人の世に生きる『子ども』に預けた』

「『神の子どもは強いけれど弱い』という奴ですか?」

『ああ。勿論、精霊術を使わせることで有利な立場を作れるようにしたり、という意図もあっただろうが』


 でもプラーミァのハイファは魔術師として生きることを望まなかった。ダーダンのように仕事にこっそり使う事もしなかった。自分の力で商人として生きることを選んだのだ。


「この杖、どうすればいいと思う?」

「まあ、一番はマリカの帰還を待ってヒンメルヴェルエクトに返す事、でしょうね。

 王の杖の帰還を国は待ち望んでいるでしょうし、全ての王の杖の所在が明らかになったので、上手く活用すればコスモプランダーとの戦いの時に、有利になるかもしれません」


 大陸の七国に、七本の王の杖がある。

 皇国と水国は王家に杖が残されているが、地国の杖はエルディランドの酒蔵の魔術師が所有。火国の杖はヒンメルヴェルエクト、夜国の杖はエルディランドの『神の子』が持っている。風国の杖はフェイの手に在り、そして最後の杖が今、ここにある。


「実際の所、各国の王の杖はそれぞれの王家に返した方がいいと思うのですが、それぞれの杖が主を定めたりして簡単にはいかない話になっていますからね。

 僕も風国に戻るか、あるいは伯母上に杖を返さないといけなくなりますし」

「ダーダン様は、目も治ったし、必要とあれば杖をアーヴァントルクに返却する、と言ってたけどな」

「そうなるとまた面倒な話にはなりますけどね。

 プラーミァとエルディランドは自国の王の杖を他国の一魔術師が持っているのも嬉しくないでしょうし」


 現時点で七国の王の杖の行方を把握しているのは大神殿だけである。

 いずれ各国に周知する必要はあるにしても、所在が知れれば絶対に「返せ」「嫌だ」という問題が発生するだろう。


『アル』

「なんだ?」

『この杖をお前が使ってみるつもりはないか?』

「え? オレ?」


 どうしたものかと真剣に悩んでいた二人に、正確にはアルに。

 風の王の杖が問いかける。


「使えるの? これ? 死んでるって言ってなかった?」

『ああ。多分、お前であれば使えるだろう。

 光の魔術は夜の力と対で、幻覚を見せたり、幻術を使ったりもできるし、灯りをともす、電気を生み出すなど応用範囲が広い。お前が使えるようになれば便利になると思うのだが』

「オレには魔術の才能ないって思ってたけど」

『お前はある意味マリカやリオンと同じで、オールマイティ。

 こちらの世界で言うと全部の精霊と相性がいいのだ。能力の基本値も高いから普通の精霊石では支えきれないしな。

 この杖は主不在だから、お前が望むなら、光の精霊神(キュリッツオ様)に頼んでやる。

 術の使い方を教えて貰う事はできないが、それはフェイや書物で補える。

 光の精霊神(キュリッツオ様)も力を貸して下さるだろう。お前の事を気に入っているしな。

 他の精霊とは繋がりにくくなるがかなり高レベルで力を使う事ができるようになるだろう』

「え? 光と繋がっちゃうと他のことができなくなる?」

『まあ、そうだな。今、お前が持つ『予知眼』は人や物が持つ精霊の流れを見る力だ。

 全ての精霊に経路を持つからこそ、強弱を感じ、それが生み出す先を過程無視で見通すことができる。本来ならば精霊の獣(アルフィリーガ)精霊の貴人(エルトリンデ)だけが持つ能力だ。

 光の杖と経路を結び、一つの精霊に特化してしまうとできることは大きくなるが、予知眼は失われるし、他の精霊石を使った品は使えなくなる』


 ハッとした顔でアルが触れたのは腰に帯びた剣だ。

 魔王城で使用していた剣を今、城から持ち出してアルが所持している。

 勿論、帯剣の許可はとった。アルの人格を知っているから各国とも素直に許可が下りたそうだ。

 以降、何度かアルの危機をこの剣は救っている。

 精霊石がついており、人格があるという『元精霊国騎士団長の剣』

 剣と杖を交互に見返して暫し。

 一度瞬きをした後、決意したらしいアルは


「なら、オレはいいよ」


 光の王の杖を、スッと自分の真向かい。フェイとシュルーストラムに向かって押し出す。


『いいのか? 自分も精霊の力が使えるようになりたい。フェイやリオン達のように精霊の力が欲しい、と思っていたのだろう?』

「あ、それ、エルフィリーネから聞いた? まあ、うん。昔はそう思ってたんだけどさ」


 どこか、含んだような苦い笑みがアルの頬に浮かび、その視線を泳がせる。

 別にシュルーストラムはエルフィリーネから聞いたわけではない。

 ただ、側にいて、見ていれば解る。

 自分だけ、皆と違う、置いて行かれるのではないか、と思い悩む少年の苦悩が。


「今は、さ。いいんだ。オレ、今の自分がけっこう好きになったから」


 昔は、ただただ嫌いだった。勇者と同じ色を持つという髪も、精霊を見る瞳も。人々が貴ぶ全てが彼を傷つけるものだったから。

 だが、兄弟達に救われ、マリカと出会い。魔王城で暮らし、幾多の冒険を経て力が役立つ場面も、力に守られる時もあった。

 そして今は自分の出生、愛されて生まれてきたことを知り、地に足がついた、と彼は言う。


「ハイファじゃないけど、今まで無くてやってこれたし、自分が持っていたもの全てと引き換えにするのも怖いし、明日かもしれない決戦にいきなり得た力で役に立てるとも思わないしさ」


 目を閉じ、胸に手を当て誓うように。


「オレは今までマリカや兄貴達と育てて来た、自分自身を大切にしたい。

 今まで自分を守ってくれた力で、皆の役に立ちたいんだ」


 晴れやかに軽やかに空を飛ぶ『精霊達』

 自分は、どうしたって人間でしかなく、彼らのように空を、宙を飛ぶことはできない。

 でも、それでいい。

 地に立つ人間だからこそ、できることがきっとある。


「光の王の杖がどうっていうわけじゃないけど、今のオレには無くていい」

「解りました。これは後日、ヒンメルヴェルエクトに返却しましょう」

「頼む」


 フェイは弟の決意に頷き、包みを閉じ直す。

 アルは知るまい。


 フェイは長いこと彼に、嫉妬にも似た羨望を抱いていた。

 真実を知ってからは特に。

 マリカやリオンと同じ血を持つ地球最後の子ども。

 精霊に愛されし者。

 彼を初めて見た時の事は今も忘れられない。

 汚れ、くすんでいながらも光を放つ黄金の髪。虹を宿したような緑の瞳に魅了された。

 リオンが命がけで救おうとした存在。ありとあらゆる精霊に愛されし者。

 真実を見通す魂にもずっとずっと憧れ、敬意を抱いていた。


 もしかしたら、アルは自分より優れた魔術師になれたかもしれない、と思いながら。

 微かな安堵と、心の片隅に持っていた小さく暗い思いと一緒に杖を包み込んだのだった。


 二人は知らない。

 アルの持つ剣の精霊石もまた、王の杖と同じく『地球人』が変化したものであることを。

 志願したのはまだ若い大学生で、王の杖となる力は得られなかったものの、人々を守るという強い意志を買われて宇宙に送られたことを。

 それが誰かはもはや記憶にも記録にも残っていない。

 誰も知る必要のないことであるから。


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