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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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皇国 アースガイアの一番長い夜 4 星の翼

 精霊神は安堵した。


 どうやら、七国王家の者達は自らの過ちを学び、学習しているようだ。

 我が子らの成長を見やり、その声を聴き己の心配が杞憂であることを感謝していた。『神』なる者が誰に感謝を捧げるのかと言えば困るけれど。

 大神官にして聖なる乙女マリカと勇者の転生リオンが、身を挺して星を守ろうとしている。

 それを当然として享受し、丸投げしていいと思っている者は……少なくとも王家にはいないということを。


 アルケディウス大神殿、聖域。

 緑を司る精霊神も満足げに頷くと、


「聞いていたかい? ライオット?

 流石、頼りになるね」


 目の前に立つ子孫に、新緑の森に降り注ぐ木漏れ日のような、煌めく笑顔を向けた。


「はい。国に関しては父上や母上、兄上達に任せておけば問題はない。

 そう解っていますし、信じています」

「だから、君は自らのやるべきことをしたい、というんだね?」

「はい。我らの父にして太祖。『精霊神』ラスサデーニア様にお願い申し上げます」

「聞こう。必ず叶えると約定はできないけれど」


 春色の優しい笑みを受けても、目の前に立つ男の固く凍り付いた表情は解ける様子を見せない。

 我が子の決意を見守る少年の姿をした父を前に、膝を折り、頭を下げ。

 確固たる決意と共に彼は告げる。


「どうか、俺に『魔王の力』をお授け下さい」


 と。



「『魔王の力』か。それは親友と同じ姿になって、共に星の海で戦いたい、と。

 そういう意味だととっていい? ライオット?」

「はい」


 確かめるような守護神の問いにライオット、と呼ばれたこの国の皇子は神妙な顔つきで頷いて見せる。


「宇宙からの侵略者 コスモプランダーとの戦いに際し、宙で戦うべきだという『神』の言葉に異論はございません。

 マリカとリオンがその任に就くべきということも、呑み込めた訳ではありませんが、必要な事であり、本人達が納得しているというのであれば、受け入れるべきなのでしょう」


 無論、精霊神はそう言いながらも、声に宿る不満げな意志を見逃さず聞き逃しはしない。


「リオン達を説得しようとして失敗した?」

「俺があいつらがこうすると決めたことに対して考えを変えられた試しなど一度たりともありません。奴らは地上に取り残される者の思いなど知りもせず、いつも思うまま、空に羽ばたいていくのです」

「……そうだね。あの子達はどちらも我が強い。親に似て、一度こうと決めたことは決して曲げない頑固さを持っている。君も大変だったろう? ライオット」

「あいつらと俺は、どうしようもない似た者同士です。俺自身も与えられた力に奢り、親の心配など気にも留めず、自分は一人で生きている、生きていけるのだと思っておりました」 


 同情するような精霊神の眼差しは父である皇王のそれをライオットに思い出させた。

 自分自身の幼さを顧みながらも、確かに与えられていた父母の愛を感じるのだ。


「それに比べたら、あいつらは自分を助ける者、支える者への恩義や感謝を知っているだけ俺よりもまだマシな方です。

 ただ、それが行きすぎてただ、自分を大切にしようとしないことには腹立たしくもあります」

「それに関しては、二人を責めるのは酷かな。

 僕ら『精霊』というのはそういう存在だ。特にあの子達は生まれた時から、将来を定められ選択権を剥奪されていたとも言えるから」

「であるが故に、俺は決めているのです。定められた宿命と呼ばれる何かに抗っても娘を、親友を。必ずや幸せにしてみせると」


 くすっと、小さな笑みが零れた。明らかな喜色。

 この時、ライオットは自分の選択が間違っていないことを実感していた。

 自分のどうしようもない我儘を叶える為には、神々の助力がいる。二人にいつも苛酷な運命を強いる『神々』は好きになれない。

 むしろ嫌いだけれど。

 その中で話を聞いてくれそうな『神』はきっと彼だけだろう、と。

 アルケディウスの祖。

 緑の精霊神、ラスサデーニア。


「君の思いは僕達にとっても嬉しいし、感謝に値する事だ。

 でも、それと君の願いを叶えるかは別」


 とはいえ、相手は『神』だ。本来なら交渉の場に立つ事さえ難しい事も承知していた。

 人の容をとってくれている、とはいえ彼らは決して自分達と同じではないのだから。


「僕達は、二人が可愛いと思っている。

 僕らと同じ運命を背負いながらも命と心を、血の通った肉体に宿す希望と言っていい。

 故にマリカとリオンに負担を強いる選択は望んでのことじゃない。

 他に方法がないからこその苦渋の選択なんだ」

「はい」

「その肉体を変えられる事はあの二人にとっても喜ばしい事ではない。

 むしろ、皆の為に仕方ない、やるしかない、とようやく呑み込んでいる苦悩。

『精霊の宿命』に君を巻き込むことを二人は絶対に望まない」

「はい」

「そもそも、僕には改造処置。『神』が言う所の魔王化は不可能だ。

 あれは体内の『精霊』の力、つまりナノマシンウイルスの機械的な部分を改良・増幅し、弱くて脆い人間の身体を強化、置換することだからね。頼むなら『神』レルギディオスに頼むべきだ」

「既にできないし、やらないと拒否されております。

 そんなに簡単にできることではないし、お前を変えることはリオンとマリカを悲しませることになると」

「だろうね、奴の判断は珍しく正しい」

「船に乗って共に宙に赴き、助けてやれと言われております。

 それならお前の心身を傷つけることは無いし、危険は伴うがマリカとリオンも心強いだろうと」

「でも、それでは嫌だと、お前は言うのだね?」


 我が子を諭すような問いかけにライオットは、「はい」と返事をして顔を上げた。


「俺の前で、アルフィリーガは弱みを殆ど見せることはありません。

 ただ、一度、奴が弱音を吐いたことがあります。

 自分とマリカはいつか魔王になるやもしれない。その時が来たら止めてくれ、と。」


 あの時、「どういうことだ。冗談ではない」と怒った自分に、奴は「もしもの話だ」と誤魔化した。

 でもあれがこの日、この時の事を言っていたのであれば、滅多に人に助けを求める事の無い親友の数少ない願い。

 叶えてやりたい。いや、絶対に叶えると、彼は心に決めていた。


「あいつの強さは誰よりも俺が知っています。ですがどんな勇者であろうとも、一人で戦い勝ち続けることはできない。それは、強さ云々ではなく、純粋にその背を守る者がいないからです」

「それはそうだ。少をもって多を制すのは、生半可なことではない」

「数百年前から、俺は幾度となくアルフィリーガにそれと伝え、奴もそれを理解してくれてきたと思っていたのですが……」


 かつて、世界で一番強いと自惚れていた自分でさえも、魔術師や神官の補助があってこそ戦えていた。

 アルフィリーガが今もそれを解っていない、とまでは言わないが、それでも、他者を傷つけるくらいなら、自分が全て背負う、と考えるあいつは今回も一人で戦う事を決断した。

 けれど皆の為に先頭に立って突っ走っていく獣には、傍らに立ち、その背を守る者が寄り添うべきなのだ。


「正直に言えば、魔王になりたいというのは俺の我儘に過ぎません。

 分かっています。

 皇子として国を、星を守りたい気持ちは確かに有りますが、それより何より俺はあいつに二度と置いて行かれたくない!

 あいつを二度と失いたくないだけなのです」


 アルフィリーガと違い、星の為の崇高な献身など、自分には無い。

 ただ、子どものような我儘で、大好きな友達の為に側にいたい、力になりたいと願っているだけなのだ。

 その為に、妻と子を悲しませることになるかもしれないけれど。

 それが自分にとって何よりも大事な生きる縁である。


「ですから。どうか、俺に力をお与え下さい。

 星の海で、奴と共に戦う為の力を」


 地上での戦いであれば『神』になど頼らない。

 どんな敵が相手だろうと、自分の腕と力で、未来を切り開く自信がある。親友と一緒ならば。

 でも、それが不可能であるからこそ。

『精霊』の領域に足を踏み入れねば並び立つ事さえできないと解っているから。


「別に僕らは、献身や忠誠を民に、子ども達に望みはしない。

 願うのは自分の足で歩み、自分の意志で、夢と願いをもって生きる事。

 ただ、それだけだ」

「アルフィリーガ、リオンと共に歩み、幸せに生きる事。

 それが俺の夢であり、願いです」


 戦士ライオットは主義を曲げ、頭を垂れ、『神』に希う。

 全ては友を一人で戦わせない為に。


「マリカを、娘を守る為、ではないのだね?」

「娘は奴が守るでしょう。そう、告げて参りました。

 ならば俺は、娘を守るためにこそ、奴を守るのです」


 ありとあらゆる根回し、準備、お膳立てはしてきたつもりだ。

 今夜こそきっと、二人は結ばれる。

 それでも、『できない』ヘタレであるのなら、ぶっ飛ばしてやる、と物騒な彼の決意を読み取ったのか、くすくすと笑う少年神は、


「そうか……果報者だね。二人共。

 でも……」


 楽し気に嬉しげに、弾けるような笑みを零すと、自分に視線を向ける。

 妥協も容赦も一切ない『神』の眼差しを。


「繰り返すが、それとこれとは話が別。

 僕は、『精霊神』は、お前を『魔王化』できないし、しない。

『神』に中継することもしない」


 やはり『神』と『星』を直接口説き落とすしかないか。

 唇を噛みしめかけたライオットに


「でも、方法が無いわけじゃないよ。魔王化しなくても、リオンと共に宙で戦えればいいのだろう?」

「そんなことができるのですか?」

「お前は『七精霊の子』の中から生まれた最高傑作。

 二人を除けば、唯一『星の海』に、宇宙からの敵に手が届く可能性をもった『第三世代』一歩手前、だったからね」

「ど、どうやって?」


 精霊神は子に希望を指し示す。

『神』の役割として。


「まず。フェイと相談してみること。気休め程度だけれど、無いよりはましな手段がある。

 その間に、僕らも用意しておこう。

『星の海』を駆ける鋼の翼を」

「鋼の、翼?」

「マリカの力は、借りなきゃいけないかな?

 エーベロイスと、ジャハールにも連絡を取って。掘り出したら少し弄らないといけないよね。キュリオとナハトに相談しよう。

 ずっと羨ましかったんだよね。レルギディオスばっかりって。

 アレのデザインはやっぱり日本製が第一だから仕方なかったんだけど。

 なんだか、凄く久しぶりにワクワクしてきた」

「?」


 これでも、人よりは色々と見えないものが見えてきたつもりだった。

 物理的なものも、そうでないものも。

 読めない『神』の意図に首を傾げながらも、ライオットは胸を撫でおろす。

 何をするつもりかは解らないが、彼らは自分に宙で戦える翼を与えてくれるという。

 願いへの、希望への道は繋がったのだと。


「準備は任せておいて。

 君は君のやるべきことを、その心のままに行えばいい」

「ありがとうございます」

「これが、僕達の役割だから礼も遠慮も不要だ。ただ、ね」

「はい」

「一言だけ、忠告しておくよ。

 アルフィリーガ。リオンが君に願った救い。

『魔王』の意味を、勘違いしちゃいけない」

「え?」

「ある意味本当の戦いはコスモプランダーを倒した後だと、心しておくように」


 刹那、『精霊神』は消え、自分は現実へと戻された。

 彼が太祖の言葉の意味を本当の意味で理解するには、もう少し時間が必要だった。




「ソレルティア……。僕は、きっと弱くなったのだと思います」


 男に、大人になったが故に迷い、悩み歩を止めた少年が再び立ち、歩み始めるまでより長い時間が。


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