皇国 アースガイアの一番長い夜 3
七国の王家において、未来の継承者達が戦いの決意を固めていた頃。
「本当にライオットは行くつもりなのでしょうか? 父上」
木の国、アルケディウス。
皇女マリカと騎士リオンの出身国でもまた、皇王と皇王妃、
そして皇子と重臣達が今後の方針について語り合っていた。
「ああ。間違いなく、な。
奴は『神』の船に同行し、マリカとリオンの手助けをするつもりだろう」
兄にして次期皇王である第一皇子の問いに、父にしてアルケディウス皇王は静かに頷いて見せる。
「まあ、それ自体は別に想像から外れる事ではありません。
親友である勇者アルフィリーガの転生と娘の危機。
黙って見送るようであれば、それこそライオットではない」
「解っているではないか。トレランス」
「なんだかんだで、あいつの考え方にも慣れてきましたから。
これを最初の魔王来襲の時にできていれば、関係を拗らせることもなくて済んだと思うのですがね」
「終わってしまった事をとやかく言っても仕方ない。
昔の遺恨は忘れ、今後の為に力を尽くすと約束したのだ。
奴が宙に向かうのなら、我らはその背中。あいつらが帰る場所を守る。それだけの事でしょう」
当たり前のように告げる。
告げることができるようになった息子達を皇王は頼もしげに見つめる。
本当に、ここ数年の子ども達の成長には目を見張る。
何百年もの不老不死の間、何も変わらなかったというのにマリカがこの国に来てからわずか数年で、ここまで変わるとは。
それ故に失いたくないと思う。
大事な孫娘と、その夫。そして彼らの居場所を。
「そう言えば、父上。母上。
ソレルティアがもう臨月だそうです。
何でもここ数日中、いつ生まれてもおかしくないくらいだとか」
「そうか。確かにもうそんな時期であったか」
妻であるアドラクィーレから報告を受けたと告げる第一皇子の言葉に思い出したというように顔を上げた皇王は妻と、腹心の文官長にその視線を向けた。
「おそらくフェイもマリカ達と同行するはず。
一人で、しかもこの状況下で出産させるのはあまりにも気の毒だ。
任せてよいか? リディアトゥーラ。タートザッヘ」
「勿論でございます。陛下。
アドラクィーレや、ティラトリーツェの出産と同様に、城で準備をしております故、ご安心を。ただ、孤児院からリタを呼ぶことはできそうにありませんのでアドラクィーレやミュールズが指揮をとることになるでしょうけれど」
「今後、国家事業として行う予定の貴族の出産所。その良い先例となりますな」
「頼む。ただ、子どもは『精霊の力』による守りが弱く、コスモプランダーの毒の影響が出やすいという事もあるようだ。
くれぐれも気を付けるように」
「はい。司祭なども呼んで万全を期すつもりです」
「マリカ達が戻ってきた時に、フェイの子が無事に生まれていなかった、ということになれば顔向けができんからな」
「父上……」
噛みしめる様に告げた父である皇王に、第一皇子は呼びかけた。
「どうした?」
「私は……あの子達が戻ってきた時に、どんな顔をして出迎えてやればよいのでしょうか?」
「トレランス……」
「ずっと思っていたのです。
皇子であり、大人であり、王でありながら、子ども達に、弟に、姪に、その夫に、我々は苦難を押し付けている。顔向けができない、というのはこういうことを言うのではないのかと」
「その割に、兄上は彼らが無事に戻ってくることを疑ってはいないのだな?」
いたく真面目な顔で告げた兄の問いを、弟はカラカラと楽しそうな笑みと共に揶揄う。
「当たり前だ。相手はマリカとライオット。そしてライオットが唯一の親友と認める勇者だぞ。相手が魔王だろうと、宇宙からの侵略者であろうと負ける筈がない。
必ず勝って、星を守って戻って来るに決まっている」
「そうだな。なれば、いつも通りの様子で迎えてやるがいい」
「それで良いのですか? 父上」
「ああ。それをこそマリカ達は喜ぶだろう」
トレランスも皇王達と共に魔王城の会議に同行した。
『神の戦士』に身体を作り替えられる、人の理から外れる、という話も聞いた筈だがさして気にもしていない様子だ。
一方で、マリカとリオン。そしてライオットやフェイ達は随分と思い詰めている様子だった。蒼白の顔色も、死地に向かう覚悟を決めたような決意の眼差しも。
我々とは違う何かを知り、見つめているからこそだと、皇王は感じている。
けれど、あえて訂正しようと彼は思ってはいなかった。
いかに姿形、在り方が変わろうと、お前達はお前達なのだと、笑い飛ばし、家族としていつものように変わらず受け入れる。
それこそが、きっとマリカとリオン。
そして、もしかしたらライオットにとっても救いとなるであろうから。
「さて、忙しくなるぞ。ライオットの担当していた治安維持関係についてはトレランスが指揮をとれ」
「解りました」
「諸外国や『神々』との折衝などはもう暫く、私が責任を持つ。
ケントニスは次期皇王として、大貴族達と連絡を取り、事態の対応へと当たるように。
舐められるなよ」
「必ずやご期待に沿ってみせます」
「タートザッヘ。ゲシュマック商会やザーフトラクと連絡を取り合い、再びコスモプランダーの攻撃で被害が発生した時の対応や避難所の開所準備などを進めてくれ」
「かしこまりました」
「リディアトゥーラはソレルティアのことと併せて孤児院や、母子院などの安全にも特に気を配っていて欲しい。おそらくティラトリーツェは暫くマリカと双子にかかりきりになるだろうからな」
「お任せ下さいませ」
「さっきのトレランスの話では無いが、マリカ達が戻ってきた時に荒廃したアルケディウスなど見せられんぞ」
強い決意と意欲を持って、治安維持に動き出す子孫達。
彼らの前向きな思いを映像で確認していた『精霊神』は小さく笑って映像を消すと、
「聞いていたかい? ライオット?
流石、頼りになるね」
目の前に立つ子孫に木漏れ日のような柔らかく煌めく笑顔を向けた。
「はい。国に関しては父上や母上、兄上達に任せておけば問題はない。
そう解っていますし、信じています」
「だから、君は思い通りにしたい、というんだね?」
「はい。我らの父にして太祖。『精霊神』ラスサデーニア様にお願い申し上げます」
「聞こう。必ず叶えると約定はできないけれど」
春色の優しい笑みを受けても、彼の固い表情は今も解けないままだ。
膝を折り、頭を下げ、決意と共に彼は告げる。
「どうか、俺に『魔王の力』をお授け下さい」
と。




