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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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魔王城 神の哀しき提案

 私は一瞬、彼の発言の意味が解らなかった。

 魔王になる?


 呆然とした私より早く。

『神』レルギディオスの発言に、真っ先に反応を、怒りを露わにしたのはフェイだった。


「魔王? それは……どういう意味です!

 リオンの人格を、また魔王であったマリクのものと入れ替える、ということですか!」


 風の王の杖を構え、『神』の返答次第では攻撃待ったなし!

 と言わんばかりのフェイを、制止したのはほかならぬリオン。


「落ち着け。フェイ。そうじゃない」

「リオン! もしかして貴方はもう、魔王になれ、と命じられているのですか?」

「違う。だが……」


 言い淀むリオンを庇うように『神』レルギディオスは続ける。


「リオンはマリクと記憶を同期した。マリクがどうして魔王になったかも今は理解しているからな」

「どうして魔王になった、か? ですか?」

「『魔王』という表現そのものに誤解と、語弊がある。

 意味が伝わっていないということも解っている。

 だが、この世界にそれを表す相応しい言葉が見つからないから、そう表現するしかない。元々『精霊』『精霊神』などという名称も、子ども達に偏見なく自由に生きさせる為の言い換え、だし」


 前にアーレリオス様が言っていた。

 地球を離れた移民達が、先入観なく新しい環境で生きられるようにナノマシンウイルスとそれに纏わる現象を『精霊』『魔術』と置き換えた。と。


「『精霊』は地球の言葉で言うなら、ナノマシンウイルス。もしくはそれを使う能力者、結晶体である人工知能となる。

 その定義で、俺の言う『魔王』という名称を、無理やりこちらの言葉で当てはめるとするなら『上位者の意志により、特殊な条件下で戦えるように身体をさらに作り替えた能力者』。

 マリカ、お前にのみ理解できる言葉で言うなら――改造人間、ということになる」

「改造……人間」

「精霊神達もコスモプランダーの意志によって身体を作り替えられたが、この定義には当てはまらない。能力者の中でさらに強い力を発現させた者、ということになるだろう。

 エリクスとノアールは、魔王を作り上げる為の試験体だ。

 お前とリオンを宇宙に連れて行く為には身体を作り替える必要があった。その為にアースガイア人の身体で、どの程度までできるか。本人の了承を得て、無理のない程度の実験を行ったのだ。

 人工翼の増設、精霊を操作する回路の強化などを」


 エリクスはともかく、ノアールは了承を得たとは言えないだろうし、私やリオンを最初っから改造する気満々だったということだろうと、追及したい思いはあるけれど、今は黙る。

 話の邪魔をしてはいけない。


「お前達には実感がないだろうが、宇宙空間というのは人間が生存できる環境ではない。深い水の底、それよりもさらに苛酷な場だと思え。

 呼吸する為の大気もなく、大地の加護や人工太陽の補助も得られない過酷な環境だ。

 重力も無く、かつての『神の国』でも防御服を着て短時間の活動をするのが精一杯だった」


 レルギディオス様のいうことに嘘はない。

 人間の肉体は宇宙で生存できるようにはできていない。

 もし生身で宇宙空間に出れば、死あるのみだと、私の記憶は知っている。


「その宇宙空間で、短時間ではあっても肉体のみで活動できるように作られた存在が、我が息子マリク。初代の『魔王』だ。

 皆と逸れ、一人宇宙を彷徨う中、宇宙船本体であった私にはどうしようもないトラブルに見舞われることが少なからずあった。

 船外活動を行い、船の航行を助ける為に申し訳ないと解っていても、私はたった一人の協力者である息子、マリクの肉体に改造を施し、助けてもらうしかなかった。

 本人の了承を得たとはいえ、酷いことを、と今も悔いている」


 滅多な事では自分の非を認めようとしなかったレルギディオスが、はっきりと後悔を口にしたことに私は少し驚く。

 それだけ、彼も苦しんでいたのだろうけれど。


「アースガイアに辿り着いて後、私はマリクを『魔王』という役割に括った。

 本来であるなら私の片腕として大神殿を任せたいところだったのに叶わなかったのは、外宇宙用改造人間であったマリクの外見が、人間とは程遠いものになっていたからに他ならない」

「あ……」

「極温に耐えうる強化、ポリマー化された黒の肌、無重力空間で自由に動く為の人工翼。視界と呼吸を守る為のマスクとゴーグル。通信を確実に拾う為の(アンテナ)

 この異形としか言いようのない外見を持つ存在を、中世レベルの科学力と文化しか持たないアースガイア人が理解し受け入れるのは困難であったろう。

 故に『魔王』とするしかなかった」


『神』レルギディオスが、『魔王』という存在を作り上げた理由はこれで理解できた。

 仮想敵を作り上げることで、人を救う『神』という存在を受け入れやすくする。さらに、その敵に対抗する能力を持つ者として、『神殿』や『神官』の立場を強める意味もあったのだろうけれど。

 一番はきっと異形となった息子に生きる場を与えたかったのだ。

 人類の敵対者としてであっても。


「では、リオンとマリカに『魔王』になれ、というのは……」

「コスモプランダーをアースガイアに降ろすことは、絶対に避けるべきだ。

 奴らの武器はウイルス。目に見えぬ毒。対処が難しい。

 アースガイアの民に免疫があるとしても、継続して大量散布が続けば悪影響が出ないとも限らない。

 ラールを狙ったアメーバの話も聞いた。

 地球人の抵抗から何らかの学習を行い、対応策を練っている可能性もあるだろう。

 宇宙空間で戦い、アースガイアに降ろすことなく殲滅するのが、星とそこに生きる者達に傷をつけることなく守り切る唯一、そして最善の方法だと考える」

「宇宙に出る方法はあるのですか?」


 私は問いかけた。

『神』は地球に帰ることを願いその為に人々の力を集めていたことを思い出す。

 今はその計画を放棄し、残していたリソースをアースガイアに開放したけれど。

 宇宙船をこの星の素材に作り替え、根を張って数百年、下手したら千年の精霊神様やステラ様と違い、まだなんとかなるのかな?


「地球への帰還は困難であっても、大気圏外に座すコスモプランダーの元に辿り着くくらいであれば、皆の協力があればできなくもない。

 エリクスに預けてある城を、宇宙用の小型艦として修復する。

 同時に大聖都にある融合炉を掘り出して補助エンジンとし、大神殿を発射台としてエネルギーを集め、船を射出させる。打ち上げの時には防御壁を外さねばならず、やつらからの攻撃も予想されるが、こちらが先に本隊を叩き、殲滅できれば、我々の勝ちだ」

「そんなに簡単にいきますか?」

「ナハトの観測によると、大気圏外に存在する敵と思しき存在の数は巨大戦艦に相当すると思われる隕石状のものが一隻。小型戦艦と思われるものが十数隻以上。

 落下させた隕石などは周辺の星やデブリを改造しているのだろうということだ。

 奴らはおそらく人間と同じく、宇宙空間での単独、長期生存は不可能であるという予測は地球襲撃時からあった。地球の環境も微妙に適しておらず、奴らの思うように作り替える為に、ナノマシンウイルスを散布した。なれば今直ぐにアースガイアに降りて来ることもできまい。

 奴らがどの程度、宇宙での戦闘に対する機構を持っているかは不明。

 だが地球襲撃時、真理香先生がギリギリまで送ってくれた戦闘データ。精霊神やステラ、アースガイアに生きる人間達のバックアップ。

 何より、リオンの戦闘力と、転移術を駆使した機動力があれば、勝算はかなり高いと見ている」


 宇宙船を囮としてコスモプランダーの注意を引き付け、その間にリオンが単体でコスモプランダーの船を殲滅させる。戦略的には理にかなっている。けれど……


「けれど……その為にはリオンとマリカに、対宇宙戦闘用の改造を施す必要がある、とおっしゃるのですね?」


 そう、振り絞るような声で問うたのはフェイだ。

 さっきまでの、責め立てるような口調と比較すると、力がない。


「ああ。最低でもリオンの処置は必須となる。対コスモプランダーとの宇宙戦闘において現在有する唯一無二の戦力だからな」

「武器は?」

「ナノマシンウイルスの超高密度結晶体であるカレドナイトだな。

 それをビームサーベル、若しくは斧のような形に形成し、敵を切り裂く。

 またはエネルギーを射出する。

 マリカが側にいて地球に残るナノマシンウイルスの力を中継すれば、私が増幅して事実上無限大に近い力を使用する事が可能だ。

 無論、アースガイア人達からも力を徴収することにはなるが」

「マリカも同行、強化が必要ですか?」

「勝利の確率を上げるのであれば、マリカが宇宙船に乗り込み、リオンを援護するのが望ましい。

 私は宇宙船の操縦に専念することになる。他の精霊神達は星を守るのが精一杯。

 マリカが演算補助装置として宇宙船と接続して、今言った通り防御を行い、地球からのエネルギーを中継すれば、リオンが目的を達成する前に前に墜とされる可能性を減らすことができるだろう。

 まあ、船に残るマリカなら高度の改造を施さずとも直接接続すれば演算補助装置としての機能は獲得できる」

「なら」

「ただ、リオンを自由に動かす為に囮となる船には敵からの攻撃という危険が付きまとう。万が一墜とされた場合、マリカの生存確率を上げる為にはリオンと同様の宇宙空間で生存できる処置を施した方がいい」

「リオン以外の人間が、宇宙で戦うことはできないんですか?」

「さっきも言った通り、宇宙は人類が生存できる場所ではない。リオンですら、今の人間の身体で宇宙に出れば即死。改造処理を施して初めて生存、戦闘が可能になるだけのこと。

 普通の人間は改造処置に対する適性そのものが無い。改造する為の『精霊』の力も足りない。

 そもそも、宇宙船に乗り宇宙空間に出る事さえ普通の人間には困難だ。

 かつて70億の人間がいた地球でさえ、宇宙に出る人間には厳しい適性検査と訓練があった。

 アースガイア人で言うなら精霊神の血を引く王族や、精霊の加護を受けた魔術師であればナノマシンウイルスの補助を受けて宇宙船の中、なんとか生存、行動できるかもしれない。

 あとは、神の子ども(地球移民)の一部。

 けれど、それ以外の人間は宇宙船の中で動く事さえ難しい、いや不可能だろう」


 アルも、お父様も、フェイですら言葉が無い。

 彼の言葉が真実で、私達を可能な限り思いやった提案だと解るから。


 呑み込むしかない。

 ……宇宙に出てコスモプランダーを倒し、この星を、被害を最小限に抑えて守りたいと願うのなら。


 私とリオンが人間を辞める。

 それ以外にはないのだということが。



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