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【新装版】子ども達の逆襲 魔王城で子どもを守る保育士兼魔王始めました。  作者: 夢見真由利
第五章 保育士魔王兼精霊女神 始めました。
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大聖都 与えられた選択肢

 正直に言ってしまうのなら、私には一人の怪我人の為に泣くなんてこと今は許されてはいない。

 今回の襲撃では大聖都でも隕石落下による衝撃や、建物が倒壊して巻き込まれるなどして数十人単位で死者や怪我人が出ている。

 その中には大聖都に向かっていたグローブ座もいて、彼らは隕石の落下とそれに続く魔性の襲撃で数人の劇団員を亡くし、上演用の箱馬車も失っていた。


「申し訳ありません。マリカ様。

 お預かりした一座の財産を守り切ることが叶わず……」


 大聖都に辿り着き、私との面会が叶ってすぐ、座長のエンテシウスは私にそう謝罪した。

 地面に頭を擦り付ける彼からはいつもの饒舌さは姿を潜めている。

 言葉少なく謝罪の言葉を探す彼は、確実に今回の件について自分を責めているのが見て取れた。


「災害は基本的に人の手に負えるものではありません。

 貴方は限られた選択肢の中で、自分の為すべきことを全力で為したのです。

 その結果、悲劇は生まれてしまいましたが、あまり自分を責めないで下さいね」

「勿体ないお言葉……深く心に刻みます」


 ちなみに後でエンテシウスからその話を聞いたラールさん。


「マリカちゃん。その言葉、そっくり君に返すからね。

 まったく、人には優しいのに自分には厳しいんだから」


 と私を苦笑しながら諫めてくれたけれど。

 私自身、ブーメランだと解っているけれど。

 やはり自分をなかなか許すことはできそうにはなかった。


 ただ、そうは言ってもさっきも言った通り、私には一人の人間にいつまでも心を寄せることは許されない。いつまでも失ったモノに気をとられて、落ち込んで。

 さらに大きな被害を出すようなことになったらまさしく本末転倒だから。

 ラールさんの事についてはガルフやエリセを始めとするゲシュマック商会に任せ、義手作りなどに便宜を図る。

 ということで結論は出た。


 結婚披露宴の準備の為に来ていたラールさんだけれど、私とリオンの結婚式は無期延期になった。

 だから容体と状況が落ち着いたら、魔王城に行ってもらうことになっている。

 元々、図書館の司書を頼むつもりだったし、『星』のお膝元。

 一番色々な意味で安全な場所だから。


 住居や店舗が隕石で壊れた人たちにはテントなどで仮設住居を作って提供。

 足りない時には神殿部分も一部開放して受け入れる形にした。

 エンテシウス達も、大神殿に拠点を用意して馬車の修理を行いつつ、できる範囲で公演を行って人々を楽しませて欲しいと頼んできた。

 仲間を失った災害直後で大変だとは思うけれど


「それが我々、芸人の務めです。お任せあれ。

 別に箱が無くてもやれることは色々あります」


 と受け入れてくれた。

 神殿全体も犠牲者の葬儀の司式などで大忙しだけれど、細かい事はフェイやみんなに任せておこう。

 だから、


「俺達のことは気にしないで。

 君は君にしかできないことをやっておいで。あ、でも無理しすぎちゃダメだよ」


 ラールさんが言ってくれたとおり、私は私のやるべき事を行うべきなのだろう。

 例えば精霊神様との橋渡しを行うような。

 一通りの手配や挨拶を終えた私はエリセに後を頼み、神殿の奥に戻る。

 今度はアルケディウスに戻り、ラス様に面会をお願いしないといけないから。


「マリカ様。もしよろしければ一度館に戻り、休憩とお着替えをなさってはどうでしょうか?」


 切り替えたつもりではあったけれど、落ち込んだ顔をしていたからかな。

 カマラが気遣うようにそんな提案をしてくれた。

 第三皇子家に戻ればお母様やフォル君達がいる。

 確かに気晴らしにはなると思う。でも


「ありがとう。でも、早くに今後の方針を決めないと、各国も困るでしょうから」


 私は首を横に振った。

 コスモプランダーの襲撃があっても暦は進む。

 大神官として何もしないうちに新年を迎えてしまった。

 この星の新年は春だから、本来であれば今年の作付けが直ぐ始まる。

 予定通りだったら魔王城の島への植民も行い、冷凍睡眠中の子ども達も少しずつ起こしていく筈だったけれどそれもどうやら、見直しが必要になる。

 ラールさんの事例のように『地球移民』がコスモプランダーの標的となりうるのであれば起こすのはかなり危険。魔王城の島が隕石や魔性の標的になることも考えられるから。

 なんとか張った防御壁もいつまで保つか解らない。

 宇宙にいるコスモプランダーにどう対抗したらいいのか。

『神々』の裁可はなるべく早く仰がないといけないと思う。

 魔王城の島がどうなっているのかも気になる所だし。


「申し訳ありません。差し出たことを」

「ううん。いいの。とりあえずゆっくりするのはやるべきことをやってからね」


 そう告げて、私は大神殿からアルケディウスの神殿に移動。

 精霊石の間に向かった。

 成人式の為に聖堂に移動させていた木の精霊神ラスサデーニア様の精霊石はコスモプランダー襲撃の後、奥の精霊石の間に戻された。

 万が一の時に誰でも触れられる場所にあるのは危険だからね。


 カマラに外の見張りを頼み、一人で中に入る。

 余分な飾りのない、静かで清潔な精霊石の間。

 そういえば誰も掃除にも入れないのにどうしてこんなに綺麗なのだろう、とちょっとどうでもいいことを思う。

 淡いエメラルド色の中央に輝く緑柱石。

 木の精霊神様の精霊石は、内側から虹色の光を放っている。

 濁りやくすみも見られない。素人目だけど正常に稼働しているように思う。

 とりあえず、一安心。

 だけど、前のように精霊獣を出してくる様子はなく室内は静まり返っている。

 私の呼吸と心臓の音がやけに大きく聞こえて落ち着かない。


「ラスサデーニア様」


 不安を押し隠すように私は膝をつく。

 そして手を祈りの形に組んで目を閉じた。


「コスモプランダーはとりあえず退ける事が叶いました。

 ですが、これからどうするべきか、どうしたらいいか。

 私達は戸惑うばかりです。どうか、お導きを賜れないでしょうか?」


 自分自身に言い聞かせる意味も込めて、心ではなく言葉で呼びかける。

 と、同時


『マリカ!』


 不思議な声が脳裏に響いた。


「え? ラス様? どこにおられるんです?」

『君の目の前。疑似クラウドの中から呼びかけている』


 閉じた瞳を開けてみれば目の前の精霊石、その中の虹色の光がチカチカと瞬いていた。

 そして、水晶の前に浮かぶ立体映像。

 珍しい、というか初めてのパターンだ。

 アバターである精霊獣を出さないで、でも疑似クラウドの中にも連れ込まないで、こういう風に話しかけて来るっていうのは。


『君には苦労をかけたね。防御壁の展開、お疲れ様。

 おかげで、少しは対策を講じる為の時間ができたと思う』

「やっぱり、……時間稼ぎにしかなりませんよね」

『まあ、そう。奴らは多分、防御壁を破ることはできないけれど、逆にこちらからもあいつらに手出しができなくなる。

 きっと今頃奴らは、次に防御壁が開かれた時に、総攻撃をかけるべく準備していると思う』


 解っていた。

 防御壁を張って一時的にコスモプランダーの襲撃を押さえたとしても皇帝陛下がおっしゃったとおり根本的な解決とは程遠い。むしろ相手に時間を与えれば与える程、さらにやっかいなナニカをしでかしてくる可能性は高い。


『僕らもね、今は状況の把握と、大地に受けたダメージの修復やその他諸々で結構忙しい。

 精霊獣を作って出すのも億劫なくらいには』

「……申し訳ありません」

『その辺は僕らの都合だから、気にしないで。

 ただ、今の状況と今後の方針について話したいことがあるのは確かだ。

 今、国王会議が行われているのだろう?』

「はい。各国の王族の皆様が大神殿に集まっておられます」

『なら、明日、彼らを纏めて魔王城に連れて来れらる?』

「え? 魔王城に、王族の皆様を、ですか?」


 思いもかけない提案に、私は思わず目をぱちくり。

 淡いラス様の立体映像を見つめてしまう。


『そう。魔王城の存在については各国の王族にも話が行っている筈。

『神』と『星』の聖地。そこで『精霊神』と王族と『神』と『星』

 みんな集まっての会議をしようと思う』


 なるほど。

『精霊神』様達だけではなく『神』や『星』も交えての会議だから、魔王城でなんだ。

 ステラ様は基本城から出られないし『神』も同じ。

 各国王族を、全員疑似クラウドに入れたりするのも大変だから。


『君達に話をして、それを伝えて貰ういつもの方法でも構わないと言えば構わないのだけれど、ことは星の命運にかかわる話だ。

 僕らが一方的に決めていい事ではないし、彼ら自身の意見も聞きたいし、決断して貰わなければならないこともあると思う』

「解りました。そうお伝えしてきます」

『各国、王ともう一人まで入城を許可する。ってステラが言ってた。

 移動はフェイが作った転移陣があるだろう?

 あれを神から授けられたとして使えばいい』

「かしこまりました」

『それから各国王族とは別枠でライオット、フェイ、アルは連れて来るといい。ティラトリーツェ本人が望むなら入れて構わない』

「え? お父様やお母様も? なんでです?」

『……それは、君やリオンにも重要な決断をして貰わなければならないから』


 ラス様の声音が変わった。

 じんわりと、言い難い何かを噛みしめるような感じ。


「重要な決断、ですか?」

『そう。正直、僕達もどうしたらいいか、迷ってる。

 君達にかかる負担があまりにも大きすぎて。だから、当事者達の意見を聞きたい、っていうのが正直な所』

「君達、というのは私とリオン、ですか?」

『そう。

 君達に動いて貰うのが、最適解にして被害が少なくなる方法なのは間違いないのだけれど、あまりにも酷な話だからね』

「酷って……一体、そこまでの何を私達に望んでおられるんですか? 

 事前に教えて頂くことはできないんですか?」

『僕は……言いたくない。だから、どうしても聞きたいのならステラかアーレリオスに聞いて』

「ラス様……」


 精霊神様がここまで言うのだから、よほどのことなのだろう。

 やるべきことから逃げないとは決めたけれど、ちょっと怖くなる。


「アーレリオス様は、私は魔王城に戻るな。ステラ様と会うとトラブルになる、って言ったらしいですけれど、戻ってもいいんですか?」

『ステラにはステラの思う所があったのだろう。

 けれど、襲撃のせいで意図する通りにはいかなくなった。

 他に方法が無いってくらいの状況だったから、仕方ないんだけどね。

 アーレリオスが言う通り』


 ラス様の言葉で思い出す。襲撃の時のアーレリオス様のこと。


『ステラもその辺は理解している。だから今は落ち着いていると思うよ』

「あの時、ステラ様は何をしようとしたんですか? アーレリオス様があんなに怒るくらい」

『それも本人達に聞いて。どっちに聞くかは任せる。

 ただ、どっちも今は僕と同じ状況だから、魔王城かプラーミァに行かないと話せないとは思うけれど』


 なんだか、アドベンチャーゲームの分岐を思い出す。

 話を聞けるのはどちらか片方?

 聞かなかった方からは情報が得られなくなるし、親密度も下がるって感じか……。


『事前に話をする、しないも君に任せるよ。

 どちらにしても明日の会議では解る事だから、心の準備ができるかできないか程度のことでしかない』

「解りました。とにかく明日は国王陛下達を連れて魔王城に参ります」

『頼んだ』


 ラス様の姿は消えた。電源を落としたテレビの映像のように。

 さて、と一人になった私は考える。


「A 魔王城でステラ様の話を聞く」

「B プラーミァに行ってアーレリオス様の話を聞く」

「C ぶっつけ本番、どちらの話も聞かず会議に臨む」


 どれが一番正しい選択肢だろうか?

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