大聖都 これからについて
ここに集まっているのは大陸七国を統べる王の皆様方だ。
一般の人達は
『災害は収まった』『大陸を女神(?)が救ってくれた』
ととりあえず安堵しているようだけれど、流石に王様達はそうはいかない。
「あの虚空より響いた声の主は、かつて『神の国』を滅ぼした侵略者であろう?」
「はい。そうだと思われます」
『星』が見せた『始まりの夢』を見て事情を知っているからだ。
かつてあった『神の国』は宇宙からの侵略者によって滅ぼされ、神々はその生き残りを連れてこの地にやってきた。それがアースガイアの始まりだ、と。
「『神の国』は今のこの星よりもありとあらゆる点で優れた文明を所持していた。
しかし、その『神の国』の民でさえ、為すすべなく逃げ去るしかなかった敵に、我らは抗う事ができるのだろうか?」
「『神の国』が滅んだ一番の原因は侵略者 コスモプランダーがばら撒いた毒です。
今回も彼らは同様の毒をおそらく散布しましたが、今の私達には『神々』が下さった『精霊の力』がありますので、その毒はほぼ無効化されております。
なので現時点で『神の国』のように、為すすべなく民の多くが死し、蹂躙されるということはないと思われます」
「それは何よりだ。国民も安堵するだろう。ただ……」
「はい」
「コスモプランダー共は、遥か頭上、星の大海に座すという。
そんな彼方に在る敵を討つのは、星に向けて矢を放つようなもの。
我らは戦うという同じ場にすら立つことができぬのだ。
姫君以外には」
「……はい」
戦士国の皇帝陛下だけに、発せられる言葉には明らかな悔しさが滲んでいる。
それは悔しいと思う。
剣や武器、個人の武勇で戦って勝てる相手ではないのだから。
「『神々』は対コスモプランダーに何か策をもっておいでなのだろうか?」
「解りません。
今にして思えば『いつか来る』その来訪を予感してはおいでだったようですけれど、実際に倒す方法があるのか? 策をお持ちなのかは聞いたことがありません」
これはホントのこと。
『隠し事をしているんじゃないかな』と感じたり、寂しそうで、何かに悩むような目をなさったり。後で考えればあの時のあの様子は、と思う事はあるけれど『神々』は。
『精霊神様』『神』『星』はみんな、
私に。私達にコスモプランダーが来るかもしれない。
と口に出したことは一度も無かったから。
「では、マリカ様。『神々』に呼びかけ事情について伺う事はできないか?
実はフリュッスカイトではコスモプランダーの襲撃が落ち着いて以降、国を守っていて下さった『精霊獣』がお隠れになってしまい、幾度呼びかけても戻らない。皆、心配しているのだ」
そう申し出てきたのはフリュッスカイトのメルクーリオ様だ。
フリュッスカイトは元々精霊獣との関係が近かった。
それがいなくなったのなら心配だろう。
「フリュッスカイトもですか? シュトルムスルフトも精霊獣様の御姿が見えなくなってしまいました。
元から、あちらが姿を見せたくないと思っておられる時には存在さえも気付けないことはありますが、今回はいない、ということが皆に解るのです。これは、明らかな異常事態であると言わざるを得ません」
「アマリィヤ様。メルクーリオ様。
神殿に委託されている精霊石の反応はいかがですか? 光を失っている。かつての時のように静かで反応がない、ということはございますか?」
「いや、それはないな。輝きは姫君が復活させて下さった時のままだ」
「シュトルムスルフトも同じです。少なくとも、私が国を出るまではいつもと変わらない様子でした」
「他の国々はいかがでしょうか? 精霊石に異変が起きた、ということはございましたか?」
各国の皆様、一様に首を横に振る。
少し安堵した。なら少なくとも力を使い果たして消失、とか壊れたとかいうことではないだろう。
「であるなら、最悪の事態にはなっていないと思います。多分、コスモプランダーからの被害を食い止めるために、目に見えない所で加護を下さり、結果力を使いすぎてお休みになっておられるのではないかと」
「回復して、戻って頂くにはどうしたらいいのだ?」
「私が舞を捧げるというのが一番なのでしょうが、七国全てに今すぐ赴く、という訳にはまいりませんで、ご了承下さい。御国の皆様方が、精霊神様に感謝の思いを持って祈りを捧げれば、徐々に回復されるかと思います」
「確かに、姫君に今、我が国に来て舞を、と頼むわけにはいかぬな」
「はい。申し訳ありません」
本心では各国とも直ぐに国に来て欲しい所だろうけれど、今は無理だ。
曖昧にはせず、きっぱりと言っておく。
「私はこの会議が終わり次第、神々に面会が叶うかお願いしてきたいと思います。
アルケディウス皇王陛下。神殿の『精霊石』への接触をお許し下さい」
「無論だ。こちらからお願いする」
「この星は、我々の故郷にして住まう大地だ。
侵略の徒にやすやすと渡すわけにはいかぬ。
できることがあるのなら、総力を挙げて取り組む。この大陸に住む全てのモノ、者。誰一人として力を惜しむ者はいないだろうからな」
そうして、会議はあと少し、細かい事を話し合って終わりになった。
本来であるのなら新年を祝い、歓迎の意を表す舞踏会とかを行ったりするのだけれど、今回は無し。
各国ごとに打ち合わせや話し合いとかは多分、なさるのだろうけれど。
「明日の会議までに、対コスモプランダーについて『精霊神』様の見解を伺ってまいりますから」
議場から先だって退出しようと立ち上がった私に
「マリカ」
「!」
大神官、でも、女神、でも。マリカ様、でもなく。
立ち上がり、声をかけてきた人物がいた。
「ベフェルティルング国王陛下」
「少し、やつれた気がする。無理をしているのではないか?」
他の国の代表、国王陛下達も言いたいことがお有りのようだけれど、口を出さず見守ってくれている。
「そうでしょうか? 体調は悪くないですよ。一週間も寝呆けていましたので。
何も食べなかった割には、体型も変わってはいませんし、体重も減らなかったのは少し残念で……」
「其方に痩身などは必要ない。むしろ、少し肉を付けてもいいくらいだろう。食欲が無いのなら後で、プラーミァの果実を届けさせる。
本来なら、其方の結婚披露宴に使う予定だったのだがな。爪紅の花と共に」
「それは嬉しいですね。チョコナバナの甘さが恋しかったので」
ベフェルティルング国王陛下は、すっかり落ちて元に戻った私の爪色を見ながら少し、哀し気で寂しげな眼差しを見せた。
「其方は今後の星を守る戦いの要となる。
あまり無理はするな。我々にできることは遠慮なく振ってくれ。
先ほどのアーヴェントルク皇帝陛下のお言葉ではないが、この星は我々の星だ。
誰か一人、ただ一人に責を負わせるのは間違っている。と、もう星の民全てが知っているからな」
「はい。その時は必ずお知らせいたしますので、お力をお貸し下さいませ」
「ああ。借りは積み重なる一方だ。少しは返させてくれ。
そして」
静かに笑う。
抱き上げたり、頭を撫でたりもない。
いつも傍若無人な兄王様らしくない。
気遣うような、哀れむような瞳が少し嬉しく、少し寂しい。
「無事に事を片付け、楽しみにしていた姪の花嫁姿を見せてくれることを願っている」
「そうですね。結婚式はやはり事が全て終わってからになるでしょうし」
成人式も結婚式も今はそれどころではない状態だから、コスモプランダーの件が収まるまでは多分お預けになるだろう。
「黒いドレスも似合ってはいるが、純白の衣装の方が黒髪と紫の瞳にきっと映える」
「ありがとうございます」
私は丁寧なカーテシーでお礼を言ってのち、今度こそ本当に会議場に背を向ける。
再び呼び止める人はいなかった。
兄王様のお立場からして、あの励ましはけっこうギリギリだったろうな。と思う。
不老不死解除の時、色々と思惑、計算アリとはいえ兄王様は私の生贄を支持した。
大を守る為には小を切る。
国を守る為には必要な犠牲は受け止める。それが本来国王というものだから。
女神、とか精霊とか、大神官とか崇められても要はこの星を守る為の『機構』
道具に過ぎない。必要なら切り捨てられて当然と言える。
でも、許される範囲内で兄王様は私の未来を願ってくれた。
それは嬉しいと心から思ったのだ。




