大聖都 保育士魔王兼精霊女神(?)始めました。
ここから終章 第五章となります。
異世界開拓物語は少な目、かなりSFモードとなりますのでご了承ください。
『子ども達を、託します』
かつて、あの方は私にそう言った。
『私は子ども達を、愛しています。
我が手で育てたい気持ちも勿論あります。
でも、与えられた仕事と子育てを両立させるのは困難なのです。
どうか、力を貸して下さい』
我が子を間違いなくあの方は愛していた。
『いつか、子ども達が成長し、私の元に会いに来てくれることを楽しみにしています』
だからこそ私はその力に、助けになりたいと願い役割についたのだ。
子ども達との生活は驚きと喜びの連続だった。
思い返せば数えきれないほどに溢れて来る。
嬉しい事も、哀しい事も。楽しい事も、苦しんだことも。
これでいいのか、と思う時もあった。
子ども達が悪行を為した姿に涙し、自分が間違っていたのかと泣き暮れた日々もある。
今も自分のやってきたことが正しかったなどとは胸を張っていうことはできない。
けれど。
子ども達と共に紡いできた日々。
重ねてきた思い出は、間違いなく輝かしいものだ。
誰にも否定などさせない。
私は●●●●。
子ども達の幸せを願うモノ。
子ども達の成長を導くモノ
だから……守って見せる。絶対に。
今度こそ…………。
少し、夢を見ていたようだ。
「マリカ様。マリカ様」
カマラからの呼び声に、ハッと意識を覚醒させる。
立ったまま意識が飛んでいた。
我ながら器用なものだ。
「マリカ様、ご用意はできましたでしょうか?
各国の代表が集合いたしました。マリカ様のおいでをお待ちしています」
「解りました。直ぐに向かいます」
黒いドレスを軽く両手で整えて、埃を払うと私は歩き出した。
護衛のカマラと共に、慣れた廊下を歩く。
音は無い。静寂の中、聞こえるのは私のドレスの絹擦れの音くらい。
よそ見はしない。背筋を伸ばし、前を向いて歩き続ける。
壁の窓ガラスや鏡に、時折映る私の外見は見ない事にして。
大神殿の奥、国王会議用会議室。
大きな両開きの扉が私の来訪と同時、自動ドアのように開く。
勿論、人力で開けてくれているのだけれど。
各国の王族しか入れない特別な部屋に、私が足を踏み入れると同時、起立して私の登場を待っていて下さったであろう部屋の中の方達。各国の王族とその随員が膝をつく。
一人残らず。
祖父である皇王陛下、叔父である火国王。上段に立つリオンやフェイさえも。
「エル・トゥルヴィゼクス。
心よりの感謝と、新年の寿ぎを申し上げます」
国王会議の最年長者、アルケディウスの皇王陛下が代表として口上を述べる。
膝をついたまま、最上の礼を孫娘に向けて。
「星の危機を救った。いと高き、精霊女神
マリカ様」
マリカ 14歳。保育士兼精霊女神(?)始めました。
正直、この状況はあんまり納得がいっていない。
でも、やってしまったことは変えようがないし、話が進まないから今の所は受け入れてくれとフェイから言われている。
だから、まあ仕方なく。
「エル・トゥルヴィゼクス。
こうして、また皆様と顔を合わせることができますことを心から嬉しく思います。
無事に、とは言い難く、当初の予定からは随分と外れてしまいましたが」
最初だけは優美(?)に微笑み女神っぽく応じておく。
どうせ、直ぐに猫の皮が剥がれて幻滅して貰えるだろうし。
「皆様にはご心配をおかけしました。
また、今回の未曽有の脅威に対しての適切な対応に『神』と『星』と『精霊』の御名において感謝申し上げます。
皆様のお力が無ければ各国の混乱は今よりも遥かに大きく、また深刻なモノになっていた事でしょう」
「いえ、神々と大神官のお力無くば、それ以前。
宙からの侵略者を前に、我らは成すすべもなく蹂躙されておりました。
七国全てに生きる民、全てに成り代わり御礼申し上げます」
これを各国王代表として告げたのが皇王陛下、お祖父様だからホント救いがない。
コスモプランダーの襲撃をとりあえず退けてから約一週間。
星に防御壁を張ったあの日から、どうやら私は『精霊神』と同格の化身、精霊女神なんて呼ばれる立場になってしまったようなのだ。
「堅苦しい挨拶は短めにしておきましょう。今は、各国の状況把握と今後の対応について話し合わなければならない時です。どうか立ってお席に付いて下さい」
この場のトップ。
大神官に告げられたことで国王様達も礼を解き、席に戻って下さった。
私もリオンが引いてくれた椅子につく。
精霊女神と呼ばれることに喜んだり、慄いている暇はない。
まあ、心底嬉しいなんて思えないんだけれど。
「私を含め、現状確認と状況の共通理解を行いたいと思います。
各国、礼儀や順番などはあまり気になさらず、忌憚のない意見交換をお願いいたします」
コスモプランダーの脅威は、まだ本当に消えたわけではないのだから。
「宇宙からの侵略者。神々が呼称するコスモプランダーの襲撃から、今日でちょうど一週間となります。
本来なら、会議の前に新年の儀式と祝いの舞踏会を行う所ですが今年は省略することをお許し下さい。
何分、私が目覚めたのも昨日の事なので」
「いえ。星全体に守りを与え、侵略者を追い払うという偉業を為して頂いたのです。
我らなど、大した役にも立てず本当に申し訳ない」
私の挨拶と謝罪に、悔しそうな表情を浮かべ唇を嚙みしめるのはフリュッスカイトのメルクーリオ大公閣下。でも、
「それは違います。各国で皆様が適切に対応して下さったから。そして何より地上から私に気力を送り、力を与えて下さったから、なんとか叶った勝利なのですから」
私は全力で否定しておく。
防御壁を張り、とりあえず星への侵入を防いだのは一応私かもしれないけれど、地上の皆さんとリオンの援護がなければ、間違いなく途中で墜ちていた。
「各国の被害状況などを教えて頂けますか? では、アルケディウスから季節回りで」
長テーブルも基本季節巡りで席が配置されている。促しを受けて立ち上がったのはアルケディウスの皇王陛下だ。
「アルケディウスは成人式の関係で、皇族の対応と精霊神様の守護が後手に回り、また宙からの星が数多く落とされたせいか、被害に関しては軽微とはいえないものになりました。
家屋倒壊が半壊なども含めて数百件。隕石の落下による直接間接の死者は大陸全体で五百人に達しております」
「それほどになりましたか……」
改めて聞く被害の大きさに眉をひそめた私を慰める様に皇王陛下は続ける。
「ですが、王都での被害者はそれほど多くはありません。
来賓方々も、式典の為訪れていた貴族も全員無事で、帰国、帰郷が叶いました。
隕石の半数は王都近辺に落ちましたが被害の多くは救出の手が届きにくかった地方に集中しています」
あの時はとにかく星を閉じるのが精一杯で、被害状況まで頭が回らなかった。
暴れるだけ暴れて気絶した私をフォローして下さった皇王陛下やフェイ達には感謝しかない。
「大変な時だったにも関わらず、アルケディウスには誠実で適切な対応をして頂いた。この礼は必ず返そう」
「ありがたいお言葉です。エルディランド大王陛下」
「せっかく、成人式に来て頂いたのに、なんのお持て成しもできなかった上に、お力をお借りしたこと、お詫び申し上げます。スーダイ様」
皇王陛下と一緒に私も頭を下げるとスーダイ大王様は静かに首を横に振る。
「いや、こうして皇女の無事で、麗しい姿を見ることができただけで十二分に報われた。
成人式のドレスをゆっくりと堪能することもできなかったが、その服も素晴らしいな。
見慣れぬが、凛々しくも強い意志と気品を感じる。
皇女によく似合いだ」
「ありがとうございます。
成人式のドレスを動きやすく直して貰ったものなのです。これから暫く落ち着かない日々が続きますので」
ドレスを褒めて貰ったことにお礼を言いながら、私は胸元に手を当てる。
心臓が小さな音を立てた。
実は今のは嘘。
このドレスが襲撃の日に来ていた成人式のドレスだったのは間違いないのだけれど、仕立て直して貰ったわけではない。
裾の長い貴婦人の装いだった成人式のドレスから、優美ではあるけれど膝上ミニスカートへ。
ゴシック風の前開きラッフルスカートはお尻から膝裏を覆ってくれて、上品さを醸し出しているけれど、前は膝も出るデザインで、このまま敵を蹴り飛ばせそうだ。
ちょっとゴスロリの入ったデザインは、魔法少女の戦闘服といった感じ。
余分な飾りは無い。お母様からもらった水水晶のイヤリングとお父様が下さったブレスレットだけだ。
この服は、私があの日、空の上で戦っていた時には、既に変わっていたらしい。身体に驚くくらいしっくりと馴染む。
お母様も驚いていた。
流麗だけれど中世異世界風とは異なる動きやすい、戦う者のドレスへの変化。
黒の長髪は前と変わらないけれど、マンガかアニメのようなメタモルフォーゼは服だけのことではない。
……つまり、私自身も変わっているのだ。
そんなことができる存在へと。
戦え。子ども達を守れ、という意志と共に。




