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大聖都 星の精霊女神

 私達が転移術で大聖都に戻った時。


「な、なに? これは……」


 大聖都は思っていた以上に悲惨な状況になっていた。

 というか、想定外。

 神殿のあちらこちらが、隕石と思しきもののせいで崩れているのは、まあいい。

 良くはないけれど、石造りっぽくて、でも実はナノマシンウイルスで再現されたそれはかなり丈夫で。建物崩壊レベルで壊れている訳でもないから。


 ただ、予想外なのは人けが殆どない事。

 留守を任せて、いつもなら清掃や雑事に働いている筈の神官達や下働き達の姿が殆ど見えない。


「皆さん! どこにいるのですか?」


 私が声を上げると外から人の声がする。


「うわあっ! な、なんだこれは!」

「悲鳴?」

「外だ!」


 慌てて私達が外に飛び出していくと、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

 神殿の前広場。

 崩れた一角には小さなクレーターが穿たれ、周囲には遠巻きに眺める司祭や騎士達。

 空気も淀んでいる。

 さっきまで銀の雪が舞っている。くらいで感じなかったけれど、今はなんだかドロドロとして。沼地かスライムの中にいるようだ。

 これ、本当に健康被害ないのかな?


 と、そんなことをしている間に岩から染み出るように何かが出てきたのだ。

 うにょうにょと蠢く、黒いアメーバ? が。


「何があったのですか! 報告を!」


 私達が外に出て、状況確認の為に駆け寄った直後。


「げ! 大神官?」「神官長達まで? 何故、ここに?」


 クレーターと落下した隕石を遠巻きに見つめていた騎士や神官達は、何故か。

 私達を見つけた途端に顔色を蒼白に変えた。

「げ!」って何? 「げ!」って!


 苛立っていたのは私だけではない。

 司祭や神官を束ねる神官長、フェイが厳しい視線を向けた瞬間


「も、申し上げます。大神官様! 神官長様」

「あ! バカ! 止めろ!!」


 場にいた騎士の一人が私達に駆け寄ってくる。

 一瞬の逡巡、けれど彼は意を決して教えてくれた。


「大神官様達、神殿の皆様の御留守の間。一部の司祭が反逆を企て、大神殿を掌握せんと企てました!」

「え?」

「止めろ! お前も同罪だぞ!」

「構わない! この状況を打破できるのは大神官様達だけだ」

「煩い! 止めろと言って……」

「黙りなさい!」


 彼の背後で、必死に止めようとする誰かの声が聞こえた気がするが、告発者は止まらない。

 さらには、私の背後で、何かが壊れたような音が聞こえた気がした。

 そして沸き立つ氷点下の冷気。

 フェイの怒りはまるで見えない吹雪と化したように、反逆者達を氷漬けにする。

 一方で、彼らに渋々付き合っていた、もしくは止めようとしたまともな者達は逆に口々に私達に救いを求め始めた。


「一般の職員や神官を人質に。大聖都の奥中枢に入り込もうとしたのです。

 兵士の多くが薬を盛られ、動けなくなっていました。止めようとした者と、反逆の司祭達が争い始めた時、天が瞬きの間に夜に染まり、天から星が降り注いできたのです。いくつも。いくつも。まるで雨のごとく」

「流星雨は大聖都全体に降り注ぎ、神殿と街を崩しております。

 これは、きっと『神』の怒りです!」


 慄きながらも口々に反乱の司祭達を糾弾する兵士達。

 その一方で司祭達は開き直ったのだろうか?


「だ、大神殿をアルケディウスの孤児達から、正当なる『神の僕』の手に戻す為の『聖戦』だったのだ!」

「『神』の代行者を詐称する大神官や勇者の転生を排除し、『神』の権威を再び正しい信者の元へ……」


 ぶつくさと私達に勢いのない反論をしている。


 正直呆れた。バカとしか言いようがない。

 この最悪のタイミングでクーデターを企てたとして、その後が続くと思っているのだろうか?

 七国を敵に回し、精霊神様達を怒らせ。

 そして今は一応、私達の味方である『神』をも敵に回す。

 愚行としか思えない。


「星は大神殿だけではなく、大聖都にも落ちて被害を出しているようです。

 城下から救いを求める使者が、何度か訪れていますが、こちらも動くことができず……」

「神の怒り? いえ、そうではなく……これは」

「マリカ」

「フェイ」

「ここは、僕に任せて、貴女は『防御壁』の展開の準備を」


 フェイの手が、私の肩に触れる。

 今は余計な事は言うな、という仕草だろうけれど。

 ぞわりと、背筋に冷や水を浴びせられたように冷たくなる。


「身の程を弁えず、まだ『神』や大神官、我々に逆らおうとした者達の顔は覚えました。

 今はとにかく星と、大陸を守るのが優先です。

 いつ、宙にあるというコスモプランダーが、第二の流星雨を振らせてくるか解りません」

「わ、解った」


「フェイ兄! アレはどうする? 触れられたらかなりヤバい感じだぞ」


 アルが虹色の瞳を煌めかせて黒いアメーバを指さす。


「リオン? あれが何か解りますか?」

「コスモプランダーの先兵の可能性がある。だが『神』の知識ベースにも同一のモノはない」

「ならば、とりあえずは凍らせてしまいましょう。焼き払った方が安全ではありますが、飛散させては大事ですし、後で対抗策を調べる為にも、ここは保存するのが重要でしょうから」


 そう無表情で告げるとフェイはシュルーストラムを掲げ、軽く目を閉じる。


「……エル・アブソリュート!」


 星型の虹水晶から白い吹雪が立ち上がり、周囲を一気に冷気で包み込む。

 私達は少し寒いかな、くらいだったけれど


「ぎゃああ!」「あ、足が凍る!」「う、動けない! 寒い。寒い!!」


 気が付けば、場にいた幾人かは足や身体が氷漬けになっているのが見えた。

 おそらく、主犯格の司祭達。

 そして、クレーターのアメーバ(仮)も霜を被ったように真っ白になる。


「フェイ……」


 あまりにも違いすぎる『力』の差。

 神官長の怒りに任せた攻撃に、制裁を免れた司祭や兵士達も明らかに引いている。

 当のフェイはと言えば息を切らせることもなく、スッと私の前に跪いた。


「手間を取りましたが、マリカ。

 正当なる『星』と『神』の代行者。

 我らが敬慕する精霊女神よ」


「精霊女神って……フェイ?」

「一刻も早く防御の力をお願いします。

 大丈夫です。邪魔はもうさせませんから」


 確かに、余計な事に手を取られている暇はない。


「解った。話は後で!

 お父様! フェイ! カマラもこっちはお願いします」

「任せろ。城下にも隕石が落ちたんだな? 

 お前達! 少しでも大神殿と大聖都を守る騎士、司祭の矜持があるのなら大至急、城下に向かい被害状況の確認に回れ!」

「は、はい!」


 お父様ーー戦士ライオットの檄に氷漬けを免れた者達は即座に動き出す。


「さっきの物体のように、理解できない。

 手出しができない。と思うモノが出たらすぐさま連絡を。余計な手出しはせず俺達に知らせに来るんだ。どうしてもの時は今の神官長のように術で足止めしろ!」

「は、はい!」

「アル! もし何か正体が解らないモノがあったら無理のない範囲で『見て』

 本当に、無理のない範囲でいいから!」

「解った!」


『マリカ。予想外ではあったがとにかく急げ!

 私が、手を貸す!』

「はい!」


 私の中に飛び込むようにお父さん。足元にいたアーレリオス様の端末が同化した。

 結上げられていた髪が解けて髪の毛がふわりと、風をはらむように広がり、違う色に染まっていく。あれ?

 いつもの金じゃない。銀色だ。


「精霊……、いや、本当に女神の降臨だ」


 私の姿を見て、そんなことを言っている人や、震えている人もいたような気がした。

 できれば違うって否定したかったけど今は余計な事を考えている暇はない。

 全力集中する。

 精霊神が憑依しているけれど、意識の主導は私にある。

 火の精霊神(お父さん)は力の媒体。

 エネルギータンクと補助、指導に専念してくれているようだ。


「どういう風に術を使用するか、理解しようと思わなくていい。

 ただ、祈り、願え。この星を守りたいと。

 その為に、力を貸して欲しいと星に生きる全てのモノ。その精霊の力に呼びかけろ」

「はい!」


 私は目を閉じ手を横に広げた。

 ふわりと身体から零れる光が、周囲を舞い丸いシャボン玉のような球体を作り出す。

 と、同時、球が重力を無視して、空中に上がっていくのが解った。

 刹那、私は『気付いて』リオンに手を伸ばす。


「来て! リオン!」

「ああ!」


 リオンが閉まりかけのエレベーターに飛び込むように丸いシャボン玉に入ると同時、球体はスピードを上げた。

 私達は高く高く昇っていく。

 空に。宙に。

 敵に向けて。


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