皇国 幸せの贈り物
夜の二月の終わり。
第三皇子家では毎年恒例でささやかなパーティが開かれる。
家族だけの、本当に内輪なものだけれど。
「お誕生日おめでとう! フォルトフィーグ、レヴィーナ」
「ありがとう」「マリカねえさまもおめでとう!」
「ありがとう。二人共」
そう。フォル君とレヴィーナちゃん。それから何故か私の誕生日のお祝いパーティだ。
フォル君とレヴィーナちゃんは、今から四年前の夜の二月の終わりに生まれた。
アースガイアでは何月何日っていう暦じゃなくって、夜の二月、第三火の日、みたいな呼び方をするのであんまり誕生日を祝う風習が無い。
そもそも長い不老不死時代は誕生日を祝ってもらえるような環境で子どもが生まれることも無かったし。
でも、誕生日って大切だ。成長を自覚する大事な節目でもある。
だから私は二人の一歳の誕生日の時、ぬいぐるみを用意してお祝いした。
そしたらお母様が、私の誕生日も一緒に祝いなさい、って言って下さって。
それから毎年、年に一度こうして、家族で生まれてきたことをお祝いするパーティをするのだ。
「本当はお父様やお母様のお誕生日もお祝いしたいんですけれど」
「もう何百年も前の事だ。
記録にもはっきり残っていないし気にするな」
「私もお兄様も暑い夏の生まれだった、と聞いています。お母様は汗だくの中の出産で大変だったそうですわ」
お二人はそう言って笑っている。
この世界には父の日も母の日もないからなかなか感謝の気持ちを伝えること、ってできないんだよね。いつか作ろうかな?
まあ、それはさておき。
パーティと言えば美味しいごちそう。
「うわ~。鳥の丸焼きだ~」
「切り分けてやるから、座ってろ。フォル」
今日の夕食は第三皇子家のカルネさんが腕を揮ってくれた。
見た目と愉しさと食べやすさに重点を置いた子ども向けパーティメニュー。
サーマンのカルパッチョに、串刺しのピンチョス。
お花と星のハムと薄焼き卵を乗せた手毬寿司。
メインはフォル君が感心した通りの鳥の丸焼き。
お父様が切り分けることで、家族のパーティって感じがより大きくなる気がする。
デザートは兄王様が送って下さったバナナ、じゃなかったナバナのチョコレートパウンドケーキ。添えられたクッキーにも可愛らしいアイシングがしてある。
子どもはこういうの好きだよね。
誕生日には大好きだけど、普段は滅多に飲めない炭酸果実水が解禁なので二人共とっても嬉しそうだ。
普段は私と、双子ちゃんとお母様とお父様の五人だけなんだけれど。
今年は六人で長机を囲む
「家族水入らずのパーティに、俺が入ってもいいのか?」
私の横にはリオンがいる。
お父様が仕事と成人式と結婚式の準備で忙しいリオンを拉致ってきたのだ。
勿論フェイもグル。
「いってらっしゃい。結婚前の家族との顔つなぎは大事な事ですよ」
とお休みの許可証を叩きつけてくれたそうな。
パーティが始まってもどこかバツの悪そうな、というか迷ったような顔つきのリオンだったけど
「いいに決まってるじゃん。リオン兄さまはリオン兄さまだし」
「もうすぐ、マリカ姉さまとけっこんしてほんとの兄さまになるんだもん」
双子ちゃんが当たり前、というように言ってのけてからは、遠慮を少し棚上げしたらしい。まだ少し、緊張した様子だけれど家族の一員として一緒に食事を楽しんでくれている。
「ねえ、リオン兄様の『せいじんしき』のおよーふくできたの?」
「ああ。この間納品された。結婚式の服もな」
「結婚式の服も? 私のはまだですよね? お母様」
「女性の花嫁衣裳の方が手が込んでいるので時間がかかっているのでしょう。
焦らなくてもいいから、しっかりと丁寧に、と命じてあるので成人式が終わってからの納品になる予定です」
「なかなかに正反対で面白いぞ。結婚式の衣装は白を基調にしているからいかにも勇者、って感じで、成人式の服は黒だから、どこの魔王だ、って思った」
「マリカ姉様のね。せいじんしきのドレスもすごおくきれいでカッコいいの!」
「レヴィーナ、ズルいよなあ。おれはマリカ姉さまのドレス。みせてもらえてないのに」
「だって、フォル。すぐにおようふく、よごすじゃない。
マリカ姉さまのドレス。よごしたらたいへん!」
「よごさないよ。マリカ姉さまのだいじなふく」
「ははは。今度、フォル君にも見せてあげるね」
「やった!」
「俺の服も見るか? フォル?」
「いいの?」
「あ、いいなあ~。レヴィーナも」
「レヴィーナはダメ!」
「ズルいよ。フォル!」
「意地悪言うな。フォル。一緒にな」
……暖かい家族水入らずの団欒。
最初はちょっと緊張していたリオンも、元々兄属性高めだし、双子ちゃんはリオンの事大好きだし。
いつの間にか、すっかりと馴染んでいる。
ちょっと横を見るとお父様が実に嬉しそうな表情でエールを呷っているのが見えた。
リオンが幸せになるのが夢と公言して憚らないお父様にとって、親友を本当の家族として迎えられるのは夢の実現とも言える嬉しい事なのだろう。
少し、解る気がする。
食事会が終わって、家族用のプライベートスペースでのんびり過ごす。
パチパチと赤く燃え上がる暖炉。
その前の分厚い絨毯の上に陣取って笑い合う姿は、自分で言うのもなんだけれど一枚の絵画のようだ。
美しくて、幸せで、涙が出そうなくらい。
「あ、そう言えば二人に誕生日のプレゼントがあったの。リオン」
「解った」
リオンに目で合図すると彼はスッと立ち上がって隣の部屋に用意してあった荷物を持ってきてくれる。
そんなに大きくない箱が二つ。
「こっちの小さいのがフォル君用で、こっちがレヴィーナちゃんね」
「なになに?」「あけていい?」
「どうぞ」
一応、お父様とお母様には事前に話して許可を取ってある。
「わああ! ぼくの、短剣だ」
「魔王城の宝物蔵から貰ってきたの。
小さいけれど、カレドナイトと精霊石がついているんだよ」
玩具ではない鞘付きのちゃんとした短剣。
派手さはないけれど、丁寧でしっかりとした作りだ。
戦い方によるけど、騎士や戦士、冒険者が、サブ武器として装備できるくらいの。
勿論、子どもにナイフを持たせるのは少し心配ではあるし、嫌だけれど、フォル君ももうすぐ向こうの月齢でいうなら五歳くらいになる。
この世界は地球と違う。
子どもと言えど、身を守る手段が必要な事は、今までのことからも身に染みているし、フォル君は皇子で、騎士団長であるお父様の子どもだ。
上に立つ者として最低限の技量は必要とされるだろう。
ならば、この機会にちゃんとしたモノを、というのがお父様とリオンの共通意見だったそうだ。
「うわあ、おもい」
魔王城の武器防具には軽量化の魔法がかかっているものもあるけれど、これはワザと外してあるとリオンは言っていた。鋼の重さがずっしりと手にかかってくる。
「本物の刃物だから、むやみに振り回したりは絶対にするなよ。
下手に使えば傷になるし、命も奪える。
覚悟を持って使うこと」
「うん。わかった。だいじにする。ぜったいにふざけて使ったりしないよ!」
「約束だ」
こつん、とフォル君と拳と拳をぶつけ合うリオン。
兄弟みたいで微笑ましい。
「レヴィーナのも、あけていい?」
「うん、どうぞ」
「これ……マリカ姉さまのまいのかんむり?」
箱を開いたレヴィーナちゃんの目が輝いている。
「そう。昔ね。アドラクィーレ様から頂いたの。
私が皇女に迎え入れられて『聖なる乙女』の舞を舞うようになった時。
御手本を見せて下さって……」
アドラクィーレ様は、当時世界でただ一人と言われていた『聖なる乙女』アンヌティーレ様の妹で、舞の名手だった。
私が舞を引き継ぐことになって、最後の舞を披露して下さった時に下さったのだ。舞の時に身に着けておられた冠を。
その後、お母様からプラーミァの国宝のサークレットを頂いたりして、あまり長くは使わなかったけれど。
あの時見た舞の美しさは、このティアラの輝きと共に今も大事にしている。
私の指針。導きの光のようなものだ。
「付けてあげるね」
額にぐるっと当てるサークレットではなく、頭に乗せるタイプのティアラで、ピンや金具で留めるから小さな子どもの頭でもなんとか乗せることができる。
私はレヴィーナちゃんの柔らかい茶髪にティアラを留めた。
銀の下地に真珠やエメラルドを基調にした美しいティアラは女の子をたちまちお姫様にする。
「にあう?」
「とっても良く似合う。
もう少ししたら、今度はレヴィーナちゃんがアルケディウスの舞を舞う事になると思う。
その時にはもしかしたら、別のサークレットやティアラをお父様や皇王陛下がご用意くださるかもしれないけど」
「ううん!
すごく、うれしい! ずっと、ずっとほしかったの。
マリカ姉さまみたいになりたかったから!」
レヴィーナちゃんは箱を抱きしめて、そのまま踊り出す。
皇女の嗜みとして舞の練習を始めて約一年。
まだ技術的には拙いけれど。
くるくる、くるくると。
まるで春風に踊るヒナギクのような可愛らしい舞は、見ているだけで幸せになる。
「ありがとう。マリカ姉さま。だいじにするね」
「そうしてくれると、うれしい」
「レヴィーナ、いいなあ~。僕もキラキラちょっと欲しい」
「フォル!」
楽しい誕生日の宵。
明るい幸せの笑い声が、第三皇子家の応接室に響いていた。




