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魔王城 成人式の準備

 アルケディウスの冬。

 私達にとって最後の、子どもとしての時間は穏やかに過ぎていく。


「見て下さい! 成人式の衣装、できたんですよ!」


 私はその日、魔王城に戻って、お母様が用意して下さった成人式用の黒いドレスを見せびらかした。


「これは……見事な出来ですわね。

 人の技術と縫製はここまでできるようになったのですか?」

「マリカ姉、綺麗!」

「真っ黒だけど、凄くカッコいい!」

「女王様、って感じがする」

「ありがと。今まで着てきたのとちょっと違う感じがするよね」


 エルフィリーネも子ども達も。


「とても似合っているわ。貴方の内面の強さや意志が表れている感じ」

「ステラ様」


 ステラ様もとても褒めてくれた。


「成人式までもうすぐなので、これから最後の追い込みで忙しくなりそうなんです。

 だから、その前に

『魔王城の方々にドレスを見せに行ってはどうかしら?』

 とお母様が言って下さって」

「嬉しいわね。映像を見る気になれば見れるし、ラス様も録画しておいてくれるでしょうけれど、生で見るのはまた格別だから。

 ねえ、エルフィリーネ」

「はい。とてもお美しくていらっしゃいます。

 このような華やいだマリカ様のお姿を見られて、夢のようです」

「もう。大げさなんだから」

「もっと、装飾品は増やしてもいいのではないのですか?

 必要なら宝物蔵から出して参りますが」

「いいよ。これで十分。お母様からもらったイヤリングもあるし。成人式は決意を表す儀式だから、あんまり派手過ぎてもね」

「そうですか。でも、結婚式や披露の宴などでご用命の時はいつなりとお申し付けください。宝物蔵の宝もマリカ様の身に着けて頂けることをこそ、望んでいるでしょうし」


 エルフィリーネは、最近ますます、私への対応が色々と強火になってきているような気がする。

 こういう華やかな姿をしていると凄く、嬉しそうな顔をするのだ。


 その日の夜は魔王城の子ども達と久しぶりにのんびりとディナーした。

 お披露目した後は、ドレスは脱いでしまっておいたけれどね。


 そして、夜。

 いつの間にかこっちで寝ることも多くなった『女王の部屋』で私がくつろいでいると


「貴方達の成人式を司るのはラスサデーニア様?」


 ぴょっこりと、どこからともなくステラ様(端末)が表れた。


「はい。お姿を現して下さるかどうかはまだ聞いていませんが、精霊石を聖堂に持ち出して御前で式典を行う予定だそうです」


 成人式は、アルケディウスの神殿で行われる。

 今、私は成人式に向けて、式典の練習を何度も繰り返したり、誓いの言葉や挨拶を練習したり大忙しだ。


 今年の参加者は三人。貴族待遇の私達だけで、一般人であるジェイド達はもっと略式なものを、事前に行う予定だと聞いた。


「成人式の復活は正しく五百余年ぶりの事なので、文献などをあたり、細かくどのようにしたらいいかを調べました」


 式典を司るアルケディウスの神殿長、フラーブが式の内容を説明しながら苦笑していたっけ。


 不老不死や『神』が訪れる前、大神殿が力を発揮する前。

 成人する民に祝福を与えるのは王族の仕事だった。

 王が新たなる国の一員、納税者となる者達に王族魔術師の力で、聖別した葡萄酒を与え、祝福を授ける。

 そして国の民として精霊神に報告したのだという。

 民にとっては一生に一度、王宮に上がることが許される晴れ舞台だった。

 その当時、精霊石は王宮にあり、王座の後ろで国を守るとされていた。

 魔王によって完全に封印される前は力を失っていたとはいえ、多少は反応できていたらしく。

 報告されると、精霊神達の精霊石が光り輝き、それが王宮全体を輝かせ、とても美しい光景であったと記録には残されている。

 SF、というか現実的に言うと、国の民。

 ここでいうのなら木の国、アルケディウスの民として染めたナノマシンウイルスを体内に入れて、その国の民としてデータに登録する。という形なのだろうか。


 ただ、魔王の来襲と『神』の降臨以降はそれらが無くなり、式典を行っても精霊石が反応しなくなった。

 魔王が跋扈し、国王魔術師と呼ばれる者達も徐々に力を失っていく中、逆に『神』と大神殿は力をつけていった。

『精霊神』が死んだ、と思われても仕方のない国民が絶望する状況下、徐々に各国が『神』に信仰をシフトしていったのは仕方のない事なのかもしれない。


「今回の式典に関しては、太古の形を踏襲する予定でおります。

 一度、生まれた国の民としての祝福を経て成人の式典を行い、その後、『大神殿』で染め替えの儀式を行い、結婚式によって新しい『神』の民を統べる王族として承認を受けて独立する形でしょうか?」


 本当なら大神殿での結婚式も『神』の承認を受けて『精霊石』の前でやるのが最善なのだろうけれど大神殿には『神の精霊石』はない。

 ずーっと前、リオンが壊したのは精霊神様で言う所の『王の精霊石』

 いわばサポート用バイオコンピューターで『神』との通信は途絶したものの『神』の力そのものは翳らなかった。

 長くその状態が続けばどうだったかは知らないけれど、私がなんだかんだで『神』の力も補充した形になったからね。


「ラス様とも打ち合わせしようと思っているのですけれど、時間が無くって。

 向こうからも最近、なかなか話しかけて下さらないし。

 あ、そういえばアーレリオス様も、最近見かけないです。お忙しいんでしょうか?」

「そうね……。皆様も色々やることがおありなのでしょう。

 貴女が神殿で呼びかければ、きっと大丈夫よ」

「はい」

「じゃあ、マリカ。これを持って行きなさい」

「え? わあっ!」


 ステラ様(の端末子猫)が軽く尻尾を振ると、私の手の中に小さな小瓶が表れた。

 アポーツ。物体転移。

 小さいからまるでお手玉のようにぽぽぽんと跳ねるそれを、私は落とさないように慌てて握りしめた。

 中には液体っぽいものが入っていて、ちゃぽんと湿った音を立てた。


「なんです? これ?」

「『星』の精霊の力(ナノマシンウイルス)。それをラス様にお渡しして、式典の時に飲むように」

「へ? 『星』の力?」


 えーと。

 私は小瓶を指でつまみながら考える。

 さっきの式典内容をSF的に考えるなら。


 成人の儀式で、飲む葡萄酒の中には精霊神様の力、ナノマシンウイルスが混入されている。勿論、この星に生まれた時から、ある程度は誰もが持っているけれど、成人の儀式の時に、国民としてさらに純度の高いものを体内に入れて、その属性を確定させるわけだ。

 昔、『神』が大人に『不老不死』を与えていたのもそれの応用。『神』が『不滅』をプログラミングした高濃度ナノマシンウイルスを体内に入れて、肉体を傷つかず、成長することのないように固定していた。

 ってことはこの『星』の力は、私達を『星』の精霊に固定するもの、ということか。


「もう、貴方達の身体は『星の精霊』で今更ちょっとやそっと他の『精霊神』様の力を身体に入れられても属性が変わることは無いけれど、『木の(ラス様の)精霊神の力(ナノマシンウイルス)』を入れられるよりはいい筈だから。

 貴女をアルケディウスに盗られても困るし」

「盗られるって」

「言葉の綾よ。今後、大神殿は緩やかに『神』と『星』の力を同一化したものにしていって頂戴。そうすれば、本当の意味で、皆の守りの力が大陸、星全体に届くようになるから」

「解りました」

「ホント。これを星に来た当初、最悪でも、レルギディオスがたどり着いた時に出来ていれば何の問題も無かったのに」

「ハハハハハ」


 子猫なのに肩を竦めて愚痴る星子ちゃんの姿が見えるようだ。


「あ、これ、フェイが飲んでも問題ありません?」

「無いわよ。あの子も変生が終わっているから半分、『星』の精霊のようなものだし。多分ちょっと力も上がると思うわ」

「解りました」


 成人式まで後もう二か月足らず。

 人の側からも、『神々』の側からも着々と進んでいるようだ。

 緊張で心臓が、小さな音を立てる。


 私達が本格的に『大人』になるその日の準備が。


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