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皇国 七国王達からの『挨拶』

 七国のオンライン会議が終わった後。

 お父様は酷く怒っていらした。


「なんだ? あの展開は! バカにするにも程があるぞ!」

「へ?」


 各国が私に、私も各国に今後ともよろしくと言っただけだと思うけれど、お父様的、もしくは貴族的に何かヤバい展開だったのだろうか?


「えっと……さっきの展開、そんなに拙いことですか?」

「拙い。というか。皆、お前に甘えすぎだ! 義兄上も父上も、各国王も!」

「甘えすぎ?」

「フェイ。ああいう時はお前が写真の時のように他国王にくぎを刺せ。

 リオンもマリカの前にもっと立って圧力の盾になれ。

 そして一番悪いのはお前だ! マリカ!」

「私、ですか?」


 憤懣収まりつかないと言った風のお父様は、私の頭に思いっきりの雷を落とす。


「できないことははっきりと断れ。

 何でも安請け合いするな! できない、やらないと断る時ははっきりと断れ!

 でないとこれからもいいように使われ続けるぞ!」

「まあ、落ち着くがいい。ライオット」

「父上も父上です!

 己の孫が各国の共有財産だなどと言われて黙っているとは。

 一時は笑いましたが、落ち着いてみればとても笑えません。 

 マリカやアルフィリーガの断れない、精霊の責任感をいいことに、今後も仕事をいいように押し付けるおつもりでしょう?」

「それを、マリカが承諾したのだ。何も言うことは無かろう?」

「そう仕向けたのは皆様でしょう?」


 つまり、あの会話。

 お父様的には

『私は各国の共有財産だ。今後も大陸の発展の為に、各国の為に便利に働いてくれ』

 と言われ私が了承したということなのか。

 まずい。そこまでは読めなかった。


「実際に他の者にはできぬこと。マリカ達にしかできないことなのだ。

 仕方あるまい」

「だったらマリカ達子どもに頼らず他の手段を使えばいいでしょう? 兄上のいう通り数年前までマリカはいなかった。

 何百年も変わらぬとはいえ、平穏な日々を過ごしてきたのです。

 少し足踏みしたところで、あの変わらぬ日常を思えば大したことは無い筈だ!」

「お前がそれを言うのか? ライオット」


 怒りを露わにする息子を宥めていたお祖父様。皇王陛下がギラリと、鋭い視線を向ける。


「お前こそが子どもらと共に。『平穏の日々』をぶち壊した張本人の一人であろう」

「俺は、娘が、友が、幸せに生きられる世界を望んだだけです」

「その幸せに生きられる世界、を維持する為にはマリカ達の働きが欠かせぬということだ」


 普段は優しいお祖父様に見えるけれど皇王陛下は『国王』で国や民を守る為には時として策略も繰り広げるし、私のことだって平気で利用するのは解っている。

 分かっているけど改めて『国王』モードの皇王陛下を見るとちょっとゾッとしてしまう。

 私も、お父様もリオンもフェイも。

 王気とも言える重い圧力に声も出ない。


「一度、手に入れた便利さ、快適さに人は抗えぬ。たとえ今、不老不死を返してやるから新しい食と技術を全て捨てよ。

 と命じられたとしても従う者はそう多くはあるまい。

 今、大陸はかつてない程の繁栄と成長の時を迎えている。

『神』や『精霊神』様の加護が勿論大きいが。

 今、世界を実質的に動かしているのはマリカだ」

「解っております。ですがあまりにも、マリカや子ども達に過剰な期待や仕事がかけられすぎではありませんか?」

「そう思うのであれば、お前達がもっとマリカをしっかりと教育するがいい。

 今後、マリカは大聖都に新たなる王家を作り、その王となるのだ。

 今のままでは甘い言葉と、優しさを装った計略に絡めとられて都合のいい道具として使われてしまうぞ」

「!」


 皇王陛下の忠言にお父様は絶句する。

 そして、今の言葉はお父様にだけかけられたものではない。

 私、リオン、フェイにも与えられた『忠告』だ。


「気付いていないようだから、特別に教えてやろう。

 あれは、ベフェルティルングの。そして各国王達からの挨拶だ。

 新たなる王家を担う子ども達へのな」

「挨拶……ですか?」

「各国がお前達を敬愛し、大切に思っているのは間違いなく、偽りも無い。

 だが、今のままではお前達は対等な政治を行う相手ではなく、可愛く便利な小精霊だと言ったのだ」

「それは……」


 幸せを運ぶ小精霊。リュゼ・フィーヤというのは誉め言葉のように思っていたけれど。そう言う意味も込められていたのか……。

 なんだかんだ言っても、貴族関係とか政治とか、そういうのから守られていたので、腹芸や言葉に秘められた裏の意味とかが、私はまだちゃんと理解できていないと改めて思い知った。

 頭をガツンと殴られた気分だ。


「お前達は選ぶことができる。

 このまま、可愛がられ愛されながらもいいように動かされる道具で居続けるか?

 それとも互いに認め合い、使い、使われる対等な同盟相手となるか?

 まあ、小精霊で在り続けることも悪くはない。愛され、守られ、騒動を起こしても仕方ないと許されるだろう。

 だが対等な存在として認め合うのなら、賠償や貸し借りなどの駆け引きも必要になってくる」

「駆け引き、ですか?」

「そうだ。自分達の有用性や武器を、一気に開示するのではなく、少しずつ示していく。

 それを相手の需要や供給に合わせて使っていくのだ。

 お前達には武器となるものが色々ある。『精霊』という正体は最後の切り札にするにしても魔王城の財宝や、カレドナイト鉱山。

 精霊の書物の読み方など。

 それをどう隠し、どう開示していくのか。

 各国と改めて信頼と協力関係を築いていくか。ここからがお前達の正念場だぞ」

「皇王陛下……」


 そこまで言うと皇王陛下は一緒に残っていた護衛兵やタートザッヘ様を連れて、通信鏡の間から出て行ってしまった。

 残されたのは大人と王様の正論に叩き潰された子ども達だけ。


「くそっ。やられたな。

 やっぱり俺は逆立ちしても王になんかなれないし、なりたくもない」

「お父様……」


 歯をギリリと噛みしめたお父様は本当に悔しそうだ。


「でも皇王陛下のおっしゃる通りです。大神官、神官長、聖なる乙女、幸せを呼ぶ小精霊と呼ばれて尊重されたとしても、今のままでは国という輪から離れた異分子として崇められながらもいいように使われるだけでしょう」

「俺も勘違いしていたな。マリカの伴侶として守り、隣に立つ、ということは仕事を分け合うだけではなく、各国との圧力や交渉、思惑からも守るということなんだ。

 まだ甘い。自分達のことしか見えていない、子どもと言われても仕方ないな」


 同じように俯きながらも悔し気なフェイやリオン。

 さっきのお祖父さまと、二人の言葉に思い出すのは、地球世界。

 私、ではなく真理香先生の記憶の向こう。仕事の思い出だった。


「私は……いつも皆に助けられているし、力が必要で求められればできる限りで応えたいと思ってはいます。

 子ども達を幸せにすることが、精霊の使命でやりたいこと、でもありますから」

「マリカ……」

「でも、自分をすり減らして無理することは最終的には、自分や周囲を侮られてしまうことにも繋がるのかもしれませんね」


 周囲を頼れず、同僚を信じられず、何より自分自身を大切にできず無理をしてきた日々。

 日々を繰り返すのが精一杯で、やりたいこともできず流されて行く。

 あの頃に比べれば、この世界は恵まれている。

 少なくとも、私の周りには信頼できる仲間がいて、話を聞いてくれる人も、心配してくれる人もいるのだから。

 兄王様だって、他の王様達だって、私の事を本気で心配して、己惚れていいなら愛してくれている。

 だからこそ忠告、いや挨拶してくれたのだ。


「お父様」

「何だ?」

「もう一度、改めて政治などについて詳しく教えて頂けませんか?

 今まで『聖なる乙女』という子どもとして可愛がっていただけていたので甘えてなあなあにしていたところも多いですから。

 付け焼刃にもほどがありますけれど」

「お前は、対等な統治者として各国王と向き合う事を望むのだな?」


 お父様の確認するような眼差しに首肯する。

 いつまでも子どもとして甘えてはいられない。

 一人の大人。保育士として。

 そして今後は国を支える者として、責任感を持たないと。


「大人になるのですから。彼らとせめて肩を並べられるようになりたいです。

 勉強などもそうですけれど、最低限の知識を得れば搾取されたり、利用されたりすることは減らせると思います」

「解った。とはいえ、俺もそう言う意味での知識には疎いから、兄上達に相談してみるか」

「お願いします」


 チクリ、と心臓がまた小さく痛んだけど、私は知らない、気付かないフリをした。


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