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皇国 精霊の肖像

『しかし、時が過ぎるのは早いものですな。

 マリカ皇女達ももうすぐ成人式ですか?』


 七国王オンライン会議。

 新開拓地、魔王城の島についてや税制改革についての話が一区切りついた雑談タイム。

 空国、ヒンメルヴェルエクトの大公閣下はそう言ってどこか、懐かしむような笑みを向けた。


「はい。そうですね。

 もう夜の月、冬に入りますから、あと四か月ですね」

『ということは結婚式も間もなくという事。

 姫君の花嫁姿はさぞ見ごたえがあろう』

『傍らに立つ花婿も引けを取らぬ。

 美男美女同士、さぞや絵になることだろう。フリュッスカイトの王宮写真家が結婚式の様子をぜひ撮影させて欲しいと言っていた』


 私達二人を見やりフリュッスカイトの大公閣下が笑う。


「フリュッスカイトは王宮で写真家を抱えておられるのですか?」


 写真は最近、ようやく人々にその存在が認知され始まった技術だ。

 少し前の科学会議の時、精霊古語で描かれていた書物から発掘された技術として周知され各国で研究が始まっている。

 アルケディウスではまだ薬品や細かい技術に強いゲシュマック商会科学部の専売。

 フェイの結婚式で初めて本格的な記念写真撮影に成功した。

 その後、皇族やゲシュマック商会上層部が写真撮影を行って見本を提供。

 貴族や豪商の間でステータスになってきているのだとか。

 細かい工作技術と、現像用の薬品の調合など理屈は解ってもまだ難しい点が多いのでやはりアルケディウスとフリュッスカイト以外はまだ実用段階まではいかないようだけれど。


『ああ。将来的に成長、発展が見込める分野だからな。

 積極的な運用と共に更なる研究も進めている。将来的にはもっと短い時間で写真撮影が可能になるようにしたいな』

「それはとても素晴らしい事だと思います。こちらからも写真家を入れますがぜひお願いいたします」


 成人式と結婚式にはアルを写真家として同席させてもらう予定だ。

 地球でもそうだったけれど、男性の方が何故か成人年齢が高い。

 多分、女性の方が低いのは早く結婚させたいからだろう。

 昔は結婚、出産年齢が低かったし、政略結婚とかだとなお早いし


 ともかく、だから私と同い年のアルは今回、成人の儀式を行えないのだ。

 身分的にも準貴族扱いではあっても、商人のアルは国の式典である儀式に入れないので写真技術者として入って貰えるようにごり押しした。

 晴れ姿を絶対に見て欲しいから。

 と、別の事を考えていた私とは違い


「撮影された写真はぜひ、大神殿にお譲り頂きたく。

 大神官と神官長の結婚写真は、大神殿の象徴になるでしょうから」


 真剣な眼差しでフリュッスカイトとの会話に割って入るフェイ。

 大公閣下をけん制している感じだ。

 そっか。撮った後の写真の所有権の問題かな。

 チッと軽い舌打ちの声が聞こえる。

 大公様は悔しそうに息を吐きだして腕を組む。


『……仕方ない事だがやはりそうなるな。

 となると複製技術の方を早く研究させた方が良いか……』

「私の写真が欲しかったんですか? フリュッスカイトは?」

『そうだ。不老不死世が終わり絵画、肖像画などの需要が回復してきた。

 一般市民も、王侯貴族も。皆が憧れるマリカ姫の肖像。

 できれば一枚確保したかったのだがな』

「でも、王族皇族の絵画作成、販売は禁止されているのでは?」


 なんで私なんかの写真が欲しいのだろう?

 首をかしげる私より先にフェイが厳しい目で問いかける。


『抜け道はいくらでもあるものだ。

 例えば『大祭の精霊』』

「大祭の精霊? なんで隣国の方がそれをご存じで?」

『お忘れかもしれんが、数年前、大祭の精霊が初めて姿を現した祭りで、女精霊に飾りを贈り最初の幸運を賜ったと言われているのはフリュッスカイトの物売りだ』

「ああ、そうでしたね」


 思い出した。壊れたものだから、と綺麗なガラス飾りをくれた商人のこと。

『今年、フェリー……いや、我が国の商人がそちらの大祭に行ってな。

『騒動を見た』』

「いっ!」

『騒動?』

「大したことではありません。お気になさらず。大公様」


 ヒンメルヴェルエクトは首をかしげているけれど、他の国はなんとなく生暖かい笑み。

 今年の大祭の騒動と言えば、第三皇子家が総出で遊びに行って、思いっきり顔バレした件だろう。

 シュトルムスルフトとアーヴェントルクはアルケディウスに密偵を放っていると聞いていたけれど。もしかしたらプラーミァやエルディランドも?


『マリカ姫とリオン殿は噂に名高い『大祭の精霊』にとても似ていると聞く。

 何組かの商人が肖像画や人形などを見つけて輸入してきた。

 幸運を運ぶ『精霊』の絵姿は護符のようなノリで売れているそうだ。

 ソレイルも土産に貰った絵姿を大事に部屋に飾っている』

「え~? なんだか嫌です。

 あ、ソレイル様がどうとかではなく、肖像権の侵害というか……」

『姫君の絵ではなく『大祭の精霊』の絵だ。お気になさるな』


 私とリオンは思わず顔を見合わせる。お父様と皇王陛下は鏡に映らない所で笑っているけど。まさか『大祭の精霊グッズ』が外国まで輸出されているとは。

 できれば止めて欲しいけれど、こういうアングラな品は取り締まりがむずかしいだろうからなあ。

 けっこう怖い。


『まあ、そう言う訳で本物のマリカ皇女の写真が手に入れば、ソレイルも心の支えになるだろうし、民も喜ぶかと思ってな』

「あー、できればご遠慮下さいませ。

 自分の写真や絵姿が与り知らぬところで崇拝されたりするのは気分のいいものではございませんし」

『害や悪意の無いものはお許しいただけませんか?

 皆、マリカ様が大好きなのですわ。

 民に裏切られても、その心根を変えることなく人々を輝かしい未来に導く『聖なる乙女』が』

「私はそんな大した存在では……」

『全てはお前から始まった。リュゼ・フィーヤ』

「兄王様……」


 なんだか、私を見るプラーミァの兄王様の目が不思議な感情を湛えている。

 何かを懐かしむような、遠く眩しい太陽を目を細めて見つめているような……。


『そう、まだ五年と経っていないのだ。

『新しい食』が広まり始め、その噂を聞いて私がアルケディウスに向かった日から。

 あの時、お前はまだゲシュマック商会の料理人で、ライオットの娘だという事を隠していただろう? 忘れたか?』

「いえ、覚えております。妹姫であるティラトリーツェ様と面会する為に訪問された国王陛下のことは忘れられません」


 忘れるにはあまりにも強烈だった。炎を纏った獅子のような兄王様の姿は。


『あの時、無理を通してでもお前を手に入れ、我が国の一員にすればよかったと後悔しない日は無かった。今も、思い返せば悔しい。

 お前は正しく世界に幸運を運ぶ小精霊であった』

「国王陛下……」

『他国も同じであろう? 自国に数百年ぶりに現れた眩しいまでの若さと輝きを持つ子ども達。騒動と幸運を運んだマリカを、その周囲にいる者達も含めて皆、欲しい。手に入れたいと願ったはずだ。大神殿の要請に乗ったのは、神殿の為ではなく、我らの為。

 其方の取り合いで戦になる前に、共有すべきだと考えたのだ』

『ベフェルティルング王のいう通りだ。失われたモノ、壊れたモノも多いが新たに得たものはそれを遥かに上回る』

『我が国は何も失ってはいない。いや、私に関していうのなら全てを与えて貰った』

「ザビドトゥーリス皇帝陛下。スーダイ大王様」


 なんだか、各国王様達の視線が妙に熱く。重い。

 それに、共有財産なんて言われる程、私はいつの間にそんなに慕われていたのだろうか?

 自分では各国に行く度、騒動を巻き起こして、と怒られるばかりだと思っていたのに。


『不老不死という人類の夢が失われて、でも、世界が驚く程に荒れずに済んだのは其方と、其方らが齎したモノに、希望に皆が焦がれているからだ。

 永遠に変わらぬ時よりも、先が見えなくても輝ける未来を信じ、夢見ている。

 故に、自暴自棄にならずに済んでいるのだ。

 マリカ。七国いや、星を変えた幸運を招く小精霊(リュゼ・フィーヤ)

 今後とも頼むぞ』


 プラーミァの兄王様だけではない。各国の国王陛下達の期待の視線が、重くのしかかって心臓がバクバクと音を立てる。息ができなくなりそうだ。

 でも


「マリカ」


 リオンが横に寄り添い、私と手を繋いでくれた瞬間、スッと呼吸が楽になった。

 昨日、身体を預けることを拒んだのに、リオンは変わらず私の側にいてくれる。

 私と一緒に歩んでくれる。

 そうだ。私は一人では無いのだ。


「非才の身ではありますが、リオン共々、皆様のご期待に添えるよう全力を尽くしてまいります」


 リオンにエスコートされて、中央に進み出る。

 深くカテーシー。

 鏡の向こうの王様達だけではなく、私達を見ている全ての人達に向けて。


 そして私は


「どうか、今後ともご指導のほど、よろしくお願いいたします」


 真摯な祈りと誓いを捧げたのだった。


 心臓がトクンと音を立てて鳴った。

 まるでこの時を記憶するシャッター音のように。

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