皇国 二人の精霊の内緒話 前編
ここは、第三皇子家、私の私室。
王族のプライベートルームだから家族と使用人以外は立ち入ることができない場所だ。
ここなら、誰にも内緒話を聞かれることは無い。
勿論、精霊神様やステラ様なら解らないけれど、きっと邪魔するようなことはしない筈だ。
「話したいことがあるの。リオン」
「ああ。俺も聞いて欲しいことがある。マリカ」
二人きりの夜。
私と彼の関係が変わる日。
精霊達の内緒話。
「まず、聞かせて。島でのこと。
公子との決闘の後、リオンは一体何を決意したの?
何を『神』と『星』様にお願いしたの?」
「マリカと同じ存在になりたい、と願った。星を守る人型精霊に」
「それって今更願う事? リオンにとって自分が『精霊』であることは生まれながらのことでしょう?」
リオンは私と違う、生まれながらの精霊。記憶もあってそう教育されて。
強い使命感をもって私達の出会いの始まりから『精霊』として生きてきた。
「そうだけれど、違う。
マリカ。お前は本当に『特別』な『精霊』なんだ」
「私が、特別な『精霊』?」
普通のファンタジー世界での考え方でいうのなら、精霊というのは人間ではない特別な存在。超常、別時空に住むようなモノのことをいうのだろう。
でも、この世界における『精霊』は意味合いが違う。
ファンタジー世界に見えて実はガチガチのSF世界なのだ。
宇宙からの侵略者が撒いたナノマシンウイルスによって生み出された、元人間変化したバイオコンピューターによって、この星アースガイアは生み出された。
彼らは地球から逃げて来た移民を率いて浮遊惑星に植民地を建設し、その後『精霊神』を名乗り人々の生活を見守る文字通りの神になった。
俗に人々が『精霊』と呼ぶ存在はナノマシンウイルスの塊で、一種の自立機能を持つ人類補助AI。かつて地球人類を滅亡一歩手前まで追い込んだウイルスを、人間の意志が取り込んで人間の為になるように作り替えたものだ。
だから、私達の住む星、アースガイアにおける『精霊』とはナノマシンウイルスの影響を強く受け、人類を守るために存在するサポートコンピューターだと私は認識している。
自分もその一員であること。人の外側に有る事を思うたび、少し切なくはなるけれど、私は地球人類の最期の希望と愛によって、未来を託されて生まれてきたのだから、仕方のないことかな、と理解しているつもりだ。
一人だったら、寂しさで気が狂っていたかもしれないけれど育ての母とも言えるステラ様も『精霊神』様達も私を気遣ってくれるし、優しくしてくれる。
何より、同じ立場のリオンがいてくれる。そして使命を分かち合い、一緒に生きて行こうと言ってくれる。だから、頑張ることができる。
「俺は、厳密に言えば『神』と『星』の本当の息子じゃない。
二人の本当の息子はマリクだけ。俺は、彼を元に、この星生まれの人間に知識や力を刷り込んだ複製に過ぎない」
「そんなことは……」
寂しげに微笑むリオンの哀しい言葉を否定したいけれど、できなくて、私は続きの言葉を呑み込んだ。
「幾度も幾度も、複製を繰り返してきたことで多分、劣化もしている。ステラ様がその都度補強はしてくれているだろうけれど。多分、『精霊』として見るならアースガイアに降り立って魔王を名乗っていた当時が最強だった筈だ。
当時は宇宙空間を単独で生存、稼働できる力もあったし、今できないことも色々できていた。転生を繰り返す度に力が弱くなって、いつか戦えなくなる日が来るとも感じていた」
転生というのは、一度生まれた存在のコピー。
そう言うのであればリオンの言っていることは理解できる。
同じ番組もダビングを繰り返せば画像は悪くなる。オリジナルを補強し続けてもいつか限界が来るだろう。
「それを助けてくれたのがマリカだ」
「私?」
「ああ。俺も知ったのは最近だけれど、地球で、最後に能力者同士が身体を交わし、宿った受精卵であるお前には、精霊神や神や、ステラ様ともまた違う力が宿っているらしい」
「え? ステラ様や精霊神様達とは違う力?
それって何?」
「詳しくは俺も知らない。
ただ、全ての精霊に関与する強い力だっては聞いてる。
無意識だったかもしれないけれど、お前が俺に力を与えてくれたことで、俺という存在は補強され、強化された。
加えて新しい力も与えられて、俺は初めて魔王ではなく、精霊の獣。アルフィリーガとして完成される直前まで来ることができたんだ」
無意識というか無自覚というか。
私はリオンに関して力を使ってきた記憶はある。最初に本気になって力を使ったのはリオンが、自分の手を私を諫める為に傷つけた時?
後は、変生で身体を成長させたりとかも何度かある。
それがリオンに対して力を発揮して、補強したということなのだろうか?
自分にそんな力があるということそのものがちょっと理解できない。
「ステラ様は、マリカは第一世代とも、第二世代とも違う第三世代だと言っていた。俺もまたそうだと。
魔王として生まれたマリクは第三世代ではなかったらしい。
だから俺がそうなったのは、マリカによって底上げされた結果だと思うけれど」
「それは、私がリオンという存在を変えてしまった、っていうこと?」
「元々、マリカの『物の容を変える』能力はナノマシンウイルスへの絶対命令権の変形だろうとステラ様は言っていた。俺ははっきりとかつての『精霊の貴人』のマリカ様の力を知っていた訳ではないけれど、あの方が得意としていたのは精霊の力を借りることで、マリカのようにありとあらゆる存在に働きかけ、変える力ではなかったと思うから」
「答えになってない! じゃあ、私は知らないうちにリオンを自分の思い通りに作り替えたってことじゃ?」
「……結果としてはそうなのかもしれない。ただ、俺という不自然な存在はそのおかげで強化され安定した。それも紛れもない事実なんだ」
今まで、包丁や便利な道具としか思っていなかった私の能力。
最近は本気で使う機会もなかったから真剣に考えてもいなかった。
つまり、私の物の容を変える能力、というのはこの星の『精霊』を身体に宿す全ての存在を思い通りに変えることができる力、なのだ。
防御壁を作る能力者であるお母さん。真理香先生や、お父さん。火や熱に関してナノマシンウイルスを操作するシュリアさんとは全く違う別種の力。ステラ様達が第三世代と呼ぶ……。
「ソレイル公子との戦いの時、俺も精霊の力を思う通りに変えられることに気付いた。
呼びかけ、力を借りるのではない。他者に操られている『精霊』であっても奪い取って自分の力にできる。それが自分の中にあることに気が付いたからステラ様や『神』に頼んでコントロールできるようにして貰った。
それが、魔王城での『俺』の行動の真相だ」
「暴走する可能性がある能力、ってこと?」
「俺がその気になれば、世界中の『精霊』から力を奪い取ることができるかもしれない。力を使った時にそう思った。
元々『魔王』は『精霊』精製の力を持つ母と、強化、増幅の力を持つ父の特性を受け継ぎ、風の移動、流動の特性を授けられて生まれてきた。
『魔王』だった頃はその力を自分ではなく、父である『神』に送るように設定されていたから単体でできることはたかが知れていたけれど、今の俺が万が一にも判断を誤って力を暴発させたらこの星の全ての生命に影響が出る可能性がある。だから、身体が力に耐えられるように強化して貰った上で、万が一の時には止めて貰えるように『神』に同期して貰ったんだ。
その代わり、今後もこき使うからな、っては言われたけど」
『神』に力を貸すことで、体内から身体を強化。
さらに『神』と同期することによって、万が一の暴走を防いで貰えるようにした、とリオンは言う。
その話を聞いて、気付いた。
気付いてしまった。
「つまりリオンより、暴走した時の危険性が高いのは私ってこと、だよね?」
我ながら、縋るようなズルい表情をしていたと思う。
違う、と。そんなことはないと否定して欲しかった。
でも。
正直なリオンはその場しのぎの嘘をついてはくれなかった。
ただ、寂しげに哀しげに、そして優しく微笑むだけだった。




