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魔王城 奇跡の図書館と皇王の提案

「コッカイトショカン? この建物のことをご存じなのですか? マリカ様?」


 私の独り言のような呟きにいち早く反応したのはフリュッスカイトのソレイル公子だった。


「はい。あ、いえ。『神』の国の固有名詞でしょうか?

 存じませんがふと、そんな言葉が頭に浮かんだのです」


 勿論、この世界と向こうの世界の言葉は違う。英語をベースにした、でもはっきりと違う言葉なので日本語は当然通じない。けれど、この世界には無い言葉を私が伝えて定着してしまった日本語(?)はあったりする。

 ホイクシとかホイクショとか、マヨネーズとかケチャップとか。

 でもこの世界の言葉にも図書館、図書室などはあるからそう伝えればいいとは思う。


「これは、おそらく『神』の世界の叡智。書物が収められた場所、図書館なのです」

「書物? この巨大な建物に書物が収められていると?」

「はい。おそらく地上だけではなく、地下にも」

「地下? まさか地面の下に書物が?」

「はい。私の思う通りであるのなら」


 扉と思しき場所の前に立つと、自動扉のように音もなく、スッと横開きに扉が開いた。


「マリカ!」

「うん。ありがとう。リオン」


 私の前、先導するようにリオンが立ってくれた。

 その横にフェイ。私の後ろにヴェートリッヒ皇子、ソレイル公子、グアン王子と続きアリアン公子とオルクスさん、殿をシュトルムスルフトの騎士さんが守ってくれる。

 一列縦隊の形でゆっくりと進んでいった。


「暗いな……フェイ。灯りを」

「解りました」


 フェイが小さく詠唱し光の精霊を呼び集めた。

 まるで音を立てるように光が建物の中に溢れると、


「わあっ……凄い。本当に日本の図書館だ」


 目の前に現れた光景に私は涙が出そうになった。

 広々としたホール、整然と並んだ椅子。書架やカウンターなど。

 向こうの世界の図書館、そのエントランスが見事に再現されている。


「なんでしょう? これは? 小さな箱が積み重なって?」

「荷物を入れておくためのロッカー、保管庫だと思います。

 そして、きっとこの先に……」

「危ないぞ。マリカ」

「大丈夫。危険な所ではないから」


 私はもうリオンに注意されても、足が止まらなかった。

 本来ならIDカードを使って入るだろう電子ゲートは形だけで、手で押すと簡単に開く。

 そしてその先には吹き抜けの広場と、書棚が連なっているのが見えたのだった。


「凄いですね。これ、全て本なのですか?」

「ここにあるのは、ほんの一部だけ。後は書庫にこの数千倍の本が在る筈です」

「 これで一部? 今まで見たどの国の図書館よりも広く大きく感じるのですが」


 広いガラス窓がそこかしこにあるので、精霊の灯りと自然光で室内は思うよりかなり明るい。ただ、全体としてガランとしている印象があった。


「うーん。ここにあるのは本だけ、なのかな?」

「どういう意味です? ここは本を収めるための建物、なのでしょう?

 ならば有るのは本だけ、では?」

「そうなんだけれど、本当ならここには、パソコン……。本の内容を紙では無い形で見る機械や、本がどこにあるのか探すのを助ける為の機械とかが在る筈なのです」


 私、じゃなくって私の記憶の元の北村真理香は、実際に国会図書館に行ったことは無い。

 特別番組のテレビで見たことがあるくらいだ。

 ただ、普通の図書館には入り浸っていたから基本構造は解る。当時は地方の図書館だってパソコン閲覧が普通にできた。インターネットにも繋がってて、その気になれば世界中の情報に、国会図書館の本にだってアクセスできたのだ。


 でも、それらの機械はここにはない。綺麗さっぱりない。

 電話とか、エレベーターとか、コピー機とかAEDとかそういうものも無い。

 ただただ、本が並んでいるだけだ。

 電球も……ないな。


「パソコンとか、コンピューターとかは持ち込めなかったのかな?」


 素朴な疑問に答えてくれる声は無い。

 もし、向こうの機械を情報ごと持ち込めていたら、色々と便利だったろうな、と思うし、もし形だけでも残っていたのなら、電気の再現ができるようになってきているアースガイアなら時間をかければ再生できるかもしれないと考える。

 でも、まるごとない、ということは持ち込めなかったのか。それとも素材として使ってしまったのかな? 機械がそのものが持ち込めないってことはないよね?

『星』様の城にはいかにもSFって感じのメカメカしい部屋があったし。

 私やリオンを体外受精やクローン培養のように育てたとしたら、その為の設備などもあった筈だし。


「凄い量の本ですが、ちょっとこれは読めない種類の『精霊古語』ですね」

「『神』と『星』の言葉なのでしょう。この世界で基本文字を使う精霊古語とは根本から在り方が違うので難しいかもしれません」


 フェイが本を一冊手に取り、パラパラと目を通し息を吐きだした。

 私達がいる今の大陸。アースガイアには精霊古語、という形で地球の文字や言葉が残っている。

 各国精霊神様達の出身国の影響を受けているので、多分、ロシア語、イタリア語、中国語、ヒンディー語、トルコ語、英語、ドイツ語だ。

 もう一種類、日本語も『精霊古語』として残ってはいたけれど日本出身だった『(神矢君)』も『(星子ちゃん)』も今まで日本語の書物を外に出したりしていなかったようだから、アースガイアには読める人は殆どいないだろう。


「マリカ様は、この書物がお読みになれるのか?」

「はい。一応は。『星』が教えて下さいましたので」

「リオン殿も?」

「多分、読むくらいなら」


 うん。

 今の時点でここの『日本語(精霊古語)』を読めるのは地球世界の記憶を持つ私とクラージュさん。知識として各国の精霊古語が記憶に刷り込まれているリオンと、後はラールさん(日本オタクの地球移民)くらいかな?


「眠りについている『神』の子ども達の中には多分、読める者もいるかもしれませんが」

「フリュッスカイトでも『精霊古語』の本にはどれも貴重な知識が眠っており、国の繁栄を助けてくれました。

 これらの本はそれらに近い貴重な『神の国』の知識でありましょうから、読み解ければきっと役に立つことでしょう。ですが……」

「ええ。簡単には手を付けられませんね。本の数が多すぎます」


 フェイは閲覧室の書棚を見ただけで息を吐くけれど。


「この図書館の本や資料は大半が地下に収められている筈です。おそらくここにある本の数万倍。数千万近く……」

「数千万?」


 確か、国会図書館の本館と呼ばれる場所は地上階層よりも地下書庫の方が広かった筈だ。

 地下八階だったっけ? 欲しい本を検索して書庫から出して見せて貰う形だった。


「ちょ、ちょっと簡単に言わないで下さい。数千万の書物ってこの世界の全ての人間の数よりも多くありませんか? 一日一冊の本が生まれたとしても、それだけの本を蓄えるのに千年あっても足りませんよ?」

「『神の国』では一日数百冊もの本が作られ、それを何十年もかけて集めたとされていますから。確かに人の一生では読み切れませんね」

「一日数百冊の本が生まれる……。一体『神の国』というのはどれほどの知識、技術が溢れていたのか……」


 本当に。

 ここにあるのは日本で発行された本だけだけれど、それでも一年に数万冊は書籍が生まれていた。知識を生み出し、それを書物や情報をして共有して人間は、文明を育てて来たのだ。完全に失われてしまったと思っていたけれど、その一部でも取り戻す事ができたのなら、それを生かし、守り、次の世代に伝えていくのが私達、次世代を託された者の使命だろう。


「マリカ、いや大神官よ。

 一つ提案があるのだが……」

「なんでしょうか? 皇王陛下?」


 今まで、若手の話を邪魔せずに傍観者に徹していた皇王陛下の提案に、私は背筋を伸ばす。大神官、と呼ばれたのだからそれとして応えなければ。


「以前、其方は次世代を育てる為の学府を今後設立していきたいと言っていたな」

「はい。科学や化学分野を研究し、知識を育て次世代に繋げる学び舎を作りたいと考えています」


 優先順位としては人の命がかかっている『神の子ども達』の蘇生計画や新しい食、農業振興、次世代の子ども達の保護育成という保育教育よりは少し落ちるけれど。

 各国で芽生えつつある『精霊古語』からの新技術の発展をサポートし、子ども達の才能を生かしつつ大陸を豊かにする大学のような場所を作っていきたいと思っていた。


「この件については今の所は、単なる思い付きだ。流して貰っても構わない。

 ただ、この島と、魔王城。

 其方とリオン。

 そしてこの奇跡のような図書館を前にして思った」

「何をですか?」

「大神殿をこの島に移し、ここを新たなる子ども達と、大陸の子ども達の交流、教育の場にしてはどうだろうか? とな」

「は?」


 唖然とする私達を前に皇王陛下は微笑む。

 その瞳に子どものような輝きを宿して。

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