魔王城 二人の変化
魔王城の島と、俗に呼ばれている『星』の聖地エルトゥリアの城は地球から持ってきた黒い森の城、と呼ばれるドイツのお城をモチーフにしているそうだ。
私も知っている超有名なお城。
某夢の国の灰かぶり姫のお城のモデルになったとか。
その辺はさておき、一階と二階、それから地下の一部は一般向けで、上層階は城主のプライベートルームなのだそうだ。四階が子ども部屋で元精霊国王子だったリオンの部屋。
そして三階にあるのが女王の部屋。割と早くから、私が使っていい部屋だと言われている。そんなに華美ではなく落ち着いた雰囲気のいい部屋なのだけれど、一階の使用人棟に部屋を作った子ども達と離れてしまうし、その他色々と理由があってなかなか、使う事ができなかった。
今も、普段使いはしないし、できないけれど、この部屋はこの城の中枢『星』の元に繋がる通路があるのだとかでたまに来ている。
けれど、こんなに強引に意識を刈り取られたのは初めてだ。
「何するんですか? ステラ様!」
私は意識を取り戻して直ぐ星の大母神、ステラ様にくってかかった。
目を醒まして、ではないんだよね。私は精神だけ神々の空間、疑似クラウドに連れてこられたようだから。
その証拠に現実世界では身体は、この星と繋がり、子猫型の端末を使わないと自由に歩き回ることができないステラ様が少女の容をとって無重力空間を私に視線を向けつつ、ふよふよと浮いている。
「急に連れて来てしまったことは謝るわ。
でも、リオンとレルギディオスの邪魔はしない約束だったから、ね。
裏への通路を開く訳にもいかなくて。ごめんなさい」
「そうです。私が聞きたかったのはそこなんです。
リオンは今、一体何をしているんですか?
『神』に力を貸しているのはまあ仕方ないとして、どうして戻って来ないんですか?
同期処理っていったい何なんですか? ステラ様も『神』もリオンに何をするつもりなんですか!」
「リオンのことを心配してくれてありがとう。
あの子もきっと嬉しいと思うわ」
「ステラ様……」
我ながらマシンガントークになった自覚はあるけれど、怒りというか苛立ちに任せた私の言葉をステラ様は黙って受け止め微笑んで下さった。
静かな眼差しと口調に、少し頭が冷えた気がする。
「緊急を要する事だったから、あんな形で強引に連れて来てしまったけれどね。
レルギディオスや私が強制したわけでは無いの。
本人の希望というか、意志よ。昨夜直接通信鏡をかけてきて。
特にレルギディオスを嫌っていた筈のあの子が、父上と呼んでまでの頼みだったから、彼も張り切った、というか本気を出しているのよ」
「リオンは何を望んだんですか?」
「さっきも言ったでしょう? レルギディオスとの同期」
「同期、って。私の時もそうでしたけれど機械かコンピュータみたいな言い方をなさるんですね?」
「それが一番適切だから。同調、とかシンクロとか取り繕って言う事も可能だけれど言ってみれば、本格的に『神』との経路を繋いで彼の力を使えるようにしたの」
「『神』の力を?」
「そう彼はまだ、メインデータが閉鎖空間の中に閉じ込められている。
私達の承認と、リオンか貴女の肉体が無いと外部クラウドに直接介入できない監禁中の身だけれど、リオンが了承した上で、同期処理が完了すれば外の世界でもリオンが彼自身の意志で『神』の力、精霊の力の強化、増幅などを使えるようになるわ」
それ自体は悪い事では無い、一段階上のパワーアップと言える。
でも……
「でも、同期ってことは『神』の方もリオンに介入できるってことじゃないんですか?
今まで以上に『神』にいいように使われるってことでは?」
「まあ、そうね。でも、私も貴女と繋がっているからその気になれば同じことができるのよ。
申し訳ないけれど、万が一この星のピンチになるような私の不具合などが起きたら、貴女は……言葉は悪いけれど、私の交換パーツとして稼働して貰わなければならない。
その場合は半強制的で、原則貴女に選択権は無いわ」
「了承していますから別にいいですよ。
ただ、リオンにそこまでのことはさせたくないですけれど。
ステラ様と違って『神』は遠慮なく、便利にリオンの身体を使うじゃないですか?」
「彼の弁護をするわけじゃないけれど、自分の預かってきた子ども達の事があるからその点は必死なのよ。子ども達がみんな落ち着けばもう少し大人しくなると思うけれど」
ステラ様の言っていることも『神』の焦りも解らなくはない。
解らなくはないけど、解りたくないし、釈然としないのだ。
「私は、リオンにあんまり無茶をして欲しくないんです。
リオンは今まで、ずっと苦労してきたんですから、人として幸せになっていいと思うんですよ」
「それには同意するわ。ただ、リオンの『幸せ』はあの子自身が決める事だから」
「リオン自身が?」
ドクン、と胸の奥がバカげた音を立てた気がする。
身体がないのだし多分、気のせいというか緊張によるものだろうけれど。
「あの子は所謂普通の人間として認められて、栄光を受ける事を幸せだとは感じていないのよ。貴女と同じになって、貴女を支えられる存在で在りたい。
少なくとも貴女の力と庇護の下にいるのではなく、対等の者として貴女の隣に立ちたい。
そう願っているわ」
「もう、ずっと対等ですよ。というか守られています。
この世界でたった二人だけの精霊で、同胞で……。私は彼を下に見たりしたことはないつもりですよ」
「でも、周囲はそうは見ないわ。良くも悪くも貴女は目立ってしまっているから。
勇者の転生であることが知れても不老不死解除の時に、全世界に『神の代行者』として知られた貴女と違ってまだ、表立った功績をあげてはいないから見劣りするというか……。現にこの調査の前にもトラブルがあった、いいがかりをつけられたのでしょう?」
「あ、はい。でも……」
調査直前のソレイル公子とのトラブルの事を言っているのだろう。
ステラ様は私と同期しているから、本当にその気になれば私を通じて外の事は理解しておられるようだ。
「女性の力が強ければ強い程、かかる圧力も強くなるわ。
本人も周囲も。男性の比ではない程に。
私の時もね。私が新型ナノマシンウイルス精製の力を発揮してから、彼が増幅能力を発動するまでの風当たりはもう凄かったのよ。このまま力の発現が無かったら外で海斗先生と一緒にナノマシンウイルスの影響が出ない護衛として働けとか」
「それは、解ります……。でも……」
「リオンは貴女にかかる負担やダメージを減らしたい。その為には自分が強くなるしかない。
そう考えて同期を受け入れた、ということよ。しっかりと繋がったことで、逆に彼があの子の身体を完全に乗っ取ることは少なくなると思うわ」
「はい……」
「フェイはリオンを『神の代行者』として神官長としての地位を譲ることを考えているみたいね。
神殿の最上位に貴方達二人を立たせて自分は、大神殿長とかになって実務を助けるサポートをしていくつもりだと聞いたけれど」
フェイの考えも解るし、リオンの決意も優しさも理解できるし嬉しい。
けれど、なんだか釈然としない。
リオンの身体を、心を勝手にいじくられるのが許せないというか……。
私が、リオンに誰も触れられて欲しくないのかもしれない。
リオンは私のものだという思いは傲慢が過ぎると解っているけれど。
「別に貴女からリオンを離すつもりは私も、彼もありません。
同期の主導権は貴女達にあるから自覚し、意識すれば同期も同調も、貴方達自身の意志でシャットアウトできるし知られたくない事は言ってくれれば見ないわ。
貴方達には苦労をかけている。
だからこそ、現実で貴方達が認められ、称えられる立場に立って輝いて欲しい。
そんなことで報いにはならない事は解っているけれど、せめて少しでも幸せを感じて欲しい。
それが私も、彼も。
貴方達に思う偽りのない気持ちよ」
「ありがとうございます。でも……」
「でも?」
「いえ、なんでもありません」
なんかこう、胸の中がモヤモヤする。
自分の心の中がリオンに関しては矛盾しているような言葉では言えないナニカが騒めいているような。
「とにかく、リオンに関しては処置が終わったら帰すと私が請け負います。あくまで今回の件はリオンの立ち位置を各国の王族に知らしめる為のものだから、彼も同じことは今後、よほどの緊急事態でもない限りしないとは思うわ。
そしてリオンも、力と立場を自覚したことで変わると思います」
「変わる?」
「ええ。貴女の配偶者として、ではなく夫として貴女を守ろうと。
それが貴女にとっていいことか、悪いことかは今の時点では判断できないけれど。
後は、リオンが戻ってから直接話しなさい。夫婦関係を支えるのはコミュニケーションよ。
私たちを反面教師にして頑張りなさいな」
「解りました」
ステラ様の言葉が刺さる。私とリオンには圧倒的にコミュニケーションが足りていない。
もっとしっかりと向き合ってちゃんと話をしよう。
そう、私は決意していたのだけれど、同じころ、手術台の上に横たわるリオンと『神』との会話は真逆をいっていた。
『マリカにはなるべく気取られるなよ。当面は隠し通せ。
お前が気付いていることを』
「解っています」
『お前の中には新型とも旧型とも違うウイルスが存在する。
マリカとの接触によって感染し、魔術師との決闘で活性化した、精霊に関する絶対命令権だ。俺やステラから受け継いだ分も優先順位が高いが、比較にならん』
「そんなに強いもの、なのですか? 実際に意識して使うまで何も感じませんでしたが……」
『休眠していたからだろう。今は防御コーティングを施し、休眠とほぼ同じ反応にしてあるからマリカの中の意志や覚醒具合に寄るが、お前が今まで通り、『ナノマシンウイルス』の力を積極的に使用しなければ、浸食される可能性は少ない。ステラも気休めかもしれんがマリカに同じ措置を施すと言っていた』
「はい」
『だが、一度、休眠から目覚めた力は軽いきっかけで、容易に活性化する可能性がある。
そうなると力の増加は間違いないが、どうなるかは俺達にも見当がつかない。
だから、基本的には『使うな』。どうしてもの時は俺を呼んで、俺の力として使え。
少しでも長く人間でいたいのなら忘れるなよ』
「父上に感染の危険は無いのですか?」
『影響はあるが、今の俺達は実体が無いから実害はない。ステラはどうか解らんが。
だから、マリカもステラとは当面繋がせない。
その分、お前には負担をかけるが』
『いえ、俺が望んだことです。無理を聞いて頂きありがとうございます』
「礼など必要は無い。お前は、いやお前も、俺の大事な息子なのだからな」
私はそんな会話を知る由も無かったけれど。




