表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1227/1307

皇国 投げられた手袋

 空の二月最終週。

 アルケディウス。

 ビエイリークの街には各国からの精鋭が一堂に会していた。


 領主館の大広間を借りて出発前日のいわば結団式の開始前。

 私はアルケディウス代表である皇王陛下と共に各国代表に挨拶をしていく。


「遠い所からお集まりいただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、神殿の転移陣を開放して頂き感謝しております。マリカ様。従兄妹の君。相変わらずお美しいですね。

 皇王陛下もご機嫌麗しゅう」

「お久しぶりでございます。グランダルフィ王子」


 今日の衣装は大神官の正装だ。白の衣に金糸の刺繍。

 舞衣装とは違うけれど、華やかで結構目立つ。


「なかなか直接顔を合わせる機会が無いが、ますます国王陛下に似てこられるな」

「そうだと嬉しいのですが。

 父からも大祭では世話をかけた。姫君の成人式と結婚式を楽しみにしているとの伝言を預かっております」

「あるものは便利に使わないと損ですからね。

 最近は道路交通網も整備されてきて馬車での移動も楽にはなってきましたが。

 フィリアトゥリス様の具合はいかがですか?」

「臨月も間近なので落ち着いているようです。流石にこの調査中の出産は無いと思いますのでしっかりやってくるように言われました」

「ご無事の出産になるといいですね」

「マリカ姫。皇王陛下挨拶は簡単にしておきましょう。時間がもったいない」

「そうですね。アリアン公子。軽く互いの自己紹介と挨拶が終わったら早速本題に入りましょう」


 火国の王太子グランダルフィ様を始めとして、夜国は皇子ヴェートリッヒ様、空国も公子であるアリアン様が来ている。地国は第二王子のグアン様。風国は王配候補の騎士団長さんだそうだ。


「では、早速だが明日からの航海と調査についての話をさせて頂こう。

 会議の後の夕食はビエイリーク自慢の海産物料理が待っているので楽しみにしてくれ」


 今回の調査団を率いるのは皇王陛下。

 その発言に、少し空気が和む。

 でも、和んだ中にも感じる強い意志。鋭い眼差し。

 さっきも言ったけれど、各国の次代を担う精鋭揃い。

 目の色と覚悟が違う気がする。



「目的地は魔王城の島と呼ばれていたアルケディウス北の島。その探索、調査を行う。

 今まで各国の手の及んでいない完全な空白地帯だ。

 かの地には魔王城があると言われていたが、実は『神』と『星』の聖地。

 元は『精霊国』と呼ばれる女王が治めておられた国があったということが解っている」

「『精霊国』?」


 皇王陛下の説明に人々が騒めき始めた。


「人の侵入を拒む魔の島ではなかったのですか?」

「アーヴェントルクとプラーミァには大神殿の要請に応えて軍を派遣、全滅した記録が残っていますが……」

「『神』と『星』の間で誤解による諍いがあったようです。

 神々の御心を我々は図ることができません。

 ですが『神』が『星』の力を求め争った事は確かにあったそうです。

『神』の威光を高めんとした前神官長、フェデリクス・アルディクスの誘導もあり魔王の島と誤解されたのでしょう」


 なんだかんだ言っても『神』と『神殿』は今も人々の心の拠り所。

『神』の悪行を全部明かして評判を落とす事は得策ではないので詳しい事情は濁しておく。

 実際に混乱の三十年と呼ばれる時期には、各国の王族の方達も相当に色々とやらかしていたらしいし、突くと藪蛇が出るからね。終わった事として蒸し返さないのが吉。

 真面目な前神官長に罪をなすり付けてしまうことになるし、犠牲になった精霊国の民には申し訳なくもあるのだけれど今は、生きている人達を纏めるのが優先。


「私は不老不死が解除されて以降幾度か『神』と『星』の神託を受けております」


 私は皇王陛下の合図で前に立ち、巫女っぽく膝を付いて祈りのポーズをとった。


「神託によると『神』と『星』は民に与えた不老不死について行き違いがあったものの、今は和解して人々が『人として』未来を見て生きる世界の構築と『神の移民』の受け入れについて合意しております。

 そして『星』の聖地である魔王城の島、精霊国を開放して『神の国』からやってきた子ども達の開拓地とすることを決められたのです」

「『神の移民』については各国の王族には事前に知らされていた。

 民にもつい最近、広く告知されたことは皆も知っての通りだ」


『今後、大陸に十万人の子どもが目覚め、降りる。大陸の民はそれを受け入れ、守り育てるべし。彼らに害を為す者は不老不死剥奪よりも厳しい罰が下されるであろう』


 そんな『神』からのお告げが大陸全ての人達の夢を通して為されたのは大祭後、つい最近のことらしい。

 私が魔王城でどったんばったんやってた時。

 ピアちゃんの限界騒動で『神』も『星』も本格的に覚悟を決められたようだ。


 そして今まで王族や神殿関係者の一部にだけ知らされていた情報が、世界全ての人々に知らされたことで改めて、各国も本気で『神の民』のことを真剣に考えるようになったらしい。


「とはいえ、各国でいきなり数万人の民を受け入れるのは現実的では無い。だから魔王城の島を新規に開拓し、彼らの一時受け入れ場所にすることに各国が同意している。

 再確認するが今回はその為の事前調査だ。

『星』の聖地での無礼な振る舞いは厳に避けて頂きたい」

「そういうアルケディウスが聖地の利権を独占しない、という保証はあるのですか?」


 皇王陛下の説明に各国から全権委任されてきた代表は胡乱な目を向ける。

 各国は次世代のエースだけれど、あくまで代行者。逆にアルケディウスはもうじき降りるとはいえ皇王陛下が直接出る訳だ。何か意図があると見られても不思議は無いだろう。


 現在の魔王城の島のイメージは向こうで言う所の南極大陸に近いかな?

 各国が当面の間、領有権を主張しない事。『神の移民』受け入れの為の開拓地とすることを原則としその為の協力を惜しまない事を内々に定め、新年の国務会議で正式に条約を結ぶ予定。


「だが、そうは言っても人が入る以上利権はどうしても発生する。

 今は様子見している各国も魔王城の財や、豊かな実り、カレドナイトの鉱山などが知れれば目の色が変わるだろうしな」


 だから、少しでも彼らをけん制する為に自分が率先して入り動く。と皇王陛下は事前におっしゃっていた。断じて精霊国に憧れるミーハーではないし、利権を独占するようなことはしない、とおっしゃっていたけれど。

 まあ、皇王陛下が本気でそうするつもりだったら、機会はいくらでもあった。今は、その言葉を信じて私は私の与えられた仕事をするだけ。


「保証に関しては『聖なる乙女』マリカが」

「マリカ様が?」

「はい」


 皇王陛下の促しに、私は前に進み出る。

 こういう時の為に、今日は神殿の大神官としての聖衣を着てきたからね。

 祈りに手を組み真摯に語り掛ける姿は、自分で言うのもなんだけれど威圧感が在る筈だ。


「『神託』により、私は『精霊国』とその『城』に関する全権を託されております。

 島の開放によって人が必要とする範囲での運用は許されていますが、個々人や国が悪しき思いで聖地を食い物にせんとする場合には神罰が下ることでしょう」

「神罰とは、随分と物騒な話ですね。『聖なる乙女』は随分と『神々』に近くなっておられると見える」


 空国の騎士団長が私に向ける眼差しは少し厳しめだ。

 思いは解る。

 けれど変な誤解は解いておかないといけない。

 魔王城の島、星の聖地を食い物にされるわけにはいかないから。

 勝手な事はするなと、最初からきっちり言っておくようにとステラ様の御命令だ。


「私は『神々』に力と身体を貸し与える巫女にすぎません。

 各国の『精霊神様』が蘇り『神』と『星』のお力を不老不死解除で感じた方も多い筈。

『神々』は伝説ではなく、神話でもなく、この星、アースガイアの大地に確かにおわします。

 意に従う限りは寛大で、優しい反面逆らう者は決して許さぬ厳しさと力もお持ちです。

 私は大神官。御方々の意志を世に示す手足であり、道具にすぎません」

「しかし、マリカ姫はアルケディウスの皇女で在らせられる。平等だと言いつつもアルケディウスを利するようにふるまう事は有りうるのではないか?」

「そのような誤解を解く為に、神殿に新たなる準王家を開くのです。

 アルケディウスを疑うのは仕方ありませんが、マリカという娘とその誠実は信じていただきたい」

「神々は皆様を信じて大切な聖地と子ども達を託されるのです。

 どうかその信頼に応えて頂きたいと存じます」


 皇王陛下の言葉と共に疑惑の眼差しは少し、薄まった気がする。

 ちょっとホッとした。

 少なくともコツコツ各国を巡ってきた過程で、私個人を信じてもいい。と思える信頼を積み重ねてきたからだと思えるから。


「マリカ皇女とその誠実を疑う者はいないでしょう。ですが、その夫は解りませんよ」

「え?」


 そう声を発したのはフリュッスカイトのソレイル公子だ。

 彼が代表としてこの場に来ることは前から知らされていた。

 でも、まさかここでこう来るか。


「ですので、証明して頂けませんか? リオン殿」


 私の斜め後ろ。

 今までの会議の中、一言も発せず、私の護衛。壁に徹していたリオンに意志が投げつけられる。


「僕は貴方に決闘を申し込みます。今、ここで」


 本物の手袋と共に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ