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魔王城 神の子どもと神の道具

 結果から言うと、ガルフとティーナの婚約は関係者ほぼ全員から拍手と共に受け入れられることとなった。

 魔王城の島を出てからのティーナの肩書は王宮保育士。

 ゲシュマック商会に関しては手伝うものの基本、手出し口出しはしない。

 リグと一緒に王宮の保育室の責任者兼保育士として通い、勉強を教える先生の補助や子ども達の遊びをサポートする。準貴族待遇だ。

 特に保育室では男の子ばかりで孤立しがちなレヴィーナちゃんのサポートをして欲しいと期待されている。


「え? リグがアルケディウスに来るの! やった!」


 フォル君は大喜び。今まで保育室は双子とはいえ女の子のレヴィーナちゃんと一回り年下のラウル君だけだったからね。思いっきり遊べるようになるのが嬉しそうだ。


「リグは魔王城から出て、アルケディウスに行くのはいいの?」


 一応本人の意思も確認しないとと思って聞いてみたけれど


「外に行ってみたかったからうれしい! それにフォルは危なっかしいからぼくがいてあげないと。リオン兄みたいに騎士になって助けてやるんだ!」


 とのこと。リグは今年で五歳になった。こっちの暦は向こうのよりも少し長いから月齢を向こうの年月で換算すると年長組。もうすぐ小学生くらいになる気がする。

 私達が魔王城で暮らし始めた頃のアーサー達と同じくらいかな。

 兄弟達の背中を見ながらちゃんと自分のやりたいことをイメージし始めているのはやはり異世界ならではかもしれない。

 ミルカについてもそれは同じ。ちゃんと自分が愛されていることを知った子どもは相手を思いやり、幸福を願う事ができる。ガルフを父親以上に大切に思っていたミルカではあるけれど、それを相手にも押し付けようとはしなかった。家族として、一緒に幸福になることを選んだのだ。


 厳しい世界では子どもは、早く大人になるもの。

 それを今回の進路相談の件で改めて実感した。

 もう少し無邪気に子どもとして遊ばせてあげたいという保育士っぽい思いもあるのだけれど、本人の意思は尊重していきたい。

 冬の間に細かい移動の準備をして、新年になってからみんな、新しい環境での生活が始まる。勿論、結婚する私達も含めて。今年は大幅な異動になりそうだ。

 あ、ピアちゃんはリーンちゃんと一緒に大神殿に引き取る予定。大神殿には孤児院もあるしリーンちゃん、エリセ、セリーナなど面倒を見てくれる人もいるから。



 そんなこんなで魔王城の住人達の大まかな去就が決まって間もなく、真魔王城の島から『神の子ども』(地球移民)達が眠る冷凍睡眠エリアの移送準備が始まった。


「悪いが力と身体を借りるぞ。マリカ」

「どうぞ。エーベロイス様」

「長丁場だからな。一度に力を使いすぎるなよ。配分に気を付けろ」

「解りました。ハジャルヤハール様」


 真魔王城のある大阪城の島にリオンの力で転移。

 まずは城の裏側に埋まっているコンテナを掘り出して持ち上げ、その後巨大コンテナごと魔王城に運ぶ計画だ。


「マリカ。先にラス様にお力をお借りして設置スペースを作りなさい。

 城に近接させないといざという時に困るわ」

「はい。ステラ様」

「持ってきてくれさえすれば、接続は私がやるからしっかりね」

「解りました」


 何せ約十万人の眠るスペース。ちょっとした野球場並みの広さがある。

 森の木々を移動させたり、抜いたりして魔王城の横に何もないスペースを作りそこに穴を掘る。

 輸送したコンテナを穴に入れて上から土をかけて、外の人達の達の視線から隠すようにするそうだ。

 もう数日で、魔王城調査の船がやってくる。

 フリュッスカイトの機帆船がビエイリークに着くまでに終わらせないといけないというタイムリミット付き。スケジュールはかなりタイトなもの。

 私とリオンと精霊神様達、総出でかかる大仕事になった。


 魔王城近辺の木を掘り起こした後は、木材に加工して城下町や子ども達が新しく住む町の整備に使う。ステラ様が精製したナノマシンウイルスをレルギディオス様が増幅し、それを各精霊神様達が私の身体を使って操作する感じで作業を繰り返す。

 今回は身体を完全に乗っ取られるのではなく、私は私の意思を残しつつ、身体の中で指示を出す精霊神様の指示通りに力を使う形。

 例えて言うのなら私という重機を使って精霊神様が作業する感じかな?その方が使われる私の負担が減るのだそうだ。

 精霊神様達に意識ごと身体をお貸しして使うっていうのは、その都度精霊神様達が使いやすいように身体が作り替えられているようなものらしいから。


「今回は変化させる為のナノマシンウイルスがちゃんと別に用意されているから、形を変える為の力は少な目でいいと思う。でも作業工程がとにかく多いから頑張って」

「はい」


 実際これと同じことを人力でやろうと思ったら、凄い人数の人と機材と時間がかかったことだろう。

 精霊神様とレルギディオス様のお力で動く木々はまるで見えない手で引き抜かれる雑草を思わせる。 

 空中に浮かび、木材として整えられて積み重ねられていく様子や、地面が透明なショベルカーで掘られたように凹んでいくのを見ると自分の力がやっていると解っても正真正銘の『魔法』で少しときめいた。

 今までここまではっきりとした『奇跡』『魔法』はあまり見たことがなかったから、改めてファンタジー異世界を感じる。

 まあ実際はナノマシンウイルスによるSF。むしろ超能力ものなのだけれど。


「それにしても、疲れますね。一工程やる度にぐったりです」


 ラス様がおっしゃるとおりやることが多いからその都度、他の精霊神様を依りつかせて力を使ってを繰り返す私の身体には地味に疲労が溜まっていく。

 結構辛い。勿論人力でやることを考えれば、比較にならないくらい早いし、手間もかかってはいないのだけれど。


「一気にやらずに少しずつ計画的に進めておけばよかったね」

「はい。夏休みの宿題を貯め込んで最後の日に慌ててやる感じがします。もっと早くに声をかけて下されば良かったのに」


 少しあてつけたら、逆にレルギディオス様がふくれっ面をして怒鳴ってきた。

 リオンの身体で。


『願おうにも各国をふらふらと飛び回り魔王城にも殆ど戻って来なかったのはどこの誰だ!』

「ここの私ですが、もっと素直に皆さんに頭を下げて、計画だけでも早く出しておいてくれればここまでスケジュールがタイトにならなかった、って思うんですよね」

『うっ……』

「そうそう。謝る必要は無いよ。遊んでたわけじゃないんだから」

『煩い! こっちにもこっちの事情があるんだ!』


 あ、また膨れて拗ねた。

 本当に妙なところで子どもっぽいんだから。

 しかもリオンの身体にまた乗り移って、自分のもののように使っているところがムカつく。

 今回はバングルに宿した分割意識ではなく、本体が乗り移っているのでリオンの意識は完全に封じられている様子。さっきの話からすると体の作りも作り替えられているっぽい?


『リオンの身体も精神も戦闘用に調整されている。こういう『神』として力を使うには向いていないのだ。剣に鋏のような細かい作業をさせるには使い方を熟知している私が操作しないとな』

「操作、ってリオンを道具扱いするのは止めて下さい」

『何度も言っているが、リオンもお前もそういう意図で作られ調整されているんだ。私がしていることと、精霊神やステラがお前にしていること、どう違う?』

「で……、でも皆様は私の事をちゃんと気遣って尊重して下さっていますよ」

『私だって考えているし、了承も取った。

 こいつはお前のこととなると、 無理も無茶も全く気にしないから私がやるくらいでちょうどいい。

 使った後はちゃんと調整して戻して返すから心配するな』


 そう言われても、リオンを道具のように扱われるのは色々と釈然としない。

 しないけれど実際のところレルギディオス様が手助けして下さっていることで、作業効率が異常なくらい上がっているのは解る。

 もしこれを私が(精霊神様の力を借りたとしても)単独で行っていたら倍どころではない時間と力がかかったと思う。特に本来木々や大地に混ざっている精霊の力に命じて形を変えるのにはかなり無理がある。

 でも今回はレルギディオス様が形を変える為の精霊の力を用意して下さっているので本質を変えることなく力を発揮できている、らしい。

 リオンーー正確にはレルギディオス様に補助されると、お互いに力を増幅し合うような感じで力を使えるっぽい。


「本当にどういう仕組みなんでしょうか?」

「気にしない方がいいよ。ドツボに嵌る。

 僕ら自身、科学的に仕組みや構造を理解して使っている訳じゃないし自分の体がどういう風に生命を維持しているかなんて、知ってても理解も再現もなかなかできないだろう?」

「そうですね」


 まあ、そんなこんなで約二日間の土木作業を経て、冷凍睡眠コンテナの移送は無事完了した。終わった頃には心身ともにぐったり。


「つ、疲れました~~~」

「ご苦労様。明日はゆっくりと一日寝て過ごしなさい。明後日には調査団の船に乗ることになるのでしょう?」

「はい。お言葉に甘えます」


 翌日は本当に、指一本動かせないくらいぐったりで私は丸一日ベッドで惰眠を貪った。

 子ども達やティーナが心配して様子を見に来てくれたことも分からなかったくらいに。

 ちょっと……反省しないと、いけないか……な。



「それで、レルギディオス。どうなの? リオンの様子は」

『マリカの力と指示を受けると、発動するように仕込まれているな。

 精霊の力(ナノマシンウイルス)に対する代理権者としての命令力は多分俺以上だ』

「新型も?」

『新型も旧型も。

 やっぱりいるのだろうな。オリジンが』

「そう……。こっちの精霊神様達の見解も同じよ。

 これは、喜ぶべきことなのかしら? それとも恐れるべきこと?」

『さてな。

 ただ、奴らを野放しにできないことだけは確かだ。手綱だけはしっかりと握っておかないといずれ制御できなくなることも有りうるぞ』

「解って……いるわ」

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