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魔王城 住民達の進む先 4

 賑やかで楽しいパーティもそろそろ終わろうかという頃。

 ゲシュマック商会や魔王城のテーブルの近辺を行き来するガルフがいた。

 キョロキョロと、周囲を見回し、若干挙動不審な姿である。


「どうしましたか? ガルフ?」

「あ、いえ。ティーナが見当たらないと思いまして」

「ティーナ?」

「はい。二人でマリカ様と皇族の皆様にご報告したいことがあったのですが……」

「そうですか? 片付けを始めたのでそちらを手伝ってくれているのかもしれませんね」

「じゃあ、裏口でしょうか?

 リグからティーナがそんなに長く目を離すとも思えないので、近くにはいると思うのですが……。失礼、探し直して来ます」


 軽い会釈と共にガルフは裏口の方に進んでいった。

 それを確認して私はエルフィリーネとリオンに目くばせ。

 皇王陛下達の隙を見て瞬間移動をさせてもらう。

 裏庭の上空へと。


「小刻みに転移を繰り返す事で空中に浮くことはできる。落下の瞬間に何度も転移するから面倒だけど」

「目の前がチラチラする。ホバリングみたいな感じかな?」


 あんまり長く浮いているのもリオンに迷惑がかかるので、二階の窓枠に腰かけ、眼下を見下ろす。

 エルフィリーネの人払いがなされたそこではガルフに枝垂れかかるように身を寄せるティーナ(?)と


「ガルフ様。私をお探しでしたか?」

「何をしているんだ? ミルカ?」


 ガルフによるちょっとした修羅場(未満)が繰り広げられていた。



「やっぱり瞬殺かあ」

「当然だろ? 俺だって一目で解る」


 修羅場(未満)なのは、予想通りというか思った通りと言おうか。

 ガルフは一目、一瞬で目の前に立つ人物がティーナでないことはおろか、誰であるかまで看破したからだ。

 ミルカには自分の身体を変化させたり、他人に姿を変えることができるいわゆる『変身』の能力がある。誰にでもなれるわけでは無いけれど身近な人にはそっくりに姿を変えられるようになったそうだ。

 親友にも等しいミルカとか、ガルフとか。あと頑張れば私にも。

『私に変身』することに特化したノアールの能力程の精度は無いけれど、ちょっと見では解らないくらいには似せることができる。不老不死解除の時にはその力で、ノアールが来てくれるまでの間、私の影武者をして貰ったことも有る。


「私、ティーナ様に変身して、ガルフを誘惑してみます。

 ガルフが私の変化に気付いたら、私の負け。スッパリ諦めます。

 でも、気付かず私にティーナ様のように触れてきたらその時は……」


 ミルカが自分の心にけじめをつける為だというから、状況づくりに私も協力した。

 今、ティーナは私に用事を頼まれたという名目で、書庫にいる。

 その間にミルカはティーナに化けてガルフを誘惑。

 ガルフが誘いに乗ったら、二人の間は上辺、外見だけだと問いただすつもりだったようだ。


 これが婚約破棄系恋愛小説とかであれば、女主人公が姿を偽られ悪評を流されて、何故か見る目の無い婚約者が騙されて、偽物に本物が追い出される、という展開になるところだろうけれど。


「どういうつもりなんだ? ミルカ? ティーナの姿になって」


 ガルフは自分に身を寄せて来るティーナの姿をしたミルカの肩に触れ、引きはがすように押し離した。


「やっぱり、ティーナ様の事は直ぐに解るのですね」

「いや、そうじゃなく。俺がお前という娘を見間違う筈がないだろう?」

「私という娘……を」


 こともなげに。あっさりと。

 あまりにも簡単に言い放つガルフにティーナの形をしたままミルカの頬が赤みを帯びる。


「前にお母様達も私とノアール一目で見分けられるっておっしゃってたけれど、親ってそういうものなのかな」

「親に限らず、その人物を内面まで見ていれば自ずと見分けがつくもんだろう?」

「ああ、それは解る」


 私の場合は少し違うけれど、同じリオンの容をしていてもリオンかマリクか見分けを付けるくらいのことはできる。現役時代の私(というか真理香先生)は人の顔と名前を覚えるのが得意だった。そっくり双子がいても一瞬で見分けると有名だった。

 顔ではなく、仕草や行動で見分けるのがポイント、だったっけ。

 同じに育っても性格や行動まではなかなか同じにはならないものだ。


「ミルカ。お前は俺の結婚に反対か?」

「反対、というのではなく……。私はずっとガルフのことが……」


 気が付けばミルカは変身を解き、ガルフを見つめている。

 自分自身の姿と思いで。


「俺にとって、お前は取り戻したい幸せと希望の象徴だった。

 無垢なその眼差しでお前が俺を見てくれた時。

 俺はマリカ様の望む『子どもを守り、自由に生きられる未来を作る』

 その理想がはっきりと理解できたんだ」


 ガルフもまたミルカを優しい眼差しで見やる。

 ミルカの言葉の意味をどこまで理解しているかは分からない。


「俺は本当の意味で我が子を腕に抱いたことは無い。

 前の妻との間には子ができなかったから。

 だがマリカ様は良くおっしゃる。親に、特に父親には子が生まれたから自動的になれるわけではない。父親になろうとする思いが男を父親にするのだと。

 俺に父親の心を教えてくれたのはお前だ。ミルカ」


 包み込むような抱擁。そこに肉欲や性的なものは何もない。

 ただひたすらに優しい父性があるだけだ。


「俺は、リグもお前も含めて、ティーナと家族になりたいと思っている。

 リグには父親を。お前には母親を与えてやりたいというのも決心した一つの理由でもある」

「私の為に……」

「ああ。お前は本当によくできた娘ではあるけれど、

 マリカ様とティラトリーツェ様の睦まじい様子を見る度に、お前にも俺には口にできないことを分かち合う母親がいた方がいいのでは無いかと思っていた」


 ミルカが噛みしめる様に口を引き結び眉根を寄せる。

 自分のことをガルフが真剣に思ってくれていると知れば知るほど、自分が彼の視線に対等の存在として入っていないことに気付くのだ。

 ある意味残酷。

 でも、多分ミルカ自身もガルフを性的な対象としては見ていなかったのではないだろうか?

 源氏物語ではないけれど、いざ彼に肉欲を向けられていたら今のように純粋にガルフを慕う心は育っていなかったように感じる。


「私が、もしティーナ様との結婚に反対して、絶対に許さない。と言ったら、どうしますか?」

「お前が許してくれるまで結婚はしない。ミルカが許してくれるのを待つつもりだ」


 同様に、もしリグがガルフを受け入れられなかったら受け入れてくれるまで待つつもりだとも告げた。


「結婚は自分だけでするものじゃない。お互いが背負うものを共に分かち合ってこその家族だと俺は思っている。かつて、分かち合うことができなかったからこそ。

 そうしたいんだ」

「……私は、ガルフを助けたいとばかり思っていました。ガルフの重荷を一緒に背負いたいとは思っても、私の荷物を預けることはできなかったでしょう」


 ミルカの心の中で何かの決着がついたようだ。

 俯いていた首を上げ、ガルフを仰ぐその瞳には強い思いと光が宿っている。


「ミルカ……」

「ガルフ。……いいえ。今日から、お父さん、と呼んでもいいですか?」

「俺を父と呼んでくれるのか?」

「はい。そしてティーナ様のこともお母さん、と呼びます。呼べるように努力します。

 だから。

 これからもどうか、家族でいさせて下さい」

「勿論だ! ありがとう!!」


 感極まったようにぎゅうと、強くミルカを抱きしめるガルフ。

 彼はきっとミルカが自分をどんな風に想っていたのか、慕っていたのか本当の意味では気付いていない。父親の再婚に反対する娘を説得するような気持ちでいたのかも。

 でも、ミルカはそれでもいいと、決断した。

 ガルフを支えられるなら、妻ではなく娘、家族の立場からでも構わないと。

 ミルカだけの愛の形を、私は心から美しいと感じている。


「さて、結論が出たのなら、後は許可して祝福して、これからのことを助けてあげないとね。

 私達の式が終わったら、結婚式のラッシュで忙しくなりそう」


 私は窓枠から立ち上がると、空中にその身を躍らせる。

 リオンが助けてくれると信じているから、不安は欠片も無いし。


「マリカ」

「なあに? リオン」


 気が付けば抱きすくめられて室内へ。

 固い床を足が踏んだ。と同時。


「あっ!!」


 リオンが私の唇に自分のそれを重ねた。

 甘いだけのバードキスとは違う。


「……は…っ……ああっ」


 舌を絡め合う濃厚なディープキス。

 私の呼吸を奪うようなその甘さと感触に脳が揺れる。


「勘違いするなよ」


 リオンの腕の力が強くって、流し込まれる熱があまりにも強く濃厚で。

 解放されるまで私は身動きができなかった。


「俺はガルフとは違う。

 使命を忘れるつもりも捨て去るつもりは無い。

 お前を助け、支えると決めている。

 でも……それ以上にお前が愛しく、欲しい。

 今すぐにでも抱いて、一つになりたいと思うほどの欲情を抱いている。

 お前がそうさせたんだ。()()()

「……リオン」

「万人の為で在る筈の精霊()を、お前は狂わせた。

 責任はこれから、とってもらうからな」


 悪戯っぽい笑みで唇の間に引く銀の糸を指で拭って私の唇に押し当てるリオン。

 その指から伝わる感触が、体温が、また私の思考を蕩かして。


「え? あ、その……待って」

「今は、待つさ。でも、その時が来たら覚悟しておけよ」


 心臓の奥が火を灯したように熱くなり、強く高鳴るのを私は止めることができなかった。

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