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魔王城 住人達のこれから 後編

 魔王城の子ども達の進路相談。

 彼らの話を聞き終わった後、私はティーナとリーンちゃんにも向かい合った。


「貴方達にも、これからどうしたいかを聞いてもいいですか?」

「この城に残るか、それとも城を出て、別の生活をするか、ですよね?」


 リグを横に座らせたまま、私に問いかけるティーナに静かに頷く。


「そうなります。この城の城主は私ということになっていて、今後もそれは変わりません。

 城の守護精霊であるエルフィリーネは、基本私の指示に従ってくれるので、この城を島の開拓を指揮する王族に貸与する形になり、城の管理を請け負ってくれることになっています」


 エルフィリーネとも少し話をした。

 魔王城の島を地球移民の子ども達受け入れの開拓地とすること。魔王城と呼ばれていた『精霊国の城』を皇王陛下を始めとする王族の方達の住居として使って貰うことについても了承を得ている。


「城に七精霊の子(各国王族)達が住まうのは構いません。

 ただし、三階より上への立ち入りは禁止とします。

 この城は『星』に繋がる聖地。本来なら許された者以外の立ち入りはできない場所なのですから」


 城には十分な広さがあり、二階エリアの客間は王族、皇族が住んでも全然問題が無いと思う。

 現に皇王陛下は魔王城に入れるようになってからは時々お忍びで城に来ては寝泊まりされているし。

 アルケディウスや他の王族の方達がそれぞれに住む場所を分けても十分なくらいの広さはあると思う。左右両翼に四カ国くらいはいけると私は計算している。

 使用人部屋も下働き用、上級職員用、どちらも余っている。

 私達や城の子ども達が独立し始め、部屋は開いているので、当面の問題はそう無い筈だ。


「ティーナには今まで、城の子ども達を見て貰ってきました。

 貴女がいなかったら、私は外の世界に行くことに決心が付けられず、今もここで燻っていたことでしょう」


 私は深く頭を下げる。

 そういう意味で言うならティーナはこの世界を変えた影の立役者とも言えると思う。


「私は、ティーナがこの城での静かな生活を望んでいるのを知っていますから、貴女がそれを望むなら守りたいと思っています。

 ヨハンやジョイが城に残りますし、新しく城にやってくる方達、この魔王城にやってくる移民達を支えてくれればとても嬉しいです」


 アルケディウス皇王陛下と皇王妃様にはティーナが噂になった『スィンドラー家の消えた側仕え』当主に孕まされ、我が子を奪われそうになって逃亡した妾であることは知れている。事情も理解してくれているので、無理に戻れとは言わないだろう。

 ただ……


「お父様やお母様は貴女とリグに違う期待をかけているようです。聞いていますか?」

「……はい。リグを、フォルトフィーグ皇子の腹心として育てたい、と」

「そうですね。子どもがまだ少ない現状で、今後増えて行くにしても年下ばかり。

 頼りになる年上で、しっかりとした教育を受けたリグを皇子達の側に付け、次世代を支えて欲しいということのようです」


 基本的に王宮という場所は子育てにはあんまりよろしくない。

 子どもは孤立しがちだし、親しい友人もできにくい。

 プラーミァなどは意図して王族に歳の近い信頼できる臣下の子どもを付けて、腹心として育てているくらいだ。


「受けてくれるのなら、第三皇子家に部屋を用意し、準貴族待遇の腹心として迎え入れる。

 ティーナのことも乳母待遇で第三皇子家に迎え入れて全力で守るとの言質も頂いています」

 

 リグの将来を考えれば、かなりいい条件であるとは思う。

 フォル君だけではなく、次の次のアルケディウス皇王ラウル君にも覚えがめでたくなるし、本人次第でかなり上まで登れる可能性はある。しかし、当然、別の意味で危険は生まれる。


「心配する通り、どんなに隠してもリグを表に出せばスィンドラー家の目に着く危険性はあります。

 以前、タートザッヘ様がおっしゃっていましたが、リグは先代の伯爵と風貌が似ているのだそうです。表に出て今後成長し、注目されれば、連想されるかもしれません。

 ティーナは美しいし、目立つ容姿をしていますから貴族社会に戻れば、注目されることになるでしょうから」


『スィンドラー家の消えた側仕え』はアルケディウスで今なお語り継がれる醜聞だ。

 スィンドラー家のドラ息子は今、公正プログラムの真っ最中でアルケディウスにはいないから直接の危険はないと思うけれど、親はどこまで懲りて反省しているか正直解らない。

 息子かもしれない子が皇子の側近に取りたてられたら手を伸ばしてくる可能性はかなり高いとみる。


「戸籍を操作したり、新しく作って他人として登録することは望めば私達が責任を持って行います。

 カツラなどで印象を変えることなどもできるでしょう。

 だから一番大事なのはティーナの気持ち、ですね」

「私の気持ち、ですか?」

「ええ。外に戻るか、魔王城の島に留まるか。

 人としての高みに手を伸ばすか、静かに暮らすか」

「私が決めてもいいのでしょうか?」

「ええ。お父様とお母様も貴女の事情を知っていますから、決して強制はしないと言っています。

 この城と島に残って、開拓者の世話をして貰えればそれはそれでとても助かりますし、別の意味で準貴族待遇、元、になりますが皇王陛下の信頼する部下として遇せられることでしょう」


 他にもティーナは魔王城で長く子ども達を見てきてくれた実績がある。

 今後幼児教育、児童教育が重視されるから孤児院でも、学校でも必要とされる場は山ほどある。それに……。


「とりあえず、今すぐに結論を出せ、という話ではありません。

 明後日、夜の日にお父様やお母様、ガルフなどが遊びに来たいと言っていました。

 今年ももう冬間近ですし、来年開拓が始まれば、島でのんびりと遊べるのは最後になるでしょう。

 だから大祭の慰労会もかねて皆で盛大に集まってバーベキューパーティをするつもりでいるのです。

 いい機会ですから、皆の意見も聞いて相談してみてはどうでしょう?」

「お心遣い、感謝いたします」

「誰に言われたから、求められたから、ではなく、自分の意志で、ティーナとリグにとって一番よい未来を選んでくださいね」


 前に、ティーナを城に迎えた時、彼女は言っていた。

 自分に選択権が与えられたことは無かった。奴隷として流されるばかりだったから、選んでよいと言われたことが嬉しかった、と。

 結果、彼女は当時、不老不死を捨て去るという決断をして魔王城に入ってくれた。

 今まで、城の子ども達を守り、支えてくれた恩義を私は忘れてはいない。

 私の力の及ぶ範囲、その全力で彼女とリグ。二人の意志と幸せを守る。絶対に。


「リーンはどうしますか?」

「私は、お許しいただけるのであれば大神殿に戻り、マリカ様のお側に仕えたいと思っています」


 彼女は質問を向けられるとそう答えた。ずっと考えていたのだろう。

 ほぼ即決だ。

 

「ネアと呼ばれていた時代から、マリカ様やアルケディウスの皆様、そして魔王城では本当に良くして頂きました。美しい名前と教育による知識を授けて頂いた恩義を、私は忘れません。

 マリカ様を『宵闇の星』と呼ぶのは一種の枕言葉で、定められていると教えられましたが私には、あの日出会ったマリカ様、そのお姿が真実、宵闇に輝く星に見えたのです。

 許されるなら私も輝きたい。そしてマリカ様のお側に仕えたいとそう思っています」


 彼女のこめかみには今も私が贈った蒼い星飾りが輝いている。


「リーンにも力を貸してくれる精霊石がいますし、魔術師として侍女よりも高い位置につけるかもしれませんよ」

「魔術の勉強は続けます。でも、その力もマリカ様の為に使いたいのです」

「ありがとう。ならセリーナに話して、大神殿で私に仕える侍女として迎え入れるようにしますね。

 今は結婚式前でバタバタしているので、新年の式が終わって落ち着いてからの話になるでしょうけれど」

「構いません。それまでの間に改めてティーナ様に礼儀作法などを学んでおくつもりです」


 元貴族に使えていたティーナは私達の礼儀作法の師匠でもあった。

 ファミーちゃんや今リーンが言った通り、外を目指す女の子達にも所作を教えてくれていた彼女には本当に、言葉では語り尽くせない恩がある。


 子ども達それぞれの進路相談が終わっても、今なお思案に沈む魔王城の保育士ティーナ。

 彼女とリグのこれからが輝くものになるように、どんな道を選んでも私は全力でサポートしていこうと心に決めている。


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