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魔王城 住人達のこれから 前編

 精霊神様達との話し合いの後、私は今、城に残っている子ども達に集まって貰った。


 今から六年前。

 この城に最初に連れてこられたのは私、リオン、フェイ、アルを含めて十四人だった。

 保育園っぽく言うと、五歳児年長組が三人、四歳児年中組が三人、三歳児が二人、未満児が二人という所。


 一年目の秋にガルフがやってきた。

 彼はこの城に住むことは無かったけれど、二年目春、ミルカが来て十五人になり、同じ年の夏にティーナが来て、リグを産んで十七人になった。

 三年目の春、私達と年上の四人が外に働きに出て、四人減り、十三人に。

 その後年長組三人と年中組一人、そしてミルカの五人が外に出て、娼館の子どもだったファミーちゃんが加わって長く九人で過ごしていた。

 十人目となるネアちゃん。今はリーンちゃんが入ったのは四年目、私が皇女としてお父様の養子になり『聖なる乙女』の神殿仕事をするようになって割とすぐの事で、そこから二年くらいはずっと十人で過ごす。

 年中組のシュウが外に出て、職人さんの工房で住み込みするようになったのは今年になってからのこと。そして姉であるセリーナの結婚と、王宮魔術師であるソレルティア様への正式な弟子入りを機にファミーちゃんが城を出て、今は、ピアちゃんを除くと八人が魔王城に暮らしている。



「皆に、確認しておきたいことがあるの。これからどうしたい?」


 大広間の大テーブルに集まったのは九歳のヨハン、八歳のギルとジョイ、七歳のジャックとリュウの魔王城初期組。ティーナとリグ。そしてリーンちゃんだ。

 私の横にはリオンがいてくれる。守護精霊であるエルフィリーネとオルドクスは部屋の隅でこちらの様子を窺っている感じ?


「どうしたい? ってどういうこと? マリカ姉。

 魔王城に住めなくなるとか?」


 集まった中でティーナを除くと一番年上であるヨハンが真っすぐな目で私を見る。

 肩に止まらせたクロトリの羽を宥める様に撫でながら。


「ううん、そういうことじゃないの。ここが私達も含めたみんなのおうち。外で働いている皆も帰る場所。それは変わらないよ」


 皆を不安にさせないように私ははっきり伝えておく。


「ただ、ね。今度、この島にたくさんの人たちが来て、暮らすことになるの。ピアちゃんの兄弟みたいな人達と、その人たちを助ける為の外の人達が、凄く、凄く沢山。

 そうなると島での生活はかなり変わると思う。今まで見たいに森で果物を取ってきたり、自分達が食べる分の野菜を育てて静かに生活しているだけじゃなくて、いろんな人と関わって生きて行かなくちゃならなくなるの」

「ガルフ達や皇王様達が来るのと違うの?」

「ガルフや皇王陛下達はここで泊まっていくことはあっても、住むわけじゃなかったでしょ? これから来る人達はみんなずっと住むことになるからね」


 最初は魔王城の城下町を復興させて、住む場所や耕地が足りなくなったら、島のあちこちにある廃墟の街を整えていくことになるだろう。

 多分、魔王城は『星』のおわす場所だから、一般人の立ち入りは原則禁止になる。王城と同じ扱い。

 細かく詰めてからの話になるけれど、皇王陛下や水国の元公主様、地国の前大王様などの指導者が住むと思う。多分。


「だから、これから先、皆がどうしたいか聞きたいと思ったの。この城に残るのも大丈夫。

 新しく皇王陛下や他の人も住むけれど、ここで今まで通り暮らせるようにちゃんと話をするから。

 でもね。みんな、ここで過ごしてきて色々な事ができるようになったでしょ?」


 私は魔王城の保育園で過ごしてきた子ども達を見やる。

 お父様が救い上げた時の哀しい、感情も表情も名前もなく、虚ろな様子は影も形もない。


「全員、文字も読めるし、字も書ける。計算だってできる。

 ここで学んだことを外で働いている皆がしっかりと生かして活躍しているように、みんな外に出ても十分にやっていける力が身についてきていると思うんだ」


 教育と愛情を受けて育った魔王城の子ども達は、皆、目に強い輝きがある。

 やりたいこと、やるべきことを見つけてそれを為そうとする意志と力も有る。

 まだ幼いけれど、しっかりサポートしてあげれば、外の世界でも十分にやっていけると私は思う。


「どうしたい? 何がやりたい?

 私は、全力でそれを助けるよ」

「僕らはマリカ姉のところにいきたい!」「リオン兄と一緒の所に行く!」


 どうする? と目で問うた私に真っ先に手を上げたのは、年少組だった二人、ジャックとリュウの双子だった。


「私の所? 大神殿に?」

「うん。僕らは戦士になるの。マリカ姉達を守るって決めた!」

「クラージュ先生も、リオン兄も大神殿に行くんでしょ? 剣道教えて貰ってもっと強くなる!」

「そっか……。どう思う。リオン?」

「二人がやる気なら、大神殿の騎士団で預かる。アーサーやクリスの例があるからそんなに抵抗なく受け入れられると思う」


 彼ら二人が戦士の路を歩みたい、と言っていたのは知っている。

 クラージュさんがおりに触れ向こうの世界の剣道。

 その基礎を教えて心の面から指導していたことも。

 今、アーサーとクリスはリオンの従卒扱いではあるけれど、大神殿の戦士としては中堅クラスとしての地位を確立している。勇者から直接指導を受けているのだ。

 能力の助けもあって下級戦士くらいなら蹴散らせる実力も付いた。

 双子が憧れだけではない戦いの世界について学び、その上で戦士の路を改めて志すのなら私が口を挟む権利はない。リオンとクラージュさんが指導してくれるならなお安心できるし。


「いいよ。アーサーやクリスと相談して大神殿の騎士団に見習いとして入れるようにする」

「ホント!」「やった!」

「ただし、騎士団に入るとなると人間関係も大事だから。他の人と仲良く付き合う事。大人の意見を聞く事とかをこれから勉強していこうね」

「解った!」「うん!」


 騎士団は実力社会だけれど、やっかみとかも無いわけじゃない。礼儀作法や人との付き合い方を今後しっかりと知らせて行こうと思う。


「僕はさあ、城に残ってもいい?」


 双子に追い越されてしまった形になるけれど、躊躇いがちにそう自分の願いを口にしたのはヨハンだった。


「魔王城や島にはさ、動物達がいっぱいいるんだ。みんなと、離れたくないって思ってる。

 カイトとも。外に出ちゃったらずっと一緒ってわけにはいかないでしょ」

「それは、そうだね」


 ヨハンにはビーストテイマーの才能がある。

 ほぼ一人で魔王城のクロトリ、山羊、馬、ロバ。そして最近は羊の世話もこなしていた。

 オルドクスが手伝っているし、動物達に気持ちが通じるので逃げたり、迷惑をかけたりということも殆ど無いのだ。

 愛情を持って接しているので、馬などは元野生だったのに戦馬に使えるくらいしっかりと調教されている。


「了解! これから城にも人が増えるから、動物の世話をする人も回してもらうね。

 皇王陛下にも言っておく。城の動物達をお願い」

「ありがとう。マリカ姉」


 もし、ヨハンが外での生活を望むなら、彼らは逃がすことになると思っていたけれど、彼は外よりも魔王城の島での友達との生活を望むという。なら私はその希望を尊重しよう。

 人が増えれば増える程、牧畜の重要性は増していくし。


「ギルとジョイはどうする?」

「僕は、ゲシュマック商会に行こうかなって、思ってる。ラール兄さんとリードさんが、ずっと外に来ないか、って言ってくれてるから」

「ああ、ギルの絵の才能を伸ばしたいって、ずっと言ってたよね」

「うん。この間、フェイ兄の結婚式の絵を描いてから、いろんな絵を描いてみたいな、って。あと、もっともっと上手になりたいなって思ってる。ラール兄さんみたいに」


 ラール兄さん。か。

 ギルがラールさんをそんな風に慕っているとは今、初めて知った。

 ラールさんがギルを可愛がっていることは知っていたけれど。

 元地球移民で、向こうの世界で同人誌もどきも描いていたというラールさん。

 見たモノをそのまま丁寧に描くギルと違って、適度なディフォルメと愛らしいイラストが特徴だ。

 彼の影響を受けて、フェイの結婚式の時に新郎新婦のイラストにご両親と伯母であるシュトルムスルフト女王陛下を加えて描いた絵は新しい境地だと言ってもいいと思う。

 一種の夢絵。まだ写真が一般的になるのはもう少し先だし、不老不死が終わって今後需要は絶対に高まっていく。

 今でもギルの絵で作った図鑑は解りやすいと大好評だし。


「とってもいいことだね。ゲシュマック商会に話をしてみるね。多分、大喜びで受け入れてくれると思う」


 ゲシュマック商会には魔王城出身の子も、外の子もたくさん働いている。

 リードさんとラールさんが後見してくれれば、安心して任せておけるだろう。


「ジョイはどうする?」

「僕は魔王城で料理作ってたい。この城に誰もいなくなるわけじゃないんでしょ?」

「それはそう。逆に多分、人は増えると思う」

「だったら、その人たちにお料理を作って食べて貰いたい」

「外でラールさんに教えて貰って新しい料理を覚えて、たくさんの人に食べて貰う、とかはしなくていい?」

「いい。外、なんか怖いし。

 魔王城はマリカ姉がいるから最新のレシピもいっぱいあるし、料理人には天国だなってザーフトラク様も言ってた」

「ああ、多分、ザーフトラク様は皇王陛下と一緒に魔王城に来るよ」

「ならザーフトラク様と一緒に、ここでお料理作ってる」


 ジョイはちょっと怖がりで人見知りのところがある。

 能力(ギフト)も多分、危険感知。自分を傷つけるものに対して敏感なのだ。

 いずれは広い外を見て欲しいとも思うけれど、まだ八歳だから本人の気持ちが外に向いたらでいいだろう。

 魔王城に来るたび、孫のようにジョイを可愛がって一緒に料理をしているザーフトラク様も多分喜ぶ。


「じゃあ、魔王城の台所はこれからもジョイにお願いするね。

 これからも、色々なレシピとか持ってくるから、帰ってきた時食べさせて」

「任せて!」



 余計な口出しをするまでもなく、それぞれに、自分の行く道を定めていた魔王城の子ども達に、彼らの六年間を思う。

 ここ最近は留守にすることが多いので、私の中の彼らはどうしても幼い子ども。守るべき存在の印象が強いけれど。

 彼らはちゃんと周囲の人間、尊敬すべき大人の背中を見てきた。積み重ねてきた思いの先がこの選択なのだろう。これはきっと、魔王城に閉じ込められ、人との関りを断っていたら出てこなかった。

 良き人との、いい関わりが子どもに与える影響の大きさを、私は改めて実感したのだった。

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