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魔王城 神々の娘

「それって、やっぱり私の身体を使うのが前提、なんですか?」


 随分とあっさり言ってくれるというか、既に私が協力するのは織り込み済みなんですね。

 とか、喉元まで出かかった言葉は紡いでしまうと嫌味になりそうなので、とりあえず呑み込んで、私は神々の空間。

 疑似クラウドの中、『神々』に問いかけた。


「それが、一番手っ取り早くて確実なのよ。貴方はワイルドカード。どんな力にも対応できる最強の能力者(カード)だから」

「特に今、僕達『精霊神』の力を行使するにあたっては、君以外の選択肢を選びたくないってくらい他の子と君は差がついてる。旧型と新型両方のナノマシンウイルスを生まれる前から体内に持つ君は、人間の容をしているけれど、もう精霊神(ぼくら)とほぼ同種だ」


 当たり前のように仲間として私を見る皆様。

 皆さんと同種、人間じゃない。

 別にそれが嫌なわけでは無いけれど、チリチリと胸の中で何かが熱を帯びていく。


「『精霊の貴人(エルトリンデ)』や『聖なる乙女』というのは元々、そういう存在だった。『神々』に力を送り、『神託』に従い、その依り代となって力を行使する。『神』と『星』の代行者。

 地球の言葉で言う所の『聖女』だな」

「俺達には力を使う為の実体が無い。勿論、今のままでも精霊(ナノマシンウイルス)に働きかけて自分の司る力を行使するくらいのことはできるけれど、本格的に『神』として現世利益的に力を使おうとすれば力を行使する為の気力(ナトゥラム)と相性のいい器はどうしても必要なんだ」


『神』と同じことをおっしゃるなあ。とこの時思った。

 微かな苛立ちと共に。


「お前がやらない場合は、各国の王族に頼むことになるかな。要素が無いと憑依できないし無理にやっても負荷が半端なくて使い物にならない。私で言うなら、一番相性がいいのは元公主のナターティア。次はソレイル」

「女性の方がいいんです?」

「女の身体の方が柔軟で、力を受け入れることに慣れているからな。負担が少なくないのだろう。

 それでも『神』の力を使う訳だから、我々が思う形で目に見える奇跡を起こせば、丸一日は使い物にならなくなるだろう」

「お前に害を為した賊を懲罰するのにベフェルティルングの身体を借りた時があっただろう? あいつは肉体的には頑健だが、能力を使う資質には欠けていた。さして強く火の力を使ったわけでは無くても数日は頭痛と筋肉痛に苛まれた筈だ。寝込むことなく政務を取り続けた奴の精神力は褒めてやってもいいが」

「うちの国で言うなら使い物になるのはスーダイだけだな。ただ、アーグストラムがいない今、地下に埋まったコンテナを掘り出して移行するなんて力を使ったら、多分、三日は寝たきりだ」

「うちも同じ、アリアンは精霊の力を使う素質が高めだから二日で済むかもしれないけど」

「アンヌティーレならそんなに負担なく力を使えるかもしれん。でも。今回は夜の力はお呼びじゃないからな」

「俺の場合ならアマリィヤかフェイに任せればなんとかなるかな。多分シュルーストラムがいる分、フェイの方が負担少な目でいけると思う。頼んでみるか?」


 皆様にこうして畳みかけられると、逃げ道が無いのを実感してしまう。


「勿論、貴女が無理だ、やりたくないというのなら強制はしないけれど『神々』の助力、人が使う以上の力を求めるのならそれなりの代償がいるわ。

 多分、貴女がやるのが一番、その支払いが少なくて済むわよ」

「……そうですよね」


 いつもと同じ。

 マジシャンズセレクト。私には選択権は有るように見えて最初から無いのだ。

 プチン、と何かが切れるような音が聞こえた。

 耳ではなく、身体の中で。


「解りました。やります。どちらにしても魔王大阪城からの子ども達の移動はどうしても必要な事ですし」

 

 別に拒否するつもりは端から無かった。

 手伝ってくれる? とか、どう思う? と聞いてくれれば多分、ほいほい手伝ったろう。

 ただ。直前にリオンの意志を半強制的に封じて身体をいいように使った『神』を見ていて。

 そして、私の意思を確認するより早く、決定事項として物事を決めている『神々』にちょっとムカついたのだと思う。

 ちょっとだけ。


「その代わり、と言っては何ですけれど、今後、もし『神々(皆様)』がお力の行使を行う時には、基本私を使って下さい。王族の方々に負担をかけたくありません」

「え?」

「マリカ?」


 私は道具でもかまわない。

 皆を幸せにする為の保育士であることに異論はないし。

 でも、せめてただの道具ではなく、主張はしっかりしておこう。

 私と同レベルの無茶ぶりを他の人にかけられては可哀相だ。


 私の反撃に、驚いたのだろうか?

 皆様の表情が少し変わったように見えた。


「そ、それは勿論。

 元々、僕らが力を行使するような事態は通常、そんなにあるわけじゃない。っていうか、当てにされ過ぎても困る。人が自分の力で努力して、それでもどうしようもない時にのみ発生が許されるのが『神』の『奇跡』ってものだと思う」

「はい。それで構いません。私は大神殿で大神官をやることになるので、各国から『精霊神』の力を借りねばならない様な要請があったら、検討して応じる。という形にしていきましょう」


『精霊神』様達も『星』様もお優しいから人を見下したり、頭ごなしに命令したりは滅多にしない。

 だから、むしろ、人々が甘える事の無いように。

 神々が人を甘やかしすぎないように、仲介するのが『精霊の貴人(エルトリンデ)』の役割だろう。

 ただ使われるだけではなく、私こそが彼らを使わなければ。

 何故か、そう思った。


「あと、この魔王城の島も正式に『星』の聖地として各国に開示しますがよろしいですか?

 その件も相談したかったんです」

「……貴女がいいと判断したのなら、かまわないわ。この島への移民の受け入れを決めた時から覚悟はできていますから」


『星』の瞳と言葉が微かな惑いと警戒を宿す。

 ここは星を守る中枢だから、下手な人間は入れたくないと言っていた。

 それは理解できるけれど精霊の力に守られているとはいえ、人の入らなくなった農地を生き返らせるには人手がいる。

 移民は必須だ。十万弱の子ども達を不自由なく生活できるようにする為にも。


「もうすぐ、移民開始前の事前調査団がこの島にやってきます。その時に『星』御自ら彼らに協力を仰いで頂ければ、各国もよりやる気をもって新天地の開拓と、子ども達の世話に力を注いでくれると思います」


「『()』の代行者として正式に立つ、ということ?

 そうなると貴女は本当に逃げ場がなくなるわよ」

 

 どこか哀れむような眼差しで言い放つステラ様に、私は真っすぐに視線と思いを返す。


「元々、私達はその為に生まれた存在ですから、逃げるつもりはないです」


 私達。

 魔王城(真)から戻ってきて『神』から解放されたリオンに、私は問い詰めた。


『リオン、『神』にそんなに簡単に使われてていいの?』

『その言葉、そっくりお前に返す。

 お前はいいのか? 『星』と『精霊神』に絡めとられて、もう逃げられなくなってるぞ』

『私はいいの。その為に生まれたんだし、リオンがいてくれるなら、なんでもできるし我慢もできる』

『俺も、同じだ。お前が側にいてくれるなら、何をされたってかまわない』


 彼の言葉に返した返答をそのままに。

 彼がくれた約束と勇気もそのままに。


「リオンと一緒に、私はこの星と人々を守ります。

 それが、私が生まれた理由だと解っていますから。

 でも、他の人たちは巻き込まないで下さい。アルやフェイ。各国の王族の皆さんも含めて」


「この城に住んでいる子ども達はどうするつもり?」

「皆と話をしてここに残るか、外に出るかを決めて貰うつもりです。今日明日、という話ではないので、本格的な移民が来る前には」


 私が魔王城の島に来た時、行き場のない十二人の子どもがここにはいた。

 でも、今、そのうちの半分は自立して外での生活、活動を始め、残っている子達もそれぞれのやりたいことや才能を発揮し始めている。

 魔王城の島は保育園のようなものだ。いつまでも長くいる場所ではない。子どもはいつか必ず自分の未来へと歩み出す。

 その為の力を与える場所、保育士()の役目は子ども達の明日の為の踏み台なのだ。


 膝を折り、皆様の前に祈りと共に言葉を捧げる。

 目を閉じて、自分自身への宣誓を込めて。


「ですから、どうか力をお貸し下さい。

 星の未来と子ども達の為に」


 そう言いながらも、私は自分の事で精一杯。

『神々』が私を見る眼差しに気付いてはいなかった。

 勿論、私自身の『変化』にも。

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