魔王城 情報共有と今後の計画
私の魔王城での一週間の休暇は、主にピアちゃんの対応に費やしたけど、勿論大事な仕事を忘れてはいない。
ピアちゃんが寝入った後、私はそっと添い寝していたベッドから立ち上がると
「エルフィリーネ。お願い」
「かしこまりました」
城の守護精霊に頼んでステラ様への面会経路を繋いで貰う。
聖域。要するに疑似クラウドへ。
「ステラ様、皆様お待たせして、申し訳ありませんでした」
「ご苦労様。別に私達に昼も夜も無いから気にしなくて構わないわよ。
貴方達の様子を見ているのも楽しいし」
深夜の対応になったのに、疑似クラウドに入れば当たり前のようにステラ様が応じて下さる。見れば、精霊神様達も七人そろい踏み。
深く、私は頭を下げた。
「そうそう。可愛らしい女の子達の睦まじい姿は見ているこちらが和むというか幸せな気持ちになるよね」
と同意するように頷く、木の精霊神様。
「まったく、お前達を黙って連れて行くところが、相も変わらずだ。怒られると思っての事だろうが、我々を連れて行けば、もう少しスムーズに事が運んだものを」
「でも、行ってもアーレリオスじゃ、あんまり役に立たなかったんじゃね? 俺か、キュリッツオ。
せめてエーベロイスじゃねえと」
どこかふくれっ面で息を吐きだす火の精霊神に、弟分の厳しいツッコミが入る。
「そこはツッコまないのが大人ってもんだよ。ジャハール。娘の前でカッコいい所を見せたかったお父さんの八つ当たりに巻き込まれる」
「聞こえているぞ。お前ら。
誰が大人だ。
少しは年長者を敬うとか立てようという気持ちは無いのか?」
「ない!」「今更五年や十年年上だなんて関係ないでしょ?」
まるで兄弟げんかのような微笑ましい会話は、星の神々の会話とは思えない。
同じ運命を戦い、苦楽を分かち合ってきた仲間、運命の兄弟をステラ様の側で微笑ましく見守る。
気心の知れた間同士の会話は、親し気で楽し気で。
どこか羨ましく、眩しく感じた。
ちょっと目頭が熱い。
「それでマリカ。詳しく向こうの様子を見てきたのでしょう?
情報を共有させて貰ってもいいかしら」
「あ、はい。っていうかレルギディオス様からまだ正式な要請出ていないんですか?」
「治療と対応に疲れたって言って、リオンと情報同期した後は寝てるの」
「一応、冷凍睡眠の子ども達のコンテナを、ステラの島に移すことに関しては要請が出ているよ。メールだけど」
「メール」
神々もメールするんだ? という私の疑問符を読み取ったようにステラ様がくすくすと笑う。
「メールというか、文書要請ね。厳密には違うけど、 LINEとかショートメッセージとか。
顔や声を出さずに連絡するやつ。その方が貴方には解りやすいでしょ?」
「はい。じゃあ、今、こうしているのは精霊神様達的には、リモート会議みたいなものなんですか?」
「そういうことになるかな? 精霊獣を送っている時はマイクとカメラ付きのドローンを飛ばしている感じ? 分身を本体が操作しているからね」
地球の文化で説明されると解りやすいけれど、超常の神々からそういうことを言われると少し不思議。
「じゃあ、リオンのバングルは?」
「あれはまた説明が難しいんだけれど、自分のほぼ同一コピーを作ってリオンに持たせている感じかしら。完全に接続が切れているから分身の様子をリアルタイムで共有はできないのだけれど、持ち帰って情報同期すれば共有できるわ」
「精霊獣方式で、リアルタイム共有はしないんですか?」
「まだそこまでの権限を返していないの。
彼を信用してないわけじゃないんだけれど、共有ネットワークへのアクセス権が無いから苦肉の策というところね」
万が一にも『神』が悪意を持って疑似クラウドからステラ様や他の皆さんの領域をハッキングすれば、星を乗っ取られるかもしれない。そんな意図からつい最近までステラ様は疑似クラウドの共有スペースにアクセスそのものをしていなかったそうだ。
情報セキュリティを考えればそれはとても正しい話。
疑似クラウドは完全なクローズスペースで許可無しで入って来れるのは神々だけだからそこまで心配しなくてもいいのだろうけれど。
「相変わらず水臭いというか、礼儀がなっていないというか。
後でがっちりと締め上げるけど。それで実際に彼のお膝元を先入観無しで見てきた第三者の視線を知りたいの。向こうの魔王城の様子。同期させてもらってもいいかしら」
「解りました。どうぞ」
私が目を閉じたまま直立すると、額にぺとりとした感触が当たる。
脳の中に触手、というかコードを接続させて情報を引き出す。精霊神様達の得意技だ。
神の言いっぷりだと、やろうと思えば、コード無しでも人の行動や心の中を読んだりすることは可能らしいけれど、接続すればほぼ不可避で確実に情報を持っていくことができるし介入もできるとのこと。
プライベートも丸裸になるし、接続されている間はほぼ動けないけれど、生まれる前から色々されているっぽいし、今更だ。ステラ様も他の男性神達に任せないだけ気遣って下さっている。
スッと頭の中に走馬灯っぽく『神』がリオンの身体で私の部屋に飛び込んできたときから、魔王城からの帰りまでが流れていく。これが、他の精霊神様にも伝わっているのだろうか?
「終わり。ご苦労様。
でもまさか、本当に大阪城をそのまま魔王城にしているとは思わなかったわ」
しゅるん、と微かな音がして私の身体が自由を取り戻す。
「私も、あのお城だったらもう少し早く、地球とこの星の繋がりに気付けていたかなって思いました。
レルギディオス様は、ご自分の城を船と呼んでおられましたけど、各国の王宮も元は移民船で、地球の建造物をベースにしているっておっしゃっていましたっけ?」
「そうだね。僕の所はホワイトハウスを元に少しアレンジをしている。
皆の所もそうだと思うよ」
とはキュリッツオ様の言。
中世異世界なのにどこか、各国が地球めいた雰囲気だったことも納得だ。
「我々の時はほぼ全員、一気に目覚めさせたからな。落ち着くまでは船を変化させた神殿を彼らの宿舎にしていた。地上に分身体で降りて七王家を確立させる頃には、それぞれの国で民が自分の家を作り、街を建築し始めていたから、王宮に変化させて権威と力の象徴にしたのだ」
「今はもう王宮を宇宙船に戻すことはできないんですよね?」
「それは無理。
もう、地球から持ってきたリソースは殆ど全部使い切ったからね。
ただ、レルギディオスの魔王城だけは、やる気になってこの星から精霊の力を相当量を分捕れば飛べない事はない、かな?」
「日本の英知たる国会図書館をまだ、奴専用のスペース内に残しているから。できるなら早く再生させてほしいものなのだが。日本の科学技術に関する論文などはぜひ欲しい」
オーシェアーン様がちょっと羨望の籠った眼差しで言う。
確かに日本の出版されていた書物を全て所蔵しているという国会図書館があれば、この星に地球の文化を再現させる計画もスムーズに行きそうだ。
「まあ、それはそれとして。優先順位はやはり地球移民の子ども達の移送だろう。魔王城のこのデータでいうと横に埋まっている冷凍睡眠者のコンテナを掘り出し、移送させるには少し手間がかかりそうだ」
「大工事になりそうですものね」
「順番として、大神殿の下に在る精製炉を先に掘り出せば、レルギディオスのナノマシンウイルスの増幅、精製機能が飛躍的に増大するからかなり楽にはなるんだが」
「あいつにあれを返すとまた調子に乗るかもしれないからなあ」
「空飛んで逃げられると俺でも捕まえるのはやっかいだ」
「空を飛ぶ? 精製炉が?」
「ああ、精製炉はいざという時の為に、船と分離、独自形態で動かしたり飛べるようになってるんだ。僕らのはもう溶かしちゃったけど。
レルギディオスのは特に日本のアニメ、ゲームオタの趣味が入っているから結構ロマンだよ」
ラス様、なんだか楽しそうに笑っている。
ちょっと想像がつかないけど。
「まあ、どんな順番でやるかは僕達で話し合うよ。
マリカは暫く休んで体力を温存しておいて」
「え? なんでその流れで私が体力温存になるんですか?」
私から取り出したデータをもとにあれこれ議論を始める精霊神様達に私は小首を傾げた。
でもステラ様は、こともなげにおっしゃるのだ。
「だって、実際の仕事は貴女にやってもらうことになると思うから」
って。




