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魔王城(真) 『神』の機構(システム)

 カプセルから救い出した子を私は『神』の元に連れ戻った。

 地下の子ども達の眠るカプセル部屋は広い。

 どこか野球場のような巨大なスペースが大きな箱に入っているようなワンフロアだったけれど、そこを見下ろすように、中二階というかエリアをぐるりと取り巻く通路と、張り出しの小部屋のようなものがあった。

 きっとコントロール、管制ルームなのだろう。

 私達が扉に入って直ぐの場所がその管制ルームで下のカプセルエリアには階段で移動した。


「赤色アラートが出ていたのはこの子だけです。黄色の多分危険のランプがついていた子は他にもいましたけれど」

『よし、そこの寝台に寝かせろ』

「はい」


 私は連れてきた女の子の小さな身体を、いつの間にか用意されていた寝台に指示通りそっと横たえた。

 微かに空気を動かすような音がして寝台の蓋が閉まった。

 まだ青紫の唇を、管付きの酸素マスクのようなものが覆うと透明な液体が周囲から噴き出してきて、少女の身体を浮かばせる。


「! 何ですか? これ。大丈夫なんですか?」


 必要な処置が終わったからだろうか? 気が付けばリオンの手足に絡みついていたコードは消えていた。

 一時は金髪になっていた髪の毛も元通り。

 浮遊状態を解き、シュタッと着地した『神』は、私の横に来て一緒にカプセルの中身を見ている。


『心配するな。長期の冷凍保存で衰えた身体を治療している。

 失われた体内の成分をナノマシンウイルスを含む生体液で補充している形だ。酸素は別に吸入させているし体内組成が落ち着けば改めて目覚める。こうして処置した方が生存確率が高いのだ』

「生存確率……」


 初期は冷凍睡眠から目覚めた子の多くは長生きできなかった、という話を聞いている。

 きっと少しでも多くの子を助ける為に試行錯誤したのだろう。『神』も。


『落ち着くまで半日ほどだな。

 その後は、意識レベルや記憶の状態などを確認して徐々に教育を与え、普通の生活に戻していく。睡眠学習でこの世界の言葉も読み書きはともかく、会話はできるようにしてある。

 私のいないこの城に残していくわけにはいかないので、ステラの元に連れて行って貰うことになるが、良いな』

「それは勿論」

『……ピア・レイノルズ。四歳。アメリカ、西海岸出身。

 よく頑張ったな』


『神』は愛しげに液体の中に揺蕩う女の子を見つめている。

 四歳、か。

 魔王城ならネアちゃんやティーナがいる。

 エルフィリーネもいるから面倒を見てくれるだろう。

 できるだけ、私も側にいてあげたいけれど、ずっと付いていてあげるのは難しそうだ。


「こちらに置いて行かれても構いませんよ。幼子のお世話は苦手ではありませんので」


 私達の話を聞き止めたのかノアールはそう言ってくれた。

 ノアールならずっと付いていてくれるかな、と思ったけれど、色々考えて、ここは遠慮しておく。


「ありがとう。ノアール。でも右も左も解らない子どもだから、きっと戸惑って泣いちゃったりするしずっと、冷凍睡眠だったから生活面で困ることもあるだろうし。

 トイレトレーニングとか、食事の仕方を教えたりとかアレルギーが無いかとかの対処はノアールには難しいでしょ」

「そうですね」

「それにエリクスとの二人きりの生活を邪魔しちゃうし」

「解りました。お任せします」


 すんなり引いてくれたのは、やはり彼との二人の時間が大事だから、かな?

 小さく微笑んで下がったノアールと入れ違うように、アルとフェイが彼の側にやってきた。


「全ての名簿と思しきものを確認しました。

 現在、冷凍睡眠下にある子どもの数は九万六千三百八十二人。

 その中で今回危険レベルに達していたのはその少女だけでした。ただ、そう遠くないうちに危険レベルに達する可能性がある者が十二名。

 彼らは可能な限り早く、解凍処置を行った方がいいと思われます」

「っていうか、今、安全域にある者もけっこうギリギリっぽい。いつ、誰が危険レベルに達してもおかしくない感じだ」

『解っている。だが千年レベルの凍結の解凍だ。

 そんなに簡単にできるものではないと知れ。一日に同じ処置ができるのはこの城の機構をすべて使ってもいいところ五十人。

 処置なしに外に出せば、正規の処置を施した場合とは比較にならないほど、子どもの身体への負担が増大する』


 二人の指摘に唇を噛みしめる『神』


「だったら、なおの事、少しでも早く解凍処置を進めた方がいいんじゃねえの?

 一日五十人、十日で五百人、百日で五千人。千日で五万人。

 今のままだと九万人の子どもを全員安全に目覚めさせるには五年はかかるってことだぜ」


 商人らしくアルが指を折る。


『解っていると言っているだろう!? 

 だがそもそもお前達だって理解している筈だ。

 起こしてそれで終わり、ではない。生活環境を整えてやらねば、見知らぬ異世界に裸で放り出されるようなもの。いかに、優しいステラの世界とはいえ、それではカプセルの中で死ぬか、外で死ぬかの違いでしかなくなってしまう』

「少なくとも、カプセルの中で氷漬けのまま死ぬよりはいいと思いますけれどね」

「フェイ」


 リオンの身体を使っているせいか、フェイは『神』には辛辣だ。

 私はフェイの言う事も『神』の心配も解る、という感じ。

 実際問題、今の状況で、毎日五十人起こされた後、その子達を、食べさせ、寝させ、この世界で困らない生活と教育を与えるのは無理だ。

 せっかく、死と隣り合わせの地球から親と離れて逃げてきたのに、幸せになれずに命を落とすことになったら元も子もない。


『一応、ステラには相談し、協力を仰ぎ、彼女の城とこのエリアを接続し全力を注げば一日最大数百人くらいを安全に目覚めさせることができるだろうと試算している。

 各国の精霊神が力を貸してくれるなら、より安定するだろう。

 だから、今、より急ぐべきは目覚めた後、子ども達を生かす為の環境の整備なのだ』

「そうですね。申し訳ないですけれど、もう少し待って貰えるなら、子ども達が最低でも安心して暮らせる環境を作ってから目覚めさせてあげたいです」

「まあ、解ります。

 ようやく大陸全体に『新しい食』の安定自給体制が整ってきたところです。そこに十万近い人が増えれば、僅かな備蓄などもたちまち底をついてしまうでしょうから」


『神』の言い分にはどの口で言うのか、と冷めた目をしていたフェイだけれど、私の言葉には静かに頷いてくれる。

 実際、為政者としての大陸全体の現状把握はフェイの方が優れているし。


「解りました。……それから『神』。

 このエリアを魔王城に移動させることはできませんか? 今後、同じような事が起きる度にここまで出向かなければならないのでは困るので」

『私一人では無理だ。能力を補助する精製炉は着地の衝撃で外れて、埋もれてしまった。

 補助用のバイオコンピューターはこいつに壊された。

 今の私は、不老不死を世界に齎したような爆発的な力の増幅、変化、加工はできないからな』


 ふと、思い出す。

 ずっと前、アーレリオス様が言っていた事。大聖都を『神』に奪われるなって。


「………もしかして外れた精製炉って大神殿の地下とかにあったりするんですか?」

『そうだ。外れた、というのは正確では無いな。精製炉は宇宙船とは別の機構として分けられていたんだ。船が目的地に到達した後、移動させて、広い範囲で力を発揮できるように。

 この星に着陸した後、大聖都に落ちて動けなくなった船をもう一度移動させる為に、精製炉を発射台にして飛び立った。その為、精製炉は大聖都に残ってしまった。

 それをマリクが埋めて、その時点で目覚めていた者達が精製炉を守る形で大聖都を建築した。マリクに魔王を託し、人々を導く為の後継機として生み出されたフェデリクスが大聖都とそのシステムを築いたんだ』


 私は大神官フェデリクス・アルディクスはリオンの後継機、と聞いていたから魔王が滅びた後生み出されたのかと思ったけれど、微妙に違うっぽい。

 つまり、宇宙空間では目覚めた子どもなどをマリクが面倒を見ていた。

 地上に降りて、マリクは魔王として悪役の役目を担うことになり、その後人々を導く神の代行者として大神官フェデリクス。アルディクスが生まれた。と。


「どうして魔王なんてシステムを作ったんですか?

 悪役を作り、それから人々を助けることで新しく生まれた『神』の信仰を獲得したかったにしてもやりすぎ……」

『その精製炉が搭載された機体を、掘り出して活用できれば、今よりもステラのナノマシンウイルスの増幅、変化、加工などができるようになる。

 環境を整えたり、子ども達を目覚めさせるにも役立てられる筈なのだが……』


 あ、質問スルーされた。言えない事なのか、言いたくない事なのか解らないけれど。


「一人で無理だ、ってことは他の精霊神のお力を借りればいけるんじゃないですか?」

『そうだな。この部屋をステラの島に移動させるにしても、精製炉を掘り出すにしても最低でも大地の精霊神と風の精霊神の力がいる。

 力を貸して貰えるだろうか?』

「じゃあ、皆さんにお願いしてみましょう。プライドも解りますが、子ども達が優先です。断られたら、私も一緒にお願いしますから」

『………………、それしかないか。頼む』


 諦めたように大きな息を吐きだす『神』

 仲間に弱みを見せたくない男の子の意地は解らなくはないけれど、何よりも重んじられるべきは子ども達の安全な覚醒だ。

 精霊神様達は、ちゃんと話せば手伝ってくれる筈。


 私はそう確信している。


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