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皇国 大祭と平穏の終わり

 大祭が終了すると、アルケディウスの社交シーズンは終了する。

 大貴族達がそれぞれに挨拶をしに来て、帰路に就くとようやく、一区切り。


「ご苦労だったな。今年は大きな騒ぎもなくて良かった」

「大貴族子弟も大人しくなって大半は帰っていきましたし。お父様とリオンのおかげですね。きっと」


 最後の挨拶を終えて、ホッと胸を撫で下ろす私の発した言葉に、お父様が目を見開いた。

 そして続く満面の笑顔。


「そうか。気付いていたのか?」

「ええ。まあ。はっきりと意図まで察したのは後でのことでしたけれど」


 お父様とリオンが舞踏会で剣戟なんて前例のないことをやらかしたのは、私の為。

 大貴族子弟を黙らせる為だったのだと気が付いたのは舞踏会が終わってからだった。

 二人の剣技を見た後、ぴたっと。大貴族子弟からのアプローチは消え失せた。

 ダンスの申し込みも。大貴族本人からの懇願も。

 リオンの最高レベルの剣技を見て、自分より身分の高い皇族の女子を手に入れる為の、あれが最低ラインだと気付いて諦めがついたのだろう。

 一部の大貴族子弟がリオンに向けていた羨望や嫉妬の眼差しも無くなった。

 逆に、リオンのようになりたいと騎士団への入団を希望する者もいたらしい。

 解りやすい強さを見せつけたことは素直に尊敬に繋がったようだ。


「お気遣い、ありがとうございます」

「気にするな。俺が、結婚式前の最後の舞踏会で、娘の疲れた顔を見たくなかっただけだからな」


 実際、リオンとお父様のバトルで注目が移ったので、後はかなり楽だった。

 最後まで、私の負担にならないように皇王陛下達も気遣って下さったし。


「とにかく大祭も終わり、グローブ一座とダヴィドの件も片が付いた。後は冬を迎え、お前達の成人式と結婚式を待つばかり……では無かったな。

 その前に大きな仕事が残っていた」

「はい。魔王城の島の開放というお仕事が」


 各国大祭が終わった後は大貴族が領地に戻り、新年に向けた色々な準備の時期となる。

 その間に『魔王城の島』と呼ばれていた星の聖地。

 かつてのエルトゥリアと大陸の航路を確立させ、各国王家に島の開拓への協力を願うという最大の目的がある。


「各国王家には『星の真実』が示されています。あの島が魔王の島ではないことはもう解ってます。なので、どの国からも

『フリュッスカイトとアルケディウスだけに調査を任せてはおけない』

『我が国からも調査員を派遣したい』

 という連絡が来ているそうです」


 水の国フリュッスカイトが所有する機帆船で、海から魔王城の島に上陸する。

 そして人海戦術で手分けして島の調査を行い、現状を把握。

 新年の会議で入植についての具体的な相談をして、春から少しずつ開拓の準備を進めていくという形になるだろう。


「ただ、島についてどう説明するか、思案のしどころなんですよね」


 魔王城の島、と呼ばれていたアルケディウス北の島が本当は星の聖地であることは伝えてもいいと思う。

 ただ、そこが私達の故郷と言える場所であることや、星の大母神ステラ様の神域であることを知らせてもいいものか。


「確かにな。全てを正直に伝えると『どうして今まで隠していた!』と不審がられるだろうし。またアルケディウスばかり、と責められることになるのも間違いないだろうしな」


 私達だけでなく、アルケディウス皇王陛下とその重臣も何度も足を踏み入れているのだ。

 お父様は、かつての旅であそこが魔王の居城ではないということを知っていた。と言い訳ができても、お母様やお祖父様達。あげくの果てに双子ちゃんまで入り浸っていたと知れたら、せっかくいい感じでやる気になっているケントニス様が、また疎外感を感じて拗ねたりするかもしれない。


「でも、いつかは知らせなければならないことでもあるんですよね。

 廃墟となった街並みはともかく、子ども達の住んでいる魔王城を隠せもしないですから」


 今後の島を開拓するにあたり、魔王城は重要拠点になるだろう。

 島に残っている子ども達を住み慣れた城から直ぐに追い出すこともできない。

 難しい問題だ。


「とりあえずは、ステラ様にお伺いを立ててみるのが良いのではないかしら」

 お母様の提案に私は頷く。


「そうですね。調査団の受け入れは許可して頂きましたけど、その後のことは報告していないので」

「大祭も終わった。暫く休みを取ると言っても誰も責めはせんだろう。

 出立の予定日はいつだった?」

「大祭が終わって暫くはその後片づけ等があるので、空の月の最終週の予定です」


 具体的には後二週間弱。

 夜の月に入ってしまうとアルケディウスは本格的な冬になる。魔王城の島も雪に覆われることになるので、調査をするのなら早い方がいい。


「明日、大神殿に帰ってフェイと相談してきます。

 それから魔王城の島に行ってステラ様と『神』の御意向を確認してくる予定です」


 魔王城の島は大母神とも言えるステラ様の本体がある場所。

 全ての精霊……ナノマシンウイルス……の生まれる場所だ。

 簡単に出入りできるわけでは無いけれど、万が一にもトラブルがあったら星の死滅、人類の滅亡待ったなし。だから、怪しい人間は入れたくないと前におっしゃっていた。

『神』が今も抱える、約十万の冷凍睡眠下の『子ども達』

 彼らを安全に受け入れる為には島を開放するのが一番だと納得はしておられたようだけれど。

 今までのように私達が選んだ信頼できる人が入ってくるのと、船の乗組員とか開拓者候補者とかが島に入ってくるのとではまた思いや対応も違ってくるだろうから。


「そうして頂戴。お話の区切りがつくまでは私達も島に行くのを控えますので」

「解りました。

 あ、でも双子ちゃん達、冬になる前に島に行きたいって駄々こねません?」

「その辺は心配を貴女がする必要は無いわ。

 ダメな事はダメ、としっかりと言って聞かせますから」

「いつでも押し切られるばかりではないつもりだ。我慢や忍耐も人として、貴族としては大事な事だからな」

「流石お父様、お母様」


 子どもの希望を聞いて、自主性を重んじるのは大事だけれど、それといつでも自分の思い通りになると調子に乗ることは別だからね。

 相手を思いやる事、我慢をする事、順番を待つ事、約束を守る事は大事。絶対。


「では、数日間魔王城の島に戻って参ります」

「ずっと休みなしだったのだから、少しゆっくりして来るといいわ。

 戻ってきたらすぐに調査。その後もやるべきことが山積みでゆっくりできることはないでしょうから」

「はい。仕事、貯めておいて下さい」


 私がそう返すとお二人は、明らかな苦笑いを浮かべていた。


「仕事のことなんか気にするな、と言ってやれない所が辛い所だな」

「結婚して大神官の仕事だけになれば、少しは減らしてあげられるのかしら?」

「その辺は仕方ない事ですし、十分に助けても頂いていますから気にしないで下さい」

「いっそ全てを公開してしまった方がお前の負担も減ると思うんだがな」

「それが、私の仕事、というか役割ですから」


 お父様もお母様もフェイもみんなも、決して無思慮に私に仕事を押し付けてくることはない。

 魔王城関連とか、ステラ様と『神』に関する事とか、成人式と結婚式の準備とか。

 私がどうしてもやらなければならない仕事をやるだけ。

 だから、基本的に異論や不満はない。


 ……それに、いつか、私は『星』の跡を継いで一人でナノマシンウイルス作成の役目を担うことになるのだ。

 これはまだ誰にも言っていない。

 フェイやアル達さえも知らない事。

 知っているとしたら、リオンだけ。

 そしてリオンは私と同じ『精霊』だから、神々の決定に異を唱える事はできない。

 きっと私が繋がれても生涯、側にいてくれるだろうけれど。


 心臓がチクリと傷んだ。

 これもお母様達を騙していることになるだろうか?

 不安な気持ちは表に出さず、笑顔を作る。


「とりあえず、魔王城に行ってきます。

 何かあったら、通信鏡で報告しますね」


 ステラ様は頑張ると言って下さったけれど、いつかはこの甘い生活は終わる。

 明日かもしれないし、遠い未来かもしれないけれど確実に決まっている事だから。

 文句を言うよりも、忙しささえも楽しい今のこの時を大切にするべきだろう。


 翌日、私は大神殿に戻ってフェイやアルと軽い打ち合わせをしてから魔王城に戻る、筈だった。


「マリカ様! 大変です!」


 カマラが青ざめて、私に着信した通信鏡を差し出すまでは。

 発信者はノアール。


 私達の故郷であるステラ様の城ではなく、もう一つの『魔王城』

 魔王エリクスからの極秘通信だった。

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