皇国の大祭 二日目 波乱と変化の貴族会議 中編
私が王宮に出入りするようになった当初。
第一皇子ケントニス様は正直、お近づきになりたくない人物だった。
奥様であるアドラクィーレ様も誘拐もどきで城に連れて来られてトラウマレベルで苦手だったけれど、ケントニス皇子も頭ごなしに仕事を命令するわ、その仕事もブラック企業真っ青ってくらいに詰め込まれて。
嫌だなあと思いつつバレない程度に意趣返ししたりして、なんとか付かず離れずの間を保っていたっけ。
それが目に見えて変わったのは、私がお父様の娘、隠し子、姪と知れた(ということになった)あたりからで、アドラクィーレ様に子が宿り、ラウル君が生まれてからはもう劇的に変わった。
私の話を聞いて、取り入れられるところは取り入れて下さって。
「お前は良くやっている」
と褒めて下さった時にはびっくりしながらもかなり嬉しかったことを覚えている。
ずっと仲が悪かったお父様に頭を下げて和解し、次期皇王として勉強を重ねていく姿には素直に尊敬したものだ。
期限と定められた二年の間に第一皇子派と呼ばれる最初からの味方だけではなく、第三皇子派閥の支持も取り付けた。ここ暫く、ゆっくりお話しする機会も無かったけれど、会えば笑いかけて頑張れよ、と声もかけて下さった。
だから、今ではそんなに嫌いじゃない。
「兄上が任せろ、と言うので父上は静かに笑って後ろに下がられた。
俺はお手並み拝見と黙って見ていたが、いや流石兄上と感心させられる展開だった。
まさか、あそこまでやれるとはな」
「ケントニス様は何をなさったんですか?」
きっとお父様もそうなんだと思う。ケントニス様の武勇伝をまるで自分の事のような笑顔で語る。
「まずは、ダヴィドに対してはっきりと言い放った。
貴族としての最低限の覚悟も嗜みもついていない奴に持って回った貴族会話は無駄だと判断したのだろう」
「ダヴィド卿。この国において、王城、王家に勤務し国政に関わる権利を持つ者は貴族、もしくは準貴族のみ、と国法によって定められている。其方は『貴族』か?」
「あ、いえ。
機会がなく試験を受けずに来ましたが、私は大貴族子弟として教育を受けておりますし、大貴族後継者、準貴族であると自負しております」
貴族が国家公務員上級試験に合格した官僚候補を意味するのなら、準貴族というのは特殊技能を持っていたり、知識はあってその力が欲せられているけれど試験合格は難しい人達。国家に承認されて王家に仕える仕事に就く。
お城の下働きとか、事務員とか。
「大貴族としての知識を受けてきたというのなら、国法くらいは暗記とはいかなくても理解しているだろう。
国法、第六条二十七項は何であるか答えよ」
「え? えっと、あ、それは……その……」
第一皇子であり、次期国王の前で威勢のいい啖呵を切ったわりに、質問を向けられるとしどろもどろになってしまうダヴィド。
「ちなみにマリカは解っているか?」
「第六条は税金に関する項目ですよね。二十七項は後半部分で脱税に関する処罰と追徴課税に関することだったような」
「流石だな」
流石に大貴族達は理解していたようで、答えられないダヴィドを呆れ顔で見やる。勿論スィンドラー伯爵本人の顔は血の気が抜けたように真っ青になる。
質問の意味を理解したのだろう。
「申し訳ありません。ちょっとど忘れしました。覚えていないわけではありませんよ。
ただ、ちょっと忘れてしまっただけで」
「第六条は税金に関する項目だ。税金を着服、もしくは悪意を持って隠した場合には罰則を与え追加の課税を与えると」
なんだかんだ言っても次期国王。国法くらい当たり前に覚えておられる。
「ああ、そうでした。そうでした。うっかりしていました。それが、何か?」
「今年、自家に適応された法律も覚えていないのか? 脱税に関しては追徴課税をもって罰とするが、不適切な運用は立派な犯罪なのだぞ」
「……あ!」
ここに至り、ようやくダヴィド氏はケントニス様のおっしゃっていることの意味が解った様子だった。
「ここ数年、スィンドラー家は神殿分の課税が免除になっていることを良い事に、民にその告知を行わず、二重徴収した税金の一部を届け出なく着服したであろう?」
「あ、あの、それは着服したのではなく、領地内の整備の為に別に確保していただけで……」
「さらには、農業従事者の給料も定められた最低賃金以下でこき使っていたことを暴かれ国からの監査が入った筈だ。不正が発見され課せられた追徴課税がまだ支払い切れていない筈だが……」
「ど、どうして王太子様がそんなことまで……」
「自分の国の事だ。情報収集は当然の事だろう?
自慢ではないが私はここにいる諸兄らについて最低限の情報は常に集めている」
そう言ってケントニス様は側にいた文官に命じてダヴィドに紅い封蝋付きの羊皮紙を渡した。何にも考えずに受け取り、開封。内容に目を走らせたダヴィドは絶句したという。
「こ、これは……」
「貴公の身辺を調べさせた。なかなかの醜聞だな。まあ、貴公は特に調べやすかった。
マ……いや、国家の諜報員が事前に調べを上げていたし、それ以前に周知され、劇にまでしていたからな」
何が書いてあったかは本人以外知る由は無いけれど、多分グローブ座が調べて劇にしたスィンドラー家の醜聞が詳しく書かれていたんじゃないかな。
ここに至り、流石のダヴィドも自分の不利を知った。父親と同様に顔から血の気が引き小刻みに手が震えていたという。因みにこれと同じ羊皮紙は、他のやる気のない後継者候補の分もあったらしく、彼らは同様に配布された自分自身の調書に青ざめていた。
「あ、あの劇は、その、事実無根で……。この調書も色々と……その物申したいことが」
「真実か否かは、詳しく調べれば解る事だ。
国やマリカの、そして私の調査員の集めた情報が偽りであるというのは勝手だが貴公は少なくとも自領や自分の秘密の隠匿さえできない無能者であることを証明している」
「私が無能と?」
震える声で呟くダヴィドをケントニス様はふふんと、鼻で哂う。
「無能を無能と言って何が悪い。変わりゆくアルケディウスに無能者は必要ない。
マリカがこの国に『新しい食』を齎してから約五年。意欲と能力さえあればいくらでも上がってくる機会はあったし、今もある。
ソレルティアしかり、大人気のグローブ座を預かるエンテシウスしかり、孤児から見出され大貴族の養子となったものもいる。自分に自信があり、役に立つと囀るのなら、せめて自分に課せられた悪評くらいは払拭してみるがいい。
できるものならな。何せ今や貴公の罪は王都中の民が知っているぞ」
「なっ!」
「知らぬのか?
大祭で今年グローブ一座が上演した『皇女マーシャの冒険記』は大好評。
『大祭の精霊』や貴族皇族、さらには『精霊神』様までもご覧になったというぞ。
国外公演も予定されているという」
「!」
「放蕩者であろうとも、それを貫き通せば力となる。
口では無く行動で、それを示して見せよ!」
ケントニス皇子の言葉にダヴィドは返す言葉もなく、逃げるように議場から出ていった。
ダヴィドが思いっきり見せしめにされたことと自分の情報を握られたことで、愚後継者達は少し大人しくなりその後の議事進行はいくらか進みやすくなったということだった。
「俺が思うに、後継者共を呼び集めたのは皇王陛下で色々な事を見定めておられたのではないかと思う」
「色々な事?」
「後継者候補の質は勿論だが、親である大貴族もちゃんと躾はしているか、子どもに振り回されていないかなどが見られていたのだろう。
後継者がなっていないと思えば連れてこない事も、別の者を連れてくることも選べた。
その点でふるいにかけられていたのではないかな?」
「なるほど」
「そしてそれはきっと俺達にも言える。大貴族や後継者達を今後も従えておける、手綱を握れるかを父上は見ておられたのだろう。
兄上はそれを予測し、情報収集を行い、機会を逃さず皆の前で王の資質をしっかりと示して見せた。
大丈夫だ。きっと、良い王になられる」
兄の功績を反芻しながら噛みしめるお父様の顔に嫉妬や不満は見えない。
今まで、ずっとすれ違っていたけれどお父様は、兄上達のことが好きで、仲良くなりたかったのだろう。
素直に認め、喜んでいる。
その姿が私も心から嬉しかった。




