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皇国の大祭 一日目 魅惑の大祭

 アルケディウスの大祭に来るのは実に二年ぶりになる。


 っていうか、私はアルケディウス以外の国の大祭を知らない。

 祭りには良く招かれているけれど、警備の問題やその他色々で、他国の祭りを雰囲気以上に楽しめたことは無いんだよね。

 きっと各国ごとの特徴があるのだろうけれど。


 アルケディウスの大祭は、ヨーロッパのお祭り、マーケット。そんな感じ。

 ロシア風味だとは思うけれど、私は外国のマーケットを実際に見たことがあるわけでは無いので違いは分からない。

 ただ、賑やかで活気があって、最初に来た時からずっと、大好きだ。

 アルケディウスの一番の特徴は城壁市場。

 アルケディウスの中央広場にも大きな市が開かれるけれど、それは地元の業者や店が主で、祭りに来た各国の移動商人達はアルケディウスを取り巻く城壁に沿って店を出す。

 テーブルを持ち込んで綺麗にディスプレイする店があるかと思えば、絨毯の上に品物を並べただけの店もあったりして個性豊か。

 見ているだけでワクワクする。


 永い間不老不死が続いて、食生活が絶滅しかけていたので店に並ぶのは主に衣服、靴、アクセサリーなどの衣料品がメインで、後は置物や彫刻、オブジェなども多い。

 たまに美容品やゲーム、賭け事の店などもあったりした。

 けれどここ数年で新しい食が広がり、食べ物を出す屋台が増えてきたと聞く。

 私達が転移したのはゲシュマック商会の町はずれの倉庫側だったから、中央広場よりも城壁市場の方が先に目についた。


「うわ~、前よりもずっと店の数が増えてるね」

「そうだな。俺達が最初に見た四年前? に比べると倍は来てるんじゃないか?」

「うん。そんな感じ」


 リオンと私は頷き合う。

 最初の年、まだアルケディウス以外の国の存在をほとんど知らなかった私達は、ここで売られている品物で、各国の名前や特産を覚えた。

 フリュッスカイトはガラス細工が有名。アーヴェントルクは羊毛の編み物と工芸品が得意、って。

 季節は秋、そしてこれから冬になるので店の売り物も、手袋とか靴下とかセーターとか厚手の服が目立つ。色鮮やかで眩しいくらいだ。


「土産物は諦める。装飾品は買ってもいい。でも、できるだけアルケディウスのものを、だったよね」

「ゲシュマック商会で食事をするつもりなら、屋台での飲食も控えめにしておいた方がいいと思うが……」

「解ってるけど……あ! 凄い。大きいケバブ! あっちは焼きおにぎりだ!」


 城壁市場にも様々な飲食屋台が出ていて、肉を焼く魅惑的な音、甘やかな匂いなどで道行く客の足を止めている。特に目を引いたのは大きな肉の塊を串焼きにして店の真ん中にどーん! と立ててそこから注文に合わせて切り分けてパンに挟んで売る向こうで言う所のシシケバブ屋さん。あとは炊いたリアをおにぎりにして、醤油を付けて焼いて売る焼きおにぎり屋とか。

 醤油が焼ける香ばしい匂いの暴力にはなかなか抗えない。

 ついふらふらと買ってしまいそうになる。


「甘味のお店は、あんまりないね」

「だいぶ手に入れやすくなったとはいえ、一般の商人に砂糖は高級品だろう」

「そっか」


 ゲシュマック商会には私がプラーミァ王女(お母様)から委託されたプラーミァの砂糖の専売権をそのまま譲渡したし、メイプルシロップから砂糖も作っていて国家に売却する代わりに使用する分は確保しているので、私個人が使う分は、ある程度融通が利く。

 だからちょっと麻痺してたけれど、中世風異世界ではやっぱ砂糖は高級品だよね。

 と思っていたら。


「うわっ! リオン、見て見て、チョコレート!」

「ホントだ」

「秋の大祭限定、プラーミァ特産の『チョコレート』だ。

『聖なる乙女』のお勧め。一度食べたら忘れられない魅惑の菓子だよ」


 意外にもチョコレートの屋台を見つけた。

 最初はプラーミァでも王族独占だったけど、徐々に王侯貴族の間にも広まり人気が出ているというチョコレート。

 外国に店を出すくらいになったのかな?


「どうだい? 兄さん。少し高いけど他所では味わえない、至福の経験を約束するよ。

 綺麗なお嬢さんの幸せの笑顔を見たくないかい?」

「そうだな。じゃあ、一つ」

「まいどあり! 何にする?」

「何があるんだ?」

「木の実にチョコレートを絡めた『プラリネ』と、乾燥果物にチョコかけしたもの。

 後は大祭限定の『チョコナバナ』だ」

「チョコバナナ?」

「バナナじゃなくってナバナな。プラーミァ特産のナバナという果物に、溶かしたチョコレートをかけて固めたものだ。

 ナバナはあまり長期保存ができない。

 生の果実の甘さとチョコレートの味の共演は一度食べたら間違いなく病みつきだぜ」

「ねえ、チョコバナ、じゃなくってナバナ、食べたいな」

「服を汚すなよ」

「うん」


 リオンにおねだりして、私はチョコナバナを買ってもらった。

 半分くらいに切ったバナナ=ナバナに溶かしたチョコレートを絡めて、太めの串に刺した向こうの世界とほぼほぼ同じチョコバナナだ。

 高級品だから、だろうか? ショーウィンドウめいたガラスの箱の中から、そっと取り出して渡してくれる。

 ちなみにこれ一個で少額銀貨一枚だから、約一万円? 高っ!

 ちなみにプラリネはアーモンド=アヴェンドラのキャラメリゼにチョコレートをかけたもので、10粒で少額銀貨1枚。チョコレートかけ乾燥フルーツも同じくらいだって。

 顔と高級な布張りの箱に入れてくれる。

 まあ、輸入品だし、カカオも砂糖も増産し始まっているとはいえまだ高級品だから仕方ないのだろうけれど。


「あ、ちょっとナイフ貸して貰ってもいいですか?」

「ああ、いいよ。どうぞ。串もいるかい?」

「欲しいです。ありがとう」


 多分、同じこと考える人が多いんだろうね。

 お店の人がナイフと串を貸してくれたので、私はチョコナバナの周囲にナイフを奔らせて、くるりと半分にすると下半分をリオンに渡した。

 上半分は、串にさして私が貰う分っと。


「はい、半分こ」

「いや、いい。お前が食べろよ」

「いいの。一緒に食べた方が美味しいから!」


 強引にリオンに半分のナバナを渡して、私は半分にかぶりつく。


「うん。美味しいよ。食べて見て」


 ちょっとコンチング不足かざらつきが残るけれど、完熟したナバナ。バナナの甘さのおかげであまり気にならない。

 むこうの世界と同じ、とまではいかないけどまあまあ、合格点かな。


「ああ、やっぱりチョコレートは美味いな」


 リオンも、なんだかんだ言って甘いものが好きだから、渡されたチョコバナナを固辞する事なく口に運んでくれた。

 兄王様に頼んで、時々大聖都にもカカオを回して貰っているけれど、そんなに頻繁に食べられるものでは無いからね。


「へえ、あんた達、チョコレート食べたことがあるのかい?

 産地であるプラーミァでもようやく、一般市民にも販売が始まって高級な贈り物や、ぜいたく品として人気が出てきたところなのに」

「あ、いえ。噂に聞いただけで。

 美味しかったです。ごちそうさま!」


 しまった。


「行こう!」「ああ」


 私達は食べ終わった串をお店に返すと、店の前から早足で離れた。


「俺にもさっきとの同じものくれ!」

「私にも!」


 値段の高さと、見知らぬものへの不安から、遠巻きに店を見つめていた客達が、次々注文を入れているのが後ろの方から聞こえてきた。

 私達が呼び水になった感じだね。


 っていうかこの展開、妙に既視感。

 前にデートに来た時はエルディランドのお煎餅買って食べたけど、その時も似たような感じになったっけ。

 とりあえず買い物はアルケディウス優先。


「ゲシュマック商会で本格的に腹ごしらえしてから、中央広場に行って、買い物して、劇を見ようね」

「解った。逸れるなよ」


 また手を繋いで歩き出す。

 時間がもったいない。

 デートはまだ始まったばかりなのだから。

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